夏への招待状 失われた記憶と消えゆく少女たち 無人島脱出お宝大作戦

二廻歩

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デジャブ

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ビーチに戻る。
「よしあのボートまで競争だ」
「おう! 」
「リン? 」

何のためらいもなく衣服を脱ぎ捨てるリン。
立派と言うか脱ぎっぷりがいいと言うか。
俺には到底真似できない。
まあ結局のところリンのかわいらしい体つきに見とれているだけなんだが。
兄妹だよね?

「ほらお兄ちゃんも」
「しかし…… 」
「もう遅いよ! 」
痺れを切らすリン。
「裸ではちょっと…… 心の準備もあるし…… 」
「お先! 」
「待てリン! ずるいぞ! 」
先を越される。
服を脱ぎ海に入った瞬間に決着。

「明日の水当番はお兄ちゃんだからね。分かった! 」
「聴いてないぞ! 」
「リンが決めたんだから文句言わない! 」
「よし分かった。今度は釣りで勝負しよう」
「うん。いーよ」

明後日の水汲みを賭けて釣り対決。
岩場に移動してフィッシング。
より大きい方を勝ちとする。

「負けないからね」
フン。腕力も体力も経験も上。
負けるはずがない。
慎重に慎重に。焦らなければ勝てる。
「わーい! お兄ちゃん! 」
大はしゃぎのリン。
これでは一生魚など釣れはしない。
余裕。勝負あったな。

「ああ! 引いてる」
強烈な引きにリンが持って行かれそうになる。
「お兄ちゃん! 」
「誰が助けてやるものか。自分で何とかしろ! 」
静かに我慢強く糸を垂らしていた俺よりも先になぜリンの方に獲物が寄ってくるのだろうか?
不思議でならない。

「わーい! 釣れたよ」
良型の鯛モドキ。
「くそ! 負けてられるか! 」
闘争心に火がつく。

「場所を代われ! 」
「ええ? ここはリンの指定席」
「うるさい! 早くしろ! 」
「お兄ちゃんが怒った! 」
リンが下を向く。
泣かせてしまったか? 
「悪かったよリン。大人げなかった」
リンは笑顔を見せる。
どうやら嘘泣きだったようだ。

「くそ! 」 
結局小さいの一匹しか釣れなかった。
リンの勝ち。
明後日の水汲みは行ってきてやるしかない。
「帰るか」
「うん! 」
リンは大きな魚。
俺は小魚。
あーあ! やってられない。

釣った魚を今夜のメインディッシュに。
「頂きます」
少ない……
「リン。少し分けてくれ。どうせ喰いきれないだろ? 」
「これはリンの。リンが釣ったんだから! 」
「ちょっとだけでいいから。頼むよ」
「もう! 少しだけだよ。ほら口開けて」
「うん? 」 
言われるがまま大きく開ける。

「ほらどうぞ! 」
身も骨も一緒に突っ込む。
ゴッホゴッホ。
「美味しい? 」
「何しやがるリン! 」
「えへへへ。お兄ちゃんが怒った」
「リン! 」
「えへへへ」
「そこを動くな! 取っ捕まえてやる! 」
「嫌だ! お兄ちゃん許して! 」
「もう遅い! リン! 捕まえてやる! 」
「あーん。もうお兄ちゃん」

目が合う。
リンは目を閉じる。
何を期待している?
俺たちは兄妹じゃないか。
「ねえお兄ちゃん早く! 」
リンを持ち上げベットに投げつける。
「もう寝ろ! 」
「うーん。つまんない」
「おやすみなさい」
二人はベッドで抱き合うように眠る。

仲の良い兄妹。
傍から見ればそうだろう。
しかし俺は耐えねばならない。
リンへの思いと雑念。
「お兄ちゃん…… 」
「リン! まったくこいつは…… 」

夢さえ見てはいけない。
もしリンとの夜の営みの夢でも見た日にはすべてが終わってしまう。
いつの間にか居なくなってるなどあってはならない。
「お兄ちゃん…… 」
「おやすみリン」

翌朝。
男の前に少女の姿があった。
リンだ。

「誘惑しろと言っただろ! 」
「ええ? したよ」
「ではなぜあいつが目覚めない? 」
「そんなのリン分からない! 」
「絶対に引っかかると思ったんだが。まあいい。少しは奴も反省しただろう。
まったく俺に逆らおうとしても無駄なんだよ」
「お兄ちゃん? 」
「リンよ。もういいぞ。行っちまえ! 」
「ほーい」

こうして二週間が経った。
その間何事もなく楽しく過ごすことができた。
リンとの生活にも慣れてきた。

慣れと共に飽きが生じる。
「早く帰りたい…… 」
心にもないことを言う毎日。
リンといつまでも。
しかしそうもいかないらしい。
抑えていたものが暴走する。
もう自分では自分を抑えられない。

昼。
リン? リン? 
またどこかに行ってしまった?
まったく…… しょうがないな。
リン! リン!
勝手にどこかに行ってしまうとは困った奴だ。
立ち寄りそうな場所をすべて確認したが居なかった。
すると残るはあそこしかないか。

やっぱり。
登山入口を少し下ったところにある一軒のあばら屋。
隠れ家である。
元々誰かが住んでいたのだろう。

気配を感じる。

戸を叩く。
「おいリン! リン! 」
「ああ。お兄ちゃん」
「何をしている? 」
「ちょっと掃除」
リンらしくないがどうやら一週間に一度きれいにしているとのこと。

「お兄ちゃんも手伝って! 」
「ええ? 俺が? 」
タイミングが悪い。もう少し後に来ればよかったか……
「ほら早く! 」
リンが張り切る。
「掃き掃除が終わったから拭き掃除やって」
まったく面倒くさいなあ。
渋々手伝うことにした。

ここには俺たち二人しかいないのだ。
分担して何でもやるのが決まり。まあ当たり前のことだが。

あれ? 既視感…… うん?
 
「なあリン。俺たちここで似たようなことしなかったか? 」
「ううん」
「そうか。勘違いか」
「ほらお兄ちゃん。そっち持って! 」

一枚の風景画。
埃を取り除く。

この絵は確か?
ピクチャー?
どうも懐かしい。
なぜだろう?

「お兄ちゃん。次はこっちだよ」
奥の部屋へ。

「まったくこの辺で勘弁してくれよ! 」
「もう! お兄ちゃん? 」 
リンが膨れる。
怒った顔も実にかわいらしい。

庭の手入れを終えフィニッシュ。

「お疲れ。お兄ちゃん」
リンがどこからかお酒を持ってきた。
「飲もうか? 」
「ああ」
「リンはダメだぞ! 」
「分かってるよ。リンは飲めないもん」
「よしさっそく飲むか」
「おう! 」

リンは砂糖水で我慢。
「甘すぎるよお兄ちゃん」
「そうか入れ過ぎたか。悪い悪い」
水に貴重な砂糖を混ぜて甘くしてやる。
だがなかなか濃くならないのでどっさり入れる。
それがいけなかったのかリンからクレームが入る。
「リン! 」
「お兄ちゃん! 」

何事もなく過ぎて行く平和な日々。
しかしそんな平和な日々も終わりを迎える。

                    【続】
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