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二人のアリア

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「それではあーちゃんも良くなったことだから再開しましょうか? 」

「はーい」

「名前は? 」

「アリ…… アリー? アリちゃん」

「もう一度」

「だからアリ…… 」

あーちゃんは思い出そうと必死。

無理して今思い出すことはない。時が来ればきっと思い出せるようになるさ。

今はゆっくり見守るのがいいだろう。


「なあエレン…… 」

「お静かに…… 」

あーちゃんに聞こえないように声を落とす。

「アリア来なかったか? どうもあいつ最近様子がおかしいんだ」

「だからお静かに。アリアさんは来てませんよ。勘違いでは? 」

「ブリリアントが見たと言ってる。心当たりはないか? 」

「へえ彼女が…… でも見てませんよ私は」

「とりあえずアリアについて知ってることを教えてくれ」

「今ですか? こんな時にアリアさんの話? 後にしてください」

「アリアが気になって仕方がないんだ。アリアは再び不穏な動きを見せてる」

「心配症ですね。アリアさんが気になるなら直接本人に確かめればいいでしょう」

「でもアリアがアリアが」

「静かに大河さん。今はこちらに集中してください。

アリアさんだってきっと正直に答えてくれますって」

ついつい二人とも声を荒げてしまう。

今必死で思い出そうとしてるあーちゃんに悪い気がしてならない。


「あー思い出した」

あーちゃんが閃く。

「アリアだよ。アリア。思い出した。あーちゃんともアリーとも呼ばれてたっけ。

そうだアリア。アリアだ」

大喜びのあーちゃん。嬉しさの余りベットを降り抱き着いてくる。

自分の名前を思い出した。確かにこれほど素晴らしいことはないだろう。

でも喜んでばかりはいられない。

衝撃が走る。

聞き違えでなければ俺の想像を超えた何かが起きた? いや起きようとしている。


「えっ…… 」

「うん…… 」

俺もエレンも次の言葉を継げないでいる。

「どうしたの二人と? もっと一緒に喜ぼうよ」

すっかり元気になったあーちゃん。

部屋中を走り回る。

随分幼い。自分を取り戻した今彼女はどう変化するのか?

それとも変化せずこのまま? それも悪くないか。

今ある問題を棚上げしてあーちゃんを観察。


「ははは…… アリアってよく聞くよな」

「ええ…… エレンだって居るんですから」

「島では人気の名前とか? 」

「さあでも周りには居ませんでしたが」

ほぼ同時期にマウントシーにやって来た二人のアリア。

偶然の一致とは恐ろしいものだ。

だがもっと恐ろしいのはあり得ない現実を目の当たりにすること。


「どうしたの二人とも。変な顔して。ふふふ…… 」

元気を取り戻したあーちゃん。やはりあの薬の効き目は抜群のようだ。

「はい、では続けましょうね」

エレンが迫る。決して開けてはいけないパンドラの箱に手がかかる。

その勇気は称えるが無謀もいいところ。日常が崩れてしまうぞ。

気をつけろエレン。もう魔法は解けている。

眠り姫がすべてを思い出せば真実が白日の下に。


「年齢は? 」

「十六歳」

「家族は? 」

「家族なんかじゃない」

「家族は? 」

「もう会ってくれません」

「家族は? 」

「お家に入れてくれません」

「ここには何しに来たの? 」

「連れて来られた」

「ここには何をしに? 」

「だから連れて来られたんだって」

「目的は? 」

「マウントシーを紹介してもらって着いたと思ったら後ろから衝撃が走って……

それから意識を失ったんだと思う」

「最後にお名前は? 」

「あーちゃん」

「名前は? 」

「アリアだよ。アリア」

「君の名は? 」

「岬アリア」

「君の名は? 」

「岬。岬アリア」

「岬アリア? 」

「うん。かわいいでしょう? 」

「ありがとうアリアさん」

「あーちゃんでいいよ」

「では以上で終わりです」

「はーい。眠くなっちゃった。もう寝るね」

少女を寝かしつけると戻って来た女性に事情を説明し館に戻る。

まだあーちゃんの正体については伏せた状態。


二人で今後を話し合う。

「大変なことが分かったな。俺はどうすればいいんだ」

「そうね。岬さんがどう反応するか。でも単純にそれだけじゃない…… 」

「それだけじゃない? 君たち同様マウントシーで生活するはずだったってか? 」

「いえ彼女の境遇があまりにも…… 」

「あまりにも酷いと? ここの子は大体何かしらのトラウマを抱えてるからな。

俺はそんなに驚きはしないさ」

「そうじゃなくて…… 」

エレンは何か言いたそうだが迷っている。

「まあいいわ。このことはハッピー先生に報告しないとね」

「俺が今夜にでもハッピー先生と話し合ってみるよ。

他にも聞きたいことがあるしな。後は任せろ」

「ありがとう。アリアのことも」

どちらのアリアについて言ってるのか分からないがまあいいか。

アリアか…… この件は俺が決着をつける。

                 続く
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