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生きる術
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自分の耳が信用できない。
もう一度だけ。
「博士は…… 」
「博士は? 」
「お亡くなりになりました」
やはり聞き違いではないらしい。
「ええっ? 」
「あなたに殺されました。覚えていないんですか」
「嘘だよね…… 」
首を振る。
「嘘だ! 」
うおおお!
絶望がこだまする。
「待ってください」
雨は勢いを増す。
風も強まる。
ついには横殴りの雨になった。
もう息ができない。
このままでは持たない。
早く! 早く何とかしなくては。
はあはあ
はあはあ
「急ぐぞ! 」
後ろを向く。
背中で雨を受ける。練りに練った作戦。
意外と有効。だがこのままでは危険。
呼吸を整える。
さあ落ち着いたら出発だ。
後ろ歩きで前に進む。
時折弱まったところで前を向きダッシュ。距離を稼ぐ。
空蝉はなぜかあまり怖がっていない。
慣れているのか?
どこかおかしい。
空蝉?
輪郭がぼやけてきた。
そのうち消えてしまう。そんな嫌な予感がする。
「空蝉? 大丈夫か? 」
「ええ。ふふふ…… 」
堪えていない様子。
パニックを起こしたり下手に騒がれるよりはずっとましだが何だか物凄い違和感。
病弱はどうした?
楽しそうに微笑む空蝉。
どうしてもこう考えてしまう。
果たしてこの世の者なのか?
はあはあ
はあはあ
コテージが見えた。
助かった!
もう少し。もうちょっとだ。
空蝉を抱え最後の力を振り絞る。
雨は多少弱まっているがまだ危険な状態。
「助けてくれ! 誰か! 」
雨音に掻き消される。
「おい! おーい! 」
バタン。
限界を迎える。
もうダメだ。一歩も動けない。
「大丈夫お兄ちゃん? 」
危機を察知したリンと亜砂が駆けつけてくれた。
「大丈夫ゲンジ? 」
「は…… 早く…… 」
「空蝉は? 」
「問題ありません」
「ゲンジはどうしようか? 」
「運んだ方がいいよ」
「放っておいたらいかがでしょう」
「ははは! 」
なぜか軽いノリの少女たち。
あれから何時間が経っただろうか?
再び目を覚ました時には誰の姿も見当たらない。
またしてもどこかへ行ってしまったようだ。
宝さがしに夢中の俺を快く思っていなかった節がある。
邪魔はすれど協力はしない。
まあいいさ。こっちは単独で探せばいい。
足手まといでしかないのだから。
記憶も戻りつつあることだしな。
記憶……
やはり俺が博士をやっちまった?
しかし彼女たちはなぜ博士が生きてるなんて嘘を吐いたのか?
それだけじゃない。どうしてそのことを知っているのか?
うーん。考えただけで頭が痛くなる。
宝を見つけたらさっさと帰るか。
過去は忘れて切り替える。
とにかくPTの意味が分からないことにはどうしようもない。
PT・PT・PT
元素記号?
プラチナ?
そんな訳ないしそれでは答えになっていない。
あれ本当にPT?
何か違う気がする。
ダメだ。やっぱり思い出せない。
プラチナ案は却下と。
魚でも釣ってくるか。
のんびりとした一日を過ごす。
翌朝。
「よく聞けお前ら! 」
男は興奮している。
「あれだけ思い出させないようにしろと言ったのにちっとも役に立たないではないか! 」
「だって…… 」
「そうだよ。お兄ちゃんが…… 」
「口答えするな! もう限界だ。もう知らん! 」
「お願いします。最後のチャンスをお願いします」
「ほうほう。最後のチャンスと来たか。よかろう。だが放っておいても二、三日中には全て思い出してしまうだろう。どうする? 」
「分かりました」
最後の賭けに出る。
「危険だが仕方ありませんね」
「よろしい。解散! 」
女たちはコテージの方に姿を消す。
男は追い駆けるように歩き出した。
昼。
うーん。良く寝た。
やはり昼過ぎにしか起きられない。
眠り病の一種だろう。
医者に一度見てもらった方がいいだろうか?
まあその医者もどこにいるやら。
ここは無人島。諦めるしかない。
うん? ベッドの周りがやけに騒がしいな。
「おお。全員勢ぞろいか? 」
「ゲンジ起きたの? 」
「お前ら! 昨日はどうして姿を見せなかった? 心配したんだぞ」
「ごめん。お兄ちゃん」
「まったく…… 」
「無駄話はそれくらいでさあ行きましょう」
「どこへ行くつもりだ? 」
「もちろん山に決まってるでしょう」
「お前ら嫌がってなかったか? 」
「勘違い。そうでしょうリン」
「うん。お兄ちゃんが遊んでくれないから…… 」
「リン! 」
ずいぶんと協力的だ。
何かあるのか?
まあいいか。
「これ目覚ましにどうぞ」
空蝉が水に何かを混ぜたであろう緑色の飲み物を寄越す。
「毒? 毒はちょっと…… 」
「違いますよ。苦いですけど効果はあります」
訳も分からずに勧められる。
うーん。
「どうしたのお兄ちゃん? 早く飲もうよ」
リンの態度は変だ。
しょうがないな。試しに一口。
「おえ! まずい! 」
「ダメだってゲンジ! 」
アイミが無理矢理飲ませようとする。
「止めろ! 」
「ほら全部飲んで! 」
抵抗虚しくすべてを飲み干す。
「どう気持ちいいでしょう? 」
「ああ。頭がボーっとする」
「それでいいの。どう何か思い出した? 」
「いや…… 」
「博士って分かる? 」
「ああ。俺が殺しちまった…… うわああ! 」
「ダメみたい。次に行こう」
少女たちの見た目からは想像できない邪悪な気。
一体何を企んでいると言うんだ?
そのことを指摘すればただでは済まないだろう。
とりあえず今は従うしかない。
「大丈夫ゲンジ? 」
「ははは…… 」
笑ってごまかす。
山へ。
【続】
もう一度だけ。
「博士は…… 」
「博士は? 」
「お亡くなりになりました」
やはり聞き違いではないらしい。
「ええっ? 」
「あなたに殺されました。覚えていないんですか」
「嘘だよね…… 」
首を振る。
「嘘だ! 」
うおおお!
絶望がこだまする。
「待ってください」
雨は勢いを増す。
風も強まる。
ついには横殴りの雨になった。
もう息ができない。
このままでは持たない。
早く! 早く何とかしなくては。
はあはあ
はあはあ
「急ぐぞ! 」
後ろを向く。
背中で雨を受ける。練りに練った作戦。
意外と有効。だがこのままでは危険。
呼吸を整える。
さあ落ち着いたら出発だ。
後ろ歩きで前に進む。
時折弱まったところで前を向きダッシュ。距離を稼ぐ。
空蝉はなぜかあまり怖がっていない。
慣れているのか?
どこかおかしい。
空蝉?
輪郭がぼやけてきた。
そのうち消えてしまう。そんな嫌な予感がする。
「空蝉? 大丈夫か? 」
「ええ。ふふふ…… 」
堪えていない様子。
パニックを起こしたり下手に騒がれるよりはずっとましだが何だか物凄い違和感。
病弱はどうした?
楽しそうに微笑む空蝉。
どうしてもこう考えてしまう。
果たしてこの世の者なのか?
はあはあ
はあはあ
コテージが見えた。
助かった!
もう少し。もうちょっとだ。
空蝉を抱え最後の力を振り絞る。
雨は多少弱まっているがまだ危険な状態。
「助けてくれ! 誰か! 」
雨音に掻き消される。
「おい! おーい! 」
バタン。
限界を迎える。
もうダメだ。一歩も動けない。
「大丈夫お兄ちゃん? 」
危機を察知したリンと亜砂が駆けつけてくれた。
「大丈夫ゲンジ? 」
「は…… 早く…… 」
「空蝉は? 」
「問題ありません」
「ゲンジはどうしようか? 」
「運んだ方がいいよ」
「放っておいたらいかがでしょう」
「ははは! 」
なぜか軽いノリの少女たち。
あれから何時間が経っただろうか?
再び目を覚ました時には誰の姿も見当たらない。
またしてもどこかへ行ってしまったようだ。
宝さがしに夢中の俺を快く思っていなかった節がある。
邪魔はすれど協力はしない。
まあいいさ。こっちは単独で探せばいい。
足手まといでしかないのだから。
記憶も戻りつつあることだしな。
記憶……
やはり俺が博士をやっちまった?
しかし彼女たちはなぜ博士が生きてるなんて嘘を吐いたのか?
それだけじゃない。どうしてそのことを知っているのか?
うーん。考えただけで頭が痛くなる。
宝を見つけたらさっさと帰るか。
過去は忘れて切り替える。
とにかくPTの意味が分からないことにはどうしようもない。
PT・PT・PT
元素記号?
プラチナ?
そんな訳ないしそれでは答えになっていない。
あれ本当にPT?
何か違う気がする。
ダメだ。やっぱり思い出せない。
プラチナ案は却下と。
魚でも釣ってくるか。
のんびりとした一日を過ごす。
翌朝。
「よく聞けお前ら! 」
男は興奮している。
「あれだけ思い出させないようにしろと言ったのにちっとも役に立たないではないか! 」
「だって…… 」
「そうだよ。お兄ちゃんが…… 」
「口答えするな! もう限界だ。もう知らん! 」
「お願いします。最後のチャンスをお願いします」
「ほうほう。最後のチャンスと来たか。よかろう。だが放っておいても二、三日中には全て思い出してしまうだろう。どうする? 」
「分かりました」
最後の賭けに出る。
「危険だが仕方ありませんね」
「よろしい。解散! 」
女たちはコテージの方に姿を消す。
男は追い駆けるように歩き出した。
昼。
うーん。良く寝た。
やはり昼過ぎにしか起きられない。
眠り病の一種だろう。
医者に一度見てもらった方がいいだろうか?
まあその医者もどこにいるやら。
ここは無人島。諦めるしかない。
うん? ベッドの周りがやけに騒がしいな。
「おお。全員勢ぞろいか? 」
「ゲンジ起きたの? 」
「お前ら! 昨日はどうして姿を見せなかった? 心配したんだぞ」
「ごめん。お兄ちゃん」
「まったく…… 」
「無駄話はそれくらいでさあ行きましょう」
「どこへ行くつもりだ? 」
「もちろん山に決まってるでしょう」
「お前ら嫌がってなかったか? 」
「勘違い。そうでしょうリン」
「うん。お兄ちゃんが遊んでくれないから…… 」
「リン! 」
ずいぶんと協力的だ。
何かあるのか?
まあいいか。
「これ目覚ましにどうぞ」
空蝉が水に何かを混ぜたであろう緑色の飲み物を寄越す。
「毒? 毒はちょっと…… 」
「違いますよ。苦いですけど効果はあります」
訳も分からずに勧められる。
うーん。
「どうしたのお兄ちゃん? 早く飲もうよ」
リンの態度は変だ。
しょうがないな。試しに一口。
「おえ! まずい! 」
「ダメだってゲンジ! 」
アイミが無理矢理飲ませようとする。
「止めろ! 」
「ほら全部飲んで! 」
抵抗虚しくすべてを飲み干す。
「どう気持ちいいでしょう? 」
「ああ。頭がボーっとする」
「それでいいの。どう何か思い出した? 」
「いや…… 」
「博士って分かる? 」
「ああ。俺が殺しちまった…… うわああ! 」
「ダメみたい。次に行こう」
少女たちの見た目からは想像できない邪悪な気。
一体何を企んでいると言うんだ?
そのことを指摘すればただでは済まないだろう。
とりあえず今は従うしかない。
「大丈夫ゲンジ? 」
「ははは…… 」
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山へ。
【続】
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