39 / 124
王子の選択
しおりを挟む
妹思いの兄と門番との話がまとまる。
「それであんたらは? 」
面倒臭そうに頭を掻きながらいやらしい目を向ける。
「何か用か田舎者? 」
連れが連れなだけに舐められる始末。
「ちょっと…… 」
ガムが前に出る。
「この方はステーテル。ド・ラボーの資格があります。私はお付のガム。王子に用があって参りました」
「どうしようかな。王子は忙しいお方でここにはおられないんだ」
「ではどこに? 」
「それは教えられない」
「ほらな。いつもこれなんだ」
少年は諦め顔。
「もう仕方がないですね」
ガムが懐から金貨を一枚取り出す。
「これでどうでしょう? 」
「えへへ悪いな。貰っておくぜ」
金に目が眩んだ門番は王子の居場所を吐く。
「俺が言ったってのは内緒だからな! 」
「はいはい」
それくらいは心得ている。どうせ他にも知っていることを吐いてもらうことになるだろうから。
情報源は秘匿するに限る。
元の道を引き返す。
山を越えて森に入ったところで向きを変える。
教えられた通りに歩き続けると小さな家が見えた。
木こりでも住んでいそうな佇まい。そこにいるのはもちろん王子と……
おーい! ベイリー!
少年が叫びながら中へ。
「無礼者! 」
王子が剣を抜く。
王子と少年は睨み合ったまま動こうとしない。
もちろん少年は武器など持ち合わせていない。
どう考えても無謀。だがしかし……
「お止めください! この人は私の兄です」
ベイリー発見。
「どうかお止めください! 」
「ならん! 許しはしない! 」
「ベイリー! 」
「お兄ちゃん! 」
二人は手を取り合う。久しぶりの再会。
目に涙を溜めるベイリー。
ベイリーは兄にそっくりで小さくてかわいいらしい。さすがに私と同じド・ラボーなだけある。
王子とベイリーはこの小さな家で婚姻の儀まで二人で過ごす。
それがこの国の伝統であり習わし。他の者と接触は禁じられている。
だからベイリーの精神状態も気になる。
「ベイリー大丈夫か? 」
「ええ。とってもワクワクしてるの」
やはり兄の早とちりだったようだ。
「王子と本気で結婚するつもりか? 」
「ええ。それが運命。そうですよね王子様? 」
「ああ」
そういいながらこちらをチラチラ見る。
浮気者の王子。女癖が悪いと見える。
「どうしたのですか王子? 」
「いやお美しい。どのような御用でしょうか? 」
王子が迫る。
ガムを見るが助けてくれない。一人で対処しろと言うことだろう。
それにしても意地悪なガム。
今夜は相手してあげない。
そう心に決めるが果たして……
「私はニ―チャットからやって参りました。ド・ラボーの資格があります」
「それは素晴らしい。何が好きかな? 故郷はどうだい? 明日は暇かい? 」
王子は私の魅力の虜に。
ベイリーと言う婚約者がいながら私にちょっかいを出す。
困った王子様。
見た目は完璧。瞳も大きく緑色に輝いている。足も長く身長も高め。
可愛いと言うより格好いい。女癖は良くないのでそこが減点ポイント。
これで白馬にでも乗ってさらってくれた言うことないんだけどなあ。
「あの王子様。ご兄弟は? 」
「上に兄が二人。弟が一人。妹が二人おります」
十か条にも反していない。王子として申し分ない。
「ちなみに兄たちはとっくに婚姻は済ませてある。今度は我の番だ」
「ではお幸せに」
ここらで切り上げるのがいい。
「ちょっと待ってください。あなたがド・ラボーだと聞き驚きました。これも運命なのかもしれません。
どうでしょう。花嫁候補になってはくれませんか? 」
王子の美声にやられそうになる。声もいいなんて反則だわ。完璧。
どうしましょう?
ベイリーの表情が曇った。女としてのプライドが傷つけられたのだろう。
泣きまではしないが自信を失ったのか伏し目がちになる。王子のベイリーへの愛情はこの程度だったのだと知れる。
「ガム? 」
頷く。
「分かりました」
「おお。そうかならばよかった。ではさっそく話を通すとしよう」
二股をかけようとする王子。
ベイリーのいる前でなんてことを?
最低だ。
待って…… 私も同類じゃない。でも違う。
これはベイリーを王子から引き離す作戦。
妹思いの兄の願い。どうか傷つかないで欲しい。
ゴミ王子争奪戦が開始された。
続く
「それであんたらは? 」
面倒臭そうに頭を掻きながらいやらしい目を向ける。
「何か用か田舎者? 」
連れが連れなだけに舐められる始末。
「ちょっと…… 」
ガムが前に出る。
「この方はステーテル。ド・ラボーの資格があります。私はお付のガム。王子に用があって参りました」
「どうしようかな。王子は忙しいお方でここにはおられないんだ」
「ではどこに? 」
「それは教えられない」
「ほらな。いつもこれなんだ」
少年は諦め顔。
「もう仕方がないですね」
ガムが懐から金貨を一枚取り出す。
「これでどうでしょう? 」
「えへへ悪いな。貰っておくぜ」
金に目が眩んだ門番は王子の居場所を吐く。
「俺が言ったってのは内緒だからな! 」
「はいはい」
それくらいは心得ている。どうせ他にも知っていることを吐いてもらうことになるだろうから。
情報源は秘匿するに限る。
元の道を引き返す。
山を越えて森に入ったところで向きを変える。
教えられた通りに歩き続けると小さな家が見えた。
木こりでも住んでいそうな佇まい。そこにいるのはもちろん王子と……
おーい! ベイリー!
少年が叫びながら中へ。
「無礼者! 」
王子が剣を抜く。
王子と少年は睨み合ったまま動こうとしない。
もちろん少年は武器など持ち合わせていない。
どう考えても無謀。だがしかし……
「お止めください! この人は私の兄です」
ベイリー発見。
「どうかお止めください! 」
「ならん! 許しはしない! 」
「ベイリー! 」
「お兄ちゃん! 」
二人は手を取り合う。久しぶりの再会。
目に涙を溜めるベイリー。
ベイリーは兄にそっくりで小さくてかわいいらしい。さすがに私と同じド・ラボーなだけある。
王子とベイリーはこの小さな家で婚姻の儀まで二人で過ごす。
それがこの国の伝統であり習わし。他の者と接触は禁じられている。
だからベイリーの精神状態も気になる。
「ベイリー大丈夫か? 」
「ええ。とってもワクワクしてるの」
やはり兄の早とちりだったようだ。
「王子と本気で結婚するつもりか? 」
「ええ。それが運命。そうですよね王子様? 」
「ああ」
そういいながらこちらをチラチラ見る。
浮気者の王子。女癖が悪いと見える。
「どうしたのですか王子? 」
「いやお美しい。どのような御用でしょうか? 」
王子が迫る。
ガムを見るが助けてくれない。一人で対処しろと言うことだろう。
それにしても意地悪なガム。
今夜は相手してあげない。
そう心に決めるが果たして……
「私はニ―チャットからやって参りました。ド・ラボーの資格があります」
「それは素晴らしい。何が好きかな? 故郷はどうだい? 明日は暇かい? 」
王子は私の魅力の虜に。
ベイリーと言う婚約者がいながら私にちょっかいを出す。
困った王子様。
見た目は完璧。瞳も大きく緑色に輝いている。足も長く身長も高め。
可愛いと言うより格好いい。女癖は良くないのでそこが減点ポイント。
これで白馬にでも乗ってさらってくれた言うことないんだけどなあ。
「あの王子様。ご兄弟は? 」
「上に兄が二人。弟が一人。妹が二人おります」
十か条にも反していない。王子として申し分ない。
「ちなみに兄たちはとっくに婚姻は済ませてある。今度は我の番だ」
「ではお幸せに」
ここらで切り上げるのがいい。
「ちょっと待ってください。あなたがド・ラボーだと聞き驚きました。これも運命なのかもしれません。
どうでしょう。花嫁候補になってはくれませんか? 」
王子の美声にやられそうになる。声もいいなんて反則だわ。完璧。
どうしましょう?
ベイリーの表情が曇った。女としてのプライドが傷つけられたのだろう。
泣きまではしないが自信を失ったのか伏し目がちになる。王子のベイリーへの愛情はこの程度だったのだと知れる。
「ガム? 」
頷く。
「分かりました」
「おお。そうかならばよかった。ではさっそく話を通すとしよう」
二股をかけようとする王子。
ベイリーのいる前でなんてことを?
最低だ。
待って…… 私も同類じゃない。でも違う。
これはベイリーを王子から引き離す作戦。
妹思いの兄の願い。どうか傷つかないで欲しい。
ゴミ王子争奪戦が開始された。
続く
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」
結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は……
短いお話です。
新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。
4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる