夏への招待状 失われた記憶と消えゆく少女たち 無人島脱出お宝大作戦

二廻歩

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真実 俺? 俺がやっちまったのか?

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夕食。
五人が集まった。
リンはまったく気にする素振りも見せない。
演じているようには見えない。
いつものリンだ。
昼間のことは忘れてしまったのだろうか?
まあリンならあり得る。
三歩も歩けば忘れるのがリンだ。
また馬鹿にしてと言うかもな。
リンはいい。
問題は亜砂だ。
リンみたいにはいかない。
話しかけても返事がないどころか常に下を向いている。
苦しそうだ。
俺が追い詰めてしまった。
彼女の気持ちも分からずに暴走してしまった。
今すぐ謝りたい。
亜砂だけでない。
ここにいる全員がそのことを理解している。
重苦しい空気が場を包む。

さあ今日二人で釣った魚を食すとしよう。
「これリンが! 」
「嘘を吐くな! こっちの小さい方だろうが」
「えへへへ。ばれちゃった」
「当たり前だ! 」
「もうお兄ちゃんたらずるい! 」
何がずるいものか。まったく困った奴だ。
しかし……
リンに変化が見られない。
やはりいつものリンだ。
演じているのかと疑いたくなる。
ただ何も考えてない。それがリンだ。
重苦しい雰囲気の中リンの純粋な笑顔に救われる。

夜になっても下がらない。
熱帯夜だ。
さすがに今日はリンも亜砂も俺の横に来ようとはしない。
今夜は空蝉の番だ。
「一晩お世話になります」
馬鹿丁寧に挨拶すると左端に。
「おやすみなさい」
今夜も寝れそうにない。

三十分後寝息を立てる空蝉を起こさないように外に出る。
夜の海は神秘的だ。
何かが起こる?
あれ変だな……
記憶が戻りそうな予感がする。
「ゲンジさん」
「その声は…… 」
一足先にムーちゃんが来ていた。
「来ると思っていました」
「昨日はアイミの手前遠慮してたんですがお話があります」
やけに真剣で怖い。
「俺は別に話すことは…… 」
「博士の件は聞きました」
どう聞いたのか?
どこまで知っているのか?
手の内を見せるまでは信用できない。
「博士は本当に亡くなったのか? 」
「さあどうでしょう。私は見たわけではないので」
「教えてくれ! 何があったんだ! 」
「知りたいですか? 」
「ああ」
「本当に? 」
「もちろん」
「どうしても? 」
「ああ」
「それならこちらのお願いも聴いてください」
焦らすだけ焦らして交換条件をだすとは侮れない。
「お願い? まさか…… 」 
「はい。私を選んでください」
「何だそんなことか。別に構わないが」
「本当ですか? 」
「ああ。それで博士はなぜ亡くなった? 教えろ! 」

本題に入る前に確認。
「本当に知りたいんですか? 胸に手を当てて聞いてみてください」
「当然じゃないか。記憶を取り戻したいんだ! 」
「島に来るまでの記憶が無い。いつの間にか島で生活していた。
おかしいだろ? もう不安で不安で夜も眠れない。早く何とかしなくては! 」
「それは本当に困ります」
「ううん? 」
「いえ。こちらの話です」
「ではお教えいたしましょう」
彼女は畏まる。
海が荒れ始めた。
風が音を立て向かってくる。
明日は荒れそうだ。
「博士は殺されました」
「殺された? 」
「はい」
「何だって! いったい誰に? 」
「それは…… 私の口からは勘弁してください」
「ここまで来て隠すな! 」
「もう知りませんよ」
「早く教えろ! 」
「博士は殺されました」
「うんうん」
「犯人は…… 」
「早く教えてくれ! 」
彼女は俺の方を見る。
目が何かを訴えかけている。
俺は無視することにした。
彼女は諦めるしかない。
「博士はあなたに殺されました! 」
「はああ? 」
もはや冗談にしか聞こえない。
「何だって! 博士は俺が殺したって言うのか? そんな馬鹿な! 」
「ええ。紛れもない事実です。あなたから直接聞きました」
「俺から? 」
俺は覚えていない。
ふん。つまらない戯言だ。
「もう帰る! 」
彼女を残しコテージへ。
空蝉の横で目を瞑る。
俺が博士をやっちまった?
嘘だ。そんな訳ない。
あんなにも尊敬していた博士を一時の気の迷いで殺害するとは考えられない。
嘘だ! 嘘に決まっている! 
もう寝よう。

上陸作戦。

嵐は収まる気配が無い。
丸一日かけ見つけた宝の島。

前方に島発見。
「あれじゃないですか? 」
「馬鹿者! そうやすやすと見つかるはずが無かろう」
嵐の影響で大粒の雨が襲ってくる。
雨具で凌ぐも時間の問題だ。
波も高くこんなオンボロ船では持つはずもない。
沈まないようにバケツで取り除く。
掬っても掬っても溜まる。
急がなければ本当に沈没してしまう。
一刻の猶予もない。
「博士! 近くの島に避難しましょう」
「馬鹿者! 我々には時間が無いのだぞ」
「我々? 」
「いいか。いち早くお宝の情報を得て一番に動いた。
しかしあれだけのお宝だ。他の者も嗅ぎつけるに違いない」
「それは博士の思い込みでは? 」
「私が間違っているとでも言うのか? 」
「いえそうは言ってません。ですが急がなければこの船が沈むかバラバラになるかです。頼むから博士も手伝ってください」
博士は手伝おうともせずただ遠くを眺めている。
「私に手伝えと? 君は助手じゃないのか? 」
そんなこと言ってる場合ではない。
「いいからこのまま進むぞ。あと一時間もすれば目的の宝島だ」
「ひえええ…… 」
いつ沈むか分からない恐怖と戦いながら船を走らせる。

                         【続】
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