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冷え切った体
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「ガム…… 待って! 」
ずいぶん先に進んでいる。
「早く来てください! 」
「もうダメ! 動けない! 」
「泣き言を言わない! 」
「だって…… 」
「それからさっきから大声で叫んでいますが王子たちに見つかっては元も子もありませんよ」
「分かってる! 」
「ほら抑えてください。ちっとも分かってないじゃないですか」
ああ、もううるさい!
もはや優雅なド・ラボーではない。逃走中の村娘。腹をすかせた哀れな娘でしかない。
本当…… お腹空いた。誰か私をお助け下さい。
「ステーテル! ありました。ありましたよ! 」
願いが叶ったのかガムが第三の像を発見。
今度の像は二体の河童。恋人? 夫婦? 兄妹?
二体の河童は肩を寄せ合っている。幸せの象徴。
作者は一体これで何を表現したかったのだろう。
考えれば考えるほど良く分からなくなる。
まあたぶん意味はあるのでしょうんね。
「ステーテル! ぼーっとしてないで手伝って! 」
二人で動かすのにも一苦労。
まずい。もうあと二十分もない。
もう体の感覚がない。どうしよう? どうしよう?
パニック寸前。
ガムが居なければとっくに我を失っていただろう。
「ねえガム? 」
「大丈夫です。私が何とかします。さあこっちです」
像が示す方向へ走り出す。
川のせせらぎ。
近くに川が流れている。
これは近い?
最後の最後の力を振り絞り懸命にガムの後を着いていく。
ふふふ…… いつもだったら私についてくるガムが今日は前。私が後について行くなんて……
あら何か変だわ?
どうやら気づかないうちにハイになっている。
疲れているはずだと言うのにやっぱりおかしい。自分が自分でないみたい。
「ありました! 」
河童の像が向いている先に川が見えた。
間違いない。これが元の世界の入り口。
あの爺の言っていたことは嘘ではなかった。
もう時間もない。ためらっている暇はない。
川に向かって突き進むガム。
「ガム待って! 」
冷たい! 体が異常に冷たい。体温が奪われていく。これ以上体温が下がれば命の危機。
分かっている。でも立ち止る訳にはいかない。入らなくては。ここを抜けなくては元の世界には戻れない。
「さあ早く! 」
「分かってるって! 」
ガムが川へ。
川は深くはなさそうだ。流れも急ではない。
だが見誤ってはいけない。深いところもあるだろう。滑りやすくなっている箇所もきっとある。
足を取られないように慎重に進むしかない。
あとは時間との戦い。
きゃあ!
川に体を預けた瞬間に目の前を矢が通過した。
何? どういうこと?
「あれステーテル? どうして君が? 」
「これは王子…… 」
もうこんな切羽詰まっているときに王子たちの相手をしなくてはいけないなんてついてない。
王子一人ならば子供だから適当にごまかすことも可能だが家来たちが黙っていない。もはや相当怪しい。
「ほらステーテル。戻って! 危ないよ」
王子は本当に私の身を案じているのか。それとも何もかも分かった上で演じているのか判断がつかない。
まだ子供の王子の心は移ろいやすい。
「おいお前たち! すぐにその川から上がるのだ! 」
吠える手下。
やはり許してはくれなそうだ。
このまま強行突破も…… いや矢が飛んで来てはやられる。
どうすればいい?
「ガム! 」
ガムは顔面蒼白。
私も何だかとっても寒い。寒くて寒くて死にそうだ。
早くこの冷え切った体を温めなくては。
もう打つ手はない?
ここは一旦戻るのがベスト。
「分かったわ。引き返すから何もしないで」
投降するするしかない。
ガムも従う。
ああなんてもったいないのかしら。あとちょっとだったのに。
もう体が冷え切ってしまって感覚が無い。
これはキスの影響なのか。それとも川に入ったからか。
絶体絶命のピンチ。
続く
ずいぶん先に進んでいる。
「早く来てください! 」
「もうダメ! 動けない! 」
「泣き言を言わない! 」
「だって…… 」
「それからさっきから大声で叫んでいますが王子たちに見つかっては元も子もありませんよ」
「分かってる! 」
「ほら抑えてください。ちっとも分かってないじゃないですか」
ああ、もううるさい!
もはや優雅なド・ラボーではない。逃走中の村娘。腹をすかせた哀れな娘でしかない。
本当…… お腹空いた。誰か私をお助け下さい。
「ステーテル! ありました。ありましたよ! 」
願いが叶ったのかガムが第三の像を発見。
今度の像は二体の河童。恋人? 夫婦? 兄妹?
二体の河童は肩を寄せ合っている。幸せの象徴。
作者は一体これで何を表現したかったのだろう。
考えれば考えるほど良く分からなくなる。
まあたぶん意味はあるのでしょうんね。
「ステーテル! ぼーっとしてないで手伝って! 」
二人で動かすのにも一苦労。
まずい。もうあと二十分もない。
もう体の感覚がない。どうしよう? どうしよう?
パニック寸前。
ガムが居なければとっくに我を失っていただろう。
「ねえガム? 」
「大丈夫です。私が何とかします。さあこっちです」
像が示す方向へ走り出す。
川のせせらぎ。
近くに川が流れている。
これは近い?
最後の最後の力を振り絞り懸命にガムの後を着いていく。
ふふふ…… いつもだったら私についてくるガムが今日は前。私が後について行くなんて……
あら何か変だわ?
どうやら気づかないうちにハイになっている。
疲れているはずだと言うのにやっぱりおかしい。自分が自分でないみたい。
「ありました! 」
河童の像が向いている先に川が見えた。
間違いない。これが元の世界の入り口。
あの爺の言っていたことは嘘ではなかった。
もう時間もない。ためらっている暇はない。
川に向かって突き進むガム。
「ガム待って! 」
冷たい! 体が異常に冷たい。体温が奪われていく。これ以上体温が下がれば命の危機。
分かっている。でも立ち止る訳にはいかない。入らなくては。ここを抜けなくては元の世界には戻れない。
「さあ早く! 」
「分かってるって! 」
ガムが川へ。
川は深くはなさそうだ。流れも急ではない。
だが見誤ってはいけない。深いところもあるだろう。滑りやすくなっている箇所もきっとある。
足を取られないように慎重に進むしかない。
あとは時間との戦い。
きゃあ!
川に体を預けた瞬間に目の前を矢が通過した。
何? どういうこと?
「あれステーテル? どうして君が? 」
「これは王子…… 」
もうこんな切羽詰まっているときに王子たちの相手をしなくてはいけないなんてついてない。
王子一人ならば子供だから適当にごまかすことも可能だが家来たちが黙っていない。もはや相当怪しい。
「ほらステーテル。戻って! 危ないよ」
王子は本当に私の身を案じているのか。それとも何もかも分かった上で演じているのか判断がつかない。
まだ子供の王子の心は移ろいやすい。
「おいお前たち! すぐにその川から上がるのだ! 」
吠える手下。
やはり許してはくれなそうだ。
このまま強行突破も…… いや矢が飛んで来てはやられる。
どうすればいい?
「ガム! 」
ガムは顔面蒼白。
私も何だかとっても寒い。寒くて寒くて死にそうだ。
早くこの冷え切った体を温めなくては。
もう打つ手はない?
ここは一旦戻るのがベスト。
「分かったわ。引き返すから何もしないで」
投降するするしかない。
ガムも従う。
ああなんてもったいないのかしら。あとちょっとだったのに。
もう体が冷え切ってしまって感覚が無い。
これはキスの影響なのか。それとも川に入ったからか。
絶体絶命のピンチ。
続く
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