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美味しい生活

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副村長は多くを語らず目的を果たした暁にはぜひ島の為に協力して欲しいと。

島に貢献して欲しいと泣き付く。だが俺にどうしろと?

島の伝説やら村で起こった大事件や島の今後について語ってくれた。

山小屋の二人からはマウントシーの館に住む少女たちを助けてやって欲しいと懇願。

彼女たちの運命と戦ってくれと。時間が迫っているなどと大袈裟な話で焚き付ける。

まったく疲れるぜ。はっきり言って迷惑だ。

俺は自分の目的の為にここに来たのであって俺を当てにするのは間違っている。

そうはっきり言っても聞く耳を持たない困った大人。


食後のパイナップルを上の空で頬張る。

すっぱくて甘い。いい香りのする果物。

うおおお!

口が切れた影響か痛みが走る。

今は辛い物も酸っぱいものも良くない。

カレーだって本当は良くない。だが慣れれば痛みなど吹っ飛ぶ。

辛い物はまだいいが酸っぱいとさすがに染みて大変だ。

周りではまだカレーをお上品にお食べになっている。

意外にも残す者はいない。よく教育されている。

この後の運動に差し支えるからな当然か。

でも夏はどうしても少食になる。夏バテが心配だがこの分なら問題なさそうだ。

祭りにも影響する。今体調を崩されては命取り。


うん?

視線を感じる。誰だ?

見回すが気にせずパイナップルを食す少女たち。

まさか岬アリアだろうか。それとも美波って子だろうか。

まあ誰でもいいか。もしかしたら勘違いかも知れないし気にするほどでもない。

二人ほど食事を終えたようだが皆が終えるまで動くことはしない。

どうやらここでの決まりらしい。

皆が食べ終わるまで行動は控える。団体行動って奴だろうか。

実に統制のとれた組織と言っていい。

俺も少しは見習わないとあの人に笑われてしまう。

いやもう笑うこともないか。


会議室に戻ると五人がひそひそと話し合いをしていた。

何の話をしてるんだか。

悪だくみに違いない。

急にやって来た俺を仲間外れにして遊ぶ気か。

ここでは俺は異分子だ。男と言うだけでも警戒すべき対象。

排除しようと動くのは間違っていない。

実際同じ立場だったら俺もやっていた。

だからその行動を批判するつもりはない。

俺を信用しろと言っても無駄だって分かっている。

時をかけてじっくり信頼関係を築き上げる。そうすれば彼女たちも反発しない。

もちろんそんな時間は俺には残されていないが。

だが皆大人しくしっかりしたいい子。少なくても表面上は。

だからそんなことするはずないと分かりきっている。


こそこそと話し合い、たまにこちらを見る。

多数決? クジ?

結局立候補で決まったようだ。

一体何の話だか。

「おいお前たち…… 」

問い詰めようとした瞬間一人の少女が前に。

「それでは大河さん。私とペアになってもらいます」

青のカチューシャ…… 美波ブリリアントだ。

「よろしくお願いします」

詳細を一切説明することなく言葉少なめに勝手に話を終わらせる。

彼女の突拍子もない話に困惑しながらも理解を示す。

もちろん分かった振りだ。後で確認する必要がある。


すかさずアリアが補足する。

「午後はペアになって踊りの練習をするの。

それであなたは誰にも選ばれなかったからどうしようかなって。

クジよりも多数決の方がいいかと思って……

そしたら彼女が立候補してくれたので丸く収まったってわけ。

私も手を挙げようかなって思ったけどそれじゃあつまらないでしょう」

長々と説明してくれたのは有難い。だが根本が間違っている。

俺の意見を聞かずに決めるなどあってはならない暴挙。何て自分勝手な奴らだ。

まさか俺本当に嫌われてるのか? 避けられてる気がする。

特に他三人はまだ警戒してるようだ。


アリアとの話が長引いたので三人は外へ。

話を終え、俺もついて行くつもりだったがアリアに止められる。

耳元で囁く。

「ねえ夜って楽しい? ふふふ…… 」

何が言いたいと詰め寄るがアリアは笑うのみ。

意味深な言葉を投げかけ反応をを楽しんでいる。まるで悪魔の囁き。

一体夜が何だと言うのだろう。

気になって仕方ないが無視して外へ向かう。その背に再び囁く。

「ねえ夜って楽しい? 」

笑いを止められず口元を抑えて追い越していく。

アリアはどうしてしまったのだろう?

俺にはまったく思い当たる節がない。

彼女が俺を焚き付ける目的は何だろうか?

アリア。一人積極的に話しかけるちょっと変わった女。

俺を心配してなのか。ただ単純にからかっているのか。

サインを見逃さない。


「気にしないで。さあ行きましょう」

何でもないと美波が恥ずかしそうにこちらを見つめる。

「おい! 何が…… 」

美波は先に行ってしまった。

取り残された俺は後を追い駆ける。

まったくここの奴はアリアを筆頭に一筋縄では行きそうにない。

一体何を隠している?

              続く
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