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君の体をもう一度

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窓際に座る少女の本が風によって何ページも捲れて行く。

「ちょっといいか…… こんなとこに居たのかシンディー。探したよ。

射撃の練習はしておいたほうがいい。もしもの時に使えないと命取りだ」

反応が無い。気付いてるはずなのに無視を続ける女。

仕方ない。ここは実力行使だ。

目の前まで行き存在を認識させる。

それでも無視を続けるので机を叩く。


ちょっと…… 耳を澄まさねば聞こえないぐらい幽かな声。

「お前がシンディーだろ。違うのか? 」

それでも無視を続ける強情な女。

「聞こえたか? 聞こえなくてもいい。銃の訓練だけはしておけ。分かったな? 」

「放っておいてください! あなたには何も分からない…… はずです」

ようやく口を開く気になった恥ずかしがり屋のお姫様。

怒りの感情が見え隠れする。

だがそれでも無理して抑えようとしてるのか冷たい視線を向けると読書に戻る。

ちっとも構ってくれようとしないシンディー。


「そんなこと言わずにほら射撃のやり方なら俺が教えてやるから」

反応が無い。再び自分の世界へ。

「シンディー! 」

「読書中です。お静かにお願いします」

「まずはだな…… 」

「やり方ですか? 幼い時から慣れてます。経験済み」

ようやく話す気になったらしい。だが本から目を離そうとはしない。

「分かったよ。そこまで言うんだったらもう何も言わない。

でも射撃の訓練はとても大事だ。

祭りの一演目として捉えるのではなく自分の身を守る為に。

獣や人ならざる者に立ち向かう道具としても使えるよう外出時は常に携帯すべきだ」

ちょと言い過ぎたかな。強制させるのは良くないがハッピー先生が甘やかすから。


「来たばかりのあなたに言われたくありません! 」

「俺は別に善意で…… 」

「お節介はおやめください! あなた何者なの? 」

まあそれはそうだろうな…… 俺を全力で排除しようとしている気がする。

正論を述べている気もする。即ち反論できない。

ただ感情は見られたのだから良かったと捉えるのも悪くない。


「俺はいい。それよりも皆やっている。お前も行くんだ! 」

あまりの態度につい熱くなる。誰も強制する権利はないが。

「分かってます。この島では銃の使用は認められてますからね。

なぜそうなったのかあなたには分からないでしょう? 」

俺をよそ者扱い。何も知らない愚か者と決めつけ相手にせず距離を取る。

せっかく仲良くしようとしたのに結果関係が悪化する。

これがただの学校でクラスメイトなら問題ない。

だが俺の目的は彼女たちの心を開き有益な情報を得ること。

ゆっくりなどしていられない。無理矢理にでも聞きだす必要がある。

俺はそこまで優しい人間ではない。目的のためには手段は選ばない。

「ご用件が済みましたらすみやかにグランドへお戻りください」

まるで挑発するかのように感情を込めずに囁く。


「ちょっと待ってくれ! さっきまでのは前置きに過ぎない」

「はあ…… 前置きですか。勝手にどうぞ」

もはや相手にされていない。

「実はその…… 今朝のことで謝りたくて…… 」

「ああそんなことですか。まさか脅迫する気ですか? 」

何を言ってるんだか良く分からない。

俺が脅迫? 謝罪だと言ってるのに。


「あなたが見ていようが見てなかろうが私にとってはどうでも良いことなんです。

あれは祭りの為の準備で体を清めることを目的にしてるんです」

拒絶反応は見せるがなぜか見られたことを気にしている様子はない。

どう言うことだ? 普通じゃない。

「しかし俺は君の体を見てしまった。決して許されることではない。

あの神聖な場に立ち入ると言う悪行を犯してしまった。恥ずべき行為だ」

「知らなかったんですか? 」

「ああ知っていれば俺だって…… 」

「嘘! あなたは知っていた。違いますか? 」

「それは…… 何となく…… 」

嘘だと? だが確かに知っていた気がする。いつだったか…… 

「それで謝罪を? 」

シンディーは読みかけの本を片付け机の上をきれいにする。

「そうだ。済まない。そして…… 」

「分かりました。あなたの気持ちは十分に伝わりました」

面倒臭そうに受け入れる。


「それから言いにくいんだけど…… 」

「まだ何か? 私、用があるんです」

呆れた表情を浮かべる。

「今朝の君の美しさが目に焼き付いてその君の体を…… 」

これ以上はいくら俺でも恥ずかしくて言えない。言っては何かが崩壊する。

言っては嫌われるどころか言い触らされて終わってしまう恐れも。

堪えたい。だがそうも言ってられない。


「早くしてください! 」

怒っている? だとすれば成功と言えるかもしれないな。

「もう一度…… 」

「はい? 」

「もう一度見せてくれないか。君の体を! 」

ついに言ってしまった。今朝の衝撃はそれほどのもの。

俺如きでは耐えられるはずがない。

彼女が気にしていない素振りを見せるあまりつい余計なことを口にしてしまう。

もちろん本心ではないとは言えないが。

ただ純粋な気持ちだ。

見て楽しむこともないし触ろうとも思わない。

ただもう一度だけ。

変な願望が俺の心を支配する。


「何てことを大河さん本気なんですか? 」

もはや直視できない。

もちろん断られるのは百も承知。

だが頼まざるを得ない衝動がある。

告白する勇気をかって欲しい。

「今は皆外で誰もいない。お願いだから俺の願いを聞いてくれないか! 」

「ふふふ…… ダメです」

笑顔が見られる。

あれ普通怒って拒否されるか。

恥ずかしがって拒否されるか。

喜んで受け入れるか。

恥ずかしがってOKかだが。

なぜか笑いながら断られる。


「済まない。冗談だ。忘れてくれ」

呆れて出て行くシンディー。

一言。

「失望しました。また夜にでも」

撃沈。

グランドへ戻るしかない。


                      続く
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