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フラジール

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アリアは自己紹介を始める。

「改めまして。私はフラジール。翼さんの命でマウントシーにやって参りました」

「アリアお前…… 」

「だからアリアじゃないって。私の名前はフラジール。フラジールよ」

「フラジール? 」

「前野フラジール。ちょっと照れるな。ふふふ…… 」

「前野? それがお前の本名か? 」

「ええ翼さんのね。私はここを去るわ。作戦は中止。

もうマウントシーが狙われることはないでしょう。作戦中止も伝えたし……

大河…… 後はよろしくね。皆さんお幸せに。それじゃあ」

「アリア…… いやフラジール」

「本当に後は頼むわ。祭りに参加できないのが心残り。

最後に大河。私の部屋の机を見てね。それでは本当にこれでお別れ」

フラジールは質問に答えることもなくただ言いたいことだけ言って去る。


緊急連絡

作戦中止 作戦中止願います

応答なし

作戦中止要請

応答なし

緊急コール

応答なし

ざざざ……

予定通り 作戦決行 館を強襲せよ


「大河さん開きましたよ」

フラジールが鍵を返さずに立ち去るものだから余計な手間が増える。

ハッピー先生を頼るつもりでいたがブリリアントが任せろと言うので見守る。

何とピッキングでちょっと目を離した隙に開けてしまう。

いつの間に習得したのやら。とにかく助かった。

フラジールが立ち去った後すぐにブリリアントと二人で部屋に。

荷物は持ち去られており彼女に関する情報は得られなかった。

残されていたのはもう必要なくなった祭りに関する資料にパンフレット。

その中に一つだけ異質なものが。無線機である。


「これで外部と連絡を取っていたんですかね」

「ああどうやら壊れてはいないようだがもう必要ないのかもな」

「そうですね。動きますけど応答はありません。変な音が聞こえるのみです」

この手のことに詳しい者はたぶんハッピー先生。

とりあえず報告ついでに持って行くか。


それよりも目当ての品だ。

「机の上。机の上っと。おおあった」

資料やパンフレットの束の下から目当ての手紙を発見。

隠されるように置いてあった。もしもの時にと考えていたのだろう。

だとすれば手紙には有益な情報が詰まってる可能性が高い。

「早く読みましょう大河さん」

「そう焦るなブリリアント」

「何か重要なことが書いてあるかもしれません。早く早く。大河さん」

目を輝かし急かすブリリアント。意外だが情報屋の彼女が興味を示すのも分かる。

俺が命令してる訳だしな。引き込んだとも言えるが。

「ちょっと待て。読むのは後だ。まずハッピー先生への報告が先だ」

「そんな…… いえ分かりました。『聖女の涙』に、獣の発見が優先ですね」

「ああ、もう本当に時間がない。急ぐぞ」

歩く時間ももったいない。

速足でハッピー先生の元へ。


「あらお二人ともどうしました? 」

運よくハッピー先生に遭遇する。

部屋に行く手間が省けた。

「細かいことですけど廊下はゆっくり歩きましょうね」

分かってるがどうしても焦ってしまう。

「今はそんな時じゃない」

「あらあらまさか例の獣の居場所が分かったんですか? 」

「それはもちろんマウントシーのどこかに潜んでると思います。

崖下にまだ潜んでるかもしれません。

探し出すとなると大変で今対策を考えていたところです」

適当に話を合わせる。

まだ何一つ手掛かりが掴めてないが動いてる振りをすれば協力してくれるはず。

「どうやらおびき寄せるしかないようですね」

大胆な提案。

「ええ? どうやって? 」

不可能だ。今まで一度も現れなかったものが今さら現れるものか。

「それは分かりません。自分で考えてみましょう。それ以外の準備は整っています。

もうお昼です。それでは頑張ってください」

そう言うと歩き出したので止める。


「あの待ってください。報告があります」

アリアについて一部始終を話す。

ハッピー先生は分かりましたと辛そうだ。

「ハッピー先生? 」

「大変な事態になりましたね。残念です」

アリアが裏切者。

「アリアさん…… 本物のアリアさんは山小屋で保護されています。ご心配なく」

ブリリアントが付け加える。

「ハッピー先生はアリアさんの正体に本当に気付かなかったんですか? 」

直球の質問。ハッピー先生の表情が硬くなる。

「気付けませんでした。いえ仮に気付いたとしてもそれが何だと言うんですか。

ただの行く当てを失くした少女を見捨てることはできません。

来ればただ受け入れるのみです自己申告制ですから。

そうでしょうブリリアントさん? 」

「はい、ああもう一つ質問が? 」

「どうぞアリアさんのことでしょうか? 」

「いえエレンさんについてです。彼女は必要以上にアリアさんに拘ってます。

極秘に世話を任されているのも気になります。何かあるんでしょうか? 」

まさかのエレンの話。

「本人に直接伺うのが筋かと。私の方からは何とも…… 

ただ一つ言えることはこのマウントシーは彼女のような人を対象に作られた施設」

また煙にまこうとしてないか?

「エレンさんのような人物を対象に? 」

「ブリリアント行くぞ。もう時間がない」

今はアリアよりもエレンよりも『聖女の涙』だ。

会議室に向かう。


走る。ハッピー先生には悪いがもう歩いてなどいられない。

焦るなと言われれば言われる程焦ってしまう。

気持ちを抑えられない。

「ブリリアントなぜあんな質問を? 」

「それは…… 大河さんが気にしてたから」

「確かにエレンとアリアの関係は気になってたよ。だがそうかお前も…… 」

「へへへ…… 大河さんの助手ですから」

恥ずかしそうに下を向く。

「そうだな。ただエレンの件は俺が何とかする」

「エレンさんは手強いですよ」

「確かにな。言われなくてもそれくらい分かる」

俺をまだ不審者扱いしてやがる。

誰があんな小さい女の子に発情するか。

「ではこれで」

会議室で分かれエレンの元へ。


                 続く
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