夏への招待状 失われた記憶と消えゆく少女たち 無人島脱出お宝大作戦

二廻歩

文字の大きさ
上 下
44 / 61

消えた空蝉

しおりを挟む
正体不明の飛行物体。
UFO?
いやこれはドクターヘリだ。

近隣の島からの要請でヘリが一機。患者を乗せ飛び立ったようだ。
これはチャンス?
脱出の機会が訪れた。

そうだ。今しかない。
笛を咥えると力の限り吹き続ける。
もうこのチャンスを逃せば次はいつになるか分からない。
だが当たり前だが笛ではヘリの轟音に太刀打ちできない。

仕方ない次の手だ。

おーい!
おーい!
必至に手を広げるが反応はない。
降りてくることもないし旋回することもない。
やはり無駄だったか。

ヘリは行方不明者を捜索しているわけではないのだ。
あくまで患者を速やかに近くの病院に運ぶことが任務。
一分一秒を争っている。
下の景色を楽しんでいる余裕はない。

こちらからすれば無視されたようにしか見えない。しかし気が付くはずがない。
空から人間は豆粒にしか見えない。
よっぽど注意深く見ない限り気づくはずがない。
だから諦めるしかない。
だがコテージは別だ。
建物は多少は目に入る。
だからもし気付いてもらいたかったら建物に『SOS』でも書くしかない。
山小屋は特に目立つ。
次にヘリが通った時に気付いてもらう確率が上がる。

しかし今は当然無理だ。
そんな考え今までなかった。
そもそもこの島に寄せ付ける訳にはいかなかった。
お宝を奪われる恐れがあったからだ。
もちろん今は違う。状況が変わった。
お宝は手元にないとは言え場所は分かっている。
もし最悪ハンターだとしてもいくらでも逃げ切る方法がある。
この島を知り尽くした俺たちと奴らとでは当然こちらに分がある。

脱出を優先に考えるべきだ。
本当にハンターだったとしてももう遅い。
気付かれることなく宝を持って脱出できる。
だから気づいてさえくれれば……

お願いだ!
頼む!
しかし無情にもヘリは東の空に消えて行った。
あの方角に大きな病院があるのだろう。
次の機会を待つしかない。

ベストを尽くす。
山小屋へ。
『SOS』
できる限りの対策。
山奥のあばら屋にも施す。
たとえまたこの辺り上空を飛ぶとは限らないとしても。無駄な努力だとしても。

翌日
続きに取り掛かる。
これでコテージにも『SOS』を描いた。
あとは奇跡を待つだけだ。
ドクターヘリで運ばれた患者が回復して戻って来ればまたこの辺りを飛ぶかもしれない。
そうなったらこの『SOS』を発見してもらえる。
楽観的かもしれないが有り得ないことではない。

頼む! お願いだ!
俺を脱出させてくれ!

果たして願いは叶うのか?

物語は最終章へ。

最終章

「ゲンジさん」
「あれ空蝉…… 」
「良いんですよこれで。私の、いえ、皆の気持ちをくみ取ってください。
もしそれでも私を選ぶと言うならこのまま…… 」
「何を言っている? ちょっとした冗談じゃないか。空蝉らしいな」
「冗談? からかったんですか? 」
「うん。いや…… うーん。どっちかな? 」
自分でも良く分からない。
「俺は自分に正直だ。お前はどうだ? 」
「もちろん嬉しいです。本気なら」
「本気だ! 本気に決まっている! 」
「では信じていいんですね? 」
空蝉は目を輝かせ見つめてくる。
「行こう! 二人で新たな扉を開けるのだ! 」
「ゲンジさん! 」
「空蝉! 」
もう戻れない。
うおおお!

なんだ夢か……
昨夜あんなことになったものだから意識してるのかな?
空蝉……
もう外は明るい。
またしても昼過ぎに目が覚める。
 
少女たちが何事か騒いでいる。
「おーい! 」
「空蝉! 」
「どこに行ったの? 」
朝から騒々しいなまったく。
もちろん俺にとっての朝だ。世間ではこれを昼と呼ぶがな。

「どうしたアイミ? うるさいぞ! 」
「それが…… ううん何でもない。行こう皆」
俺だけ仲間外れ? それはないよ。
「おい亜砂! 何の騒ぎだ? 」
「それが空蝉が見当たらないの。どこを探しても居ないの。ゲンジは心当たり無い? 」
心当たりがないと言えば嘘になる。

空蝉はこの中で一番真面目だ。
別に他の子が遊んでいるとか思っているわけではない。
しかし昨夜の空蝉はおかしかった。
余りにも大胆だった。
あんなことをする子ではない。
俺が煮え切らないものだから勘違いさせてしまったか?

「ゲンジ! やっぱり居ないよ」
「どこかに出かけたんじゃないか? 」
「うーん。違う気がする。それにどこに行ったって言うの? 」
「それは何とも…… だが大げさに騒ぐことか? この島で迷子になるなんて考えられない。そのうち戻ってくるさ。心配ないって」
「でも…… 」
亜砂は納得がいってないようだ。
「よし分かった。俺も協力するよ。お前らは西を探せ。俺たちは東の方に向かう」
二手に分かれ捜索開始。

「リン行くぞ! 」
「おう! 」
念のためだ。どうせ暇なのだから協力するのも悪くない。
「空蝉! おーい! 返事をしてくれ! 」
「空蝉! 空蝉! 」
いくら呼びかけても返ってこない。
この辺りにはいないのだろう。
一体どこへ行ってしまったんだ?
失踪した空蝉。
本当に戻ってくるのだろうか?

胸騒ぎがする。
空蝉。その存在は徐々に薄れていく。
ついには記憶からも消えて……
記憶は上書きされてしまい……
居なかったことに。
まさかな……
思い過ごしだといいんだが。

空蝉……
昨夜の思い出がよみがえる。

               【続】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【毎日20時更新】アンメリー・オデッセイ

ユーレカ書房
ミステリー
からくり職人のドルトン氏が、何者かに殺害された。ドルトン氏の弟子のエドワードは、親方が生前大切にしていた本棚からとある本を見つける。表紙を宝石で飾り立てて中は手書きという、なにやらいわくありげなその本には、著名な作家アンソニー・ティリパットがドルトン氏とエドワードの父に宛てた中書きが記されていた。 【時と歯車の誠実な友、ウィリアム・ドルトンとアルフレッド・コーディに。 A・T】 なぜこんな本が店に置いてあったのか? 不思議に思うエドワードだったが、彼はすでにおかしな本とふたつの時計台を巡る危険な陰謀と冒険に巻き込まれていた……。 【登場人物】 エドワード・コーディ・・・・からくり職人見習い。十五歳。両親はすでに亡く、親方のドルトン氏とともに暮らしていた。ドルトン氏の死と不思議な本との関わりを探るうちに、とある陰謀の渦中に巻き込まれて町を出ることに。 ドルトン氏・・・・・・・・・エドワードの親方。優れた職人だったが、職人組合の会合に出かけた帰りに何者かによって射殺されてしまう。 マードック船長・・・・・・・商船〈アンメリー号〉の船長。町から逃げ出したエドワードを船にかくまい、船員として雇う。 アーシア・リンドローブ・・・マードック船長の親戚の少女。古書店を開くという夢を持っており、謎の本を持て余していたエドワードを助ける。 アンソニー・ティリパット・・著名な作家。エドワードが見つけた『セオとブラン・ダムのおはなし』の作者。実は、地方領主を務めてきたレイクフィールド家の元当主。故人。 クレイハー氏・・・・・・・・ティリパット氏の甥。とある目的のため、『セオとブラン・ダムのおはなし』を探している。

磯村家の呪いと愛しのグランパ

しまおか
ミステリー
資産運用専門会社への就職希望の須藤大貴は、大学の同じクラスの山内楓と目黒絵美の会話を耳にし、楓が資産家である母方の祖母から十三歳の時に多額の遺産を受け取ったと知り興味を持つ。一人娘の母が亡くなり、代襲相続したからだ。そこで話に入り詳細を聞いた所、血の繋がりは無いけれど幼い頃から彼女を育てた、二人目の祖父が失踪していると聞く。また不仲な父と再婚相手に遺産を使わせないよう、祖母の遺言で楓が成人するまで祖父が弁護士を通じ遺産管理しているという。さらに祖父は、田舎の家の建物部分と一千万の現金だけ受け取り、残りは楓に渡した上で姻族終了届を出して死後離婚し、姿を消したと言うのだ。彼女は大学に無事入学したのを機に、愛しのグランパを探したいと考えていた。そこでかつて住んでいたN県の村に秘密があると思い、同じ県出身でしかも近い場所に実家がある絵美に相談していたのだ。また祖父を見つけるだけでなく、何故失踪までしたかを探らなければ解決できないと考えていた。四十年近く前に十年で磯村家とその親族が八人亡くなり、一人失踪しているという。内訳は五人が病死、三人が事故死だ。祖母の最初の夫の真之介が滑落死、その弟の光二朗も滑落死、二人の前に光二朗の妻が幼子を残し、事故死していた。複雑な経緯を聞いた大貴は、専門家に調査依頼することを提案。そこで泊という調査員に、彼女の祖父の居場所を突き止めて貰った。すると彼は多額の借金を抱え、三か所で働いていると判明。まだ過去の謎が明らかになっていない為、大貴達と泊で調査を勧めつつ様々な問題を解決しようと動く。そこから驚くべき事実が発覚する。楓とグランパの関係はどうなっていくのか!?

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

総務の黒川さんは袖をまくらない

八木山
ミステリー
僕は、総務の黒川さんが好きだ。 話も合うし、お酒の趣味も合う。 彼女のことを、もっと知りたい。 ・・・どうして、いつも長袖なんだ? ・僕(北野) 昏寧堂出版の中途社員。 経営企画室のサブリーダー。 30代、うかうかしていられないなと思っている ・黒川さん 昏寧堂出版の中途社員。 総務部のアイドル。 ギリギリ20代だが、思うところはある。 ・水樹 昏寧堂出版のプロパー社員。 社内をちょこまか動き回っており、何をするのが仕事なのかわからない。 僕と同い年だが、女性社員の熱い視線を集めている。 ・プロの人 その道のプロの人。 どこからともなく現れる有識者。 弊社のセキュリティはどうなってるんだ?

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

日月神示を読み解く

あつしじゅん
ミステリー
 神からの預言書、日月神示を読み解く

俺が咲良で咲良が俺で

廣瀬純一
ミステリー
高校生の田中健太と隣の席の山本咲良の体が入れ替わる話

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...