30 / 124
最後の力
しおりを挟む
突然のキス。回避するのは不可能。
王子。へへへ……
「ステーテル? 」
ガムに引っ叩かれる。
「いつまで惚けてるんですか? 早く正気に戻ってください! ステーテル! ステー! 」
「あれ…… ガム。もう。ちょっと! 」
元国王があれほど気をつけるように言っていたのに避ける暇も無くキスを受ける。
「どうしましょう? どうしましょう? 」
「落ち着いてください」
「だってあと一時間もしないで私は固まってしまうのよ? 」
「とにかくここを出ましょう。着いてきてください」
「ガム…… 」
「心配しないでください。私がお守りします」
そう。ガムに任せれば安心だ。
「こっちです」
館内は王子の命により出払っていて人の姿は見当たらない。
危険を加える者はいない。
館を出て王子たちの後を追う。
と言っても見つかってはお終い。慎重に前へ。
王子を先頭に明後日の方に駆けていく男たち。
「そっちじゃない」
爺なら村人に匿われている。
ガムの機転で安全に逃がされた。
とにかく昨日の地点まで走る。
できたら馬車でも使えたら良かったのだが。
あれだけ目立つ上に馬が見当たらない。
「ガム…… 」
「大丈夫です。まだ何とかなります」
「もう嫌! 」
「ほら笑ってください。もう少しなんですから」
第一ポイントに差し掛かった。
河童の像が見えた。
像を傾ける。
「こっちね。行きましょうステーテル」
頼りになるガム。
「次はこっち」
東に走る。
歩いて十分もかからないところに像があるはず。
「えっと…… 」
歩いている時間は無い。走りながら像を探す。
さすがに簡単には見つからないか。
「もうあの爺さん! 大雑把なんだから」
「ステーテルは左を。私は右を」
よく見る。
像。河童の像。
ある?
「ダメどこにもない! ガム…… 」
「焦ってはダメ。よく見るの」
「だって…… 」
「泣き言を言わないの! 」
「もうガムがいじめる」
「ステーテル。諦めるつもりですか? 」
「ううん」
「なら真剣に探してください」
「でも…… 」
「気持ちは分かりますがこれはあくまであなたの問題。違いますか? 」
「嘘? 見捨てるつもり? 」
ガムが首を振る。
「私はあなたが理想の王子様と結ばれるためにここまで仕えてきました。ですがこの国の王子も条件面では問題ありません。あなたが我慢すればここで一生暮らせるように取り計らいますが。まあどの道固まってしまう運命なのですが。それはそれでよろしいではないですか」
弱気なガム。諦めムードが漂う。ここはもう自分の力で何とかするしかない。
像? 像?
もう三十分もない。どうしよう。
「うわああ! 」
頭が真っ白。何も思い浮かばない。
「落ち着いてください。私は問題ありません」
冷静な対応が癇に障る。
「もう! 」
「ステーテル? 」
「あった。あったわよ! 」
像は繁みに隠れるように立っていた。まあ目立つところに置いておくものでもないか。
でもこの国のシンボルと言ってもいいのにこれでいいの?
繁みからちょっとだけ顔を見せた河童の笑顔に腹が立つ。
「まったくちゃんと管理しておきなさいよ! 」
「ステーテル。もう少し上品に」
「何言ってるのこんな時に」
今度の像は河童一体が大きくが描かれている。
二人でも動かすのが大変な重さ。
はあはあ
はあはあ
息を切らし最後の力を振り絞り傾ける。
「こっちです」
はあはあ
「分かった。でも少し休憩を…… お願い! 」
「ダメです。本当に時間が無いんですよ」
「もう嫌! 」
ガムに引っ張ってもらい走る。
そろそろ限界が近い。
体力にしろ気力にしろもう使い果たしている。
あと残されているとすれば火事場の馬鹿力ぐらいなもの。
果たしてこんな私にそんな力が残されているかしら。
もう時間がない。タイムリミットまで残り僅か。
凍り付くが先か? それとも……
ステーテルとガムの運命は如何に?
続く
王子。へへへ……
「ステーテル? 」
ガムに引っ叩かれる。
「いつまで惚けてるんですか? 早く正気に戻ってください! ステーテル! ステー! 」
「あれ…… ガム。もう。ちょっと! 」
元国王があれほど気をつけるように言っていたのに避ける暇も無くキスを受ける。
「どうしましょう? どうしましょう? 」
「落ち着いてください」
「だってあと一時間もしないで私は固まってしまうのよ? 」
「とにかくここを出ましょう。着いてきてください」
「ガム…… 」
「心配しないでください。私がお守りします」
そう。ガムに任せれば安心だ。
「こっちです」
館内は王子の命により出払っていて人の姿は見当たらない。
危険を加える者はいない。
館を出て王子たちの後を追う。
と言っても見つかってはお終い。慎重に前へ。
王子を先頭に明後日の方に駆けていく男たち。
「そっちじゃない」
爺なら村人に匿われている。
ガムの機転で安全に逃がされた。
とにかく昨日の地点まで走る。
できたら馬車でも使えたら良かったのだが。
あれだけ目立つ上に馬が見当たらない。
「ガム…… 」
「大丈夫です。まだ何とかなります」
「もう嫌! 」
「ほら笑ってください。もう少しなんですから」
第一ポイントに差し掛かった。
河童の像が見えた。
像を傾ける。
「こっちね。行きましょうステーテル」
頼りになるガム。
「次はこっち」
東に走る。
歩いて十分もかからないところに像があるはず。
「えっと…… 」
歩いている時間は無い。走りながら像を探す。
さすがに簡単には見つからないか。
「もうあの爺さん! 大雑把なんだから」
「ステーテルは左を。私は右を」
よく見る。
像。河童の像。
ある?
「ダメどこにもない! ガム…… 」
「焦ってはダメ。よく見るの」
「だって…… 」
「泣き言を言わないの! 」
「もうガムがいじめる」
「ステーテル。諦めるつもりですか? 」
「ううん」
「なら真剣に探してください」
「でも…… 」
「気持ちは分かりますがこれはあくまであなたの問題。違いますか? 」
「嘘? 見捨てるつもり? 」
ガムが首を振る。
「私はあなたが理想の王子様と結ばれるためにここまで仕えてきました。ですがこの国の王子も条件面では問題ありません。あなたが我慢すればここで一生暮らせるように取り計らいますが。まあどの道固まってしまう運命なのですが。それはそれでよろしいではないですか」
弱気なガム。諦めムードが漂う。ここはもう自分の力で何とかするしかない。
像? 像?
もう三十分もない。どうしよう。
「うわああ! 」
頭が真っ白。何も思い浮かばない。
「落ち着いてください。私は問題ありません」
冷静な対応が癇に障る。
「もう! 」
「ステーテル? 」
「あった。あったわよ! 」
像は繁みに隠れるように立っていた。まあ目立つところに置いておくものでもないか。
でもこの国のシンボルと言ってもいいのにこれでいいの?
繁みからちょっとだけ顔を見せた河童の笑顔に腹が立つ。
「まったくちゃんと管理しておきなさいよ! 」
「ステーテル。もう少し上品に」
「何言ってるのこんな時に」
今度の像は河童一体が大きくが描かれている。
二人でも動かすのが大変な重さ。
はあはあ
はあはあ
息を切らし最後の力を振り絞り傾ける。
「こっちです」
はあはあ
「分かった。でも少し休憩を…… お願い! 」
「ダメです。本当に時間が無いんですよ」
「もう嫌! 」
ガムに引っ張ってもらい走る。
そろそろ限界が近い。
体力にしろ気力にしろもう使い果たしている。
あと残されているとすれば火事場の馬鹿力ぐらいなもの。
果たしてこんな私にそんな力が残されているかしら。
もう時間がない。タイムリミットまで残り僅か。
凍り付くが先か? それとも……
ステーテルとガムの運命は如何に?
続く
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」
結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は……
短いお話です。
新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。
4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる