19 / 33
最悪の事態
しおりを挟む
一人の男が旅館を訪れる。
ドンドン
ドンドン
「はーい」
急いでいるのか必要以上に叩き続けるので仕方なく開けてやる。
はあはあ
はあはあ
息を切らした男が何かを喚いている。
「のぞみ…… すまん…… 遅くなって…… 」
「いらっしゃいませ。あの…… 」
「済まねい。俺は客だ」
「心得ています」
「実は先に連れが来たんだが」
「お連れ様ですね…… 」
「早くしてくれ! 心配なんだ。まだ小さくてよ! 」
「もしかしてサブニー。いえ失礼しました」
「そうだそのサブニーだ。なんだのぞみの奴迷わずに着いたんだな。良かった! 」
「私はここの若女将でございます」
「おおそうか。それでのぞみはどこにいる? 」
焦りと興奮が見られる。
「早くしろ! 」
自分が遅れてきたくせに……
ああ? まさか……
思い出した。一緒にこの男を探す約束をしたんだった。
どうしましょう…… すっかり忘れていた。
あの時お客様がお越しになられたのでつい……
まさか一人で勝手に出たなんてないわよね。ううん。そんなことあるはずない。
考え過ぎよ。もうお部屋で寝ているに違いない。
とりあえずこのサブニーなる者をお部屋までお通してと。
「こちらでございます」
だがもちろんあの男の子は見当たらない。
「ほほほ。どうしたのでしょうか? 」
「本当に来たのか? 」
「もちろんです。そうだお風呂に行ってるんだわ」
急いで大浴場へ。
しかし中には人の姿はない。
もう残るは外と言うことになる。
どうしましょう。これは私の完全なミス。あの子が大人しく待っていてくれる訳ないじゃない。
寂しいに決まっているのに。
「おい! どういうことなんだ? なぜ居ない? 」
「そのあの…… 」
「俺をからかっているのか? 」
「申し訳ございません」
観念するしかない。
ことの経緯を話す。
「何だと! 外に行ったかもしれないだと? 」
男は怒り出してしまった。
確かにこちら側に落ち度があるのは間違いない。
しかし問題はこの男。
あんな小さな子を放っておいて一人だけ遊びほうけてたわけだ。
大方夜祭に繰り出していたに違いない。
「当方としましてはお客様の行動まで分かりかねます」
「何? 勝手に行っちまったから知らねいってか? ふざけんな! 」
そんなリスクを知っていながら自分はこんな時間になるまで放っておいた。
私は止めた。
でもサブニーが心配だからと悩んでいた。
『サブニー』
『サブニー』
まったくこの男には呆れる。全て自分のせいじゃない。
待ち合わせに遅れたのもあの子を放って勝手に自由行動したのも誰だったのかしら?
「おい! 聞いてるのか? 」
「落ち着いてください。今皆を集めます。中で見たものはいないか確認してそれでもいないようでしたら探しに参りたいと思います」
「馬鹿野郎! 外に行ったに決まっているだろ!こんな時間にどこへ行くってんだ! 」
確かにそうだ。間違いない。
入れ違いだったんだ。
あの子がもう少し我慢してくれていたら。
この男がもっと早く到着していたら。
こんな事態にはならなかった。最悪だ。
とりあえず玄関まで走る。
「俺は探してくる。お前らは勝手にしろ! 」
そうは言っても…… こちらにも責任がある。探さない訳にも行かない。
人手はあるに越したことがない。
「あの…… 」
「まさか…… 」
男は固まった。
視線は一枚の紙切れに注がれる。
「お客様? 」
「これは? 」
「はい。これは昨日警察の方がお見えになり置いて行かれました。
どうやらこの辺りに凶悪犯が彷徨っているとかで…… 物騒ですね」
「おいおい! 冗談だろ! 」
男の顔から血の気が引いた。
「うおおおお! 待ってろよ! のぞみ! 」
無線機を取り出すべきか迷っている。
さっきから鳴っているが無視するしかない。
なぜならば感じるのだ。それが何なのかよく分からない。
変な感じがする。
視線を感じる。こちらを見つめている。
後ろから見られている。気持ち悪い。
まさか彼なのでは?
ゆっくり振り返るが誰も居ない。
見当たらない。
でも視線だけは感じる。
闇の中をじっとこちらを見る何者か。
私だって気付いているわ。
そうもうとっくに気付いている。
でもなかなか姿を現さない男。
相当警戒しているようだ。
もし私が普通の女の子だったらもうとっくに襲われているでしょう。
何が起きたのかも分からずにずたずたに引き裂かれて骸が転がることになる。
私は普通じゃない。
警察だ。
この地域に治安を守る唯一の女性捜査官。
だから訓練もしっかり受けている。
今異常を察知して歩き回っている。
一向に間合いを詰めようとしない相手。
恐ろしく慎重な犯人。
ただの変質者では有り得ない。
息を殺しじっとこっちを見ていると思うとぞっとする。
どうしよう……
待つべきか?
逃げ切るべきか。?
今だったら大声を出すなり全力で走り出せば諦めるに違いない。
しかしもったいない。
せっかくあちらから接触してきたのだからみすみす逃すなどあり得ない。
ここは覚悟を決めて直接対決。
さあいつでもいいわ。かかってきなさい!
<続>
ドンドン
ドンドン
「はーい」
急いでいるのか必要以上に叩き続けるので仕方なく開けてやる。
はあはあ
はあはあ
息を切らした男が何かを喚いている。
「のぞみ…… すまん…… 遅くなって…… 」
「いらっしゃいませ。あの…… 」
「済まねい。俺は客だ」
「心得ています」
「実は先に連れが来たんだが」
「お連れ様ですね…… 」
「早くしてくれ! 心配なんだ。まだ小さくてよ! 」
「もしかしてサブニー。いえ失礼しました」
「そうだそのサブニーだ。なんだのぞみの奴迷わずに着いたんだな。良かった! 」
「私はここの若女将でございます」
「おおそうか。それでのぞみはどこにいる? 」
焦りと興奮が見られる。
「早くしろ! 」
自分が遅れてきたくせに……
ああ? まさか……
思い出した。一緒にこの男を探す約束をしたんだった。
どうしましょう…… すっかり忘れていた。
あの時お客様がお越しになられたのでつい……
まさか一人で勝手に出たなんてないわよね。ううん。そんなことあるはずない。
考え過ぎよ。もうお部屋で寝ているに違いない。
とりあえずこのサブニーなる者をお部屋までお通してと。
「こちらでございます」
だがもちろんあの男の子は見当たらない。
「ほほほ。どうしたのでしょうか? 」
「本当に来たのか? 」
「もちろんです。そうだお風呂に行ってるんだわ」
急いで大浴場へ。
しかし中には人の姿はない。
もう残るは外と言うことになる。
どうしましょう。これは私の完全なミス。あの子が大人しく待っていてくれる訳ないじゃない。
寂しいに決まっているのに。
「おい! どういうことなんだ? なぜ居ない? 」
「そのあの…… 」
「俺をからかっているのか? 」
「申し訳ございません」
観念するしかない。
ことの経緯を話す。
「何だと! 外に行ったかもしれないだと? 」
男は怒り出してしまった。
確かにこちら側に落ち度があるのは間違いない。
しかし問題はこの男。
あんな小さな子を放っておいて一人だけ遊びほうけてたわけだ。
大方夜祭に繰り出していたに違いない。
「当方としましてはお客様の行動まで分かりかねます」
「何? 勝手に行っちまったから知らねいってか? ふざけんな! 」
そんなリスクを知っていながら自分はこんな時間になるまで放っておいた。
私は止めた。
でもサブニーが心配だからと悩んでいた。
『サブニー』
『サブニー』
まったくこの男には呆れる。全て自分のせいじゃない。
待ち合わせに遅れたのもあの子を放って勝手に自由行動したのも誰だったのかしら?
「おい! 聞いてるのか? 」
「落ち着いてください。今皆を集めます。中で見たものはいないか確認してそれでもいないようでしたら探しに参りたいと思います」
「馬鹿野郎! 外に行ったに決まっているだろ!こんな時間にどこへ行くってんだ! 」
確かにそうだ。間違いない。
入れ違いだったんだ。
あの子がもう少し我慢してくれていたら。
この男がもっと早く到着していたら。
こんな事態にはならなかった。最悪だ。
とりあえず玄関まで走る。
「俺は探してくる。お前らは勝手にしろ! 」
そうは言っても…… こちらにも責任がある。探さない訳にも行かない。
人手はあるに越したことがない。
「あの…… 」
「まさか…… 」
男は固まった。
視線は一枚の紙切れに注がれる。
「お客様? 」
「これは? 」
「はい。これは昨日警察の方がお見えになり置いて行かれました。
どうやらこの辺りに凶悪犯が彷徨っているとかで…… 物騒ですね」
「おいおい! 冗談だろ! 」
男の顔から血の気が引いた。
「うおおおお! 待ってろよ! のぞみ! 」
無線機を取り出すべきか迷っている。
さっきから鳴っているが無視するしかない。
なぜならば感じるのだ。それが何なのかよく分からない。
変な感じがする。
視線を感じる。こちらを見つめている。
後ろから見られている。気持ち悪い。
まさか彼なのでは?
ゆっくり振り返るが誰も居ない。
見当たらない。
でも視線だけは感じる。
闇の中をじっとこちらを見る何者か。
私だって気付いているわ。
そうもうとっくに気付いている。
でもなかなか姿を現さない男。
相当警戒しているようだ。
もし私が普通の女の子だったらもうとっくに襲われているでしょう。
何が起きたのかも分からずにずたずたに引き裂かれて骸が転がることになる。
私は普通じゃない。
警察だ。
この地域に治安を守る唯一の女性捜査官。
だから訓練もしっかり受けている。
今異常を察知して歩き回っている。
一向に間合いを詰めようとしない相手。
恐ろしく慎重な犯人。
ただの変質者では有り得ない。
息を殺しじっとこっちを見ていると思うとぞっとする。
どうしよう……
待つべきか?
逃げ切るべきか。?
今だったら大声を出すなり全力で走り出せば諦めるに違いない。
しかしもったいない。
せっかくあちらから接触してきたのだからみすみす逃すなどあり得ない。
ここは覚悟を決めて直接対決。
さあいつでもいいわ。かかってきなさい!
<続>
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

永遠のトナラー 消えた彼女の行方と疑惑の隣人
二廻歩
ホラー
引っ越し先には危険な隣人が一杯。
部屋を紹介してくれた親切な裏の爺さんは人が変わったように不愛想に。
真向いの風呂好きはパーソナルスペースを侵害して近づくし。
右隣の紛らわしい左横田さんは自意識過剰で俺を変態ストーカー扱いするし。
左隣の外人さんは良い人だけど何人隠れ住んでるか分からないし。
唯一の救いの彼女は突然いなくなっちゃうし。
警察は取り合わないし。
やっぱり俺たちがあんなことしたから……
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
朧《おぼろ》怪談【恐怖体験見聞録】
その子四十路
ホラー
しょっちゅう死にかけているせいか、作者はときどき、奇妙な体験をする。
幽霊・妖怪・オカルト・ヒトコワ・不思議な話……
日常に潜む、胸をざわめかせる怪異──
作者の実体験と、体験者から取材した実話をもとに執筆した怪談短編集。
『ゴーゴン(仮題)』
名前も知らない兵士
ホラー
高校卒業後にモデルを目指して上京した私は、芸能事務所が借り上げた1LDKのマンションに居住していた。すでに契約を結び若年で不自由ない住処があるのは恵まれていた。何とか生活が落ち着いて、一年が過ぎた頃だろうか……またアイツがやってきた……
その日、私は頭部にかすかな蠢き(うごめき)を覚えて目を覚ました。
「……やっぱり何か頭の方で動いてる」
モデル業を営む私ことカンダは、頭部に居住する二頭の蛇と生きている。
成長した蛇は私を蝕み、彼らが起きている時、私はどうしようもない衝動に駆られてしまう。
生活に限界を感じ始めた頃、私は同級生と再会する。
同級生の彼は、小学生の時、ソレを見てしまった人だった。
私は今の生活がおびやかされると思い、彼を蛇の餌食にすることに決める。
宵宮君は図書室にいる ~ 明輪高校百物語
古森真朝
ホラー
とある地方都市にある公立高校。新入生の朝倉咲月は、迷い込んだ図書室で一年先輩の宵宮透哉と出会う。
二年生で通称眠り姫、ならぬ『眠り王子』だという彼は、のんびりした人柄を好かれてはいるものの、図書室の隅っこで寝てばかり。でもそんな宵宮の元には、先輩後輩問わず相談に来る人が多数。しかも中身は何故か、揃いも揃って咲月の苦手な怪談っぽいものばかりだった。
いつもマイペースな宵宮君は、どんな恐ろしげな相談でも、やっぱりのほほんと受け付けてはこう言う。『そんじゃ行ってみよっか。朝倉さん』『嫌ですってばぁ!!!』
万年居眠り常習犯と、そのお目付役。凸凹コンビによる学校の怪談調査録、はじまりはじまり。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ファムファタールの函庭
石田空
ホラー
都市伝説「ファムファタールの函庭」。最近ネットでなにかと噂になっている館の噂だ。
男性七人に女性がひとり。全員に指令書が配られ、書かれた指令をクリアしないと出られないという。
そして重要なのは、女性の心を勝ち取らないと、どの指令もクリアできないということ。
そんな都市伝説を右から左に受け流していた今時女子高生の美羽は、彼氏の翔太と一緒に噂のファムファタールの函庭に閉じ込められた挙げ句、見せしめに翔太を殺されてしまう。
残された六人の見知らぬ男性と一緒に閉じ込められた美羽に課せられた指令は──ゲームの主催者からの刺客を探し出すこと。
誰が味方か。誰が敵か。
逃げ出すことは不可能、七日間以内に指令をクリアしなくては死亡。
美羽はファムファタールとなってゲームをコントロールできるのか、はたまた誰かに利用されてしまうのか。
ゲームスタート。
*サイトより転載になります。
*各種残酷描写、反社会描写があります。それらを増長推奨する意図は一切ございませんので、自己責任でお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる