19 / 124
幼き王子
しおりを挟む
部屋から話し声が漏れる。
どうしよう……
「さあ行きますよ」
思い切って中に入る。
部屋には二人。少年とその世話係。
「ではごゆっくり」
男は出て行く。
少年は王子だとか。ついつい見とれてしまう。
これが噂の王子様。
この国の王子。まだ子供だ。
「ガム! お願い」
「ええ私から? 」
「だって…… 」
「騒がしい! 早く用件を言え! 」
イライラ気味の王子。ご機嫌斜め?
「うん。お嬢さん」
まだガキだと言うのに一丁前に格好をつける。
手にした剣を使い立ち上がる。
剣を鞘に戻し頭を下げる。
「これは失礼しました。私はこの国の第四王子シーシャ。兄上たちはここを離れており現在父上の帰りを待っているところです。どうぞお近づきの印に」
強引に引っ張られる。
ガムは助けてくれようとしない。
腕を掴むと手に軽くキス。
「何をするのですか! 」
一瞬の出来事。恥ずかしさから手を引っ込める。
「この無礼者! 王子とは言え許しませんよ! 」
「ははは! ただの挨拶ではないか 」
まだ幼いのか笑顔が可愛らしい。
年が離れているが彼も立派な王子。
十か条にも反していない。
できれば可愛らしい王子とは思っていたが…… まあいいでしょう。
ガムは相変わらず畏まっている。まあ王子であるから当然そうよね。
「私はステーテル。ニーチャットから参りました」
「噂は耳にしている。何でもド・ラボーだとか」
「あら詳しいのね。フフフ…… 」
「子供扱いしないでもらいたい! 」
「はいはい」
つい子供だと思って軽くあしらってしまう。
「ステーテルよ。気に入ったぞ! 」
もう単純なんだから。これだから子供は……
「あらあら王子様ったら可愛い」
「馬鹿にするな! 」
「ふふふ…… 」
いくら王子と言え子供相手。誰か話の分かる者を探さなくてはいけない。
「ねえ王子様。ここには他に誰も居ないのですか? 」
王子の表情が曇った。
「留守番役に爺がいたんだがもう年で寝ている。後の者は知らん! どこかに出かけたのだろう」
あらあら話の通じる大人はいないのね。
とりあえず部屋を用意してもらう。
詳しい話は明日にでも。
早朝。
王子の誘い。
「ちょうど退屈しておった。どうだ歩かないか」
「はい。王子」
素直に従う。ガムも一緒なら安心。
「よしこっちだ」
広場にやってきた。
ただ広いだけで何かがあるわけではない。
「小さい頃兄弟でよく玉を転がして遊んだものだ。兄上たちには最後まで敵わなかったな。
夏には村人を招待して盛大に遊んだ記憶がある。ああ懐かしい」
小さい頃って今でも十分に小さいんだけどな。
「ねえ王子。何か寒くありませんか」
「そうか気のせいだろ。まあいい。食事にしよう」
村々を回る。
フレンドリーな王子。
村の者からは慕われておりちょくちょくご馳走になるのだとか。
爽やかな朝とはいかずに何か重苦しい雰囲気。
靄なのか霧なのか良く分からないが視界を奪っている。
寒い! どうしたんだろう。なぜか異常に冷える。
風邪でも引いたかしら?
手は冷たい。血の気が引いている。
何だか嫌な予感。
体が何かに反応しているようだ。
第六感が働く。
ここを離れないさい。そう警告している気がする。
「ステーテル。どうしたこっちに来て食事をしよう」
王子ともあろう者が村人の質素な食事にありつこうなんてどうかしている。
どう考えてもおかしい。
「さあお嬢さんもどうぞ」
勧められては断れない。
ガムも一緒なら問題ないか。
きれいなお家。整理されていて物があまり置いておらず広々としていて快適……
というよりも広々しすぎていて違和感だらけ。
ここに本当に人は住んでいるの?
食事はどこから持ってきたのか?
どうやって作ったの?
ついつい見回してしまう。
「ああ。心配しないで。ここは広いだけが取り柄なんだ。昔はねよく集めてたんだけど。興味を失ってもうすべて捨てちまったよ」
「そうですか」
違和感はあるがまあ気にすることでもないか。
「ほら冷めないうちにどうぞ」
スープから匂う独特な臭い。
美味しいかと聞かれれば微妙と答えるしかない。
濃くてまずいのではなく薄くて味気ない。まあ健康にはいいでしょうけどね。
私はまだいいけれど王子はまだ子供。心配になる。
これはガムに頼るしか……
「結構なお味で! 」
ガムが褒め称える。
嘘でしょう? どこが?
どうやらガムは宮廷で出される豪勢な食事に飽きたらしい。
それだけではなく好みまで変わった?
ただ体に優しいものを欲しているのかは不明だが困ってしまう。
続く
どうしよう……
「さあ行きますよ」
思い切って中に入る。
部屋には二人。少年とその世話係。
「ではごゆっくり」
男は出て行く。
少年は王子だとか。ついつい見とれてしまう。
これが噂の王子様。
この国の王子。まだ子供だ。
「ガム! お願い」
「ええ私から? 」
「だって…… 」
「騒がしい! 早く用件を言え! 」
イライラ気味の王子。ご機嫌斜め?
「うん。お嬢さん」
まだガキだと言うのに一丁前に格好をつける。
手にした剣を使い立ち上がる。
剣を鞘に戻し頭を下げる。
「これは失礼しました。私はこの国の第四王子シーシャ。兄上たちはここを離れており現在父上の帰りを待っているところです。どうぞお近づきの印に」
強引に引っ張られる。
ガムは助けてくれようとしない。
腕を掴むと手に軽くキス。
「何をするのですか! 」
一瞬の出来事。恥ずかしさから手を引っ込める。
「この無礼者! 王子とは言え許しませんよ! 」
「ははは! ただの挨拶ではないか 」
まだ幼いのか笑顔が可愛らしい。
年が離れているが彼も立派な王子。
十か条にも反していない。
できれば可愛らしい王子とは思っていたが…… まあいいでしょう。
ガムは相変わらず畏まっている。まあ王子であるから当然そうよね。
「私はステーテル。ニーチャットから参りました」
「噂は耳にしている。何でもド・ラボーだとか」
「あら詳しいのね。フフフ…… 」
「子供扱いしないでもらいたい! 」
「はいはい」
つい子供だと思って軽くあしらってしまう。
「ステーテルよ。気に入ったぞ! 」
もう単純なんだから。これだから子供は……
「あらあら王子様ったら可愛い」
「馬鹿にするな! 」
「ふふふ…… 」
いくら王子と言え子供相手。誰か話の分かる者を探さなくてはいけない。
「ねえ王子様。ここには他に誰も居ないのですか? 」
王子の表情が曇った。
「留守番役に爺がいたんだがもう年で寝ている。後の者は知らん! どこかに出かけたのだろう」
あらあら話の通じる大人はいないのね。
とりあえず部屋を用意してもらう。
詳しい話は明日にでも。
早朝。
王子の誘い。
「ちょうど退屈しておった。どうだ歩かないか」
「はい。王子」
素直に従う。ガムも一緒なら安心。
「よしこっちだ」
広場にやってきた。
ただ広いだけで何かがあるわけではない。
「小さい頃兄弟でよく玉を転がして遊んだものだ。兄上たちには最後まで敵わなかったな。
夏には村人を招待して盛大に遊んだ記憶がある。ああ懐かしい」
小さい頃って今でも十分に小さいんだけどな。
「ねえ王子。何か寒くありませんか」
「そうか気のせいだろ。まあいい。食事にしよう」
村々を回る。
フレンドリーな王子。
村の者からは慕われておりちょくちょくご馳走になるのだとか。
爽やかな朝とはいかずに何か重苦しい雰囲気。
靄なのか霧なのか良く分からないが視界を奪っている。
寒い! どうしたんだろう。なぜか異常に冷える。
風邪でも引いたかしら?
手は冷たい。血の気が引いている。
何だか嫌な予感。
体が何かに反応しているようだ。
第六感が働く。
ここを離れないさい。そう警告している気がする。
「ステーテル。どうしたこっちに来て食事をしよう」
王子ともあろう者が村人の質素な食事にありつこうなんてどうかしている。
どう考えてもおかしい。
「さあお嬢さんもどうぞ」
勧められては断れない。
ガムも一緒なら問題ないか。
きれいなお家。整理されていて物があまり置いておらず広々としていて快適……
というよりも広々しすぎていて違和感だらけ。
ここに本当に人は住んでいるの?
食事はどこから持ってきたのか?
どうやって作ったの?
ついつい見回してしまう。
「ああ。心配しないで。ここは広いだけが取り柄なんだ。昔はねよく集めてたんだけど。興味を失ってもうすべて捨てちまったよ」
「そうですか」
違和感はあるがまあ気にすることでもないか。
「ほら冷めないうちにどうぞ」
スープから匂う独特な臭い。
美味しいかと聞かれれば微妙と答えるしかない。
濃くてまずいのではなく薄くて味気ない。まあ健康にはいいでしょうけどね。
私はまだいいけれど王子はまだ子供。心配になる。
これはガムに頼るしか……
「結構なお味で! 」
ガムが褒め称える。
嘘でしょう? どこが?
どうやらガムは宮廷で出される豪勢な食事に飽きたらしい。
それだけではなく好みまで変わった?
ただ体に優しいものを欲しているのかは不明だが困ってしまう。
続く
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」
結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は……
短いお話です。
新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。
4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる