夏への招待状 失われた記憶と消えゆく少女たち 無人島脱出お宝大作戦

二廻歩

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二人

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現実は残酷だ。
まるでそこに誰も居なかったかのように。
記憶を書き換える。
なぜだ?
記憶まで、思い出まで失う必要はないのに。

喪失感に襲われる。
なぜか物悲しい。
誰かが消えた気がする。
もうこれ以上誰も消えて欲しくない。

昼。
目が覚める。
ふと涙が溢れていることに気付く。
俺はもうダメだ。
疲れた。疲れたんだよ!

「起きてよお兄ちゃん! 」
リンが体を摺り寄せる。
まったくまともに起こせないのか。
「お兄ちゃん! 」
「近づくな! 触るんじゃない! 」
拒絶されたリンの表情から一気に笑顔が消える。

「どうしたのお兄ちゃん? リンのこと嫌いになっちゃった? 」
「そんなことない」
俺はリンを愛している。
だが近づきすぎればリンまで消えてしまうかもしれない。
愛するリンが消えればもう一生立ち直れない。
だから強く拒絶するしかない。

「分かってくれ! リン! 俺はリンのことを思って…… 」
リン……
「お兄ちゃんの馬鹿! 」
行ってしまった。
まあ最悪の事態を免れたのだからよしとしよう。

俺には分かる。
たとえ記憶になかったとしても名前も顔も思い出も消えたとしても居たのだと。
誰かが居たのだと言うことだけは理解しているつもりだ。
消えゆく少女。悲劇の繰り返し。
その連鎖を断つまでできる限りの努力をしよう。
それが消え去った者たちへの鎮魂にもなる。
さあ前を向こう。

まずは現状の整理からだ。
宝の在り処はもう分かっている。
帰りの船ももう用意できている。
ビーチに泊まっているボートで島を脱出できる。
後は少女たちを説得しこの島とおさらばすればいい。
仮に説得できなくても無理矢理連れて行けばいい。
少々強引だが当初の目的を果たすには手段など選んでいられない。

さあ脱出だ!
あと三日もあれば何とかなる。
いや今日中にでもやり遂げなくては。
急ぐか。
まずはアイミとムーちゃんを探す。

「リン! あの二人はどこにいる? 」
「知らない! リン知らないもん! 」
ああ。怒らせてしまったかあ。
せっかく協力的だったリン。
自分で探すしかない。

「おいリン! 早ければ今日にもこの島を脱出する。それまでに荷物をまとめておけ! 」
リンはただ頷くだけだった。
さあ二人を探すか。

どこにいる?
島中を探し回る。
絶望の時が迫る。
その前に何としても……
どこだ? どこにいる?
早く見つけて連れて来なくては。

さっきからどうも嫌な予感がする。
何かが来る。
何だ? 何かが迫ってくる。
遠くの海で汽笛が鳴る。
まさか? 追手?
撃退したはず。
もうこの島には近づかないと思っていたがどうやら彼らも本気らしい。
もう時間もないようだ。
急がなくてはいけない。

まず泉に向かう。
とりあえず今日の分の水は確保できた。
だが二人の姿はそこにはいない。
いるのはいつもの奴ら。
大きな翼を広げて威嚇する鳥の群れ。
ここにはいない。
よし戻るか。

崖も一応見ておくか。
近づきすぎないように充分に距離を取る。
やはりここにもいない。

ふう。疲れた。
東側は全て見て回った。二人は島の西側にいることになる。
島中を回れば必ず出会えるのだから無駄に見えて無駄がない。
二人がかくれんぼでもしていない限り見つけるのは簡単だ。

よし戻るか。

ビーチにはリンの姿。
「おい! 二人は戻ってこなかったか? 」
「うん。見なかったよ」
いつものリンだ。もう怒っていない。
「そうだ船はどうした? 」
「さあ」
「こちらに向かっていると思ったんだが…… 」
勘違いか?
ただの幻聴か?
まあいい。今はここをいかに脱出するかだ。
二人を探すのが先決。
最悪奴らが上陸しても隙を突いて脱出可能。
コンパスを片手に歩き出す。

この辺でおかしくなるんだよな。
RA地点にやって来た。
ラビリンス。
まるで迷路。
コンパスが役に立たないのが厄介だ。
自分の位置を把握するのも大変。
まあさほど広い訳ではないので同じ方向に歩けば必ずどこかに抜けられる。
抜けてしまえばこっちのもの。
経験で何とかなる。

雑草をかき分け未知のゾーンへ。
おい! アイミ! ムーちゃん!
反応がない。
ここではないのか?

次だ。
おーい! おーい!
うん?
反応があった。
こっちだ。
迷宮の奥に進んでいく。

「おーい! いるんだろ? 出てきてくれ! 」
「ゲンジ! 」
ようやく二人の姿を発見。

「ゲンジ! 」
「ゲンジさん! 」
はあはあ
はあはあ
「探したんだぞ」
「それはそれは…… 」
「戻るぞ! 帰り支度をしろ! 」
「まさかゲンジさんこの島を出るんですか? 」
「ああ」
「お宝は? 」
「もちろん持って行くさ」
「ではお別れですね」
「馬鹿を言うな! お前らも一緒だ! 」
「ははは! 」
「何がおかしい? 」
「それは無理というものです。私たちはここでしか存在できないんですから」
「おい! 冗談はそれくらいにして。帰るぞ! 」
「もう仕方がないですね」
ムーちゃんの目の色が変わった。

「ゲンジ。これが最後。ゆっくり考えてね」
「うん? 考える? 」
ついつい話を聞いてしまう。
強引に連れていけばいいものを自信のなさから立ち止る。
あちらのペースだ。

これではいけない。
ワガママは許されない。
「おい! 」
聴く耳を持たないアイミとムーちゃん。
ついに二人は動き出した。
              
                     【続】
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