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禁断症状
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「おい! 大丈夫か? おかしいぞドルチェ」
まったく悪魔の癖に白々しい。
正体を現せばいいものを最後まで粘りやがって。
いいわ。こちらから正体を暴いてやろうじゃない。
まずは落ち着いて。自分のペースに持って行くこと。
「大河さん。私なら大丈夫です」
「本当か? 」
「ええそれで一つお聞きしたいことがあります」
視線を逸らす大河。やはり彼にも隠し事があるのだろう。
私がその秘密を暴き彼をコントロールできれば脅威は無くなる。
それは勝利を意味する。
「あなたがこのマウントシーに来た理由をまだ伺っていません。
差し支えなければお教えください」
彼は私たちのことを探ろうとしている。
ブリリアントさんをスパイに仕立て上げこちらの弱みを握ろうとしている。
なぜ彼がマウントシーにやって来たのか未だに謎。
正体を現しなさい。
「だから祭りに…… 」
「本当のことをですよ。言いかえればあなたの真の目的を教えてください」
「君たちを、いや俺自身を救いに。そしてこのマウントシーを守る為にやって来た」
言い切る大河さん。清々しいほど。何て格好いいのかしら。
「シラを切るつもりですね」
もう分かってしまった。この男の正体。
脅す気なんだ。そして私たちを意のままに操り凌辱を繰り返す。
飽きたらこの島からオサラバする気に違いない。
まったく私たちも舐められたものね。こんな男に良いように弄ばれるなんて。
確かに見た目は悪くないけど。それが何だって言うの?
私は騙されない。
でも…… どこか面影がある。
誰に? 源三郎さん?
ううん。ちっとも似てなんかない。
強烈に記憶に残ってるのはやはり一年前の出来事。
ここに来る直前に会った男。最後の人物。
でも私が記憶するなかで最後に会ったのはあの男。
最低な殺人鬼。
そうでなければ被害者の男の子ぐらいでしょうけど。
もうこの世にはいない。まだ生きてるなんて幻想は捨てた。
罪の意識から逃れるために死者を蘇らせてはならない。
それがせめてもの亡き彼への最低限の敬意だ。魂まで穢してはいけない。
それくらい分かっている。でも…… あり得ない訳ではない。
だったら今浮かんだ疑問をぶつけたって……
「大河さんあなたもしかして…… 」
「そんな真剣な目で見つめないでくれ。照れるだろ」
そう彼にとっては私は獲物の一人。
自分の欲を満たす為にやって来たただの男。
可愛い顔してやることはやる。
それはブリリアントさんやシンディーさんの件でも分かること。
アリアさんだって毒牙にかかった。
彼は持ち前のルックスで世間知らずで男を知らない純粋な田舎娘たちを虜にする。
でも私は絶対惑わされない。
小さいころから男たちがどんなものか知っている。
酒に酔っていい加減でちっとも紳士的じゃない。
島の男、田舎の男なんてこんなもの。馬鹿で間抜けで自分勝手で嫌らしい。
男なんてみんな同じ。
最低な自分本位の奴ばかり。
大河だってきっと自分の用が済めばこの島とオサラバする気だ。
大事な時に助けてはくれないでしょう。
男なんてそんなもの。男なんて……
過去の記憶からどうしても拒絶してしまう。
たすけて……
えっ?
男は優しく微笑んでいる。でも助けを求めている。
まったく意味が分からない。
「あの何かお困りでしょうか大河さん」
ただの錯覚だと思う。でも確かめずにはいられない。
事実でないと確定するまで安心できない。
なぜかあの少年が呼んでいる気がする。
大河の瞳に映るあの少年が何か訴えている気がする。
やっぱりこれは禁断症状。
私が救えなかった少年。
あの時私に力がなかったばかりに助けられなかった少年。
あの時の夢を毎日のように見る。
それも大河さんがこの島に来てから。
彼と同じぐらいの男を見るとすべてそう見えてしまうのだと思う。
似てる…… そう思えば全部似てきてしまう。
もうこれはどうにもならない。
収まるまで。この症状が良くなるまで耐えるしかない。
悪化したのはハッピー先生がマウントシーを離れてから。
それまではギリギリで抑えていた。
でも今はもうどうにもならない。
ハッピー先生に相談しようにも忙しくて。
これから祭りまでは余裕がない。
さすがに祭りが終わってからでなければ……
それに忙しすぎて真面目に診断してくれないかもしれない。
先生は心理学者でも医者でもない。
ただのこのマウントシーの守り人。
元々そんな力はない。持ち合わせてなんかないでしょう。
「ドルチェ。気分が悪いようならもう戻れ。
俺はもう少しこの辺を見て回りたいんだ」
「あなたは…… ううん」
「一体どうしたんだ? おかしいぞ」
心配してくれるの?
聞こえる。私の耳に直接届く少年の叫び声。
届いた。だからお願いもう許して。
精神的にもうダメみたい。
一年前のことと今が混ざってしまい何が何だかもう。
大河と少年が重なる。
「いや! そんな…… そんな訳がない! どんなことがあってもあり得ない。
ううんあってはならない。これはもはや遠い過去の記憶。
私は前を向くの!
自分にいくら言い聞かせても不安で胸が押し潰れそうになる。
続く
まったく悪魔の癖に白々しい。
正体を現せばいいものを最後まで粘りやがって。
いいわ。こちらから正体を暴いてやろうじゃない。
まずは落ち着いて。自分のペースに持って行くこと。
「大河さん。私なら大丈夫です」
「本当か? 」
「ええそれで一つお聞きしたいことがあります」
視線を逸らす大河。やはり彼にも隠し事があるのだろう。
私がその秘密を暴き彼をコントロールできれば脅威は無くなる。
それは勝利を意味する。
「あなたがこのマウントシーに来た理由をまだ伺っていません。
差し支えなければお教えください」
彼は私たちのことを探ろうとしている。
ブリリアントさんをスパイに仕立て上げこちらの弱みを握ろうとしている。
なぜ彼がマウントシーにやって来たのか未だに謎。
正体を現しなさい。
「だから祭りに…… 」
「本当のことをですよ。言いかえればあなたの真の目的を教えてください」
「君たちを、いや俺自身を救いに。そしてこのマウントシーを守る為にやって来た」
言い切る大河さん。清々しいほど。何て格好いいのかしら。
「シラを切るつもりですね」
もう分かってしまった。この男の正体。
脅す気なんだ。そして私たちを意のままに操り凌辱を繰り返す。
飽きたらこの島からオサラバする気に違いない。
まったく私たちも舐められたものね。こんな男に良いように弄ばれるなんて。
確かに見た目は悪くないけど。それが何だって言うの?
私は騙されない。
でも…… どこか面影がある。
誰に? 源三郎さん?
ううん。ちっとも似てなんかない。
強烈に記憶に残ってるのはやはり一年前の出来事。
ここに来る直前に会った男。最後の人物。
でも私が記憶するなかで最後に会ったのはあの男。
最低な殺人鬼。
そうでなければ被害者の男の子ぐらいでしょうけど。
もうこの世にはいない。まだ生きてるなんて幻想は捨てた。
罪の意識から逃れるために死者を蘇らせてはならない。
それがせめてもの亡き彼への最低限の敬意だ。魂まで穢してはいけない。
それくらい分かっている。でも…… あり得ない訳ではない。
だったら今浮かんだ疑問をぶつけたって……
「大河さんあなたもしかして…… 」
「そんな真剣な目で見つめないでくれ。照れるだろ」
そう彼にとっては私は獲物の一人。
自分の欲を満たす為にやって来たただの男。
可愛い顔してやることはやる。
それはブリリアントさんやシンディーさんの件でも分かること。
アリアさんだって毒牙にかかった。
彼は持ち前のルックスで世間知らずで男を知らない純粋な田舎娘たちを虜にする。
でも私は絶対惑わされない。
小さいころから男たちがどんなものか知っている。
酒に酔っていい加減でちっとも紳士的じゃない。
島の男、田舎の男なんてこんなもの。馬鹿で間抜けで自分勝手で嫌らしい。
男なんてみんな同じ。
最低な自分本位の奴ばかり。
大河だってきっと自分の用が済めばこの島とオサラバする気だ。
大事な時に助けてはくれないでしょう。
男なんてそんなもの。男なんて……
過去の記憶からどうしても拒絶してしまう。
たすけて……
えっ?
男は優しく微笑んでいる。でも助けを求めている。
まったく意味が分からない。
「あの何かお困りでしょうか大河さん」
ただの錯覚だと思う。でも確かめずにはいられない。
事実でないと確定するまで安心できない。
なぜかあの少年が呼んでいる気がする。
大河の瞳に映るあの少年が何か訴えている気がする。
やっぱりこれは禁断症状。
私が救えなかった少年。
あの時私に力がなかったばかりに助けられなかった少年。
あの時の夢を毎日のように見る。
それも大河さんがこの島に来てから。
彼と同じぐらいの男を見るとすべてそう見えてしまうのだと思う。
似てる…… そう思えば全部似てきてしまう。
もうこれはどうにもならない。
収まるまで。この症状が良くなるまで耐えるしかない。
悪化したのはハッピー先生がマウントシーを離れてから。
それまではギリギリで抑えていた。
でも今はもうどうにもならない。
ハッピー先生に相談しようにも忙しくて。
これから祭りまでは余裕がない。
さすがに祭りが終わってからでなければ……
それに忙しすぎて真面目に診断してくれないかもしれない。
先生は心理学者でも医者でもない。
ただのこのマウントシーの守り人。
元々そんな力はない。持ち合わせてなんかないでしょう。
「ドルチェ。気分が悪いようならもう戻れ。
俺はもう少しこの辺を見て回りたいんだ」
「あなたは…… ううん」
「一体どうしたんだ? おかしいぞ」
心配してくれるの?
聞こえる。私の耳に直接届く少年の叫び声。
届いた。だからお願いもう許して。
精神的にもうダメみたい。
一年前のことと今が混ざってしまい何が何だかもう。
大河と少年が重なる。
「いや! そんな…… そんな訳がない! どんなことがあってもあり得ない。
ううんあってはならない。これはもはや遠い過去の記憶。
私は前を向くの!
自分にいくら言い聞かせても不安で胸が押し潰れそうになる。
続く
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