夏への招待状 失われた記憶と消えゆく少女たち 無人島脱出お宝大作戦

二廻歩

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禁断の関係

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「もうお兄ちゃんのバカ! 」
ついに降参。
「何でも聞いていいよ」
「他の者を覚えてるか」
「うん。でもお兄ちゃんは忘れちゃったでしょう? 」
いつもと違うリン。
だがこれが本来のリンなのかもしれない。

「ねえ過去のことはもういいよ。今ここにはお兄ちゃんとリン二人だけ。
もう分かったと思うけどおさらいしようか」
「おいおい。リンが先生みたいじゃないか」
「もう調子狂う…… お兄ちゃんお願い! 」
「しょうがない。青空教室を始めよう」
「リン君。席に付きたまえ」
「はーい! 」

「ではまず問題一つ目。なぜ少女たちは消えるのか」
「それは幻だから。お兄ちゃんが抱いた願望。いや欲望かな」
「それは…… 言い過ぎだ。俺じゃないだろ? 」
「うん。もう一人のお兄ちゃん。お兄ちゃんの中にいる怖いお兄ちゃん」
「そこも良く分からないが…… 俺が朝起きれないのはもう一人の俺が邪魔をするから。
こう言う理解でいいな? 」
「うん! 」

リンはもう一人の俺と会っている。
話もしたのだろう。
俺が夢遊病者でない限りもう一人の人格が入り込んでいることになる。

「怖いお兄ちゃんの中にいる情けないお兄ちゃん」
「何か言ったかリン? 」
「ううん」
首を目一杯振る。
笑顔があふれる。

「なあリンも幻なんだろ? 」
「うん」
呑気な幻。

「そうだ。怖いお兄ちゃんが変なこと言ってたよ」
「変なこと? 」
「『PT』はお前たちだってさ」

『PT』=少女。
要するに『PT』とは幻のこと。
では『PT』は……
まさかそのまま幻でいいとすれば……
『PT』=『PHANTOM』
PT?
ならばPHでは……
まさか他に意味がある?
うーん。意味はあるよな。絶対……

「もうまだ? つまんない! 」
リンが飽きて駄々をこねる。

よしここからが本題だ。
「どうすれば消滅を回避できるのかだが…… 」
「そんなの簡単だよ! 」
自信満々に簡単と言いのけるリン。秘策でもあるのか?
「お兄ちゃんがリンを女として見ない。だからリンを一人の女性と認識せずにただの妹と思えばいいんだよ」
兄妹か…… 
「簡単でしょう! 」
「確かに…… 」
一人の女性として見て変な気さえ起こさなければ大丈夫。
何かいつものいい加減なリンに見えて説得力がない。信じていいものか。
落とし穴がありそうで怖い。

「後はお兄ちゃんが記憶を完全に取り戻さなければ消えることは無いよ。ねえ簡単でしょう? 」
笑っている。
ああ。何てかわいいのだろう。
おっと変な気を起こしてはダメだ。
元も子も無くなる。

リンの言うように後は俺が完全に思い出さなければいい。
そう努力すればいい。
大丈夫。思い出したいとも思わない。
しかしなぜ他の奴はあんなに焦っていたのだろう?
リンのように正直に話せば手立てだってあるのに。

リンの余裕。
リンはあまり考えていないのだ。
ただ笑って毎日を過ごす。
運命の日が来るのは分かっている。
それを受け入れる強さがリンにはある。
他の者はそれを恐れて我慢しきれなくて……
交わろうとしてしまう。

俺の記憶が明日にでも蘇れば消えてしまうのだ。
その兆候が見られれば焦ってしまうのは当然のこととも言える。

最後の思い出作り。
彼女たちにも彼女たちなりの葛藤があったのだろう。
笑っている陰でいつも不安に押しつぶされていたのだ。
哀れと言えばいいのか? 人間的と言えばいいのか?

ただの幻ではない。
人間の感情を持った稀有な存在。

「なあ。本当に俺が思い出さずにリンを愛さなければこのままここで二人で過ごせるのか? 」
「たぶんね。お兄ちゃんが飽きなければ」
「そうか。よし行こう! 」
「うん」
手をつなぐ。
いきなり危険行為。

「なあ。妹として愛するのはどうだ? 」
「分かんない。でも面白そう! 」
お兄ちゃんと妹。
禁断の関係。
リンが俺の妹になる。
俺がお兄ちゃんとして。
試す価値はありそうだ。

アダムとイブ。
この絶海の楽園で二人は愛を育む。

「リン! 」
「お兄ちゃん! 」
抱き合う。
ああ。幸せだ。
俺はようやく本当の愛に目覚めた気がする。
こうして日は暮れていく。
いつまでもいつまでも。
この楽園で二人仲良く。
願わくば子供でも授かって。
楽しく過ごす。
幸福な未来を夢見て。

いや……
夢は夢であり現実ではない。
リンも人間ではない。
ただの幻。
願望に過ぎない。

きっかけは何だったのだろう?
こんな妄想を拗らせるなど人間としてどうか。
ゲンジよ。お前は一体何を望むのか?
何がしたかったのか?

不可能だって分かっている。
いや……
そうか不可能でもないかもしれない。
メモを残せばいいのだ。
俺が質問し奴がメモに書き記せば。
奴の気分次第では答えてくれるかもしれない。

「お兄ちゃん! 泳ごうよ」
「ああ待ってくれ。今行く」
リンと二人きりの生活にも慣れてきた。
前からずっと二人きりだったのではないかと思うぐらいだ。
リン以外の少女はもう思い出せない。
名前はおろか顔さえも浮かびはしない。
だがいたこと。存在したことだけはこの胸に刻みつけている。
いつかまた会えたらな……

「お兄ちゃん! 」
リンが痺れを切らす。
「分かった。すぐ行くよ! 」
まったくリンの奴め。
リンに振り回されてばかりの毎日。

二人仲良く眠りにつく。

                    【続】
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