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桜散りし頃、君思うことなかれ クォーターファイナル

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突然の再会
目の前には思い人。
「あなたは…… 」
「フフフ…… 」
「ヨシノさん? 」
「うん」
「ヨシノ先輩! 」
「久しぶり」
「ヨシノ先輩。どこに行ってたんですか? 探したんですよ」
「いろいろ忙しかったの。何かあった? 」
「いえ、別に。何も変わりません。桜が散ったぐらいですかね」
「ねえ、歩こうか? 」
「デートの続きですね。やった! 」
「もう大袈裟なんだから。久しぶりにさ君の顔が見たくなったの。変かな? 」
「そんなこと…… 僕を探しに来てくれたんですか」
「うん。ここに居ると思って。挨拶もしなくてはいけないしね」
「挨拶? ご両親に? 」
「何を言ってるの! 違うよ。そうじゃなくてさ…… もう後で話すから」

二人は夕陽に照らされた桜並木をゆっくり歩く。
「何か食べますか? 」
「じゃあそこの屋台で」
微笑みを浮かべる彼女。
僕の元へ戻ってきた。
二人でたこ焼きと焼きそばを分け合う。
たこ焼きをフーフー言いながら食べる彼女の仕草に何とも言えぬ満足感と幸福感を覚える。
やけどに気をつけてと無言で訴える。自分はもうとっくに口の中を痛めてしまっているが。
一通り屋台を回ってB級グルメを満喫する。

人はまばら。
辺りは完全に闇に包まれた。
残すは公園のライトアップのみ。
それもあと少し。
桜祭りは今日までとなっている。
明日からはいつもの公園に戻るのだ。
最後の桜をと夜桜目当てなのか何組かのカップルが集まっている。
明日からどうしよう。
どこからか発せられたのか不明。
彼女を見る。
しかし彼女は何も答えない。
ただ俯いてつまらなそうに足を止める。
「どうかしたんですかヨシノさん」
何でもないと言ってごまかす彼女。
何かを言おうとしている?
隠し事は良くない。
「まさかまだ怪我が完治してないんじゃ」
「いやいや。まさかでしょう。痛めた左腕はもうこの通り」
腕を回す。
別にそこまでしなくてもいいが。何か変だ。
気にしすぎだよと笑ってごまかす。
笑う彼女にホッとする。しかしやはり何かおかしい。
「先輩! ヨシノ先輩! 」
「分かったよ。言うよ言う。実はまた調子に乗っちゃって。違う箇所を痛めたの」
ドジっ娘?
そんなキャラだっただろうか。
何かミステリアスな今までの彼女からは想像もできない出来事に親しみを感じる。
しかし何か引っかかる。違和感。
「実はね…… 痛めていた左腕が完治したのは三日前なの。だから気をつけていたんだけど誘われて仕方なく激しい運動したら足までおかしくしちゃったわけ。はしゃぎ過ぎたのかなあ。今になってどんどん痛みがひどくなってるみたい」
これは真実?
それとも暗に誘っているのだろうか?
彼女の様子からでは判別し難いが、もしそうならば何とも大胆なことか。
辛そうだ。とにかく優しくしなくては。
「大丈夫ですか? 」
「ええ、少し休めば問題ないよ」
これはまずい。
かなり我慢しているようだ。
何も今日無理して会いに来ずとも明日でいいのでは?
確かに僕は会いたかった。
それを言ったらいつでも毎日欠かさずに彼女の顔を眺めていたい。
キミと呼ぶ上からの物言いにも捨てがたい魅力を感じる。
毎日会えたらと願わずにはいられない。
しかしなぜだ?
なぜそうまでして今日僕に会いに来てくれたのか?
いや、会ってくれたかだ?
光が目に入った。
ライトアップが終わるのは十一時。
それ以上の点灯は住民の迷惑になるため行われない。
そうだとすると今夜十一時が本当にラストだ。
もしそのことを彼女が知っていたならば無理してでも立ち寄るのは別に不思議ではない。むしろ自然だ。

時は過ぎていく。
もう真っ暗。
ライトアップの光以外何も見えない。
彼女の足は急激に悪化し見ていられない。
僕はおろおろするするばかりでどうすることもできない。
せっかくいいところを見せるチャンスなのだが頭が回らない。
彼女が怒っていないのが唯一の救い。
弱った声で微笑む。
息が苦しそうだ。
「痛みますか? 」
間抜けな質問に苦笑いを浮かべ首を振る彼女。
もう口も開くのも辛いのだろう。
彼女の足の急激な悪化は彼女自身にも意外らしく、ただこう言うのみだ。
「どうしちゃったんだろう? 」
どんどん血の気が引いていく。
その蒼白な彼女の様子をただじっと見守っているだけの自分がいる。
血の気が引いた彼女も美しい。そんな感想しか言えない。
「まずいですよヨシノ先輩。痛みますか? 分かりました。病院に行きましょう。どうしようもなければ救急車を呼びますが」
彼女は僕の提案のすべてに首を振る。
どうしたと言うのだ?
我がままを言うなと叱り飛ばしたい。
彼女は依然辛そう。
助けが必要な状況に変わりはない。
何とも不甲斐ない。
彼女は僕を信頼していないのか?
ベンチまで戻ってきた。

光と闇。
ライトアップの公園と夜道。
彼女と僕。
月の光と心の奥の欲望。
一緒になる。
混じり合う。
僕は自分の心の奥のさらに奥にしまってある愛と言う名の欲。
決して表には出してはいけない感情が見え隠れするようになった。
何度も声をかけるが反応は薄い。
ベンチに座らせ上着を着せてやる。
ありがとうと弱々しく返す。
何とも痛々しい限りだ。
しかしそれでも美しいのだ。
なぜこんなにも惹きつけられるのか?
輝きは決して失われてなどいない。
いや、逆に増しているようにも見える。
「フフフ…… どうしたの? 」
「いえ、僕はちょっと飲み物でも買ってきます。そこで大人しく…… 」
動く体力も残されていない。ぐったりしている。
急いでドリンクを調達。
「ヨシノ先輩…… 」
大丈夫だ。どうやらそのまま眠ってしまった。
寝顔がライトに照らされ映えている。
何と美しいことか。
見事までの芸術作品。
これがアートであるならばこの格好では物足りないがまだ春でしかも強風だ。このままゆっくり鑑賞するのがいいだろう。
もう誰も邪魔をする者はいない。
今が絶好のチャンス。
心に秘めた思いを伝えねば。
今ならできる。
自分を鼓舞する。
ほら自分!
勇気を出して!

寝ている彼女の横へ。
偶然を装ってこんな事やあんな事も…… 
気持ちよさそうに寝息を立てる彼女に肩を貸してやる。
よし今だ!
決行の時。
後戻りはできない。
後悔もしないしさせない。
ダメだ……
体が言うことをきかない。
なぜだ?
どうしても緊張してしまう。
ためらう。
自分よしっかりしろ!
もう彼女は許している。受け入れている。
それが分からないのか!
何をためらう必要がある?
救ってやれ!
彼女の気持ちに応えてやれ!
求められているのが分からないのか?
ほら今も目を閉じて待っている。
笑みが何よりの証拠だ。
誘っている。それが分からないのか?

どうすることもできずそのまま三十分が経過した。
彼女はまだ目を閉じたままだ。
本当に自分が情けなく思う。
自分に素直になれない。
考えれば考えるほど動けない。
今は別にいいかもしれない。だがもし肝心な時に、絶体絶命の時に動けないようでは見放されてしまう。
感情を押し殺し眠り姫の救出に向かう。
彼女も気が付いた。
「ヨシノさん! ヨシノ先輩! 」
「ううーん。私眠っちゃったの? 」
「疲れたんですよきっと。ここに居ると風邪をひきます。さあ帰りましょう」
「あらあら。本気で言ってるの? 」
言い返せない。
胸の内を見抜かれた?
口ごもる。
邪な心を見透かされたようで動揺して言葉が出てこない。
「もう…… 会えないかもしれないのよ」
「へえ? 」動揺している僕にさらに追い打ちをかけるような発言で余計に動揺してしまう。
どういうことだろうか?
「考えてみて」
確かにそうだ。彼女に会いたいその一心でこの一週間探し続けたし待ち続けもした。どれだけ待てばいいのか分からないのが辛かった。
今日でお別れでもおかしくない。
「フフフ…… そんなに真剣に悩まないで。冗談なんだからさあ」
「ヨシノ先輩! 酷いよ」
からかう元気があるなら抱きしめて欲しいものだ。
「だって君の困った顔も焦った顔も…… へへへ…… 」
言いかけた言葉を飲み込む彼女。
気になるがもう一度とお願いはできない。

上を見上げる。
ライトアップはあと一時間もすれば終わってしまう。
そして今日は強風の影響で肌寒い。
九割方のカップルは出て行ってしまった。
ここから見渡す限り人影はない。
だから今までの恥ずかしい様子を気にかける者はいない。そしてこの後も現れない。
「ヨシノ先輩寒くありませんか」
「うん。温めてくれる」
冗談のつもりだろうが思ってもみなかった返しでこられるとどう対処すればいいのか分からなくなる。
「本当に冗談。大丈夫。そんなに寒くないから心配しないで」
クッシャン クシャン クシュン
そう言ってるそばからくしゃみの三連発。
「だから風邪には気をつけてって言ったでしょう。もう早く帰りましょう」
「ううん。これは花粉よ。花粉のせい」
「花粉? 本当ですか? 」
「疑ってるの? 薬の効果が切れかかってるだけ」
彼女の様子が変だ。
怪我が悪化している恐れもある。
とにかく確認しなくてはいけない。
「何をするの! 止めてくすぐったい」
疑われてしまった。別にそんなつもりではないのだが。
そっちを向いててと一言。従うしかない。
見せたくないのだろう。それが怪我の具合なのかただ単純に体を見られたくないのか。どっちでもいいが。
僕を信用してください。
心の中でいくら叫んでも届きはしないので意味がない。
「どうです? 」
「うん。痛みは問題ない。でもあまり歩かない方がいいかな」
ううん。目が疲れた。
メガネを外す。
「もしかしてキス? 」
思っていた以上に意識してしまったらしくからかい方が中途半端でこちらが赤面してしまう。つられて彼女も頬を赤く染める。
「キスしたいの? 」
「まだ言いますか? 」
心理戦では負けない。
僕の思いもよらぬ一言で黙ってしまう。
「ちょっと! 何? どういうこと? 」
反省しているのか怒っているのか。それともドキッとしたのか。
二人の間に重苦しい空気が漂う。
気まずい。気まずい。どうしよう。
ぼくのせい? 
「ヨシノさん…… 」
「バカ! 」
「ヨシノ先輩…… 僕あの…… 」
「眠くなっちゃった」
「またですか」
「ここで寝る? それとも君の家にする? 」
焦れたようだ。
お誘い。
ついに来た。
今までの遠回しの誘いに飽きたらしい。
「どっち? 」
メガネを取り再び掛ける。
それを繰り返す。
ライトアップされた桜を見る。
うーん。決心がつかない。
迷う。本当に迷う。
悩む。本当に悩んでしまう。
「私から言わせるの? 」
積極的過ぎる彼女にもう打つ手はない。
このままいっそここで。
彼女もきっと……
望んでいる? はず。
からかっている? 訳ない。
「ヨシノさん。僕はその…… 」
再び何も言えなくなってしまった。
言葉でなくても行動で示せればいいのだがそれも上手く行かない。
心理戦。
駆け引きはなおも続く。
「もういいよ」
「ヨシノさん。ヨシノ先輩。僕は僕は…… 」
「やっぱり君には無理なのかな」
「そんなことないです」
「もう。だったらもっとはっきりできない? 」
「はい、頑張ります」
「そこはしっかりしてるんだけどね」
「はい! 」
「もう一度お願い」
これが最後のチャンス。
これにかけるしかない。
僕の全力をぶつけるんだ。
たとえ彼女の思いと違ったとしても。
言うんだ!
はっきりさせるんだ!
「では改めまして…… へっ? 」
今度は彼女の方が固まる。
「ヨシノ先輩? しっかり! 」
「ああ、もういいよ。時間切れ」
「へっ? 何で? 」
「いいからいいの! 」
ワガママ娘?
「寒くなっちゃった。トイレに行ってくる」
「何だ良かった。用を足しに行くんですね」
「うるさい! 続きは無いからね」
「そんなあ…… 」
「いいから分かった? じゃあね」
怒って行ってしまった。
ベンチから約百メートルにあるトイレへ。
自分も同行すべきか迷ったがさすがにトイレについて行くのはまずい。
生憎こちらは大も小も誘いがない。
ゆっくりと歩く彼女の後姿を見守るのみ。
ヨシノ先輩はトイレ。
自分はひたすら彼女の帰りを待つことにした。
ヨシノ先輩は本当に大丈夫だろうか?
別れの言葉も少し気になる。
「じゃあね」 「じゃあね」
何度も頭の中で流れる。
もう帰ってこない?
漠然とした不安に押しつぶされそうになる。
暗いのがいけない。
不安を招くだけだ。
怒らせたのは間違いない。しかしまさか勝手に先に帰る訳もないし、あの足では持つはずもない。
だがどうだろうか?
気にしていても仕方がない。暇つぶしに持っていた本を開く。
ライトアップの光だけでは見づらいが読めないこともない。
ページをめくる。
小鳥ちゃんの作った絵本をパラパラと読み返す。
それを何度か繰り返す。
まだかなあヨシノ先輩。遅いなあ。
まさか迷ってるなんてことないよな。
気になって仕方がないが絵本に集中。
今度は音読する。
春…… どこがいいかな。
次に大声で。
ありがとう。本当に助かったよ。すべて君のおかげだ。
うんうん。これからは自分で気をつけるんだよ。
もう十分は経過した。
まだ彼女は戻ってこない。
ライトアップが終わりそうだ。
ヨシノさん!
メガネを取る。
ゆっくりと丁寧に拭く。
それを終えると再び掛ける。
無駄に思えるが大事なこと。
ただの暇つぶしでもある。
ふうー
ため息を吐く。
ヨシノさーん!
まだかな。
いつまで待たせる気だよ。
ほんの少し怒りが込み上げてくる。

再び絵本の世界へ。
天敵のカラスもいなくなり自由に大空を羽ばたく小鳥。
「ねえ、君の友達を紹介してよ」
反応が無い。
「友達さ。そうもっと僕を守ってくれる勇敢なお友達」
まったく反応が無い。
「どうしたの? 」
「済まない。少し考えごとをしていてね」
「僕に関係あること? 」
「ああ。そうだ」
「困るの? 」
「ああ。もう守ってやれないかもしれない」
「どういうこと」不安になる。
「まあ聞いてくれ。あと少ししたら君を守る力が無くなってしまう。そうなれば私は無防備だ。何の役にも立たない。ただデーンと構えているだけの木偶の坊」
「そんなことないよ」
「いやこれは仕方ないことなんだ。早く出て行った方がいい。ああもうダメだ。どんどん力が無くなっていく」
「嫌だよ。もう少しだけ。もう少しだけでもお願い」
「我がままを言うな! 私の言うことを聞くんだ! 」
「そんなあ…… 」
「ダメなんだ。どんどん力が! 力が! 吸い取られていく。後はこのスピードを遅らすことしかできない。でも春の嵐に遭えばあっと言う間だ。お願いだから言うことを聞いてくれ! 」
「うん、分かったよ。僕も準備を始めていたんだ。旅立つ時が少し早まっただけさ。何の問題もない」
「そうだ。その調子だ。さあ旅立て! 」
「うん。もう行くね。お世話になりました」
「ああ、来年も来るといい。その時は歓迎するよ。さあ行くんだ! 早く! 」
「ありがとう」
小鳥は新たな住処を求めて旅立つ。
桜の木は力が尽き長い眠りにつく。
また一年後。
会えるのを楽しみにしているよ。
花びらが風に舞い漂う。
嵐のような突風が巻き取っていく。
春はまだ始まったばかりだ。
               おしまい
   ハル
   コトリ
絵本を閉じる。

一枚。
桜の花びら。
最後の一枚が落ち風に舞う。
独りぼっちの僕。
あれから三十分は経った。
ヨシノさんはどうしたのだろう?
忘れたのか?
怒って帰ってしまったのか? いやまさか……
三十分。もう三十分だ。
長い。長すぎる。
どんなにかかっても三十分はあり得ない。
どうしたのだ?
取り残された……
急に不安が押し寄せてくる。
心を保てない。
ヨシノ先輩!
ヨシノさーん!
一向に戻ってこない彼女。
何かあったのか?
そうだ。そうに違いない!
僕はなんてバカなんだ。
彼女に何かあった。
トラブルに見舞われた。
だから戻ってこれない。
それしか合理的な説明がつかない。
トイレを見る。
桜を見る。
もう一枚もない。
来年また……
いや、それも五分五分だ。
半分の木は切り倒されるのだから。
桜に来年はない。
僕らにも来年どころか……
いや考え過ぎだろう。
しかし帰ってこないのはやはりおかしい。
頭が混乱する。もうパニック寸前。
今すぐにでもトイレに行って中を調べたいが女子トイレに入っていいものか。勇気がいる。
誰かに見てもらうのが一番。
しかしこの辺りに人はいない。
それはそうだろう。
こんな寒い夜遅くに誰が好きでいくらライトアップされているとはいえ近づくものか。
ではやはりここは……
ああやっぱりダメだ。待つ以外に方法はない。
ライトアップもそろそろ終了の時刻。
消えれば完全な闇。
彼女を探し出すなど不可能。
ライトアップされている今のうちに。
いやダメだ。
待つんだ。待つしかない。
僕には待つことしかできない。
例え彼女が戻ってこなくても待ち続ける。そう決めたんだ。
ヨシノ先輩!
ヨシノさーん!
早く!
早く戻ってきて!
願いが届いて欲しい。
どうか!

五分が経過した。
もう彼女はトイレにいない。
帰ってしまった。
いや元から存在して無かったのでは。
ヨシノなどと言う人物はいなかった。
もういいんだ。
これ以上。
どうか。
もういい。
見てこよう。
いや待てよ?
ダメだ。
誰かに頼む。
お願いだ。
決め切れないで時間だけが過ぎていく。
よしトイレまで行こう。
そして呼びかけよう。
反応があればいる。
反応が無ければいない。
単純じゃないか。
何も僕が中まで入る必要もない。
まったく自分は何て愚かなんだ。
よし行こう!
行くぞ!
ダメだ!
怖い! どうしようもなく怖い。
いないことが受け入れられない。
もうどうしようもない。
待つのだ。
待とう。
待つのは慣れている。
夜中になろうと。
明日までだっていい。
講義は休まざるを得ないが仕方がない。
よし待つぞ!
待ち続ける。
今が何時かもわからない。
ヨシノさんが帰ってこない。
どうしたんですかヨシノ先輩?
まさかヨシノさんのいたずら?
僕が探しに来るのを待っている?
こっちだって待っている。
ヨシノさーん!
ヨシノ!
絶叫する。
しかし決して返ってくることは無い。
大声で彼女の名を呼ぶ。
もう誰も気にしない。
近所迷惑だろうと構わない。
とにかくヨシノさんに会いたい。
ただただそれだけだ。
僕がおかしいのか? それは分からない。
僕が正しいのか? それは分からない。
ただ一つ言えるのはヨシノさんは幻なんかじゃない。
でも……
記憶の中のヨシノさんはそれはそれは美しい。
彼女といつ? どこで?
彼女について僕は何も知らない。
それは出会って日が浅いからだ。
彼女だって僕を理解していない。
彼女はなぜ僕に嘘を?
テニスサークルには一度も姿を現さないし。
ヨシノなんて人はいないと調査で判明した。リーダーのリサーチに間違いない。
そうだとすると彼女の存在は?
僕が?
作り上げた?
幻影?
では何の為に?
桜……
桜が見せた幻影。
そうだそうに違いない。
答えは最初から分かっていた?
友人は指摘していた?
幻影?
ライトアップが終わり全てが闇に包まれたらその幻影とはオサラバ。
全てが幻影。
夢。
春に見る夢。
分かっていた。
分かっていた。
ヨシノなどいない。
ヨシノなど……
教えてくれ誰か!
誰でもいい答えてくれ。
変になっちまったのか?
答えてくれ!
会いたい!
会いたい!
ヨシノ先輩!
ヨシノさーん!
ヨ・シ・ノ
桜は確か……
ようやく分かったよ。
ありがとう。
例え幻でもいい。
いい思い出だった。
思い出をありがとう。
ソメイヨシノさん。
礼を述べる。
桜は風に吹かれ何かしらの反応を返した。
涙が溢れ出る。
さっきまで堪えていた涙が零れ落ちる。
涙は下へ下へ。
桜が舞い散るように。
ライトが消えた気がした。

僕は小鳥。
彼女は桜。
いい夢だった。

桜散りし頃、君思うことなかれ
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