56 / 61
秘祭
しおりを挟む
WA地点。
「ごめんお兄ちゃん。お詫びの印に私脱ぐね」
「はああ? 」
いきなりのことに言葉が出てこない。
「ちょっと待て…… 」
リンは迷うことなくすべてを脱ぎ捨てた。
「おいリン! 何をやっている? 」
「えへへ」
リン…… 止めてくれと言うのもおかしいよな。
別に気にするようなことでもないし……
だが変な気を起こしてしまえばすべて終わりだ。
俺らは兄妹だ。何の問題もないが念の為。
「どうしたのお兄ちゃん? お兄ちゃんも早く! 」
「おいバカ! 妹だろ? 」
約束したばかりだと言うのにリンは忘れてしまったのか?
まあ三日も経てば忘れるのがリンなのだから仕方ないか……
目を瞑る。
「どうしたの? 」
「止めてくれ! 理性が理性が! 」
「えへへへ。 本当は薄目を開けてるでしょう? 」
「馬鹿を言え! 」
「いいんだよ。好きにして」
「何? 」
「だからいいんだよ。お兄ちゃん」
無防備なリン。
どうしてこうなってしまった?
「リン。止めてくれ! 頼む! 」
「何でお兄ちゃんは付き合ってくれないの? 」
「無茶を言うな! 」
「一緒に裸になろう。それがこの辺りの伝統だよ」
「伝統? 」
「陽祭りって知ってる? 」
「いや俺はこの島は初めてだからな。詳しくは知らない」
「じゃあ。リンが教えてあげる」
「リン。ちょっと待て! なぜお前がそのことを? 」
「だって…… 教えてもらったから」
「誰にだ? 」
「博士かな…… 」
博士? そう言えばそんな話してたっけ。でも話に聞いただけだしな……
「陽祭りは隣の島の伝統的なお祭り」
そんな文化があったとは知らなかった。まあ興味もなかったが……
リンが適当に言っている可能性もゼロではないがまあ信じてやるか。
「この祭りは年に一回行われていて島の外の者がその日はとばかりに押し寄せてくる島民にとっての一大イベント。でもそれは表向き」
「リン…… 」
「観光客が帰って日が暮れたころに本当のお祭り。月祭りが島の者だけで行われる」
陽祭りに続いて月祭り。
一度は参加してもいいかもな。
「真っ暗な中で男は上半身裸。女は真っ裸。
そうやって若い男女が品定めをする夏のお祭り。
島の伝統的な儀式であり秘祭なんだって。面白そうでしょう? 」
「ああ。迫力があるな」
「だからお兄ちゃんも一緒にやろうよ」
「しかし…… 」
「ほら早く! 」
「でも…… 」
「誰も見てないよ」
確かにそうだ。リンの言う通り。
俺が怖気づいてどうする?
恥ずかしいなどおかしい。
誰もここには居ないのだから。
見られる心配はない。
恥ずかしいという感情が芽生えるのはおかしい。
仮にリンが素っ裸で歩こうと見る者がいない。
見られる対象が存在しないのだ。
視線も感情もどこかへと置いてきてしまった。
もう何も気にする必要はないのだ。
この島は自由なのだ。
リンと俺との楽園。
決して誰にも侵されることはない。
理想の楽園。
「お兄ちゃん早く! 」
そうであるが故に美しい。
リンは神々しいほどに美しくそして儚い。
光り輝く少女リン。
ああ俺はもうどうすることもできない。
我慢しきれずに服を脱ぐ。
「リン待ってろよ! 」
「お兄ちゃん! 」
二度ならず三度までも禁を破り絶望へと走っていく。
この島の掟を守らない者には必ず罰が下る。
それは痛い程経験したと言うのに俺はちっとも懲りていない。
自分が情けない。
「リン! 」
「お兄ちゃん! 」
「俺に良く見せてくれリン! 」
ああ終わった。
もう引き返すことは不可能。
どんどん引き寄せられていく。
リンから誘惑したのは間違いない。
だがその理由が分からない。
リン自身が消えると分かっていながら禁を破り交わろうとする。
俺はやはり応えてやるべきだろう。
リンの想いに応えてやらなくては。
さあ覚悟を決めよう。
「リン! 」
「お兄ちゃん! 」
抱き合う。
もう我慢できない。
「さあ行こう! 新たな世界へ」
楽園追放。
「はいストップ! 」
リンが待ったをかける。
「どうしたリン? 」
「リンはお兄ちゃんの命令に従っただけ」
「うん? 俺の命令? 」
「違うよ。怖い方のお兄ちゃんだよ」
「ああもう一人の俺か」
「うん。怖いお兄ちゃんがお兄ちゃんを誘惑しろって…… 」
リンの肩を掴む。
「それは本当かリン? 」
「リンもこんなことしたくなかった。でも怖いお兄ちゃんには逆らえないから…… 」
確かに…… ずいぶん強引だとは思っていたが裏があったか。
俺を…… いや二人を嵌めようとしやがった。
「心当たりはあるか? 」
「うーん。リンは子供だから分からない」
何にせよ狙われたのは確か。
危うくすべてを失うところだった。
理性を保たなくてはダメだ。
自分にいくら言い聞かせたところでリンが本気を出せば逃れることは不可能。
「リン! 」
「お兄ちゃん! 」
「お前は妹だよな? 」
「うん。お兄ちゃんがそう言うなら」
「だから俺はお前に変な気を起こそうとは思わない。リンも協力してくれ」
どうにか説得に成功。
「うーん。抱き着くのは? 」
「危険だから止めろ! 」
「おはようのキスは? 」
「嬉しいが極力抑えてくれ」
「もーう。つまんない! 」
リンはむくれる。
妥協案を探る。
「一緒に泳ぐぐらいはいいぞ」
「やった! じゃあ。さっそく…… 」
ビーチに戻る。
【続】
「ごめんお兄ちゃん。お詫びの印に私脱ぐね」
「はああ? 」
いきなりのことに言葉が出てこない。
「ちょっと待て…… 」
リンは迷うことなくすべてを脱ぎ捨てた。
「おいリン! 何をやっている? 」
「えへへ」
リン…… 止めてくれと言うのもおかしいよな。
別に気にするようなことでもないし……
だが変な気を起こしてしまえばすべて終わりだ。
俺らは兄妹だ。何の問題もないが念の為。
「どうしたのお兄ちゃん? お兄ちゃんも早く! 」
「おいバカ! 妹だろ? 」
約束したばかりだと言うのにリンは忘れてしまったのか?
まあ三日も経てば忘れるのがリンなのだから仕方ないか……
目を瞑る。
「どうしたの? 」
「止めてくれ! 理性が理性が! 」
「えへへへ。 本当は薄目を開けてるでしょう? 」
「馬鹿を言え! 」
「いいんだよ。好きにして」
「何? 」
「だからいいんだよ。お兄ちゃん」
無防備なリン。
どうしてこうなってしまった?
「リン。止めてくれ! 頼む! 」
「何でお兄ちゃんは付き合ってくれないの? 」
「無茶を言うな! 」
「一緒に裸になろう。それがこの辺りの伝統だよ」
「伝統? 」
「陽祭りって知ってる? 」
「いや俺はこの島は初めてだからな。詳しくは知らない」
「じゃあ。リンが教えてあげる」
「リン。ちょっと待て! なぜお前がそのことを? 」
「だって…… 教えてもらったから」
「誰にだ? 」
「博士かな…… 」
博士? そう言えばそんな話してたっけ。でも話に聞いただけだしな……
「陽祭りは隣の島の伝統的なお祭り」
そんな文化があったとは知らなかった。まあ興味もなかったが……
リンが適当に言っている可能性もゼロではないがまあ信じてやるか。
「この祭りは年に一回行われていて島の外の者がその日はとばかりに押し寄せてくる島民にとっての一大イベント。でもそれは表向き」
「リン…… 」
「観光客が帰って日が暮れたころに本当のお祭り。月祭りが島の者だけで行われる」
陽祭りに続いて月祭り。
一度は参加してもいいかもな。
「真っ暗な中で男は上半身裸。女は真っ裸。
そうやって若い男女が品定めをする夏のお祭り。
島の伝統的な儀式であり秘祭なんだって。面白そうでしょう? 」
「ああ。迫力があるな」
「だからお兄ちゃんも一緒にやろうよ」
「しかし…… 」
「ほら早く! 」
「でも…… 」
「誰も見てないよ」
確かにそうだ。リンの言う通り。
俺が怖気づいてどうする?
恥ずかしいなどおかしい。
誰もここには居ないのだから。
見られる心配はない。
恥ずかしいという感情が芽生えるのはおかしい。
仮にリンが素っ裸で歩こうと見る者がいない。
見られる対象が存在しないのだ。
視線も感情もどこかへと置いてきてしまった。
もう何も気にする必要はないのだ。
この島は自由なのだ。
リンと俺との楽園。
決して誰にも侵されることはない。
理想の楽園。
「お兄ちゃん早く! 」
そうであるが故に美しい。
リンは神々しいほどに美しくそして儚い。
光り輝く少女リン。
ああ俺はもうどうすることもできない。
我慢しきれずに服を脱ぐ。
「リン待ってろよ! 」
「お兄ちゃん! 」
二度ならず三度までも禁を破り絶望へと走っていく。
この島の掟を守らない者には必ず罰が下る。
それは痛い程経験したと言うのに俺はちっとも懲りていない。
自分が情けない。
「リン! 」
「お兄ちゃん! 」
「俺に良く見せてくれリン! 」
ああ終わった。
もう引き返すことは不可能。
どんどん引き寄せられていく。
リンから誘惑したのは間違いない。
だがその理由が分からない。
リン自身が消えると分かっていながら禁を破り交わろうとする。
俺はやはり応えてやるべきだろう。
リンの想いに応えてやらなくては。
さあ覚悟を決めよう。
「リン! 」
「お兄ちゃん! 」
抱き合う。
もう我慢できない。
「さあ行こう! 新たな世界へ」
楽園追放。
「はいストップ! 」
リンが待ったをかける。
「どうしたリン? 」
「リンはお兄ちゃんの命令に従っただけ」
「うん? 俺の命令? 」
「違うよ。怖い方のお兄ちゃんだよ」
「ああもう一人の俺か」
「うん。怖いお兄ちゃんがお兄ちゃんを誘惑しろって…… 」
リンの肩を掴む。
「それは本当かリン? 」
「リンもこんなことしたくなかった。でも怖いお兄ちゃんには逆らえないから…… 」
確かに…… ずいぶん強引だとは思っていたが裏があったか。
俺を…… いや二人を嵌めようとしやがった。
「心当たりはあるか? 」
「うーん。リンは子供だから分からない」
何にせよ狙われたのは確か。
危うくすべてを失うところだった。
理性を保たなくてはダメだ。
自分にいくら言い聞かせたところでリンが本気を出せば逃れることは不可能。
「リン! 」
「お兄ちゃん! 」
「お前は妹だよな? 」
「うん。お兄ちゃんがそう言うなら」
「だから俺はお前に変な気を起こそうとは思わない。リンも協力してくれ」
どうにか説得に成功。
「うーん。抱き着くのは? 」
「危険だから止めろ! 」
「おはようのキスは? 」
「嬉しいが極力抑えてくれ」
「もーう。つまんない! 」
リンはむくれる。
妥協案を探る。
「一緒に泳ぐぐらいはいいぞ」
「やった! じゃあ。さっそく…… 」
ビーチに戻る。
【続】
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【毎日20時更新】アンメリー・オデッセイ
ユーレカ書房
ミステリー
からくり職人のドルトン氏が、何者かに殺害された。ドルトン氏の弟子のエドワードは、親方が生前大切にしていた本棚からとある本を見つける。表紙を宝石で飾り立てて中は手書きという、なにやらいわくありげなその本には、著名な作家アンソニー・ティリパットがドルトン氏とエドワードの父に宛てた中書きが記されていた。
【時と歯車の誠実な友、ウィリアム・ドルトンとアルフレッド・コーディに。 A・T】
なぜこんな本が店に置いてあったのか? 不思議に思うエドワードだったが、彼はすでにおかしな本とふたつの時計台を巡る危険な陰謀と冒険に巻き込まれていた……。
【登場人物】
エドワード・コーディ・・・・からくり職人見習い。十五歳。両親はすでに亡く、親方のドルトン氏とともに暮らしていた。ドルトン氏の死と不思議な本との関わりを探るうちに、とある陰謀の渦中に巻き込まれて町を出ることに。
ドルトン氏・・・・・・・・・エドワードの親方。優れた職人だったが、職人組合の会合に出かけた帰りに何者かによって射殺されてしまう。
マードック船長・・・・・・・商船〈アンメリー号〉の船長。町から逃げ出したエドワードを船にかくまい、船員として雇う。
アーシア・リンドローブ・・・マードック船長の親戚の少女。古書店を開くという夢を持っており、謎の本を持て余していたエドワードを助ける。
アンソニー・ティリパット・・著名な作家。エドワードが見つけた『セオとブラン・ダムのおはなし』の作者。実は、地方領主を務めてきたレイクフィールド家の元当主。故人。
クレイハー氏・・・・・・・・ティリパット氏の甥。とある目的のため、『セオとブラン・ダムのおはなし』を探している。

磯村家の呪いと愛しのグランパ
しまおか
ミステリー
資産運用専門会社への就職希望の須藤大貴は、大学の同じクラスの山内楓と目黒絵美の会話を耳にし、楓が資産家である母方の祖母から十三歳の時に多額の遺産を受け取ったと知り興味を持つ。一人娘の母が亡くなり、代襲相続したからだ。そこで話に入り詳細を聞いた所、血の繋がりは無いけれど幼い頃から彼女を育てた、二人目の祖父が失踪していると聞く。また不仲な父と再婚相手に遺産を使わせないよう、祖母の遺言で楓が成人するまで祖父が弁護士を通じ遺産管理しているという。さらに祖父は、田舎の家の建物部分と一千万の現金だけ受け取り、残りは楓に渡した上で姻族終了届を出して死後離婚し、姿を消したと言うのだ。彼女は大学に無事入学したのを機に、愛しのグランパを探したいと考えていた。そこでかつて住んでいたN県の村に秘密があると思い、同じ県出身でしかも近い場所に実家がある絵美に相談していたのだ。また祖父を見つけるだけでなく、何故失踪までしたかを探らなければ解決できないと考えていた。四十年近く前に十年で磯村家とその親族が八人亡くなり、一人失踪しているという。内訳は五人が病死、三人が事故死だ。祖母の最初の夫の真之介が滑落死、その弟の光二朗も滑落死、二人の前に光二朗の妻が幼子を残し、事故死していた。複雑な経緯を聞いた大貴は、専門家に調査依頼することを提案。そこで泊という調査員に、彼女の祖父の居場所を突き止めて貰った。すると彼は多額の借金を抱え、三か所で働いていると判明。まだ過去の謎が明らかになっていない為、大貴達と泊で調査を勧めつつ様々な問題を解決しようと動く。そこから驚くべき事実が発覚する。楓とグランパの関係はどうなっていくのか!?
総務の黒川さんは袖をまくらない
八木山
ミステリー
僕は、総務の黒川さんが好きだ。
話も合うし、お酒の趣味も合う。
彼女のことを、もっと知りたい。
・・・どうして、いつも長袖なんだ?
・僕(北野)
昏寧堂出版の中途社員。
経営企画室のサブリーダー。
30代、うかうかしていられないなと思っている
・黒川さん
昏寧堂出版の中途社員。
総務部のアイドル。
ギリギリ20代だが、思うところはある。
・水樹
昏寧堂出版のプロパー社員。
社内をちょこまか動き回っており、何をするのが仕事なのかわからない。
僕と同い年だが、女性社員の熱い視線を集めている。
・プロの人
その道のプロの人。
どこからともなく現れる有識者。
弊社のセキュリティはどうなってるんだ?

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

【完結】深海の歌声に誘われて
赤木さなぎ
ミステリー
突如流れ着いたおかしな風習の残る海辺の村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!
ちょっと不思議で悲しくも神秘的な雰囲気をお楽しみください。
海からは美しい歌声が聞こえて来る。
男の意志に反して、足は海の方へと一歩、また一歩と進んで行く。
その歌声に誘われて、夜の冷たい海の底へと沈んで行く。
そして、彼女に出会った。
「あなたの願いを、叶えてあげます」
深海で出会った歌姫。
おかしな風習の残る海辺の村。
村に根付く“ヨコシマ様”という神への信仰。
点と点が線で繋がり、線と線が交差し、そして謎が紐解かれて行く。
―― ―― ―― ―― ―― ―― ――
短期集中掲載。毎日投稿します。
完結まで執筆済み。約十万文字程度。
人によっては苦手と感じる表現が出て来るかもしれません。ご注意ください。
暗い雰囲気、センシティブ、重い設定など。


「蒼緋蔵家の番犬 1~エージェントナンバーフォー~」
百門一新
ミステリー
雪弥は、自身も知らない「蒼緋蔵家」の特殊性により、驚異的な戦闘能力を持っていた。正妻の子ではない彼は家族とは距離を置き、国家特殊機動部隊総本部のエージェント【ナンバー4】として活動している。
彼はある日「高校三年生として」学園への潜入調査を命令される。24歳の自分が未成年に……頭を抱える彼に追い打ちをかけるように、美貌の仏頂面な兄が「副当主」にすると案を出したと新たな実家問題も浮上し――!?
日本人なのに、青い目。灰色かかった髪――彼の「爪」はあらゆるもの、そして怪異さえも切り裂いた。
『蒼緋蔵家の番犬』
彼の知らないところで『エージェントナンバー4』ではなく、その実家の奇妙なキーワードが、彼自身の秘密と共に、雪弥と、雪弥の大切な家族も巻き込んでいく――。
※「小説家になろう」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる