ファイブダラーズ~もう一つの楽園 囚われの少女と伝説の秘宝 夏への招待状シリーズ①

二廻歩

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夜って楽しい?

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午後のダンスは二人一組で。

各自が何を踊るか話し合った後とりあえず昨年の型と合わせ一度通しで踊ってみる。

昨年までは四人で行っていたのでペアが一つ増えた。

これにより集団のパフォーマンスの幅が広がり迫力もアップした。

しかし初合わせで細かい動きのミスが目立つ。

手の合わせ方、ステップ、表情と仕種、コンビネーションとどのペアもまだまだ。

約十日に迫った本番までには完璧に仕上げる必要がある。


何時間も練習していると慣れてきて踊れるようになる。

ペア同士の息は合ってきたが他のペアと合わせた動きがまったくなってない。

どうしても遅れてしまう。感覚を掴むのが難しい。


結局一時過ぎに始まった練習は休憩を挟み日没後の七時過ぎまで続いた。

暑さも伴い地獄のような一日。まあ俺が経験した地獄に比べれば大したことないが。

ただもう二度とやりたくない。そう思わせる特訓だった。

でも明日もこれをやるのだ。

今から憂うつな気分。明日はずる休みするか。

ハッピー先生は自主性に任せちょこちょこ顔を見せる程度。

だからやってる振りをすることも可能。

だが皆黙々と練習に取り組むのでそうもいかない。嫌な感じ。

はっきり言って俺には向いてない。

俺ははみ出したい。ぶち壊したい。

抑えられない衝動。それが物に向かうのか人に向かうのか。


「お疲れ様。頑張ったね」

各々が励ましの言葉をかけ自室に戻っていった。

まったくこいつらときたらまるで感情がない。

やらされていると言う自覚さえない。

ただ言われたことをそつなくこなす。

まあ祭りだからな仕方ないか。

島の者が年に一度のビッグイベントに情熱を注ぐのは何となく分かる気がする。

でも彼女たちからはその情熱や思いが伝わってこない。

ただ目の前の課題に取り組む。

これが正しくて俺が間違ってる。

そうは思うがどうも気持ち悪い。

なぜこうまで従順であり続けようとするのか。

これが島では普通? マウントシーでは当たり前?

そうか? 本当にそれでいいのか?

強い不満がある。

それは俺がただ嫌々やらされてることに対する怒りの表れとも言えるが……

体も心もついて行けない自分がいる。


ブツブツ
ブツブツ

美波との関係は良好。他の少女もじきに仲良くなっていくさ。

もう少しだ。アリアが一番手強い気がする。

手なずければあんなこともこんなことも……

妄想するだけでもちろん本気ではない…… あれ…… どうだったかな。

勝手な思い込み。心の声が漏れる。そのつぶやきを逃さない者。

後から近づくアリアだ。

どうやら考え事してる間に追い越していたようだ。

「私はいいの。でも彼女たちと仲良くなってどうしようって言うの大河? 」

不敵な笑みを浮かべるアリア。

正論でありながら正論ではない問いかけに少々ためらいつつも反論する。

ここははっきり強く言う必要がある。

「お前には関係ないことだ! 」

やはり正論であり正論ではない暴論。意味のない返しをしてしまう。


ほら冷静に冷静に。アリアのペースに持って行かれてはダメだ。

自分の目的が悟られる訳にはいかない。

彼女の相手の動きを探るような言動に見透かされている気がしてならない。

ただの気のせいだとは思うがどうも引っ掛かる。


「関係ない? 関係ないですって! 」

怒って先に行ってしまった。

アリアの善意とは到底思えない詮索の仕方。

これでは協力者として使えない。そう判断せざるを得ない。


その後二日は口も利いてくれなくなってしまった。

まずいことになった。

貴重な協力者候補を我慢できずに突き放してしまった。

間違った方向に進んでいる。

計画はこうではなかった。もちろん行き当たりばったりだったけどな。

間違った方向に進んでいる。軌道修正する必要がある。

それにしても何度となく投げかけた言葉が気になる。

「ねえ夜って楽しい? ねえ…… 」

忘れられずに引きずってしまう。

夜が一体何だって言うんだ。その後どう続けたかったのか。

つまらないことに興味を持つべきでないのは分かっている。

だがこれも念のためだ。目当ての品かもしれないのだ。

いかれた女の戯言と受け止めて確認しないのは逆に言えば愚かしいことだ。


夜か…… 何の違和感もない。ただ飯を喰って風呂に入って寝るだけ。

皆そうだろ。特にここの者は規則正しい生活を送る聖女。

違うのかアリア先輩?

              続く
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