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幻影 楽園に消えた果実

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今はとにかく食糧の確保。

明日も明後日一週間も一か月後も乗り切る必要がある。

さあ腹も膨れたしひと眠りするか。

まあこういう生活も悪くないなんて奴がいたら代わってやりたい。

もはや地獄と化した世界で生き残ることにすべてを賭けたサバイバル生活。

仲間もライバルだって敵さえもいない。

己と戦い続けるしかない。

取り残された男が一人虚しくもがき苦しむだけ。


サバイバル生活。

俺もここに来るまでは多少憧れた。

何もない生活。

ただ本当に何もない生活には虚無しかない。

虚無とはただの虚無でありそれ以上のものではない。

この状態が一生続くかと思うと発狂しそうになる。

いや発狂してない保証はない。

ただあの歌声が俺を俺でいさせてくれる。

有難き。何と有難き。感謝しても感謝しきれない。


目を覚ますと花々が咲き誇る楽園が目の前に現れる。

夢だと分かってる。だって俺は闇の底。

あり得ない。あり得ないと分かっていながらその楽園を探索する。

一人笑いながら走ってくる少女。

続けて二人が蝶を追いかけてやってくる。

そのうち少女たちは二人三人と数を増やしていきついには楽園が完成する。

午後爽やかな風が吹いた楽園には花に蝶に少女たちが。走り回る。

神話の世界。

まるで神話の世界に誘われたかのようだ。

もうすべてを棄てこの世界で生きていけたら。


あーあ。夢だって分かってる。

夢だと気付かない振りをしていたがそれも限界のようだ。

ついに楽園は崩壊する。

楽園はただの幻。俺が作り上げた幻影。

夢を認識する。それが引き金。

夢を夢だと認識した時点で幻は消え去る。そして現実に戻される。

ははは!
ははは!

いつまでもいつまでも笑い続けた。


翌日。

昨日までのは少々大げさ過ぎたかもしれない。

俺にはもう一つ秘密がある。

もしかしたら俺は幸運の持ち主なのかもしれない。いや強運の持ち主か。

実は配給されているのだ。

もう頭がおかしくなったと思うだろう? でもそうではない。

私を助け世話をしてくれたものがここには居る。


彼によっていや彼と呼んでいいのか見たことがないので何とも言えないが……

その彼によって食べ物が与えられている。

彼は一体何者? なぜ私を助ける?
 
疑問が湧くがそれはさておき生きている。

俺は生きている。俺は彼に生かされている。

ただただ生かされてると言う己の立場の危うさを認識し気を引き締める。


赤、オレンジ、黄色等の色とりどりの果実や木の実、山菜、キノコなど。

目を覚ますと俺の周りにどっさりばら撒かれていた。

それを少しずつ口にしてなるべく絶やさないように注意する。

ただその配給も毎日という訳でもなく今は途切れ途切れになっている。

これだけに頼るわけにも行かない。


それともう一つ。なぜか分からないが小さな容器とナイフが転がっているのだ。

どうやらナイフは食糧調達とあの高い高い崖を登る手掛かりにと用意したらしい。

彼は酷く恥ずかしがり屋なのだろう。あれから姿を見せることはない。

そしてかなりの悪臭持ち。

俺もこの生活を続ければきっと同じぐらい臭うのだろう。

まるで獣のような臭いだったのを忘れない。


俺は今、崖登りに挑戦しようとしている。

足も良くなり体も完全回復とはいかないまでも支障をきたすことはないだろう。

それもすべて正体不明の彼の慈悲と哀れみのおかげだ。

もう姿を見せることはないが置き土産の容器。

その中には塗り薬が。


数日が過ぎ数週間が経ちもう間もなく一ヶ月が過ぎた時だった。

俺はようやくマウントシーに辿り着くことが出来た。

あの時の達成感たらない。別格。

奇跡だ。

隔絶された世界から奇跡の生還を果たした。

興奮状態で大声をだし飛び回っていた気がする。

ただ過酷な生活による疲れに空腹が重なりそれ以上は体が動かなかった。


その時鼻が反応。うまそうな匂いがする。

マウントシーで栽培されているスイカやブドウにパイナップルに目が留まった。

悪いと思いながらも食い荒らした。

それだけでは飽き足らずキャベツやレタスにトマト、キュウリにかぶりついた。

本当にあの時は無我夢中で食べ続けた。

もはや人間を棄てていた。

あの時の俺はただの飢えた獣でしかなかった。

その後、日が暮れるまで眠っちまって逃げるように夜道を下っていったって訳だ。

そこから島中を追いかけ回される羽目に。

何とか二、三日で島を脱出して家に着いたのはいつだったのかな?

そして入院しているカナの元へ。

                  続く
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