夏への招待状 失われた記憶と消えゆく少女たち 無人島脱出お宝大作戦

二廻歩

文字の大きさ
上 下
58 / 61

運命の日

しおりを挟む
とりあえず休憩。
うーん。いい気分だ。

サクサク
ザクザク
変な音がする。

ザクザク
ザクザク
幻聴? いや違う。
やはり聞こえる。何だ?
「お兄ちゃん! お兄ちゃん! 」

ザクザク
ザクザク
遠くの方でリンが呼びかけている。だが何を言っているのかよく聞き取れない。
俺はどうしちまった?
頭が! 頭が!
痛い。もうダメだ! リン!

目を覚ます。
「おい大丈夫か? 」
見覚えのない顔があった。
もしかしたらどこかで会ったことがあるのかもしれないがいまいち思い出せない。

「ああ、もう一度言ってくれ? 」
「手伝ってくれないか? 俺一人の手では無理なんだ」
「しかし…… 」
「あったんだよ! 」 
「そんな馬鹿な! 」
「おいおい。そんな顔をするなよ。分け前ならやるから」
「分け前? 要らないよ! 」
「頭の固い奴だな! 俺たちが協力すれば簡単さ」
「やっぱりやるのか? 」
「ああ。当然だろ」
「だって興味ないって…… 」
「あの時はそうだったさ。だが今の俺は違う」
「やっぱりね…… こうなると思ったよ」
「おい! どうした? 」
「ごめんね」
「なぜ謝る? 」
「こうするしかないんだ」
「止めろ! 止めてくれ! 」
うわああ!
「ゲンジ! ゲンジ! 俺が…… 」

「お兄ちゃん! お兄ちゃん! 」
「うん? リン! リンなのか? 」
「どうしたの? うなされていたよ」
リンの姿を捉えた。

「いやちょっとな…… 」
疲れて寝てしまったようだ。
「大丈夫? 」
「問題ない。もう用は済んだろ? 」
「うん」
「よし帰るぞ! 」
「お兄ちゃん待って! 」

うん? 太陽が隠れてしまった。
風が強まっている。
空も暗くなり始めた。
これはよくない兆候だ。
一雨くるか?
「急ごう! 」
「うん! 」

山を離れFLを経由して岩場近くまで走ってきた。
「リンしっかり掴まれ! 」
一歩も動けないと駄々をこねたので背負ってやることにした。
「早く帰ろうよお兄ちゃん! 」
「ああ。分かってるから騒ぐな! 」

雷が遠くの空から聞こえる。
まずい。これはヤバイ。
十分もしないうちに雷雨となった。

「ぐぉ! 」
リンが首を絞める。
「何しやがるリン? 」
「怖いよう! 怖いよう! 」
まったく……
「急ごう。もうコテージもすぐそこだ」
「お兄ちゃん頑張って! 」
「リン! しっかり掴まれ! 」
「ほーい」
ぎゅうう!

「リン? あれリン? 」
呼び掛けには応じない。
眠ってしまったのか?
なぜか異様に軽い。
まるで感じない。
リンの重さも温かみも感じられない。
どうしてしまったんだ?

「リン! リン! 」
「ごめんね。お兄ちゃん! 」
「謝るな! 何を言っている? 」

ギャーン!
ガガガーン!
その時雷が落ちた。
物凄い音を立て近くの木に落雷。
危うく直撃するところだった。

「くそ! まずいぞ! 」
ダッシュ!
よしビーチだ。
コテージは目の前。
雷が直撃する前にコテージに駆け込む。
ふう。助かった。
ガガガーン!
またどこかに落ちたらしい。
危ない。危ない。
難を逃れた。

「リン! 助かったぞ! リン! 」
「ああ。お兄ちゃん。ごめん眠っちゃった」
目を擦り欠伸をするリン。
朝食べ残したリンゴをかじる。
「お兄ちゃんもどう? 」
「ああ。ありがとう」
「ホイ」
お礼だそうだ。

さあ食事にするかな。
と言っても今日は何も取ってこなかった。
缶詰ももうない。
仕方なくリンゴで腹を誤魔化す。
「おやすみ」
雷も収まり辺りは静けさに包まれた。

翌朝。
ビーチに人影。
「リンよ。お前には悪いが今日で最後となる」
「うん? リン分かんない! 」
「甘えた声を出すな! これは忠告だ」
「ええっ? 」
「もう奴も限界だ」
「お兄ちゃん…… 」
「昨日のことで封印した記憶が完全に蘇ってしまった。残念だよ。君が消えてなくなるのが実に惜しい」
「そんな…… 」
「伝えたからな。後は勝手にしろ! 」

「お兄ちゃん…… 」
いつまでもその場を動こうとしないリン。
ショックが大きすぎる。

「ちっ! 余計なことをしちまったかな。あーあ。俺もお人好しだな。これでまた振り出しか」

昼。
うーん。良く寝た。
リン? リン?
リンの姿が見えない。
また勝手にどこかに行ったのだろう。

うん? 何だこのメモは?
『もう時間が無い! 』
『リンを救ってやれ! 』
何だこれ? 気持ち悪い。

リン? そうだリンを探さなくては。
おーい! リーン!
返事が無い。
近くにはいないようだ。
仕方がないなあまったく……

運命の日。

「リン! リン! 」
やっぱりそこにいたか。
リンは泉の前にボーっと突っ立っていた。

「お兄ちゃん…… 」
「どうした浮かない顔をして? 」
「リンね。今日でお終いなの」
「うん? どういうことだ? 」
「お兄ちゃんの記憶が戻るんだって。良かったね」
いい訳が無い。リンだってそれくらい分かるはず。

「怖いお兄ちゃんが言ってたよ。もう時間の問題だって」
「あいつまだそんな戯言を? これは俺たちを嵌める罠だ。心配なんてしなくていい! 」
「ありがとうお兄ちゃん。でもね…… リンなんとなく分かるんだ」
「分かる? 馬鹿な! 勘違いに決まってる! 」
「もうすぐ消えて無くなる。リンいなくなっちゃうんだよ」
「惑わされるな! これは奴の周到な作戦だ」
「でも…… 体にも変化があるし…… 」
体? そう言えば昨日背負った時はかなり軽かったような気がする。

「リン! 」
「ごめんねお兄ちゃん。リン行くね」
「リン! 待ってくれ! 」

やはりリンも他の者同様求めている。
瞳が訴えている。

リンは受け入れた。
自分の運命から逃れようとはしていない。
自然に受け入れようとしている。

「リン! 」
「お兄ちゃん! 」

ついに恐れていたことが起きた。
気をつけていたつもりだったのに。
思い出したくないものを思い出し、
失いたくないものを失くしてしまう。

これで俺は独りぼっちだ。

                【続】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【毎日20時更新】アンメリー・オデッセイ

ユーレカ書房
ミステリー
からくり職人のドルトン氏が、何者かに殺害された。ドルトン氏の弟子のエドワードは、親方が生前大切にしていた本棚からとある本を見つける。表紙を宝石で飾り立てて中は手書きという、なにやらいわくありげなその本には、著名な作家アンソニー・ティリパットがドルトン氏とエドワードの父に宛てた中書きが記されていた。 【時と歯車の誠実な友、ウィリアム・ドルトンとアルフレッド・コーディに。 A・T】 なぜこんな本が店に置いてあったのか? 不思議に思うエドワードだったが、彼はすでにおかしな本とふたつの時計台を巡る危険な陰謀と冒険に巻き込まれていた……。 【登場人物】 エドワード・コーディ・・・・からくり職人見習い。十五歳。両親はすでに亡く、親方のドルトン氏とともに暮らしていた。ドルトン氏の死と不思議な本との関わりを探るうちに、とある陰謀の渦中に巻き込まれて町を出ることに。 ドルトン氏・・・・・・・・・エドワードの親方。優れた職人だったが、職人組合の会合に出かけた帰りに何者かによって射殺されてしまう。 マードック船長・・・・・・・商船〈アンメリー号〉の船長。町から逃げ出したエドワードを船にかくまい、船員として雇う。 アーシア・リンドローブ・・・マードック船長の親戚の少女。古書店を開くという夢を持っており、謎の本を持て余していたエドワードを助ける。 アンソニー・ティリパット・・著名な作家。エドワードが見つけた『セオとブラン・ダムのおはなし』の作者。実は、地方領主を務めてきたレイクフィールド家の元当主。故人。 クレイハー氏・・・・・・・・ティリパット氏の甥。とある目的のため、『セオとブラン・ダムのおはなし』を探している。

磯村家の呪いと愛しのグランパ

しまおか
ミステリー
資産運用専門会社への就職希望の須藤大貴は、大学の同じクラスの山内楓と目黒絵美の会話を耳にし、楓が資産家である母方の祖母から十三歳の時に多額の遺産を受け取ったと知り興味を持つ。一人娘の母が亡くなり、代襲相続したからだ。そこで話に入り詳細を聞いた所、血の繋がりは無いけれど幼い頃から彼女を育てた、二人目の祖父が失踪していると聞く。また不仲な父と再婚相手に遺産を使わせないよう、祖母の遺言で楓が成人するまで祖父が弁護士を通じ遺産管理しているという。さらに祖父は、田舎の家の建物部分と一千万の現金だけ受け取り、残りは楓に渡した上で姻族終了届を出して死後離婚し、姿を消したと言うのだ。彼女は大学に無事入学したのを機に、愛しのグランパを探したいと考えていた。そこでかつて住んでいたN県の村に秘密があると思い、同じ県出身でしかも近い場所に実家がある絵美に相談していたのだ。また祖父を見つけるだけでなく、何故失踪までしたかを探らなければ解決できないと考えていた。四十年近く前に十年で磯村家とその親族が八人亡くなり、一人失踪しているという。内訳は五人が病死、三人が事故死だ。祖母の最初の夫の真之介が滑落死、その弟の光二朗も滑落死、二人の前に光二朗の妻が幼子を残し、事故死していた。複雑な経緯を聞いた大貴は、専門家に調査依頼することを提案。そこで泊という調査員に、彼女の祖父の居場所を突き止めて貰った。すると彼は多額の借金を抱え、三か所で働いていると判明。まだ過去の謎が明らかになっていない為、大貴達と泊で調査を勧めつつ様々な問題を解決しようと動く。そこから驚くべき事実が発覚する。楓とグランパの関係はどうなっていくのか!?

総務の黒川さんは袖をまくらない

八木山
ミステリー
僕は、総務の黒川さんが好きだ。 話も合うし、お酒の趣味も合う。 彼女のことを、もっと知りたい。 ・・・どうして、いつも長袖なんだ? ・僕(北野) 昏寧堂出版の中途社員。 経営企画室のサブリーダー。 30代、うかうかしていられないなと思っている ・黒川さん 昏寧堂出版の中途社員。 総務部のアイドル。 ギリギリ20代だが、思うところはある。 ・水樹 昏寧堂出版のプロパー社員。 社内をちょこまか動き回っており、何をするのが仕事なのかわからない。 僕と同い年だが、女性社員の熱い視線を集めている。 ・プロの人 その道のプロの人。 どこからともなく現れる有識者。 弊社のセキュリティはどうなってるんだ?

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

【完結】深海の歌声に誘われて

赤木さなぎ
ミステリー
突如流れ着いたおかしな風習の残る海辺の村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観! ちょっと不思議で悲しくも神秘的な雰囲気をお楽しみください。 海からは美しい歌声が聞こえて来る。 男の意志に反して、足は海の方へと一歩、また一歩と進んで行く。 その歌声に誘われて、夜の冷たい海の底へと沈んで行く。 そして、彼女に出会った。 「あなたの願いを、叶えてあげます」 深海で出会った歌姫。 おかしな風習の残る海辺の村。 村に根付く“ヨコシマ様”という神への信仰。 点と点が線で繋がり、線と線が交差し、そして謎が紐解かれて行く。 ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― 短期集中掲載。毎日投稿します。 完結まで執筆済み。約十万文字程度。 人によっては苦手と感じる表現が出て来るかもしれません。ご注意ください。 暗い雰囲気、センシティブ、重い設定など。

日月神示を読み解く

あつしじゅん
ミステリー
 神からの預言書、日月神示を読み解く

俺が咲良で咲良が俺で

廣瀬純一
ミステリー
高校生の田中健太と隣の席の山本咲良の体が入れ替わる話

「蒼緋蔵家の番犬 1~エージェントナンバーフォー~」

百門一新
ミステリー
 雪弥は、自身も知らない「蒼緋蔵家」の特殊性により、驚異的な戦闘能力を持っていた。正妻の子ではない彼は家族とは距離を置き、国家特殊機動部隊総本部のエージェント【ナンバー4】として活動している。  彼はある日「高校三年生として」学園への潜入調査を命令される。24歳の自分が未成年に……頭を抱える彼に追い打ちをかけるように、美貌の仏頂面な兄が「副当主」にすると案を出したと新たな実家問題も浮上し――!? 日本人なのに、青い目。灰色かかった髪――彼の「爪」はあらゆるもの、そして怪異さえも切り裂いた。 『蒼緋蔵家の番犬』 彼の知らないところで『エージェントナンバー4』ではなく、その実家の奇妙なキーワードが、彼自身の秘密と共に、雪弥と、雪弥の大切な家族も巻き込んでいく――。 ※「小説家になろう」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...