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若女将
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一通りの聞き込みを終える。
有力な情報を求めて一日中歩き回った。もうクタクタだ。
辺りはいつの間にかもう真っ暗に。
「どうでしたか? 」
部下は進展を期待している。しかしそう簡単にいくものではない。
楽観的で困る。
捜査の基本は聞き込み。足を使って稼ぐ。
現場に出ることもせず若い者に頼りきりで自分は机の上で吠えている。
そう言う私も似たようなものだが部下の気持ちは理解しているつもりだ。
「ビンゴだ」
「ああ祭りですね」
別にそういう意味で言ってるわけではないのだが。困ったものだ。
「ボケかまさなくていいんだよ」
「それで…… 」
歩きながら話す。
「本当によろしいんですか? そちらは祭りの会場ですが…… 」
「良いんだよこっちで! 」
面倒臭いなあもう。
「どっちなんですか? ややっこしいな」
「君じゃないか。勝手に誤解してまったく…… 」
「話からするともしかしたら奴の狙いはこの夜祭にあるのではないか。
ここの客にターゲットを絞ったかもしれん」
「だが奴はそんな情報をどこから仕入れたと? 」
「つい話しちまったんだとさ」
「そうかまあそうですな。今夜行われるんですもんね」
「ああ。これで先回りができるかもしれない。奴を捕えるまたとないチャンス」
「ちょっと待ってください。確か奴は人混みを恐れていませんでしたか? 」
「そういう情報もあるな。だが夜ならどうだ」
「なるほど。怖いのは人。夜は見ずらい。確かに見えなければ感じなければ問題ないですな」
「うん。だから奴はいつも人の少ない夜に犯行を重ねているんだ」
「ほう。それは名推理ですね。では私はこれで」
「はあ? どこへ行くつもりだ? 」
「応援を頼みに…… 」
「今さら遅い。我々の手でホシを上げるぞ」
「やっぱり。無茶するなぁ」
「何か言ったか? 」
「いえぜひホシを挙げましょう」
「その意気だ。人手が足りないんだからな」
「分かりました。でも現場に着く前に少し…… 」
「どうした? 」
「待ち合わせしているんです」
「分かった。よし行こう」
二人は夜祭の会場へ。
コンコン
コンコン
「はい。いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました」
どうにか旅館に辿り着けた。
もう外は真っ暗。
昼間の記憶を頼りに何とか到着した。
はあはあ
はあはあ
「息を切らしてまあ…… 大丈夫? 」
「サブニーが…… 」
「はあ? 」
当たり前だけど初めての経験。
サブニーが何でもやってみろ。経験してみろと言っていたが僕には恥ずかしくてどうしようもない。何て言えばいいのか分からない。
まったくそんな準備などしていなかった。逃げ出したい。別に泊まらなくても……
黙ったまま下を向いた僕を心配する。
「どうしたの坊や? お父さんは? お母さんは? 」
「あの…… 」
それっきり口から何も出てこない。
「うんうん。迷子じゃないならお泊りよね」
「はい」
大声で返事をする。これくらいはできる。
「誰か大人の人がいないと困るなあ」
「サブニーが…… 」
「ああ。お兄さんね。今はどこにいるのかな? 」
「おばさん。すいません」
「ああごめんなさい。自己紹介をさせてね。私はここの若女将よ。ようこそ」
「僕はのぞみ」
「あらかわいらしい名前」
「おばさんはその…… 」
若女将が睨みつける。
「いえ、お姉さん。実は…… 」
村から来たこと。目的について話した。
「それは大変だったわね。それで何人ぐらい会えたの? 」
「おばさんが九十人目。あと十人で目標の百人になるんです」
「そう。でもお姉さんは忙しいんだ。協力できるかしら」
「大丈夫です。自分でやります」
「いえ、それが困るの。他のお客さんもいるのよ」
「分かりました。大人しくしています」
「まあいいわ。それでお兄さんは? 」
「用があるって遅くなるから先に入ってろって」
「あら夜祭にでも行ったのかしら」
「夜祭? 」
「ああ、いいえ。明日お祭りあるから見に行って来たら」
「サブニーが夜祭に? 」
「いえ、何でもない。お兄さんは遅くなるだったわね。本当はダメなんだけど仕方がない。一名様ご案内。特別よ」
ずいぶん年数の経った襖がお出向かい。
畳もギシギシ言っている。
「ではお食事をお持ちします」
無事に旅館の中へ。
ああ疲れた。サブニーまだ?
一息つく。
はあはあ
ふうふう
歩き続けたが一向に祭りの会場へ辿り着かない。
まったく太鼓の音を辿ってみたのは良いがまったく違う方向。
仕方なく人の後を着ける。
ただでさえ怪しいのに後ろをつけては疑われる。
追手はいないか?
こっちを見ている奴はいないか?
とにかく夜祭に来る客に紛れ込む。
もう怖くない。
夜になればこっちのもの。
皆ただの人間だ。
それも今からは俺の獲物なのだ。
ああ。早く子羊が現れないか。
群れからはぐれた彷徨える子羊。
生贄を我に捧げよ!
よく周りを見回して夜祭会場へ。
人で一杯。
笛の音が響き渡る。
それに合わせるように遠くからドンドンと言う太鼓の音。
迫力満点のショウ。
どうしようもなく狩猟本能を掻き立てられる。
よし今行くぞ!
待ってろ! はっはは!
もう自分を抑えることはできない。
再び人混みに紛れる。
<続>
有力な情報を求めて一日中歩き回った。もうクタクタだ。
辺りはいつの間にかもう真っ暗に。
「どうでしたか? 」
部下は進展を期待している。しかしそう簡単にいくものではない。
楽観的で困る。
捜査の基本は聞き込み。足を使って稼ぐ。
現場に出ることもせず若い者に頼りきりで自分は机の上で吠えている。
そう言う私も似たようなものだが部下の気持ちは理解しているつもりだ。
「ビンゴだ」
「ああ祭りですね」
別にそういう意味で言ってるわけではないのだが。困ったものだ。
「ボケかまさなくていいんだよ」
「それで…… 」
歩きながら話す。
「本当によろしいんですか? そちらは祭りの会場ですが…… 」
「良いんだよこっちで! 」
面倒臭いなあもう。
「どっちなんですか? ややっこしいな」
「君じゃないか。勝手に誤解してまったく…… 」
「話からするともしかしたら奴の狙いはこの夜祭にあるのではないか。
ここの客にターゲットを絞ったかもしれん」
「だが奴はそんな情報をどこから仕入れたと? 」
「つい話しちまったんだとさ」
「そうかまあそうですな。今夜行われるんですもんね」
「ああ。これで先回りができるかもしれない。奴を捕えるまたとないチャンス」
「ちょっと待ってください。確か奴は人混みを恐れていませんでしたか? 」
「そういう情報もあるな。だが夜ならどうだ」
「なるほど。怖いのは人。夜は見ずらい。確かに見えなければ感じなければ問題ないですな」
「うん。だから奴はいつも人の少ない夜に犯行を重ねているんだ」
「ほう。それは名推理ですね。では私はこれで」
「はあ? どこへ行くつもりだ? 」
「応援を頼みに…… 」
「今さら遅い。我々の手でホシを上げるぞ」
「やっぱり。無茶するなぁ」
「何か言ったか? 」
「いえぜひホシを挙げましょう」
「その意気だ。人手が足りないんだからな」
「分かりました。でも現場に着く前に少し…… 」
「どうした? 」
「待ち合わせしているんです」
「分かった。よし行こう」
二人は夜祭の会場へ。
コンコン
コンコン
「はい。いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました」
どうにか旅館に辿り着けた。
もう外は真っ暗。
昼間の記憶を頼りに何とか到着した。
はあはあ
はあはあ
「息を切らしてまあ…… 大丈夫? 」
「サブニーが…… 」
「はあ? 」
当たり前だけど初めての経験。
サブニーが何でもやってみろ。経験してみろと言っていたが僕には恥ずかしくてどうしようもない。何て言えばいいのか分からない。
まったくそんな準備などしていなかった。逃げ出したい。別に泊まらなくても……
黙ったまま下を向いた僕を心配する。
「どうしたの坊や? お父さんは? お母さんは? 」
「あの…… 」
それっきり口から何も出てこない。
「うんうん。迷子じゃないならお泊りよね」
「はい」
大声で返事をする。これくらいはできる。
「誰か大人の人がいないと困るなあ」
「サブニーが…… 」
「ああ。お兄さんね。今はどこにいるのかな? 」
「おばさん。すいません」
「ああごめんなさい。自己紹介をさせてね。私はここの若女将よ。ようこそ」
「僕はのぞみ」
「あらかわいらしい名前」
「おばさんはその…… 」
若女将が睨みつける。
「いえ、お姉さん。実は…… 」
村から来たこと。目的について話した。
「それは大変だったわね。それで何人ぐらい会えたの? 」
「おばさんが九十人目。あと十人で目標の百人になるんです」
「そう。でもお姉さんは忙しいんだ。協力できるかしら」
「大丈夫です。自分でやります」
「いえ、それが困るの。他のお客さんもいるのよ」
「分かりました。大人しくしています」
「まあいいわ。それでお兄さんは? 」
「用があるって遅くなるから先に入ってろって」
「あら夜祭にでも行ったのかしら」
「夜祭? 」
「ああ、いいえ。明日お祭りあるから見に行って来たら」
「サブニーが夜祭に? 」
「いえ、何でもない。お兄さんは遅くなるだったわね。本当はダメなんだけど仕方がない。一名様ご案内。特別よ」
ずいぶん年数の経った襖がお出向かい。
畳もギシギシ言っている。
「ではお食事をお持ちします」
無事に旅館の中へ。
ああ疲れた。サブニーまだ?
一息つく。
はあはあ
ふうふう
歩き続けたが一向に祭りの会場へ辿り着かない。
まったく太鼓の音を辿ってみたのは良いがまったく違う方向。
仕方なく人の後を着ける。
ただでさえ怪しいのに後ろをつけては疑われる。
追手はいないか?
こっちを見ている奴はいないか?
とにかく夜祭に来る客に紛れ込む。
もう怖くない。
夜になればこっちのもの。
皆ただの人間だ。
それも今からは俺の獲物なのだ。
ああ。早く子羊が現れないか。
群れからはぐれた彷徨える子羊。
生贄を我に捧げよ!
よく周りを見回して夜祭会場へ。
人で一杯。
笛の音が響き渡る。
それに合わせるように遠くからドンドンと言う太鼓の音。
迫力満点のショウ。
どうしようもなく狩猟本能を掻き立てられる。
よし今行くぞ!
待ってろ! はっはは!
もう自分を抑えることはできない。
再び人混みに紛れる。
<続>
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