世界は100人でできている カテゴライズシンドローム 絶望と希望の交差する場所

二廻歩

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保護

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「大丈夫? 」
「はい。若女将のおかげです」
「それでどっちに行けばいいのかしら? 」
「さあ…… 」
行方不明の男の子を捜索中にはぐれた従業員に会うことができた。
ただ現在地については未だに分かっていない。
要するに迷子状態。
「さあ行きましょう」
叫び声のあった方に歩みを進める。
二人になり怖さも多少薄れた。

「きゃあ! 」
「大声を出さないの! 」
目の前を一陣の風が吹き抜けた。
「若女将。今のは…… ? 」
怯えた様子でこちらを見る。
「たぶん…… 」
例の逃亡犯なのだろう。
「あの…… 」
彼女は震えている。
「どうしようどうしよう」
「大丈夫落ち着いて。もう行ってしまった。大丈夫だからね」
彼女は震えながら屈みこむ。
後ろに回って背中をさすってやる。
涙が溢れ鼻をすすりだす。
恐ろしい体験をした。
「もう大丈夫だから。早く離れましょう。ねえ…… 」
「若女将! 」
「しっ! 静かに! 戻ってきたらどうするの? 」
力の入らない彼女を引っ張り上げ連れて行く。
ふう……
真っ暗闇の中、辺りを見回す。
気配は感じられない。
なるべく音を立てずに暗闇を歩いていたので気づかれずに済んだ。
しかし一歩間違えれば遭遇していたかと思うと汗が止まらない。
男は夢中で走っていた。
こちらの存在に気付かないほど。
どこに向かったのだろう?
まさか旅館に?
それよりもなぜ急いでいたかだ。
とにかくこの場を離れなければ。
彼女の背中を押し、急ぐように促す。

曲がり角に差し掛かった。
薄明りに人影が映える。
「誰かいます」
さすがに今の逃走犯のはずもない。
もしかすると叫んでいた張本人?
「若女将…… ? 」
「大丈夫! 」
逃亡犯のはずはない。
「きゃあ! 」
大声を上げる。
「ちょと静かに! 何? 」
「きゃあ! 」
「どうしたの? 」
「人が…… 倒れています! 」
まさか……
もう叫ばざるを得ない。
「いや! 」
「きゃあ! 」
叫ばねば自分を保つことができない。
犯人に気づかれても構わない。
ひたすら叫び続ける。
「もう。うるさいわね! 」
ええっ? どういうこと…… ?

「おーい! 何があった? 」
再び響き渡った叫び声。音の方へ。
近い。近いぞ! まさかのぞみか?
「緑子さんどうしましょう? 」
「警戒は怠らないように。犯人が近くに潜んでいる恐れもあるわ」
はあはあ!
はあはあ!
「こっちだ! 」
緑子は無線を取り出し何か喚いている。
とにかく現場へ。
叫びは収まった。
薄明りに何人かの影。
どういうことだ?
仕方がない。ためらわずに突っ込む。
「どうした? 何があった? 」
その瞬間。再び悲鳴。
「うおおお! 耳が! 耳が! 耳がやられる! 」
仕舞にはビンタが飛んでくる始末。
「いい加減にしてよ! しつこい! 」
もう何が何だか分からない。
言葉を失う。
「大丈夫? 」
緑子さんが心配そうに駆け寄る。

「あれあなたは? 」 
「何だ若女将」
「サブニー! 」
「ああそうだ俺だ。サブニーだ! 」
「良かった! 」
理由は分からないが大胆にも抱き着いてきた。
「若女将…… ? 」
危険はないと分かり皆落ち着きを取り戻した。
話を聞く。
「こちら緑子捜査官。今回の逃亡犯の捜索責任者だ」
「緑子です。よろしく」
「何だ刑事さん。もう本当に安心ね」
若女将は涙を溢れさせた。
くっ付いていた彼女と抱き合う。

「これはどういうこと? 誰か説明をお願いします」
緑子は困り果てた様子。
「叫び声がしたので来てみたらこの人が倒れていて…… 殺されたんだと思って…… 見間違いだったみたいです」
若女将は謎の女性をじっと見る。
「あなたは? 」
「はーい。酔ってませんよ」
「怪我は? 」
「大丈夫でーす」
人騒がせな女性。酔っぱらって横になっていたところを勘違いしたらしい。
「あなたね! 」
「まあまあ抑えて。抑えて。若女将。ああ緑子さんも」

「誰か見なかった? 」
「ああ変な坊やたちなら会ったけど」
酔っぱらいの戯言か? 逃亡犯は単独のはず。
ただの通行人?
しかしこんな時間に複数で出歩くか?
夜祭の帰りに?
夜祭…… そうだ忘れていた。
「おい! それでのぞみは見なかったか? 」
「ごめんなさい。探したんですが見つかりませんでした」
「そうかこっちもだ。手掛かりなしだな」
「すいません…… 」
「それでそいつらはどこに行った? 」
「あっちの方」
酔っぱらいは旅館がある方を示した。
「まさか…… 」
「どうした? 」
「さっきすれ違った。あの男がやっぱり逃亡犯? 」
「ええきっとそうですよ。若女将」
二人は確かにすれ違ったと主張する。だが人数が足りない。
証言が食い違っている。一人なのか? 三人なのか?
まさかすぐに分かれたとも思えない。

「三郎さん。とにかく追いかけるのよ」
「そうだな。ぐずぐずしていられない」
緑子は再び無線に連絡を入れる。
「皆さんはどうしますか? 一緒に来ますか? 」
二人は首を振る。
酔っぱらいは再び横になる。
「分かりました。場所は仲間に伝えました。もう二十分もすれば駆けつけてくれるはずです。それまで大人しくここで待機していてください」
三人でいれば危険はないだろう。
「さあ行くわよ三郎さん」
彼女は冷静だ。俺は彼女の後を着いていくだけ。

「のぞみ! 」
「のぞみ! 」
「もっと大声で! 」
「のぞみ! 待ってろよ! すぐに迎えに行ってやるからな! 」
静けさが戻った暗闇に響き渡る。
「もっとよ! 」
「のぞみ! 俺だ! サブニーだ! 」
「たくさん話しかけてほらもっと」
「どこだ? 出て来てくれ! のぞみ! 」
緑子の指示に従う。
しかしこれではかえって危険ではないか?
だが緑子は続けるよう促す。
はあはあ
はあはあ
旅館の明かりが見えてきた。
あれだけ呼びかけたがのぞみからの返事が無い。
聞こえる範囲に居ないのか?
緑子の後を追う。

「どうしました? 」
「保護してくれとさ」
「では子供が見つかったんだですか? 」
「いや、まだらしい。女性三人だそうだ」
「はあ? 子供の次は女性? どういうことですか? 」
「さあな。俺にもさっぱり分からん。人使いの荒いお嬢さんだ」
「向かうぞ! 」
「待ってくださいよ」
「いいから急ぐぞ! 」
「へいへい」
「何か薄気味悪い。出そうですね。ははは…… 」
「おいおい。我々は刑事なんだぞ」
「分かってますよ。でも食後はほらどうしてもね…… 」
「まったく! 早くしろ! 」
到着までまだ大分かかりそうだ。

その頃。夜祭の会場では信じられないような出来事が起きていた。

物語はついに最終章へ。

                 <続>
特別篇に続く
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