上 下
118 / 124

太郎の失われた記憶

しおりを挟む
目の前に太郎の姿がある。

ずっと閉じ込められたせいでやせ細っているが間違いなく太郎。幼き頃の面影がある。


「太郎! あなた太郎じゃないの? 」

「無礼者! 私はバッカ! イーチャット第三王子。太郎などではない! 」

「そんな太郎…… 私よ! スティ―よ! よく思い出して! 」

太郎は頑なに否定。太郎にとって汚点と言うべき過去。まあ王子としてのプライドもあるでしょう。


「太郎! スティ―よ。どうして思い出してくれないの! 」

「スティ―? 知らないなあ」

思い出す必要もないと冷たい視線を投げかける。

「まさか違う? 人違いだとでも言うの? あなたは忘れたかもしれないけど幼い頃に私たちは良く遊んだの。
太郎はきっと小さかったから忘れただろうけど」

「何度も言うが。私はバッカ! お主の言う太郎などではない! 不愉快だまったく! 」

へそを曲げる太郎。そんなに太郎の名が気に食わなかったのだろうか?

「まあいいじゃないですか王子。せっかく助けに来てもらったんですから」

「そうだな。よし急ぐぞ! 」


ガチャ
ガチャ

「鍵を知りませんか王子? 」

「知るか! 」

冷静になれば鍵がどこにあるか一目瞭然。
 
「ちょっと…… 渡してくれる? 」

ぐるぐる巻きになった男は震えながら在り処を吐く。

「これね。ありがとう。あなたはもう少し眠ってなさい! 」

ためらうことなく一撃を喰らわす。


「さあ王子。逃げますよ! 」

「ありがとうラン。お前には感謝している。しかしこの女は関係ない。いつ裏切るとも限らない。気をつけろ! 」

「何ですって太郎! 言わせておけば! 」

ついつい昔の癖で太郎を叱責する。

太郎に違いないのにいつまでふざけるつもり? 怒りが沸々と湧いてくる。

これでは何の為に助けに来たのか分からない。太郎の生意気な態度が我慢できない。


「さっきからお前は何だ? 」

「だからスティ―だって。ステーテル。ステーテル様」

「この者の言っていることはちっとも分からん! 」

仕方なくランが間に入る。

「お止めくださいバッカ様。急ぎましょう」

明朝、国王直々の執行。この地下牢から抜け出さないと大変なことになる。

まずい。あとちょっとで交代の時間。

「王子失礼。こちらで説得させますので少々お待ちください」

「もう太郎ったら! 」

「あなたはこっちへ」

王子の耳に入らないように地下牢から離れ小声で話す。


「あなた確かツンデッラよね? スティ―ってどういうこと? 」

ランに事情を説明する。

「へえ。ド・ラボーね。それは結構な身分で。ツンデッラが仮の姿なんて面白い」

「ランさん。それよりなぜ太郎…… いえバッカ王子は記憶を失っているんですか? 」

「簡単に言うとあの当時の記憶を封印する為です。王子にとってはとても耐えられない現実なんです。まあ後悔とでも言いますかね…… 」

「政変に巻き込まれたんでしたっけ? 」

「その…… まあそんなところです。私が王子の命令で…… いえ勝手に消したのです。王子はそのことで随分苦しんでおられましたから。そのため幼い頃の記憶までも封印されてしまった」


ヒソヒソ
コソコソ

「おい! 何をしている! 」

王子がお怒りだ。困ったワガママな太郎。

「どうやったら記憶を取り戻せるの? 」

「それは…… ショック与えれば記憶は戻ると思います。でも…… 辛い記憶まで思い出すことになる。それが王子にとって良いことなのか悪いことなのか? もしどうしてもと言うなら今すぐにでも。ただ王子の気持ちを最優先してください。これは王子の為にやったことですから」


「太郎! 」 

「待って! 誰か来る! 」

足音が聞こえる。

まだ交代の時間になってないのにまったく……

「いい? 私は一旦逃げるわ。もし何かあったら持ってきたカードを掲げるのよ。絶対に王子と一緒に! 次の世界に行けるから」

「あの…… でも…… 」

「そうなったら過去なんていらないでしょう? 過去は封印したままでお願い。いい? もうどうにもならなかったら使って! 最後のとっておきだから」


「うわああ! 侵入者だ! 」

交代の者が騒ぎ始めた。まずい捕まる。

混乱に乗じてランは姿を消す。

「おい! お前そこで何をやってる! 」

絶体絶命のピンチ。


               続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

処理中です...