2 / 124
盗賊
しおりを挟む旅は大変でございます。いきなりの展開。何の準備もしておりません。
もちろんガムだってそうでしょう。でもガムに任せておけばたぶん大丈夫。
馬車を調達。
「ステーテル? 」
疲れてウトウトしていたところを起こされる。
ガムが心配そうにこちらを見る。
「問題ありません」
山に差し掛かった。
この山を越えればサーチャット王国。
本来ならイーチャットを目指すべきところだが昔のことがばれてはまずいので行くわけにはいかない。
そうだ! 肝心な世界観をお教えしていなかったわね。
世界は九つの小国によって成り立っています。
その中でもイーチャットが実質支配している強国。
それ以外は拮抗している。
今は大分落ち着いているがいつまた争いが本格化するか分からない。このまま平和な世界が続けばいいんだけど。
うおおお!
外が騒がしい。何かしら?
「ガムお願い」
馬車の速度が落ちる。
銀貨一枚で道案内を任せたのがまずかったかしら?
ガムがけちるから。こういう所で足元を見られるんだわ。
トントン
トントン
「今すぐ逃げましょう。盗賊が! 盗賊が! 」
盗賊? 何それ?
前から初老の男が懇願する。
「はあ? かっ飛ばしなさいよ! 」
「ステーテル! 」
ガムにたしなめられる。
「無茶を言われても困る。もう囲まれておるわ」
「もうしょうがないわね」
ガムを見る。
薄暗い登り道に松明を持った野蛮な男たち。少なくても五人はいる。
「おい、早く出てこい! 」
まったく困った人たちね。
「俺たちはここを縄張りにしているハッシャの者だ! 」
ハッシャってあの悪名高い盗賊。まずいわね。
「出てこないならこっちから行くぞ! 」
うおお!
いつの間にかお爺さんは逃げてしまった。
「しょうがないわね。ガムよろしく」
ガムは優秀な付き人。どんな状況でも冷静沈着。
「任せてください」
馬を走らせる。
「馬鹿め。逃げ切れるわけないだろ! 」
馬車を囲む。包囲網はすでに出来上がっている。
松明でも投げ込まれた日にはどうにもならない。
どうしよう……
ガムを見る。
彼女はまったく動揺していない。それどころか笑っている?
「王の命令であるぞ! そこをどくのだ! 」
ガムの迫真の演技。さらに畳みかける。
「ニーチャット次期国王の命を受けている。邪魔をする者は国王を敵に回したと思っていいな? 」
もちろん命など受けていない。ハッタリでしかないが使える物は何でも使うのが本当のプロ。
すなわちガムの交渉術なのだ。
「誰が信じるか証拠を見せてみろ! 」
「王に確認せよ! 」
「ふふふ…… 馬鹿め。その手は食わん! 」
引き下がってくれない。
久しぶりに現れた獲物。簡単には通してくれそうにない。
「分かりました」
ガムによって馬車から降ろされる。
「へへへ…… イイ女じゃねえか! 」
松明に照らされた私はそれはきれいで皆を魅了してしまう。
本来ならこのような卑しい者に顔を晒すのはご法度。
穢れてしまう。それだけで転落してしまう。
どうしましょう。
「こちらのステーテル様は何とド・ラボーの資格を持った選ばれし者なのです。この書がその証拠。ご確認くださいませ」
そう言うと男の一人に渡す。
冷静で男相手に一歩も退かない強いガム。尊敬しちゃうな。
男は目を通すと頭を下げ離れる。
「通してやれ」
「親分! 」
「本当によろしいんですか? 」
不満そうな手下。
黙らせる。
「何をしてる? 早くしねえか! 」
盗賊たちは何も取らずに引き上げて行った。
さすがに奴らも国王には逆らえない。そんなことをすれば命はないのだから。
一人ではない。皆が火あぶりにあうのだ。
ガムはそのことを理解していたから強気に出れる。
実際は追われる身。
「ガム…… 」
「さあ参りましょう」
馬車を操る者はもういない。代わりにガムが動かすことに。
予定よりも遅れてしまった。急がなければ!
夜のうちにサーチャットに入る。
続く
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

元カレの今カノは聖女様
abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」
公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。
婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。
極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。
社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。
けれども当の本人は…
「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」
と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。
それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。
そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で…
更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。
「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」
結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は……
短いお話です。
新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。
4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる