夏への招待状 失われた記憶と消えゆく少女たち 無人島脱出お宝大作戦

二廻歩

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選べない 選ばない

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ついに二人は動き出した。
「ほらゲンジこっちこっち。捕まえてみて」
「おい! いい加減にしろ! 」
彼女たちの思い通りにさせてはいけない。
こっちが主導権を握らねば。

「付き合ってられるか! 」
「あらあらご機嫌斜め? 」
「ふざけてないで行くぞ! 戻るんだ! 」
「ねえ捕まえないの? 」
「知るか! 」
「そう、勝手にしたら! 」

アイミの考えていることが分からない。
ムーちゃんはもっと分からない。
俺はどうしたらいい?

「ゲンジさん。頑張ってください」
「ちょっと待て! 」
アイミが走る。
ムーちゃんはその後ろにつく。
遠ざかっていく。
「なぜ逃げる? アイミ! ムーちゃん! 」
二人との精神的な距離。

彼女たちは覚えていないだろうが一人が消え、また一人が消えた。
理由はもう分かっている。
だから俺は本気になりたくない。
彼女たちを愛してはいけない。
それがこの島の奇妙な掟ならば俺は従うしかない。
どんなに理不尽であろうともどんなに……

言葉では表せないほどの喪失感。
俺は一体今何を失おうとしているんだ。
何を失った?
失っていい物なんて一つもない。
だから彼女たちを引き止める。

「おい! いい加減にしろ! 帰るぞ! 」
もう今日の脱出は諦めるしかない。
明日一番にこの島から出て行ってやる。

「アイミ! ムーちゃん! 」
「捕まえてみて」
「ふざけるな! 」
「まだ本気じゃないんだ…… 」
「えっ? 」
「失望したよゲンジ! 」
俺が本気じゃない? そんな訳あるか!
「もう時間もない! お願い最後のチャンスなの! 」
何を言っている?

「どちらかを選んで! 」
「俺に選択しろって言うのか? 」
「そう。もうお終い」
「そんな馬鹿な! 」

「あなたが思い出した時すべてが消えてなくなる。
魔法が解けたら世界はそれこそ無になるのよ!
お願いだから選択して!
ゲンジ! あなたの幻想世界はもうすぐ失われる。
でもその前に私たちは愛されたい!
あなたが望んだ世界。
でも私たちにも残念だけど感情があるの。
ロボットじゃない!
あなたの言いなりじゃない!
どちらかを選んで! 」

二人は再び迷宮へと足を踏み入れた。

アイミは左に。
ムーちゃんは右に。
ついに別れた。

俺はどちらに付けばいい?
「待ってくれアイミ!  行くなムーちゃん! 」
もう後ろを振り返ろうともしない。
ただひたすら前を向く二人。
駆けて行く。

どっちだ?
どっちに行けばいい?
左か右か?
この際、真っ直ぐに進むと言うのは?
おっと冗談を言っている余裕はなさそうだ。
姿が見えなくなった。
俺はどうすればいい?

「ねえイブって知ってる? 」
ムーちゃんとの思い出がよみがえる。
「ゲンジ! お願い! 私を選んで! 」
「ああ」
「きっとだよ」
やはりここは右しかないか。

しかし…… アイミから始まった。
俺がアイミと出会わなければそもそもムーちゃんとの関係はなかった。
きっかけは間違いなくアイミ。

俺はどうすればいい?
俺はどっちを取ればいい?
やはり選べない。
どちらかを取ると言うことはどちらかを失うと言うこと。
俺にはそんな残酷なことはできない。

いや違う!
選べば自動的に選ばれた相手が消えるのだ。
とすればもう一人は助かる?
やはり二人を……
「二人ではダメなのか? 」
「二人を選んではいけないのか? 」
「お願いだ答えてくれ! 」

反応が無い。

もう追い駆けなくては見失ってしまう。
仕方がない。この手で行こう。
ついに究極の選択。
よしこっちだ。
右を選択。
この選択が正しいのか間違っているのか俺には分からない。
しかし約束を果たさなくては。

前を行くムーちゃんが見えた。
「ゲンジさん…… 」
振り返った彼女は立ち止る。
「アイミ! アイミ! 」
「何を言ってるのゲンジさん? 」
ムーちゃんの混乱が見て取れる。

「アイミどこだ? 」
叫び続ける。
「ゲンジさんいい加減にして! せっかく選ばれたと言うのにこの仕打ちは何? 」
ムーちゃんの女としてのプライドを傷つけてしまった。

「アイミ! アイミ! なぜ姿を現してくれない! 」
足音が近づいてくる。
「ゲンジ! 」
「アイミ! 」
そう言いながらムーちゃんを抱きしめる。
「ちょっとゲンジさん? 」
もうムーちゃんの顔を見ることができない。

アイミの姿が見えた。

「どうして…… 」
アイミと対峙する。
「済まない。俺はどちらも選べなかった」
ムーちゃんを抱きアイミの方に歩いていく。
「近づかないで! 」
「済まない…… 」
「卑怯者! 」
「アイミ…… 」
「止めてゲンジさん! 」
ムーちゃんが拒絶する。

「俺は二人とも愛してる。どちらか一方を選ぶなんてできない。こんな汚い真似したくはなかった。しかしお前たちを失いたくないんだ。もうこれ以上失いたくない! 」

「ゲンジ…… 」
「ゲンジさん」
二人は諦めてくれたようだ。

「なあアイミ。教えてくれ。これはどんなゲームなんだ? 俺はどうしたらいい? 」
「どちらかを選べばいいのよ。簡単でしょう」
「ゲンジさんには失望しました」
「済まない…… しかしこれがベストな選択なんだ」

果たして二人を説得できたのだろうか?

                      【続】

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