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少女たちの楽園

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【プロローグ】

フウ―と息を吐き別館に続く一本道に足を踏み入れる。

昼間は何てことはない草むらを慎重に一歩一歩進む。

恐れているからではない。ただ警戒を怠ってはならないと自分に言い聞かせている。

どこに蛇がいるとも限らないのだ。

差出人不明のカードに誘われるように自分を危険に晒す。

たとえ誰からの招待状かある程度予想できたとしても行ってはいけない。

罠であることも十分考えられるのだから。


うん? 何か聞こえないか?


 アンタッターラララーリオーリオー
 アンダッターラララ―リオーリオー
 オオ、ワタシタチオオタスケタマエ
 オオ、ワタシタチオオスクイタマエ
 アップアップアップルハンデッド
 アップアップアップルハンデット


繰り返し何度も流れてくる。耳を塞ぎたくなるほどの強烈な音。

館内から漏れる異様な歌とも祝詞とも叫びとも判断のつかない音が聞こえてくる。

何だこれは?

歌ってるのは間違いなくここの者。即ち少女たち。

明らかに常軌を逸している祈り。

一体彼女たちは何をしているのか?


がさがさ
がさがさ

物音がする。

「うわああ」

ビックリするあまりつい声を出してしまう。

ただ一瞬だったせいか誰も反応した様子はない。

セーフ。

「ちょっと大声出さないでよ」

「はあ…… 」

後方から聞き覚えのある声がする。

「光を…… 早くライトを消しなさい。まったく」

「まさかお前は…… 」

「ほらこっち」

急いでライトを消し声のする方に駆け寄る。


「フフフ…… 来たわね」

暗くて良く見えないが声には聞覚えがある。

「○○〇? 」

「○○○さんでしょう? 誰が呼び捨てにしていいって言ったの? 」

厳しい〇〇〇先輩。

たぶん俺よりも年下だろうに先に来たものだから先輩だとさ。

○○○先輩はさすがにやり過ぎな気もするが…… 

本人の立っての希望ならば仕方あるまい。ここは従うしかない。


「お前は一体何を考えてるんだ」

「どう楽しんで頂けたかしら? 私が見せたかったのはこれなの」

招待状を出したのはこの女か。まあ分かってはいたが……

「悪趣味だな」

「失礼ね。さあもう私が誰か分かったんでしょう」

「だから○○○だろ」

「もう何度言えば分かる訳? ○○○さんか先輩と呼びなさい」

「○○○さん。これでいいか? 」

つまらない言い争いをしている暇はない。

「なあ説明してくれないか? 」

「だから何度言えばいいの。私に生意気な口を利かないの」

昼間よりも態度が悪い。本性を現したな。

と言うことはここに居る者は全員大にしろ小にしろ狂っているのか?


「ふふふ…… 悩んじゃって可愛い…… 」

「うるさい。一体俺に何の用があるんだ」

「怒っちゃって可愛い」

似たようことでからかいやがってさっきから俺をおちょくっているのか?

「お願いだ。教えてくれないか」

「よく見てなさい。その目でしっかり見なさい。どう? そのまま見た通りよ」

やはりからかっている?

これは俺を驚かすために皆で考えたつまらないお遊び。

こんなことで俺は惑わされない。

どうやら首謀者は彼女だ。彼女の悪だくみに違いない。

「あらあら怖いのね。目を逸らしっちゃって。でも残念だけどこれが現実よ。

その目で良く見ることね」


別館から光が漏れる。

何かと思えば人だ。

「現実…… これが現実だと言うのか? 」

「そうこれが現実なの。絶望した? でもこれからがもっと面白くなる。

でもきっとあなたは耐えられない。苦しくて苦しくて叫び続けることになるわよ。

あなたの目的が何か知らないけどここから、この島から出て行くのをお勧めするわ。

先生には私から伝えておいてあげるから明日までにここを立ち去りなさい」

「うるさい。俺の勝手だろうが。この程度のことで」

「ふふふ…… 」

「笑うんじゃない」

だがいくら言っても馬鹿笑いは止まりそうにない。


それにしてこれは何と表現していいのか。

上下黒っぽい服。全身を黒に包まれた四体のドールが一人ずつ祭壇の上を歩く。

ゆっくりゆっくり歩いて行く。

壇上では同じく黒に包まれた者。

位高き人物より何かを授かっている。

それが何なのか……

奇妙な儀式。

向き合う二人。

塩で清め一粒の何か…… 飴に違いない。それと白く濁った液体を同時に口へ。

そして再び液体を盃に注ぎ飲み干す。

最後に再び塩を振り祭壇を降り次の者へ。

それを三回繰り返す。

その間祭壇の下の者はずっと歌い続ける。

その後壇上の者の合図で少女たちは身に着けていた物を一斉に脱ぎ捨て白い衣へ。

こうして儀式を終えた者たちは本館と呼ばれる洋館へと姿を消した。


ううう……

絶句する。

どうしても言葉が出てこない。

ドール? ドールなのか? まるで感情が読み取れない。

黒い衣を白装束へと変えていく一連の動きがどうしても目に焼き付く。

装束を脱ぎ捨て振り向いた顔は俺の知っている少女たちではなかった。

顔に集中できない状態で衝撃もあり確実に判別できる程に近くも時間もなかった。

唖然とするあまり見落としていた?

現実なのか? 現実だとすればもはや変えようのない状況。

いや夢だ。夢に違いない。俺の願望が見せた夢。

願望を夢に変えただけではないか。あまりにも非現実過ぎて。信じられない。

だがそれを打ち砕こうと彼女が念を押す。

「もう一度言うわ。あなたに見せたかったのはこれよ」


                続く
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