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桜散りし頃、君思うことなかれ(中編)クォーターセカンド
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二人はデートの約束を果たす。
「どこにします? 」
「せっかくだからゆっくりこの桜並木を歩こうか」
桜を愛でる。この季節の定番。
回りを見れば似たような男女が歩いている。
夕暮れの桜もまたいいものだ。
ロマンチックなシチュエーションが二人の関係を発展させるだろう。
「さあ、早く行くよ」彼女はお構いなしに歩き出す。情けないことに彼女の歩くスピードについていけない。
「ちょっと! 待って! 速い! 速すぎる! 」
マイペースな彼女の後ろにつく。
振り返ってはからかい半分に急かすヨシノさん。しかし僕が遅すぎるのか。彼女が速ぎるのか。
「いや、だから待って。ヨシノさーん。普通デートって言ったら並んで歩くものですよ。これじゃあデートの意味がない」
何とか追いつき彼女の横をキープ。
なおも急ごうとする彼女。その手を掴もうとするが振り切られてしまう。
仕方なくやや後方から左肩を掴む。
「痛! ちょっと…… 」
服の上から軽くだ。痛いはずがない。それなのに。
一瞬顔を引きつらせるがすぐに笑顔に戻る。
「すみません。ヨシノ先輩。痛かったですか」
「ちょっとね。でも大丈夫だから。それに君のせいではないよ」
明らかに元気が無い。表情を曇らせ下を向く彼女。
「本当に、本当に大丈夫ですか? 」
「心配しないで。君と初めて会った夜に酔っぱらいのおじさんに絡まれちゃってさ。ほらこの左腕を痛めたんだ。たぶん骨折まではしてない。軽い捻挫かな。腫れてきて少しだけ痛い。ははは…… 」
そう言って左手を回し確認。痛みはあるようだが問題ないそうだ。ただ急に患部を触られるとダメらしい。
完治するまでは大人しくしているしかない。
気丈に振る舞う彼女。
問題ないとしても心配だ。
「先輩。ほらあそこにベンチがあります。無理しないで少し休みましょう」
「本当にここでいいの? ふふふ…… 」
「どういう意味ですか。先輩。ほら辛いんでしょう? 」
彼女は意外な反応を見せる。
ふざけているのだろうか?
その真意が読み取れない。
「もっと先の方で休みたいんじゃないの? ほらもう陽も落ちてさ…… 」
含みを持った物言いで男を挑発する。
「先輩」
確かにあと一キロも歩き公園を抜け、道路を少し行くと見えてくるのはホテル街。僕がその事を知らない訳もなく……
だからと言って最初のデートでお願いする根性はない。そんな人間ではないのだ。
自分にそう言い聞かせる。理性が吹っ飛んでしまう前に。
「先輩。いい加減ふざけないで早く座ってください。飲み物を買ってきますから」
彼女は不気味に笑いだす。
上を向き満開の桜を眺め満足そうな顔をしている。
夕暮れと桜のコントラストに心奪われるヨシノ先輩。僕からすれば彼女の美しさが桜にも勝る。それだけ彼女に神秘性を感じる。
自分でも何を言っているのかわからないがとにかく彼女は凄い人だ。
もうすぐライトアップ。
これはこれでいい。
夜桜を見に来た客が集まり始めた。早くも酔客が喚いている。関わり合いにはなりたくないので避けて進む。
ライトアップに釣られてやって来た花見客で混雑し始める。
歩くのも一苦労。花見客を押しのけて数メートル先の自販機へ。
ガヤガヤしてとにかく不快だ。
だがそんなことは言ってられない。ヨシノ先輩を待たせているのだ。
大声で話しているおばさんたち。僕は抵抗しない。
「ねえ、この桜も今年が見納めね」
「本当。本当。来年からは別の場所を見つけなくちゃね」
「大丈夫よ二人とも。徐々にだから。来年は半分になっちゃうけどその分花見客も減って見やすくなるわよ」
「まあ何にしろ新しい場所を見つけないとだわ」
「私は近所だから便利でよかったのに。残念」
「便利って奥さん。はっはは……」
自販機の前でおばちゃん連中に巻き込まれてしまう。
うるさくて敵わない。いい迷惑だ。
何とか脱出し飲み物を抱えてベンチに戻る。
人混みが凄すぎてなかなか前に進まない。
ヨシノ先輩今すぐ行きます。
「ねえ、君一人。この後俺ら夜桜パーティーやるけどどう? 」
大と小の浅黒コンビがヨシノ先輩に絡む。
僕は様子を見守ることしかできずとっくに着いているベンチの前から人混みに紛れる。しつこく迫る二人組は態度がデカく自信過剰気味。
彼女は必死に拒絶するが男たちも簡単には引き下がらない。
「おい、嘘を吐くなよ。なあいいだろ」
「しつこい! 」先輩は戦闘モードへ。
「ちっ、分かったよ。行くぞ」
大が小を促して帰っていった。
完全にいなくなってから息を切らして戻る演技をする。
「大丈夫ですか? 先輩が遅くなっちゃって…… 」
焦って自分でも何を言っているのか理解できない。
「大丈夫だよ。ありがとう」飲み物を受け取り桜を見つめる。
僕もつられて視線を送る。
ライトの光で桜はより幻想的に。
「あの桜きれいですね。本当に見とれてしまう。僕…… 」
彼女の表情が変化した。
「デート中によそ見すると嫌われるよ君。他の女に興味があるのかって思われるからやめた方が良いよ」
何を言っているのだろうか。彼女の忠告は的を得ているようには思えない。
機嫌が悪くなった。最悪だ。
僕に原因があるのか。
「ヨシノ先輩。変ですよ。僕はただ桜を見てきれいと言っただけで他の女性を見て言ったわけでは…… 決してはい…… ハハハ…… 済みません」
確かに一瞬だけライトに照らされ美しく輝いた少女に心を奪われたのだ。しかしその事に気付くとはさすが女の勘の鋭さよ。だが直接はっきり言ってくれればいいものを面倒臭いなあもう。
一時間が経過。
「そろそろ遅いし帰ろうか」
「もう少しいいじゃないですか。ねえもう少しだけお願いします」
しつこいと思われるのは嫌だが彼女を放したくない。別れたくない。
次いつ会えるかも分からないのだから。
「仕方ないなあ。じゃあ泊まっていく」
先輩の視線は闇で見えなくなったホテル街へ。
からかいたくてしょうがないらしい。僕はそんなに情けない男なのか。
「ねえ君。今日はこれで別れよう。また次の機会。今度は桜祭りが開催される土曜日にどうだい。その時に本当のデートをしようじゃないか」
疲れて眠そうだ。怪我も心配なので提案を受け入れることにした。
「それではヨシノ先輩。土曜日に先輩の言う本当のデートをしましょう。今日みたいなんじゃなくて」
今日のデートに不満があるわけじゃない。でもこう言っておけば主導権を握れる。悪ふざけもさせない。
舐められてなるものか。
「ああ、それまでにはこの左腕も良くなってるだろうしね。それじゃまた。私はこっちだから」
彼女は僕と反対の方向に歩き始める。
彼女が誰でどこに住んでいるのか謎のまま。ミステリアスな彼女。これがきれいでなければ何の意味も持たないのだが。もちろんこれは僕なりの考えによるものだ。
金曜日
ワクワク
ドキドキ
「おいどうした。そわそわしやがって」
相棒の目には異常に見えるらしい。
「お前には関係ない! 」
つい強い口調になる。
「ちょっと前までは眠い眠いってだらけていたのに。昨日はため息ばかり。心配して見守っていたらそわそわしてたんで注意してやっただけだろうが」
相棒の言うことはもっともだ。だが認めたくない。
「だからお前には関係ない」
「言いやがったな」
関係がぎくしゃくし始めた。
「まったく困った奴だ。まあいいや。今日はサークルがあるからな。言っておくけどサボれないぞ。いいな? 」
相棒は分かってるなと念を押す。
「今日はミニゲームをやるんだ。参加するって言ったろ? 嫌なら自分で断れ」
そんな記憶はない。しかし適当に返事していたことはある。
相棒は熱心にサークル活動に励んでる。僕はと言うとほとんど顔を出していない。ヨシノ先輩が来たら知らせろと言っているが彼女がサボっているのか相棒が分からないのか。とにかく彼女が来ないなら行く意味はない。
「行くよ。行きます。行かせてください」
断るぐらいなら参加する。あのリーダーを怒らせてはいけない。
「ははは。リーダーは怖いものな」
自分の思い通りに行き気分がいいのかそれまでの僕の酷い態度を忘れてくれた。
ただ馬鹿なだけではなく単純なのだ。まあ良い奴であり親友なのだが。
「ああ。でも僕ユニフォームないんだ。やっぱり無理かな」
「余ってるのがあるから心配するな」
なんとか行かない方法はないだろうか。困ったなあ。
「ラケット買うって言ってまだなんだよね。やっぱり…… 」
「馬鹿だな。それも誰かのを借りればいい」
なかなかしぶとい。
「メガネが邪魔にならないかなあ」
「知るかそんなこと! 行くぞ! ぐずぐずしてるとこっちまで叱られちまう」
服を掴んで無理矢理引っ張っていく。
「馬鹿野郎。これは新品なんだぞ。伸びたらどうする」
文句を言っても放してくれない。仕方なくテニスサークルへ。
こんなことをしてる場合ではない。明日のデートの準備だってある。
ぶつぶつ
ぶつぶつ
「何やってるリーダーが来たぞ」
「遅れました」
大声で叫ぶが誰も見当たらない。リーダーどころか誰もいない。
「はっはは。冗談冗談」
相棒は気合いが入っている。開始時刻の三十分前に来てしまった。
「騙しやがって! 」
「うるさい。お前はいつも来ないんだから今日ぐらいは一番に行くんだよ」
相棒との温度差を感じる。
付き合いきれない。
相棒チームとの混合ダブルス対決。
「疲れるのは嫌…… 」ストレート
「早く帰りたいなあ…… 」ダウンザライン
「まだかよ…… 」サーブアンドボレー
「疲れたな…… 」キープからのブレイク
「終わってよ…… 」セットポイント
「明日にならないかなあ…… 」ゲームウイン
いつの間に試合が終わっていた。
相棒が駆け寄ってきた。
「凄いぞお前」
「まあ、テニスは見るのもやるのも好きだから。これくらい当然さ」
相棒には黙っていたが昔少しだけ嵌ったことがある。
ルールだって当然知っている。
海外のテニス中継だってたまに見ている。
勝って当たり前。
相手が弱すぎるのだ。
ペアの女の子は同じ一年生で初めて見る顔。
ルックスはまあまだがスタイルは普通。僕にはもったいないがその比較がヨシノ先輩では話にならない。彼女は今日も来ていない。そのオーラが感じられない。
「本当に凄いぞ」
「相手が相手だからね」相棒チームはコンビネーションが悪くダブルフォルトを連発して自滅していった。勝って当然。何の不思議もない。
久しぶりの激しい運動。大量の汗が噴き出る。
ひとまず水分補給。運動後のドリンクは一瞬でお腹の中へ。
汗が気持ち悪い。あせもにならないか心配だ。
着替えがないものだからこのまま帰るしかない。
早く終わってくれと心の中で叫ぶ。
充分に役目を果たした。
後は先輩方の激しい戦いを見るだけ。
あー。汗が目にもう嫌だ。
頑張れ!
たまに応援。たまに拍手。大声も混ぜながらボーっと観戦。
このスタイルで乗り切る。
見ているだけと言うのも正直辛い。
ヨシノ先輩がいたらなあ。
隣で一緒に応援。
楽しいだろうな。
隣にいる相棒には悪い気もするが……
リーダがこちらに向かってくる。
何かまずいことをしたか。
笑みを浮かべているので怒られることは無いだろうが急変しないとも限らない。
とりあえず作り笑いでごまかす。
「お疲れ」相棒の方を見る。
「お前に知らせたいことがある」何だろうか。相棒に確認を取っていたがまさかサボっているのがばれた。いやそれぐらいこのサークルにもいる。いわゆる幽霊部員。
「ヨシノ何て奴はこのサークルにはいないぞ」
厳つい体で怒ると手が付けられないリーダー。その彼が真剣な表情で思いもよらぬ発言をする。
「お助け! 間違えた。本当ですか? 」
「ああ。間違えなく」
「本当に本当ですか? 」
「そうだとさっきから言ってるだろ」
ヨシノ先輩はいない? 存在しない? 意味が分からない。
「いやあ。お前のことが心配でさあ。ちょっと調べてもらったんだよね」
相棒の唯一の弱点。他にもたくさんあるとは思うが。
口が軽い。悪びれることなく笑顔を浮かべる。
「うちのサークルにはヨシノなんて女はいない。もしかしてそいつは男なのか」
「そんなはず…… 男なわけもないし。最初の飲み会で会ったはずって彼女が…… あれ…… 本当ですか? からかってません? 」
頭の中は混乱して何をどう説明したらいいか分からない。
パニックとはこのこと。
「へっへへ。騙されたんだよ。大体お前に女ができるなんてよ。しかもものすごい美人って言うじゃないか。絶対に騙されてる。断言してもいい。デート商法かもっとひどい何かだろ」
いやらしい笑みを浮かべからかう。
絡み方が酔っぱらいのそれだ。
もう誰を信用していいのやら。
気を使って大人しくしていたリーダーが語りだす。
「まあ、何にしてもこのサークルにはヨシノって奴はいない。お前が言っていた飲み会には他のサークルの子も参加していたからたぶんそっちじゃないか。何なら俺が責任を持って調べてやるが」
任せろと言うのでお願いすることにした。
他にどうしようもない。
「だからデート商法だって。それかお前の思い込みか幻かだな。春には何かとおかしいのが増えるって言うしな」
涙まで流して笑っている。
相棒との関係もこれまで。もう嫌だ。
相棒のきつい冗談。嫉妬から来るものか。悪ふざけとも思える一言が僕の胸を貫く。確かにヨシノ先輩はこのテニスサークルに所属してない訳で…… これは一体どういうことなのだろう。彼女は単純に僕をからかっただけ。もしかしたら僕に合わせてくれただけ。しかしそれでは意味不明ではないか。彼女の目論見や意図がどこにあるのだろう。不思議で不思議で仕方がない。ヨシノ先輩は一体何の目的があって僕に嘘をつき近づいてきたのだろう。
「おい、どうした固まっちまってよ」
「何でもない」
「急に大人しくなったと思ったら怖い顔をしてよ。騙されてるんだよきっと。ヨシノ先輩だっけそんな人は存在しない。いるはずないだろ。
しっかりしろ。お前を騙したか。お前の夢か。お前の作り上げた幻だよ。残念だが認めるんだな」
さっきまで笑い転げていたのに真剣な表情で説得している。いやまだ笑みが残っている。本人は気づいてない。
サークル活動を終え帰宅する間もヨシノ先輩のことを考え続けた。だがいくらプラス思考でも導き出される答えは最悪のものに。考えても考えてもいい結果にはならない。頭の中が混乱するだけだ。
飯を食っても風呂に入っても読書の時も眠りについてさえ彼女のことが頭から離れない。ボジティブに行こうとすればするほどネガティブ思考が頭の中を支配する。悪循環。
どうすればいい? どうしたらいい?
彼女は一体何者?
僕は彼女を信用?
信用できるはずがない。嘘を言う者をどうやって信じろと言うのか。
一般的にはこのような場合一番に思いつくのはデート商法と言うオチ。
これは相棒も指摘していた。もちろん僕だって疑った。
しかしそんな単純なものであって欲しくない。できるならもう少しだけでもマシなオチであって欲しい。恥ずかしさもあれば男としてのプライドもある。自尊心が傷つけられない程度の真実であって欲しいと願うばかりである。たとえいくらか無理があったとしてもだ。
四月上旬。
初デートの日。
昨日分かったこと。一晩中離れなかったマイナス思考を引きずらないようにしてデートに臨む。
彼女はいつもの桜並木に突然姿を現し笑みを浮かべ駆けてくる。
ドキッとするその笑顔とその気高いオーラ。
散り始めた桜にも負けない惹きつけるような美しさに気持ちが昂る。
桜色の装いは前回と同じ。
「きれいだ…… 本当にきれいです」
「ありがとう。うふふふ…… 」
待ちに待ったデートは結局失敗に終わった。
彼女の機嫌が直らない。
次のデートの約束を取り付けることもできずに別れる。
彼女に真相を問う事も出来なかった。
完全に失敗だ。
別れるとすぐに不安になってしまう。僕たちは本当に付き合っているのか。彼女がどれだけ好意を持っていてくれるのか。不安で不安で仕方がない。この気持ちを誰かに分かってもらおうとは思っていない。理解など出来ないだろう。
彼女は秘密主義で何も教えてくれない。やはりデート商法? しかしそれにしては動きが遅くないか。仮にデート商法だとしても騙されて奪われる程の財力は持ち合わせてない。まさかローンやクレジットカードを勧めてくるとか。
悪い考えばかりが浮かんでくる。
分かれた場所にまた戻り彼女を探すことにした。
ストーカーみたいな真似はしたくない。それが本心。しかしそうも言ってられない。
あれだけ人を惹きつける力があるのだから遠くからでも彼女を見つけることも不可能じゃない。花見客でごった返す道をかき分けて後を追う。
見えた 彼女だ。ヨシノ先輩を発見。こちらに気付いた様子もなく後ろを気にする素振りも見せない。急いでいる? 速足で北上。
これで彼女の住所と氏名。上手く行けば目的も分かるかもしれない。ドキドキする心を抑えつけ、気づかれない程度に距離を取り後を追う。
邪魔が入る。
おばちゃん集団に囲まれる。
大声で話している。こちらの迷惑も考えずに叫んでいる。
確かに聞こえづらいだろう。それは分かる。だが人がいるのだ。
動けない上に無駄話に付き合わされる羽目に。
「奥さん。ガハハハ」
「こっちこっち」
「坊や邪魔よ」
ヨシノ先輩が行ってしまう。
彼女への道を塞ぐ盾。
なかなか抜け出せない。
その間も彼女は北上を続け視界から完全に消えた。
邪魔だ! 早くしろ! そこをどけ! 早く! と心の中で毒づくがもちろん伝わるはずもなく彼女との距離は拡がるばかり。
ついに見失ってしまった。
息を切らし辺りを見回すが手がかりはない。
ダメだ。失敗だ。
無駄に体力を使ってしまった。
疲れと不安、焦りからくる何とも言えない感情が僕の心を満たす。最悪だ。
桜は確実に数を減らしていく。
ボリュームが無くなっていくのは仕方がない。
しかしヨシノさんは……
翌日もその翌日もヨシノ先輩に出会うことは無かった。
桜並木をゆっくりゆっくり歩く。ヨシノ先輩がいないか。声をかけてもらえないか。
もはやどうすることもできず無為に時間が過ぎていった。
虚しい毎日だった。
桜も随分やせ細った。
このまま行けば今週中にもすべて散ってしまうだろう。
上手く行けば来週までは持ちこたえるかもしれないが。それでも大差ない。
強風が吹けばまた来年のお楽しみとなる。
まあ全国にはまだ桜の見られる箇所も残っているが僕にはその金銭的余裕もなければ時間も取れない。虚しい限りだ。
出来たらまたヨシノ先輩と桜を見られたらなあ。
彼女は今どこにいるのか。
そんな事ばかり考える。
今日までテニス―サークルには一度も顔を出さないヨシノ先輩。
幽霊部員も中には数人いると言っていたが彼女がその一人である可能性は低い。
なぜならヨシノと言う部員は存在しないからだ。
久しぶりサークルに参加。
男女混合のダブルスが行われていた。
試合を見ながらボーっとしているといきなりボールが飛んできた。避ける暇も無ければその気力も無い。ただ迫ってくるボールを顔面で受け止める。僕の左頬に強烈なスマッシュが打ちこまれた。
「痛い! 痛いよう…… 」
酷く腫れた左頬を抑えながら大声で喚く。
「大丈夫? ごめんね」
「悪い。悪い」
駆けつけた女の子に付き添ってもらい手当てをする。
隣には同じく心配そうに見守る張本人の先輩。
スマッシュが直接当たったのではなくバウンドして命中したので痛みの割には大したことはなかった。しっかり処置をしてもらい事なきを得る。
張本人の先輩は軽症で助かったと一言残し戻っていった。
「大丈夫歩ける? 」
「ああ問題ないよ。ありがとう」
同じ一年で先日もペアを組んだ女の子。
世話焼きなのか心配そうに付き合ってくれる彼女に好感をもった。
今日は相棒が欠席しており僕をからかう者はいない。
もちろん奴の頼みで代わりに参加したのだが……
言い方は良くないが邪魔者はいない。彼女の好意をありがたく受け取る。
「本当に大丈夫? 無理しないで」
奇跡的にメガネは吹っ飛んだだけで傷は付いたものの問題はない。だが一時的に外すしかない。
視力が年々落ちていることもありぼんやりとしか分からない。
今彼女に支えられて歩いている。
情けないが仕方ない。今は彼女に頼るしかない。
時折くっついているせいか彼女の柔らかい胸が当たって苦労する。
嫌がるのも変なので苦笑いでごまかす。
「ありがとう。もう大丈夫だよ」
元の場所へ戻り置いておいたメガネをかけ微笑む。
一緒に帰ろうと言う誘いを断り彼女を残し一人帰宅の途につく。
今日はついているようなついてないようなそんな日だった。
当たったような当たってないような。
痛いやら気持ちいいやら。
何ともよくわらない一日だった。
もしかして僕…… いや俺はモテ期? 何てね。まあそんな訳ないか。
結局ヨシノさんに会えずじまい。
桜は散りどんどんその数を減らしていく。
明日またサークルに行こう。
明日にはヨシノ先輩に会えるかもしれない。
わずかでもチャンスがあるならそれに賭けるべきだ。
何となくだが予感がする。
ただそれが良いのか悪いかはっきりしない。
明日も確実に花が散っていく。
もちろん次の日もまた次の日も。その流れを止めることは無いし止める手段もない。
ただひたすら見守るだけだ。
また来年。
果たしてその来年があるかもわからない。
翌日
「さあ行くぞ」相棒に引っ張っれる前に自分からサークルへ。
「おい、面倒臭そうにしてたのによ。昨日何かあったのか」
嗅覚は鋭い。僕のサークル参加意欲が上がったことに疑問を持っている。だが相棒にとって僕が積極的なのは大歓迎なのだ。
「まあいいや。俺も引き立て役が欲しい欲しいって思ってたんだ。
お前が色々とへまをしてくれれば俺の存在価値が高まるのよ」
「いやそれは無理ってものじゃないか。顔を見ろよ」
「うん? 顔がどうしたって? 顔って言えばその痣みたいのは何だ」
「ちょっとね。ははは…… 」
濁す。昨日の失態を話せば笑われるに決まっている。
「急ぐぞ。遅れちまう」ウキウキといったところか相棒の歩くスピードが速い。何をそんなに焦る必要がある。まったくせっかちな奴だ。前回だって一番乗りだったはず。困ったものだ。
着いたと同時に女の子に話しかけに行ってしまった。僕はその様子を観察することにした。いったい彼のどこにそんな度胸があると言うのか。僕がサボっている間に親しくなったのか自然な会話が成り立っている。少し離れて見守る。
彼の趣味は以外にもよく選ぶ相手はかなり美人だ。奴にはもったいない。
積極性は認めよう。だが相手にされているかは別でうまくあしらわれている様子。
奴が望むような発展はなさそうだ。脈なしと見るのが自然だ。
悪いな相棒。客観的事実だ。頑張れ。
心の中で励ます。
無意味とまでは思わないがほどほどにしたほうが身のため。
もちろん彼の努力は認めるが。
僕もこれくらい…… 無理だ。
相棒の視線が移った。
まったく贅沢な奴だ。
次から次に。見てるこっちが恥ずかしい。
うん?
一人の少女。
誰だっけ?
なぜかこっちに向かってくる。
まさか……
ダメだこっちに来るな!
残酷な運命が僕を、いや、僕たちを……
「どうも」
「ああどうも」
挨拶だけと思いきや素通りせずに立ち止る。
止まっちまった。
相棒の目の動きも止まった。
僕の心臓も一瞬。
時が止まったようだ。
汗が噴き出る。
おそらく相棒の第一候補。それは昨日付き添ってくれた女の子。
間違いない。
最悪だ。
友情と愛情どっちを取れと言うのだ。
もちろん友情に決まっているが。
僕にはヨシノさんがいる。裏切れない。
「昨日は大丈夫だった」
「はい。大丈夫です。ありがとうございます。助かりました」
なるべく自然に。感情が入らないように。
怒っているだろうな。しかし僕のせいではない。
相棒を見ることができない。
「先に行ってるよ」
他の者は準備を終え外に行き室内は三人だけになった。
「ねえ今日は一緒に帰ろうよ」
「しかし僕にも都合が…… 」 嫌われるにはどうすればいい?
嬉しい気持ちを抑え断る。
「じゃあ今週暇ある」
「はいもちろん」嘘はつけない。
相棒の本命は間違いない。彼女だ。
視線が辛い。
「ならデートしよう」
「デート? デートですか…… もちろんいいですよ」
彼女は相棒の存在を無視している。
そう言う僕も無視してないとは言えない。
もう相棒はこちらを見ていない。いやもうここに存在していない。いじけて帰ったらしい。僕はどうすることもできない。
「やった! 絶対だよ」
「こちらこそ」デートぐらいどって事ない。
彼女主導のデート。結果は見えている。
すぐに振られるに決まっている。すぐに振られれば相棒も笑って許してくれるだろう。
翌日。さっそくデートに。
彼女の希望で桜並木を歩き、その後映画鑑賞。定番の恋愛もので盛り上がった。
タピオカとコーヒーを挟んで居酒屋へ。
彼女は何杯も注文。お酒の力もあって気持ちよくなっていった。
実際にはそれは彼女だけで僕は逆に気持ち悪くなった。
大丈夫と背中をさすってもらう。
このまま近くのホテルでお泊りが通常プランだが僕を信頼している彼女を裏切ることはできない。
駅で別れる。
初めてのデートにしては上出来。
その後もデートを重ねる仲になった。
しかしやはりどうしても彼女を裏切れない。
彼女とはもちろん……
もう相棒は口もきいてくれなくなった。
決してわざとではないし悪意もない。
しかし相棒の本命に気付いてながらそれを無視した。
もちろん実際には気づく時間はほぼなかった。
だが責任がないわけではない。
相棒の機嫌が早く直ってくれないと困る。
どうしたものか。
<後編>に続く
「どこにします? 」
「せっかくだからゆっくりこの桜並木を歩こうか」
桜を愛でる。この季節の定番。
回りを見れば似たような男女が歩いている。
夕暮れの桜もまたいいものだ。
ロマンチックなシチュエーションが二人の関係を発展させるだろう。
「さあ、早く行くよ」彼女はお構いなしに歩き出す。情けないことに彼女の歩くスピードについていけない。
「ちょっと! 待って! 速い! 速すぎる! 」
マイペースな彼女の後ろにつく。
振り返ってはからかい半分に急かすヨシノさん。しかし僕が遅すぎるのか。彼女が速ぎるのか。
「いや、だから待って。ヨシノさーん。普通デートって言ったら並んで歩くものですよ。これじゃあデートの意味がない」
何とか追いつき彼女の横をキープ。
なおも急ごうとする彼女。その手を掴もうとするが振り切られてしまう。
仕方なくやや後方から左肩を掴む。
「痛! ちょっと…… 」
服の上から軽くだ。痛いはずがない。それなのに。
一瞬顔を引きつらせるがすぐに笑顔に戻る。
「すみません。ヨシノ先輩。痛かったですか」
「ちょっとね。でも大丈夫だから。それに君のせいではないよ」
明らかに元気が無い。表情を曇らせ下を向く彼女。
「本当に、本当に大丈夫ですか? 」
「心配しないで。君と初めて会った夜に酔っぱらいのおじさんに絡まれちゃってさ。ほらこの左腕を痛めたんだ。たぶん骨折まではしてない。軽い捻挫かな。腫れてきて少しだけ痛い。ははは…… 」
そう言って左手を回し確認。痛みはあるようだが問題ないそうだ。ただ急に患部を触られるとダメらしい。
完治するまでは大人しくしているしかない。
気丈に振る舞う彼女。
問題ないとしても心配だ。
「先輩。ほらあそこにベンチがあります。無理しないで少し休みましょう」
「本当にここでいいの? ふふふ…… 」
「どういう意味ですか。先輩。ほら辛いんでしょう? 」
彼女は意外な反応を見せる。
ふざけているのだろうか?
その真意が読み取れない。
「もっと先の方で休みたいんじゃないの? ほらもう陽も落ちてさ…… 」
含みを持った物言いで男を挑発する。
「先輩」
確かにあと一キロも歩き公園を抜け、道路を少し行くと見えてくるのはホテル街。僕がその事を知らない訳もなく……
だからと言って最初のデートでお願いする根性はない。そんな人間ではないのだ。
自分にそう言い聞かせる。理性が吹っ飛んでしまう前に。
「先輩。いい加減ふざけないで早く座ってください。飲み物を買ってきますから」
彼女は不気味に笑いだす。
上を向き満開の桜を眺め満足そうな顔をしている。
夕暮れと桜のコントラストに心奪われるヨシノ先輩。僕からすれば彼女の美しさが桜にも勝る。それだけ彼女に神秘性を感じる。
自分でも何を言っているのかわからないがとにかく彼女は凄い人だ。
もうすぐライトアップ。
これはこれでいい。
夜桜を見に来た客が集まり始めた。早くも酔客が喚いている。関わり合いにはなりたくないので避けて進む。
ライトアップに釣られてやって来た花見客で混雑し始める。
歩くのも一苦労。花見客を押しのけて数メートル先の自販機へ。
ガヤガヤしてとにかく不快だ。
だがそんなことは言ってられない。ヨシノ先輩を待たせているのだ。
大声で話しているおばさんたち。僕は抵抗しない。
「ねえ、この桜も今年が見納めね」
「本当。本当。来年からは別の場所を見つけなくちゃね」
「大丈夫よ二人とも。徐々にだから。来年は半分になっちゃうけどその分花見客も減って見やすくなるわよ」
「まあ何にしろ新しい場所を見つけないとだわ」
「私は近所だから便利でよかったのに。残念」
「便利って奥さん。はっはは……」
自販機の前でおばちゃん連中に巻き込まれてしまう。
うるさくて敵わない。いい迷惑だ。
何とか脱出し飲み物を抱えてベンチに戻る。
人混みが凄すぎてなかなか前に進まない。
ヨシノ先輩今すぐ行きます。
「ねえ、君一人。この後俺ら夜桜パーティーやるけどどう? 」
大と小の浅黒コンビがヨシノ先輩に絡む。
僕は様子を見守ることしかできずとっくに着いているベンチの前から人混みに紛れる。しつこく迫る二人組は態度がデカく自信過剰気味。
彼女は必死に拒絶するが男たちも簡単には引き下がらない。
「おい、嘘を吐くなよ。なあいいだろ」
「しつこい! 」先輩は戦闘モードへ。
「ちっ、分かったよ。行くぞ」
大が小を促して帰っていった。
完全にいなくなってから息を切らして戻る演技をする。
「大丈夫ですか? 先輩が遅くなっちゃって…… 」
焦って自分でも何を言っているのか理解できない。
「大丈夫だよ。ありがとう」飲み物を受け取り桜を見つめる。
僕もつられて視線を送る。
ライトの光で桜はより幻想的に。
「あの桜きれいですね。本当に見とれてしまう。僕…… 」
彼女の表情が変化した。
「デート中によそ見すると嫌われるよ君。他の女に興味があるのかって思われるからやめた方が良いよ」
何を言っているのだろうか。彼女の忠告は的を得ているようには思えない。
機嫌が悪くなった。最悪だ。
僕に原因があるのか。
「ヨシノ先輩。変ですよ。僕はただ桜を見てきれいと言っただけで他の女性を見て言ったわけでは…… 決してはい…… ハハハ…… 済みません」
確かに一瞬だけライトに照らされ美しく輝いた少女に心を奪われたのだ。しかしその事に気付くとはさすが女の勘の鋭さよ。だが直接はっきり言ってくれればいいものを面倒臭いなあもう。
一時間が経過。
「そろそろ遅いし帰ろうか」
「もう少しいいじゃないですか。ねえもう少しだけお願いします」
しつこいと思われるのは嫌だが彼女を放したくない。別れたくない。
次いつ会えるかも分からないのだから。
「仕方ないなあ。じゃあ泊まっていく」
先輩の視線は闇で見えなくなったホテル街へ。
からかいたくてしょうがないらしい。僕はそんなに情けない男なのか。
「ねえ君。今日はこれで別れよう。また次の機会。今度は桜祭りが開催される土曜日にどうだい。その時に本当のデートをしようじゃないか」
疲れて眠そうだ。怪我も心配なので提案を受け入れることにした。
「それではヨシノ先輩。土曜日に先輩の言う本当のデートをしましょう。今日みたいなんじゃなくて」
今日のデートに不満があるわけじゃない。でもこう言っておけば主導権を握れる。悪ふざけもさせない。
舐められてなるものか。
「ああ、それまでにはこの左腕も良くなってるだろうしね。それじゃまた。私はこっちだから」
彼女は僕と反対の方向に歩き始める。
彼女が誰でどこに住んでいるのか謎のまま。ミステリアスな彼女。これがきれいでなければ何の意味も持たないのだが。もちろんこれは僕なりの考えによるものだ。
金曜日
ワクワク
ドキドキ
「おいどうした。そわそわしやがって」
相棒の目には異常に見えるらしい。
「お前には関係ない! 」
つい強い口調になる。
「ちょっと前までは眠い眠いってだらけていたのに。昨日はため息ばかり。心配して見守っていたらそわそわしてたんで注意してやっただけだろうが」
相棒の言うことはもっともだ。だが認めたくない。
「だからお前には関係ない」
「言いやがったな」
関係がぎくしゃくし始めた。
「まったく困った奴だ。まあいいや。今日はサークルがあるからな。言っておくけどサボれないぞ。いいな? 」
相棒は分かってるなと念を押す。
「今日はミニゲームをやるんだ。参加するって言ったろ? 嫌なら自分で断れ」
そんな記憶はない。しかし適当に返事していたことはある。
相棒は熱心にサークル活動に励んでる。僕はと言うとほとんど顔を出していない。ヨシノ先輩が来たら知らせろと言っているが彼女がサボっているのか相棒が分からないのか。とにかく彼女が来ないなら行く意味はない。
「行くよ。行きます。行かせてください」
断るぐらいなら参加する。あのリーダーを怒らせてはいけない。
「ははは。リーダーは怖いものな」
自分の思い通りに行き気分がいいのかそれまでの僕の酷い態度を忘れてくれた。
ただ馬鹿なだけではなく単純なのだ。まあ良い奴であり親友なのだが。
「ああ。でも僕ユニフォームないんだ。やっぱり無理かな」
「余ってるのがあるから心配するな」
なんとか行かない方法はないだろうか。困ったなあ。
「ラケット買うって言ってまだなんだよね。やっぱり…… 」
「馬鹿だな。それも誰かのを借りればいい」
なかなかしぶとい。
「メガネが邪魔にならないかなあ」
「知るかそんなこと! 行くぞ! ぐずぐずしてるとこっちまで叱られちまう」
服を掴んで無理矢理引っ張っていく。
「馬鹿野郎。これは新品なんだぞ。伸びたらどうする」
文句を言っても放してくれない。仕方なくテニスサークルへ。
こんなことをしてる場合ではない。明日のデートの準備だってある。
ぶつぶつ
ぶつぶつ
「何やってるリーダーが来たぞ」
「遅れました」
大声で叫ぶが誰も見当たらない。リーダーどころか誰もいない。
「はっはは。冗談冗談」
相棒は気合いが入っている。開始時刻の三十分前に来てしまった。
「騙しやがって! 」
「うるさい。お前はいつも来ないんだから今日ぐらいは一番に行くんだよ」
相棒との温度差を感じる。
付き合いきれない。
相棒チームとの混合ダブルス対決。
「疲れるのは嫌…… 」ストレート
「早く帰りたいなあ…… 」ダウンザライン
「まだかよ…… 」サーブアンドボレー
「疲れたな…… 」キープからのブレイク
「終わってよ…… 」セットポイント
「明日にならないかなあ…… 」ゲームウイン
いつの間に試合が終わっていた。
相棒が駆け寄ってきた。
「凄いぞお前」
「まあ、テニスは見るのもやるのも好きだから。これくらい当然さ」
相棒には黙っていたが昔少しだけ嵌ったことがある。
ルールだって当然知っている。
海外のテニス中継だってたまに見ている。
勝って当たり前。
相手が弱すぎるのだ。
ペアの女の子は同じ一年生で初めて見る顔。
ルックスはまあまだがスタイルは普通。僕にはもったいないがその比較がヨシノ先輩では話にならない。彼女は今日も来ていない。そのオーラが感じられない。
「本当に凄いぞ」
「相手が相手だからね」相棒チームはコンビネーションが悪くダブルフォルトを連発して自滅していった。勝って当然。何の不思議もない。
久しぶりの激しい運動。大量の汗が噴き出る。
ひとまず水分補給。運動後のドリンクは一瞬でお腹の中へ。
汗が気持ち悪い。あせもにならないか心配だ。
着替えがないものだからこのまま帰るしかない。
早く終わってくれと心の中で叫ぶ。
充分に役目を果たした。
後は先輩方の激しい戦いを見るだけ。
あー。汗が目にもう嫌だ。
頑張れ!
たまに応援。たまに拍手。大声も混ぜながらボーっと観戦。
このスタイルで乗り切る。
見ているだけと言うのも正直辛い。
ヨシノ先輩がいたらなあ。
隣で一緒に応援。
楽しいだろうな。
隣にいる相棒には悪い気もするが……
リーダがこちらに向かってくる。
何かまずいことをしたか。
笑みを浮かべているので怒られることは無いだろうが急変しないとも限らない。
とりあえず作り笑いでごまかす。
「お疲れ」相棒の方を見る。
「お前に知らせたいことがある」何だろうか。相棒に確認を取っていたがまさかサボっているのがばれた。いやそれぐらいこのサークルにもいる。いわゆる幽霊部員。
「ヨシノ何て奴はこのサークルにはいないぞ」
厳つい体で怒ると手が付けられないリーダー。その彼が真剣な表情で思いもよらぬ発言をする。
「お助け! 間違えた。本当ですか? 」
「ああ。間違えなく」
「本当に本当ですか? 」
「そうだとさっきから言ってるだろ」
ヨシノ先輩はいない? 存在しない? 意味が分からない。
「いやあ。お前のことが心配でさあ。ちょっと調べてもらったんだよね」
相棒の唯一の弱点。他にもたくさんあるとは思うが。
口が軽い。悪びれることなく笑顔を浮かべる。
「うちのサークルにはヨシノなんて女はいない。もしかしてそいつは男なのか」
「そんなはず…… 男なわけもないし。最初の飲み会で会ったはずって彼女が…… あれ…… 本当ですか? からかってません? 」
頭の中は混乱して何をどう説明したらいいか分からない。
パニックとはこのこと。
「へっへへ。騙されたんだよ。大体お前に女ができるなんてよ。しかもものすごい美人って言うじゃないか。絶対に騙されてる。断言してもいい。デート商法かもっとひどい何かだろ」
いやらしい笑みを浮かべからかう。
絡み方が酔っぱらいのそれだ。
もう誰を信用していいのやら。
気を使って大人しくしていたリーダーが語りだす。
「まあ、何にしてもこのサークルにはヨシノって奴はいない。お前が言っていた飲み会には他のサークルの子も参加していたからたぶんそっちじゃないか。何なら俺が責任を持って調べてやるが」
任せろと言うのでお願いすることにした。
他にどうしようもない。
「だからデート商法だって。それかお前の思い込みか幻かだな。春には何かとおかしいのが増えるって言うしな」
涙まで流して笑っている。
相棒との関係もこれまで。もう嫌だ。
相棒のきつい冗談。嫉妬から来るものか。悪ふざけとも思える一言が僕の胸を貫く。確かにヨシノ先輩はこのテニスサークルに所属してない訳で…… これは一体どういうことなのだろう。彼女は単純に僕をからかっただけ。もしかしたら僕に合わせてくれただけ。しかしそれでは意味不明ではないか。彼女の目論見や意図がどこにあるのだろう。不思議で不思議で仕方がない。ヨシノ先輩は一体何の目的があって僕に嘘をつき近づいてきたのだろう。
「おい、どうした固まっちまってよ」
「何でもない」
「急に大人しくなったと思ったら怖い顔をしてよ。騙されてるんだよきっと。ヨシノ先輩だっけそんな人は存在しない。いるはずないだろ。
しっかりしろ。お前を騙したか。お前の夢か。お前の作り上げた幻だよ。残念だが認めるんだな」
さっきまで笑い転げていたのに真剣な表情で説得している。いやまだ笑みが残っている。本人は気づいてない。
サークル活動を終え帰宅する間もヨシノ先輩のことを考え続けた。だがいくらプラス思考でも導き出される答えは最悪のものに。考えても考えてもいい結果にはならない。頭の中が混乱するだけだ。
飯を食っても風呂に入っても読書の時も眠りについてさえ彼女のことが頭から離れない。ボジティブに行こうとすればするほどネガティブ思考が頭の中を支配する。悪循環。
どうすればいい? どうしたらいい?
彼女は一体何者?
僕は彼女を信用?
信用できるはずがない。嘘を言う者をどうやって信じろと言うのか。
一般的にはこのような場合一番に思いつくのはデート商法と言うオチ。
これは相棒も指摘していた。もちろん僕だって疑った。
しかしそんな単純なものであって欲しくない。できるならもう少しだけでもマシなオチであって欲しい。恥ずかしさもあれば男としてのプライドもある。自尊心が傷つけられない程度の真実であって欲しいと願うばかりである。たとえいくらか無理があったとしてもだ。
四月上旬。
初デートの日。
昨日分かったこと。一晩中離れなかったマイナス思考を引きずらないようにしてデートに臨む。
彼女はいつもの桜並木に突然姿を現し笑みを浮かべ駆けてくる。
ドキッとするその笑顔とその気高いオーラ。
散り始めた桜にも負けない惹きつけるような美しさに気持ちが昂る。
桜色の装いは前回と同じ。
「きれいだ…… 本当にきれいです」
「ありがとう。うふふふ…… 」
待ちに待ったデートは結局失敗に終わった。
彼女の機嫌が直らない。
次のデートの約束を取り付けることもできずに別れる。
彼女に真相を問う事も出来なかった。
完全に失敗だ。
別れるとすぐに不安になってしまう。僕たちは本当に付き合っているのか。彼女がどれだけ好意を持っていてくれるのか。不安で不安で仕方がない。この気持ちを誰かに分かってもらおうとは思っていない。理解など出来ないだろう。
彼女は秘密主義で何も教えてくれない。やはりデート商法? しかしそれにしては動きが遅くないか。仮にデート商法だとしても騙されて奪われる程の財力は持ち合わせてない。まさかローンやクレジットカードを勧めてくるとか。
悪い考えばかりが浮かんでくる。
分かれた場所にまた戻り彼女を探すことにした。
ストーカーみたいな真似はしたくない。それが本心。しかしそうも言ってられない。
あれだけ人を惹きつける力があるのだから遠くからでも彼女を見つけることも不可能じゃない。花見客でごった返す道をかき分けて後を追う。
見えた 彼女だ。ヨシノ先輩を発見。こちらに気付いた様子もなく後ろを気にする素振りも見せない。急いでいる? 速足で北上。
これで彼女の住所と氏名。上手く行けば目的も分かるかもしれない。ドキドキする心を抑えつけ、気づかれない程度に距離を取り後を追う。
邪魔が入る。
おばちゃん集団に囲まれる。
大声で話している。こちらの迷惑も考えずに叫んでいる。
確かに聞こえづらいだろう。それは分かる。だが人がいるのだ。
動けない上に無駄話に付き合わされる羽目に。
「奥さん。ガハハハ」
「こっちこっち」
「坊や邪魔よ」
ヨシノ先輩が行ってしまう。
彼女への道を塞ぐ盾。
なかなか抜け出せない。
その間も彼女は北上を続け視界から完全に消えた。
邪魔だ! 早くしろ! そこをどけ! 早く! と心の中で毒づくがもちろん伝わるはずもなく彼女との距離は拡がるばかり。
ついに見失ってしまった。
息を切らし辺りを見回すが手がかりはない。
ダメだ。失敗だ。
無駄に体力を使ってしまった。
疲れと不安、焦りからくる何とも言えない感情が僕の心を満たす。最悪だ。
桜は確実に数を減らしていく。
ボリュームが無くなっていくのは仕方がない。
しかしヨシノさんは……
翌日もその翌日もヨシノ先輩に出会うことは無かった。
桜並木をゆっくりゆっくり歩く。ヨシノ先輩がいないか。声をかけてもらえないか。
もはやどうすることもできず無為に時間が過ぎていった。
虚しい毎日だった。
桜も随分やせ細った。
このまま行けば今週中にもすべて散ってしまうだろう。
上手く行けば来週までは持ちこたえるかもしれないが。それでも大差ない。
強風が吹けばまた来年のお楽しみとなる。
まあ全国にはまだ桜の見られる箇所も残っているが僕にはその金銭的余裕もなければ時間も取れない。虚しい限りだ。
出来たらまたヨシノ先輩と桜を見られたらなあ。
彼女は今どこにいるのか。
そんな事ばかり考える。
今日までテニス―サークルには一度も顔を出さないヨシノ先輩。
幽霊部員も中には数人いると言っていたが彼女がその一人である可能性は低い。
なぜならヨシノと言う部員は存在しないからだ。
久しぶりサークルに参加。
男女混合のダブルスが行われていた。
試合を見ながらボーっとしているといきなりボールが飛んできた。避ける暇も無ければその気力も無い。ただ迫ってくるボールを顔面で受け止める。僕の左頬に強烈なスマッシュが打ちこまれた。
「痛い! 痛いよう…… 」
酷く腫れた左頬を抑えながら大声で喚く。
「大丈夫? ごめんね」
「悪い。悪い」
駆けつけた女の子に付き添ってもらい手当てをする。
隣には同じく心配そうに見守る張本人の先輩。
スマッシュが直接当たったのではなくバウンドして命中したので痛みの割には大したことはなかった。しっかり処置をしてもらい事なきを得る。
張本人の先輩は軽症で助かったと一言残し戻っていった。
「大丈夫歩ける? 」
「ああ問題ないよ。ありがとう」
同じ一年で先日もペアを組んだ女の子。
世話焼きなのか心配そうに付き合ってくれる彼女に好感をもった。
今日は相棒が欠席しており僕をからかう者はいない。
もちろん奴の頼みで代わりに参加したのだが……
言い方は良くないが邪魔者はいない。彼女の好意をありがたく受け取る。
「本当に大丈夫? 無理しないで」
奇跡的にメガネは吹っ飛んだだけで傷は付いたものの問題はない。だが一時的に外すしかない。
視力が年々落ちていることもありぼんやりとしか分からない。
今彼女に支えられて歩いている。
情けないが仕方ない。今は彼女に頼るしかない。
時折くっついているせいか彼女の柔らかい胸が当たって苦労する。
嫌がるのも変なので苦笑いでごまかす。
「ありがとう。もう大丈夫だよ」
元の場所へ戻り置いておいたメガネをかけ微笑む。
一緒に帰ろうと言う誘いを断り彼女を残し一人帰宅の途につく。
今日はついているようなついてないようなそんな日だった。
当たったような当たってないような。
痛いやら気持ちいいやら。
何ともよくわらない一日だった。
もしかして僕…… いや俺はモテ期? 何てね。まあそんな訳ないか。
結局ヨシノさんに会えずじまい。
桜は散りどんどんその数を減らしていく。
明日またサークルに行こう。
明日にはヨシノ先輩に会えるかもしれない。
わずかでもチャンスがあるならそれに賭けるべきだ。
何となくだが予感がする。
ただそれが良いのか悪いかはっきりしない。
明日も確実に花が散っていく。
もちろん次の日もまた次の日も。その流れを止めることは無いし止める手段もない。
ただひたすら見守るだけだ。
また来年。
果たしてその来年があるかもわからない。
翌日
「さあ行くぞ」相棒に引っ張っれる前に自分からサークルへ。
「おい、面倒臭そうにしてたのによ。昨日何かあったのか」
嗅覚は鋭い。僕のサークル参加意欲が上がったことに疑問を持っている。だが相棒にとって僕が積極的なのは大歓迎なのだ。
「まあいいや。俺も引き立て役が欲しい欲しいって思ってたんだ。
お前が色々とへまをしてくれれば俺の存在価値が高まるのよ」
「いやそれは無理ってものじゃないか。顔を見ろよ」
「うん? 顔がどうしたって? 顔って言えばその痣みたいのは何だ」
「ちょっとね。ははは…… 」
濁す。昨日の失態を話せば笑われるに決まっている。
「急ぐぞ。遅れちまう」ウキウキといったところか相棒の歩くスピードが速い。何をそんなに焦る必要がある。まったくせっかちな奴だ。前回だって一番乗りだったはず。困ったものだ。
着いたと同時に女の子に話しかけに行ってしまった。僕はその様子を観察することにした。いったい彼のどこにそんな度胸があると言うのか。僕がサボっている間に親しくなったのか自然な会話が成り立っている。少し離れて見守る。
彼の趣味は以外にもよく選ぶ相手はかなり美人だ。奴にはもったいない。
積極性は認めよう。だが相手にされているかは別でうまくあしらわれている様子。
奴が望むような発展はなさそうだ。脈なしと見るのが自然だ。
悪いな相棒。客観的事実だ。頑張れ。
心の中で励ます。
無意味とまでは思わないがほどほどにしたほうが身のため。
もちろん彼の努力は認めるが。
僕もこれくらい…… 無理だ。
相棒の視線が移った。
まったく贅沢な奴だ。
次から次に。見てるこっちが恥ずかしい。
うん?
一人の少女。
誰だっけ?
なぜかこっちに向かってくる。
まさか……
ダメだこっちに来るな!
残酷な運命が僕を、いや、僕たちを……
「どうも」
「ああどうも」
挨拶だけと思いきや素通りせずに立ち止る。
止まっちまった。
相棒の目の動きも止まった。
僕の心臓も一瞬。
時が止まったようだ。
汗が噴き出る。
おそらく相棒の第一候補。それは昨日付き添ってくれた女の子。
間違いない。
最悪だ。
友情と愛情どっちを取れと言うのだ。
もちろん友情に決まっているが。
僕にはヨシノさんがいる。裏切れない。
「昨日は大丈夫だった」
「はい。大丈夫です。ありがとうございます。助かりました」
なるべく自然に。感情が入らないように。
怒っているだろうな。しかし僕のせいではない。
相棒を見ることができない。
「先に行ってるよ」
他の者は準備を終え外に行き室内は三人だけになった。
「ねえ今日は一緒に帰ろうよ」
「しかし僕にも都合が…… 」 嫌われるにはどうすればいい?
嬉しい気持ちを抑え断る。
「じゃあ今週暇ある」
「はいもちろん」嘘はつけない。
相棒の本命は間違いない。彼女だ。
視線が辛い。
「ならデートしよう」
「デート? デートですか…… もちろんいいですよ」
彼女は相棒の存在を無視している。
そう言う僕も無視してないとは言えない。
もう相棒はこちらを見ていない。いやもうここに存在していない。いじけて帰ったらしい。僕はどうすることもできない。
「やった! 絶対だよ」
「こちらこそ」デートぐらいどって事ない。
彼女主導のデート。結果は見えている。
すぐに振られるに決まっている。すぐに振られれば相棒も笑って許してくれるだろう。
翌日。さっそくデートに。
彼女の希望で桜並木を歩き、その後映画鑑賞。定番の恋愛もので盛り上がった。
タピオカとコーヒーを挟んで居酒屋へ。
彼女は何杯も注文。お酒の力もあって気持ちよくなっていった。
実際にはそれは彼女だけで僕は逆に気持ち悪くなった。
大丈夫と背中をさすってもらう。
このまま近くのホテルでお泊りが通常プランだが僕を信頼している彼女を裏切ることはできない。
駅で別れる。
初めてのデートにしては上出来。
その後もデートを重ねる仲になった。
しかしやはりどうしても彼女を裏切れない。
彼女とはもちろん……
もう相棒は口もきいてくれなくなった。
決してわざとではないし悪意もない。
しかし相棒の本命に気付いてながらそれを無視した。
もちろん実際には気づく時間はほぼなかった。
だが責任がないわけではない。
相棒の機嫌が早く直ってくれないと困る。
どうしたものか。
<後編>に続く
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