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シンディー編 僕って言っていいですか?

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第二部 第二ドール 緑

島内シンディー編


朝早く降りだした雨も昼前には完全に消え去り太陽が島全体を覆う。

まるで太陽によって支配されているかのよう。

ジメジメした蒸し暑さから一転カラッとした暑さへと変化していく。

グリーズ島本来の夏の姿を取り戻した。

気温もグングン上がり濡れた大地も干し上がる勢いだ。


バン
バン

乾いた音がする。

マウントシーでは月一回の訓練が行われている。

避難訓練? 違う。

職業訓練? 違う。

ドリル? ノーノー。


「アリアさん九発命中」

「へへへ…… 当確っと」

岬アリア九発成功、一発失敗。

「次は大河さん」

ダン…… パッシュ…… ダン…… ダダン…… 

発射音と着弾音が交互に響く。

「大河さん九発命中」

「惜しいな」

大河九発成功、一発失敗。

「続いてシンディーさん」

反応が無い。

「シンディーさん? シンディーさんはどこですか? 」

シンディー棄権。

「またですか? 仕方ないですね」

「まあ彼女に罪はないさ」

シードクターがフォローする。


訓練の時は彼らがお手伝いすることになっている。

さすがにハッピー先生だけでは荷が重い。

多少技術はあるものの基本的に忌み嫌っている。それに専門外だ。

ハッピー先生の専門は爆弾だと言っても誰も信じてくれないだろう。

ハッピー先生も昔いろいろあった。

そのことは封印している。

もし何らかの手違いでその封印を解けば物騒な言葉と共に彼女の本性も現れる。

彼女のイメージとは正反対の物騒な言葉。

喧嘩の時つい怒りのまま発するピーが入るようなあれだ。


今日は午後から射撃訓練が行われている。

月一で行われる訓練だが今月だけは特別。

射撃演舞は陽祭りで披露されるもので祭り始まって以来の伝統で格式高い演目。

本来は参加者全員。つまりは島の者全員で競うものだった。

だが時間がかかることや安全面から選抜制へ。

マウントシーから三人選出されることになっている。

山小屋の二人の協力を得て陽祭りに参加する三人を決定する。


その結果がこちら。

選抜テスト

一位。大河、九発。

二位。岬アリア、九発。

三位。新海エレン、二発。

四位。防人ドルチェ、零発。

五位。美波ブリリアント、零発。

棄権。島内シンディー。

分かりやすく並べ替えるとこう。

大河9 ブリリアント0 エレン2 アリア9 

ドルチェ0 シンディー不参加。


シンディーは射撃が苦手である。

シンディーは射撃が嫌いである。

銃を見るのも触るのもましてや使用するなどもっての外。

幼き少女の恐怖心から。

親からの言い付けから。

耳に響く轟音から。

コントロールの難しさから。

取り扱いづらさから。

危険であるから。

挙げれば切りがない。だがそのどれとも違う。

彼女の体験した彼女にしか分からないどうしようもない心の奥深くから来るもの。

決して誰も助けてくれない。

彼女が一体何をしたと言うのか?

彼女には過去も現在も決して抵抗することのできない弱い自分がいる。


緑のカチューシャを外し上から順に脱いでいく。

すべてを丁寧に畳んでから誰もいない浴場へ。

今は誰もいない。大きなお風呂を一人で貸し切り状態。

「別に見られたっていい。構わない…… 」

ぶつぶつと独り言を上の空でつぶやく。

手の外側と足の内側に無数の傷跡がある。

さほど目立たないので見られても気にならない。

でも指摘する子もいる。

だから一緒にお風呂もシャワーも海もプールも沐浴も誰とも一緒になりたくない。

じろじろ見られるのが嫌で嫌でたまらない。

どうしてこんなに無残なの? もう恥ずかしくて恥ずかしくて。

逆に大胆になっていく僕がいる。

もっと大胆になって何も気にしなくなったら俺って言えるのかな。


僕…… こんな風に言えば女らしくない。かわいくないと言われる。

でもそれが僕のスタイル。変えようとは思わない。

ただ皆の前では浮いてしまうので出来るだけ抑えてる。

ハッピー先生は下品ですからおやめなさいと言うけどできれば僕は僕で。

もっと究極では俺と言いたい。そして堂々と皆と裸の付き合いが出来たらなあ。

人には人の数だけ悩みがあるとハッピー先生もおっしゃっていた。

僕の悩みなどちっぽけなもの。分かってる。

                   続く
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