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迷い 傷つき合う二人

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傷跡がどうしても気になるが彼女に悪い。

じっくり見回す訳にもいかずじっと瞳を見つめる。

「何の痕? 」

つい口にしてしまう。

「これは…… 何でもない」

「何でもないってことはないだろ? 」

彼女が隠すつもりならそれでいい。

だが俺を信用して見せてくれたのだとしたら隠す必要はまったくない。

隠すならば最初から拒否すればいいのだ。

いくら俺が強引に頼み込んだとしても拒否し続けることもできた。

そうしなかったのだからそれなりの覚悟があったはずだ。

だがその話に触れられない雰囲気がある。


見えない傷。

「本当に何でもないの」

見せたことを後悔しているのか下を向く。

「いやこれが何の傷か俺には分かる。君が何でもないと言うならそれでいい」

傷に沿って指を上から下へ。

下から上へと繰り返す。

「ほら心配ない」

彼女を寝かせると傷跡を舐める。

そして近くに突き立った丸い小山に手を乗せ愛撫。

続けて自分の舌を当てる。

抵抗する様子を見せないシンディー。受け入れてくれたらしい。


「待って大河! あなたも」

「ああ、そうだな。お前だけにそんな格好はさせられない」

受け入れたシンディーに恥をかかせないように急いで服を脱ぐ。

ズボンを脱ごうとした時彼女が止めに入る。

「どうした? 」

「任せて。やってあげる」

シンディーに脱がしてもらう。ガキじゃないんだがな……

こうして二人は自然のまま。何も恥じることなく欲望の赴くままに。


「大河…… 」

俺の体の傷に反応する。

「大河。どうしたのその傷? 僕のよりも生々しい」

「ははは…… 大したことはないさ」

見せつけるために鍛えた筋肉美という訳ではない。

あの地獄で生き抜いた時に出来た傷。

どうしてこうなったかまでは覚えていない。

「腕に腰、背中に無数の傷跡。大河もそんなに…… 」

「まあ男だからな。これくらい当然さ」

お互いの傷を舐めあった。

「いいんだよ大河。僕はあなたの味方。それでも教えられないの? 」

「九死に一生って奴だ。後で詳しく話してやる。今は楽しもう」

傷ついた体を舐め合い気持ちを抑えきれずについには爆発。

体と体を密着させ慰め癒し合う。


「気持ちいい? 」

「ああ。最高だ」

「大河ったら…… 嬉しいよ僕」

「その僕ってのは止めてくれ! お前を女として見れない。こんな時ぐらい頼むよ」

「そんな大河…… 僕は僕だよ」

そうだった。ついつい自分の都合で物事を考えてしまった。

彼女は傷ついてる。俺は何て酷いことを。

「大河の気持ちは分かった。でもこんな僕でも、こんな姿の僕でも認めて欲しい」

「済まない。もう二度と言わない。お前はお前だ。きれいだよシンディー」

「お願い。続けて大河」

お互いに慰め合い幸福な気持ちに浸る。

ちょっとした行き違いもあったが理解しあえた。


突然シンディーの瞳から涙が溢れる。

「どうした? 傷が痛むのか? 」

「ううん…… 嬉しい…… 」

ハンカチで拭ってやる。

だが止めどなく流れる涙を拭き取るには限界がある。

グショグショのハンカチ。

そろそろ泣き止んでくれないとこっちが困る。

強引に引き寄せ落ち着くまできつく抱きしめてやる。

「おい泣くなよ。さあ続けるぞ。ははは…… 」

無言で頷くシンディー。

「ほら笑えって! 泣くんじゃない! 」

「でも僕…… 」

「気にするな。何も気にせずに笑おう」

「うん」


あれ…… このまま最後まで行ってしまっていいのか?

急に込み上げる罪悪感と共に迷いが生じる。

俺にはまだ彼女を受け入れるだけの覚悟がない。

それにまだあの人を忘れられない。

あの時忘れようと努力したが結局忘れられずに未練のまま旅に出た。

シンディーだってこの島で素敵な出会いが…… いや考え過ぎか。

ここの者は皆心にトラウマを抱えている。

彼女を助けられるのはやはり俺しかいない。

ちゃちな薬などではなく愛の力で!

ああ、馬鹿か俺は? 感情的になっている。冷静に冷静に。


「大河…… 」

「きれいだよ」

耳元で囁く。

「ふふふ…… 」

迷うことはないか。俺が俺の好きなようにして何が悪い。

思い悩む必要など微塵もない。

彼女だって俺を受け入れている。

迷うことこそ彼女に失礼。

シンディーとどこまでも。彼女が望むならどこまでも。


「ではフィニッシュと行こうか」

もうすぐ二人は結ばれようとしてる。

そんな時でさえ迷いが…… 自問する。

だがこれで本当に正しいのか? よく考える必要がある。

俺ではない誰かと…… でもそれでは結局あの人になる……

俺にはタイムリミットがある。

そしてシンディーにも他の少女たちにも見えないタイムリミットがある。

彼女たちだってそれぐらい分かってるはず。

もはや受け入れている感さえある。

当然嫌がりはしないだろう。

でも俺はそれだけは何としても阻止したい。

それがあの人の頼みでもあるのだから。

たとえ矛盾してようが滅茶苦茶であろうが俺は最後まで彼女たちを救って見せる。


                    続く
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