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イチジク 覚えているかじつは甘い思い出
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亜砂の告白。
「勘違いしないで。私じゃない。この辺り。正確にはこの隣の島で起きた惨劇。
話を聞いたらもう食べられなくなっちゃって。」
亜砂の過去ではないのか。しかし惨劇とは穏やかではない。
一体何が起きたと言うのか?
実に興味深い。
「このイチジクに関係があるのか? 」
「うん」
「話で聞いただけでそこまで? 」
「詳しくは言えない」
リンは頑なに語ろうとしない。
謎は謎のままという訳だ。
「何が起きた? 」
「祭りの前の晩に殺し合いが…… ごめんこれ以上は無理。吐きそう」
「そうか。無理するな」
気分転換に散策。
「その首飾りいいじゃないか」
「これ…… お気に入りなんだ」
「うん。その水着にもよく似合う」
じっと見る。
「もうゲンジったら」
亜砂にも恥じらいと言うものがあるようだ。
その辺のことはすでに壊れているものとばかり。
いつも白の水着一丁で気にしている様子はないのだが。
それにしても褒められて舞い上がるとはまだまだガキだな。
さあ本題と行くか。
「なあ俺に何か用があるって言ってたが…… 」
「そうだそう。ゲンジに見せたいものが…… 早く知らせてあげようと思って」
亜砂は駆けだした。
「こっちこっち。着いてきて! 」
「どうした大発見ってか? 」
「ええ。実は小型のボートを見つけたの」
「ボート? いったいどこに? 」
「慌てない。慌てない。昨日見つけたんだ」
亜砂の話が本当ならば帰れる。この島から脱出できる。
「でもほらゲンジずっと考えごとしてたじゃない。悪いと思って言いそびれちゃった」
亜砂なりに気を使っていてくれたようだ。
心配ない。俺はもう吹っ切れた。いやそんなことがあった気がするだけだ。
「ゲンジは朝起きられないでしょう? だからムーちゃんに伝言を頼んだの」
「経緯はどうでもいい。それよりも全員乗れるのか? 」
「ええっと…… 三人までかなあ。でも私たちは気にしないで。島に留まるから」
「それは困る」
「ううん。それしか手が無いの」
「くだらない意地を張るなよ! お宝を運んだら何度でも戻って来てやるから」
一回で無理なら二回。それでも無理なら三回。
時間は無限にあるのだ。
後は彼女たちが首を縦に振るだけ。
無理矢理にでも連れて行く。
それが俺の希望。いや理想。
頑なに拒む少女たち。
そんな彼女たちの心を開き説得し一緒にこの島を出る。
これが最終目標。
いくら宝があったって意味が無い。
逆に彼女たちだけでも満足はできない。
それならば出会ってすぐにでも帰ればよかったのだ。
すれ違う心。
「なあ亜砂」
「どうしたのゲンジ」
「俺らって五人だったけ? 」
「うふふふ。当たり前でしょう」
「そうなんだけど。もう一人いたような気がするんだよなあ…… 」
「気のせいだよ」
「本当に気のせいかなあ…… 」
「ほらもうすぐだから余計なこと考えない。ただでさえ暗いんだから」
「俺は暗くなどない! ただ自分が分からないだけだ」
秘密のビーチへ。
「ここは…… 」
生い茂る草木を越え迷路のようなくねくねした道を通り過ぎると小さなビーチが見える。
「ゲンジはまだここに来たことがないでしょう? 」
「どうだったかなあ。記憶を失う前のことは分からないから」
「ほらあそこにあるよ」
どれどれ。
小型船。確かに亜砂の言うように数人しか乗れそうにない。
ずいぶんと古い。本当に動くのか?
「これたぶんあなたの船」
「俺の? 」
「うん。博士の船じゃないかな。見覚えない? 」
「ちょっと待ってくれ! だったら崖にあった船は誰のだって言うんだ! 」
「さあ…… 私に聞かれても」
どういうことだ?
この船が俺たちの乗ってきたボートならば崖下のあれは誰のだと言うのだ?
うーん。しかしこのボート。記憶にない。
本当に俺はこのボートで島にやって来たのか?
博士?
やはり分からない。
頭が混乱する。
「どうしたのゲンジ? もちろんあれもあなたのもの」
「はあ? どういうことだ? 」
「あなたは一人じゃない! 一緒に考えてあげる! 」
「俺は俺は…… ゲンジ? ゲンシ? 」
分からない。
「うおー! 」
頭が混乱する。
「大丈夫だよゲンジ」
亜砂は優しく寄り添ってくれる。
ああ! 何と神々しいことか。
「亜砂! 」
俺はもう君に抗えない。
本気になってしまった。
もう我慢ができない。
感情を抑え込むことを放棄してしまった。
「なあ亜砂。泳がないか? 」
「ゲンジ」
彼女は受け入れてくれた。
後はロマンチックな雰囲気を演出すれば必ず落ちる。
「行くぞ! 」
秘密のビーチで戯れる。
「ゲンジ! 」
「ははは! 」
もうどうでも良い。
俺が誰であろうと構わない。
亜砂がどうなろうと関係ない。
ただ今が楽しければそれでいい。
刹那的に生きてこそ意味があるのだ。
「なあいいだろ? 」
「もうゲンジったら早すぎる」
焦らす。
「おい! それはないよ」
今すぐ触りたい。
今すぐ亜砂を抱きしめたい。
どうしちまったんだろう?
危険だって分かっている。
彼女に拒否されるのはいい。
だがもし受け入れでもしたら?
亜砂まで居なくなってしまう。
それだけはどうしても避けなくてはいけない。
亜砂の為にも俺の為にも。
【続】
「勘違いしないで。私じゃない。この辺り。正確にはこの隣の島で起きた惨劇。
話を聞いたらもう食べられなくなっちゃって。」
亜砂の過去ではないのか。しかし惨劇とは穏やかではない。
一体何が起きたと言うのか?
実に興味深い。
「このイチジクに関係があるのか? 」
「うん」
「話で聞いただけでそこまで? 」
「詳しくは言えない」
リンは頑なに語ろうとしない。
謎は謎のままという訳だ。
「何が起きた? 」
「祭りの前の晩に殺し合いが…… ごめんこれ以上は無理。吐きそう」
「そうか。無理するな」
気分転換に散策。
「その首飾りいいじゃないか」
「これ…… お気に入りなんだ」
「うん。その水着にもよく似合う」
じっと見る。
「もうゲンジったら」
亜砂にも恥じらいと言うものがあるようだ。
その辺のことはすでに壊れているものとばかり。
いつも白の水着一丁で気にしている様子はないのだが。
それにしても褒められて舞い上がるとはまだまだガキだな。
さあ本題と行くか。
「なあ俺に何か用があるって言ってたが…… 」
「そうだそう。ゲンジに見せたいものが…… 早く知らせてあげようと思って」
亜砂は駆けだした。
「こっちこっち。着いてきて! 」
「どうした大発見ってか? 」
「ええ。実は小型のボートを見つけたの」
「ボート? いったいどこに? 」
「慌てない。慌てない。昨日見つけたんだ」
亜砂の話が本当ならば帰れる。この島から脱出できる。
「でもほらゲンジずっと考えごとしてたじゃない。悪いと思って言いそびれちゃった」
亜砂なりに気を使っていてくれたようだ。
心配ない。俺はもう吹っ切れた。いやそんなことがあった気がするだけだ。
「ゲンジは朝起きられないでしょう? だからムーちゃんに伝言を頼んだの」
「経緯はどうでもいい。それよりも全員乗れるのか? 」
「ええっと…… 三人までかなあ。でも私たちは気にしないで。島に留まるから」
「それは困る」
「ううん。それしか手が無いの」
「くだらない意地を張るなよ! お宝を運んだら何度でも戻って来てやるから」
一回で無理なら二回。それでも無理なら三回。
時間は無限にあるのだ。
後は彼女たちが首を縦に振るだけ。
無理矢理にでも連れて行く。
それが俺の希望。いや理想。
頑なに拒む少女たち。
そんな彼女たちの心を開き説得し一緒にこの島を出る。
これが最終目標。
いくら宝があったって意味が無い。
逆に彼女たちだけでも満足はできない。
それならば出会ってすぐにでも帰ればよかったのだ。
すれ違う心。
「なあ亜砂」
「どうしたのゲンジ」
「俺らって五人だったけ? 」
「うふふふ。当たり前でしょう」
「そうなんだけど。もう一人いたような気がするんだよなあ…… 」
「気のせいだよ」
「本当に気のせいかなあ…… 」
「ほらもうすぐだから余計なこと考えない。ただでさえ暗いんだから」
「俺は暗くなどない! ただ自分が分からないだけだ」
秘密のビーチへ。
「ここは…… 」
生い茂る草木を越え迷路のようなくねくねした道を通り過ぎると小さなビーチが見える。
「ゲンジはまだここに来たことがないでしょう? 」
「どうだったかなあ。記憶を失う前のことは分からないから」
「ほらあそこにあるよ」
どれどれ。
小型船。確かに亜砂の言うように数人しか乗れそうにない。
ずいぶんと古い。本当に動くのか?
「これたぶんあなたの船」
「俺の? 」
「うん。博士の船じゃないかな。見覚えない? 」
「ちょっと待ってくれ! だったら崖にあった船は誰のだって言うんだ! 」
「さあ…… 私に聞かれても」
どういうことだ?
この船が俺たちの乗ってきたボートならば崖下のあれは誰のだと言うのだ?
うーん。しかしこのボート。記憶にない。
本当に俺はこのボートで島にやって来たのか?
博士?
やはり分からない。
頭が混乱する。
「どうしたのゲンジ? もちろんあれもあなたのもの」
「はあ? どういうことだ? 」
「あなたは一人じゃない! 一緒に考えてあげる! 」
「俺は俺は…… ゲンジ? ゲンシ? 」
分からない。
「うおー! 」
頭が混乱する。
「大丈夫だよゲンジ」
亜砂は優しく寄り添ってくれる。
ああ! 何と神々しいことか。
「亜砂! 」
俺はもう君に抗えない。
本気になってしまった。
もう我慢ができない。
感情を抑え込むことを放棄してしまった。
「なあ亜砂。泳がないか? 」
「ゲンジ」
彼女は受け入れてくれた。
後はロマンチックな雰囲気を演出すれば必ず落ちる。
「行くぞ! 」
秘密のビーチで戯れる。
「ゲンジ! 」
「ははは! 」
もうどうでも良い。
俺が誰であろうと構わない。
亜砂がどうなろうと関係ない。
ただ今が楽しければそれでいい。
刹那的に生きてこそ意味があるのだ。
「なあいいだろ? 」
「もうゲンジったら早すぎる」
焦らす。
「おい! それはないよ」
今すぐ触りたい。
今すぐ亜砂を抱きしめたい。
どうしちまったんだろう?
危険だって分かっている。
彼女に拒否されるのはいい。
だがもし受け入れでもしたら?
亜砂まで居なくなってしまう。
それだけはどうしても避けなくてはいけない。
亜砂の為にも俺の為にも。
【続】
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