18 / 61
ゲンジじゃないよ! ゲンシだよ!
しおりを挟む
「いやあ。済まんがこれはバカンスなんかではない」
「宝探しだ! 」
ついに狂ってしまったか?
発明には時間も金もかかる。
俺の口から言うのは憚られるが博士は計算ができない人だ。
簡単に借金を抱える。
だから当然苦しい。
本来バカンスする余裕などないはずだ。
最初から違和感があった。
「バカンスではないのですか? 」
「若いなあ君は。何年私に仕えて来たのかね。もうそろそろ私を理解してくれると思っていたが…… 」
騙される方が悪いと勝手な理論。
ふざけた奴だ。
「帰りますよ博士」
「ふふふ…… 残念だったね。もう遅い。どうやって帰るんだ? 」
「博士…… 」
「サメさんにでも送ってもらう気か」
もう周りは海。遠くの方に港らしきシルエットが見える。
嵌められた。
「どうするかね? 帰ってもいいんだよ」
「仕方ないなあ。分かりましたよ。協力しますよ」
「よしそれでこそ助手だ」
憎たらしいほどの笑顔を浮かべる。
「これで満足ですか? 」
「ああ」
「それでどこに向かっているんですか? 」
「それは言えない! 着いてからのお楽しみだ」
とにかく切り替えるしかない。
「お宝なんて本当にあるんですか? 」
「それはある。私のプライドにかけて」
もうそれ以上話すこともないのでゆっくり外を見る。
ゴオオオ!
潮風が顔に当たる。
ああ気持ちいい。だが強すぎないか。
「うん。絶好調。このまま晴れが続くといいがな」
呑気なものだ。まったく騙しやがって……
「おい! ラジオ! 」
無線ラジオを渡す。
「まずいな。明日は大荒れになりそうだ。嵐が来るらしい」
「そうですか…… 」
大して興味が無い。
「急ぐぞ! 明日の昼までに着かんといかん」
「そうですか…… 」
素っ気なく応える。
「ゲンジ君! 聞いているのかね? 」
「あの…… すいません。俺はゲンジじゃなくてゲンシ。いつになったら覚えてくれるんですか? 」
「そんなことはどっちでもいい! 私がゲンジと言えば君はゲンジだ! 」
「それはないっすよ」
不満を述べる。
しかしまったく聞き入れてくれない。困った爺だ。
船はスピードを上げる。
危険は承知で突っ込む。
暴走ドライバー。
爺の運転は荒くていけない。
こうして泣く泣く宝さがしに加わることになった。
現在。
ようやく思い出せた。
なぜ今まで忘れていたのか?
それにしてもあの爺はまったく……
バカンスと偽って俺に宝さがしを手伝わせるとはふざけた爺さんだ。
どこからか声がする。
「お兄ちゃん! 」
元気よく走ってきて胸にダイブ。
「リン…… 」
「お兄ちゃん。心配したんだよ」
「嘘を吐け! だったらなぜ姿を見せない? 」
「ごめんねお兄ちゃん…… でも…… できることとできないことがある…… 」
「おいおい。大したことじゃないだろう…… 」
リンは涙を流す。
どういうことだろう?
俺が悪いのか? それとも……
頭を撫で優しく抱きしめてやる。
「リンはいい子だ。姿を見せなかったんじゃない。見せられなかったんだ。そうだろ? 」
「お兄ちゃん…… 」
勝手に都合よく解釈。
「歩こうか」
リンと海岸沿いを歩く。
すると今まで隠れていたかのように突然姿を現す少女たち。
「ゲンジ! 」
亜砂がいた。
それだけではない。
泳いでいたのか海から上がってくる二体のマーメイド。
「お前らいつの間に? 」
アイミとムーちゃんが手を振る。
これで四人揃った。後は一人。
コテージから声がする。
慌てて外に行ったので確認していなかったが空蝉が隣の部屋で待機していたらしい。
少しのハプニングぐらい乗り越えられる。
疑う心を鎮め話を聞く。
「それではさっそく始めよう」
暗号解読にかかる。
もうほぼ解けている。だが最後の一歩まではいけていない。
「このローマ字の意味分かる奴? 」
『FL』
「さあ? 」
亜砂の頭に違和感。
「どうしたそれ? 」
「へへへ。いいでしょう。作ったんだあ」
白のビキニを彩る花飾り。
「いいなあ。リンも…… 」
「自分で作れば? 簡単だよ」
「ガキっぽい」
アイミがからかう。
「それどうやって作ったんですか? 」
空蝉が興味を示す。
和服には合わないだろう。
しかし…… 待てよ。
「亜砂! どこで手に入れた! 」
「何だゲンジも興味あるんだ。でもねえ男の人には似合わないんじゃない」
「いいから教えろ! 」
「もう。分かった。着いてきて」
リンゴやブドウに似た果物や南国の草花が生い茂る一画に到着。
「ここから好きな花や葉を取って」
亜砂は一枚ちぎってやって見せる。
「リンもほら」
人の手によって作られた果樹園の一画。
今は誰も住んでいないがその跡が残っている。
たまに来ては管理しているのかもしれない。
博士に聞けばその辺のことも詳しく教えてくれるだろう。
博士…… 今どこにいるんですか?
「ほらできた」
花飾りの完成。
リンは嬉しさの余り飛び跳ねる。
「どうどう? お兄ちゃん! 」
「待ってリン! ゆっくり。花飾りが壊れる」
「そうか! 」
「どうしたのゲンジ? 」
アイミが怪訝そうにこちらを見る。
「分かったんだよ! 暗号の意味が。あのローマ字の意味がさ」
「FLだっけ」
「そうこれはFLOWERのことなんだ」
「花ってこと? 」
「だからここがFLだ! 」
【続】
「宝探しだ! 」
ついに狂ってしまったか?
発明には時間も金もかかる。
俺の口から言うのは憚られるが博士は計算ができない人だ。
簡単に借金を抱える。
だから当然苦しい。
本来バカンスする余裕などないはずだ。
最初から違和感があった。
「バカンスではないのですか? 」
「若いなあ君は。何年私に仕えて来たのかね。もうそろそろ私を理解してくれると思っていたが…… 」
騙される方が悪いと勝手な理論。
ふざけた奴だ。
「帰りますよ博士」
「ふふふ…… 残念だったね。もう遅い。どうやって帰るんだ? 」
「博士…… 」
「サメさんにでも送ってもらう気か」
もう周りは海。遠くの方に港らしきシルエットが見える。
嵌められた。
「どうするかね? 帰ってもいいんだよ」
「仕方ないなあ。分かりましたよ。協力しますよ」
「よしそれでこそ助手だ」
憎たらしいほどの笑顔を浮かべる。
「これで満足ですか? 」
「ああ」
「それでどこに向かっているんですか? 」
「それは言えない! 着いてからのお楽しみだ」
とにかく切り替えるしかない。
「お宝なんて本当にあるんですか? 」
「それはある。私のプライドにかけて」
もうそれ以上話すこともないのでゆっくり外を見る。
ゴオオオ!
潮風が顔に当たる。
ああ気持ちいい。だが強すぎないか。
「うん。絶好調。このまま晴れが続くといいがな」
呑気なものだ。まったく騙しやがって……
「おい! ラジオ! 」
無線ラジオを渡す。
「まずいな。明日は大荒れになりそうだ。嵐が来るらしい」
「そうですか…… 」
大して興味が無い。
「急ぐぞ! 明日の昼までに着かんといかん」
「そうですか…… 」
素っ気なく応える。
「ゲンジ君! 聞いているのかね? 」
「あの…… すいません。俺はゲンジじゃなくてゲンシ。いつになったら覚えてくれるんですか? 」
「そんなことはどっちでもいい! 私がゲンジと言えば君はゲンジだ! 」
「それはないっすよ」
不満を述べる。
しかしまったく聞き入れてくれない。困った爺だ。
船はスピードを上げる。
危険は承知で突っ込む。
暴走ドライバー。
爺の運転は荒くていけない。
こうして泣く泣く宝さがしに加わることになった。
現在。
ようやく思い出せた。
なぜ今まで忘れていたのか?
それにしてもあの爺はまったく……
バカンスと偽って俺に宝さがしを手伝わせるとはふざけた爺さんだ。
どこからか声がする。
「お兄ちゃん! 」
元気よく走ってきて胸にダイブ。
「リン…… 」
「お兄ちゃん。心配したんだよ」
「嘘を吐け! だったらなぜ姿を見せない? 」
「ごめんねお兄ちゃん…… でも…… できることとできないことがある…… 」
「おいおい。大したことじゃないだろう…… 」
リンは涙を流す。
どういうことだろう?
俺が悪いのか? それとも……
頭を撫で優しく抱きしめてやる。
「リンはいい子だ。姿を見せなかったんじゃない。見せられなかったんだ。そうだろ? 」
「お兄ちゃん…… 」
勝手に都合よく解釈。
「歩こうか」
リンと海岸沿いを歩く。
すると今まで隠れていたかのように突然姿を現す少女たち。
「ゲンジ! 」
亜砂がいた。
それだけではない。
泳いでいたのか海から上がってくる二体のマーメイド。
「お前らいつの間に? 」
アイミとムーちゃんが手を振る。
これで四人揃った。後は一人。
コテージから声がする。
慌てて外に行ったので確認していなかったが空蝉が隣の部屋で待機していたらしい。
少しのハプニングぐらい乗り越えられる。
疑う心を鎮め話を聞く。
「それではさっそく始めよう」
暗号解読にかかる。
もうほぼ解けている。だが最後の一歩まではいけていない。
「このローマ字の意味分かる奴? 」
『FL』
「さあ? 」
亜砂の頭に違和感。
「どうしたそれ? 」
「へへへ。いいでしょう。作ったんだあ」
白のビキニを彩る花飾り。
「いいなあ。リンも…… 」
「自分で作れば? 簡単だよ」
「ガキっぽい」
アイミがからかう。
「それどうやって作ったんですか? 」
空蝉が興味を示す。
和服には合わないだろう。
しかし…… 待てよ。
「亜砂! どこで手に入れた! 」
「何だゲンジも興味あるんだ。でもねえ男の人には似合わないんじゃない」
「いいから教えろ! 」
「もう。分かった。着いてきて」
リンゴやブドウに似た果物や南国の草花が生い茂る一画に到着。
「ここから好きな花や葉を取って」
亜砂は一枚ちぎってやって見せる。
「リンもほら」
人の手によって作られた果樹園の一画。
今は誰も住んでいないがその跡が残っている。
たまに来ては管理しているのかもしれない。
博士に聞けばその辺のことも詳しく教えてくれるだろう。
博士…… 今どこにいるんですか?
「ほらできた」
花飾りの完成。
リンは嬉しさの余り飛び跳ねる。
「どうどう? お兄ちゃん! 」
「待ってリン! ゆっくり。花飾りが壊れる」
「そうか! 」
「どうしたのゲンジ? 」
アイミが怪訝そうにこちらを見る。
「分かったんだよ! 暗号の意味が。あのローマ字の意味がさ」
「FLだっけ」
「そうこれはFLOWERのことなんだ」
「花ってこと? 」
「だからここがFLだ! 」
【続】
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【毎日20時更新】アンメリー・オデッセイ
ユーレカ書房
ミステリー
からくり職人のドルトン氏が、何者かに殺害された。ドルトン氏の弟子のエドワードは、親方が生前大切にしていた本棚からとある本を見つける。表紙を宝石で飾り立てて中は手書きという、なにやらいわくありげなその本には、著名な作家アンソニー・ティリパットがドルトン氏とエドワードの父に宛てた中書きが記されていた。
【時と歯車の誠実な友、ウィリアム・ドルトンとアルフレッド・コーディに。 A・T】
なぜこんな本が店に置いてあったのか? 不思議に思うエドワードだったが、彼はすでにおかしな本とふたつの時計台を巡る危険な陰謀と冒険に巻き込まれていた……。
【登場人物】
エドワード・コーディ・・・・からくり職人見習い。十五歳。両親はすでに亡く、親方のドルトン氏とともに暮らしていた。ドルトン氏の死と不思議な本との関わりを探るうちに、とある陰謀の渦中に巻き込まれて町を出ることに。
ドルトン氏・・・・・・・・・エドワードの親方。優れた職人だったが、職人組合の会合に出かけた帰りに何者かによって射殺されてしまう。
マードック船長・・・・・・・商船〈アンメリー号〉の船長。町から逃げ出したエドワードを船にかくまい、船員として雇う。
アーシア・リンドローブ・・・マードック船長の親戚の少女。古書店を開くという夢を持っており、謎の本を持て余していたエドワードを助ける。
アンソニー・ティリパット・・著名な作家。エドワードが見つけた『セオとブラン・ダムのおはなし』の作者。実は、地方領主を務めてきたレイクフィールド家の元当主。故人。
クレイハー氏・・・・・・・・ティリパット氏の甥。とある目的のため、『セオとブラン・ダムのおはなし』を探している。

磯村家の呪いと愛しのグランパ
しまおか
ミステリー
資産運用専門会社への就職希望の須藤大貴は、大学の同じクラスの山内楓と目黒絵美の会話を耳にし、楓が資産家である母方の祖母から十三歳の時に多額の遺産を受け取ったと知り興味を持つ。一人娘の母が亡くなり、代襲相続したからだ。そこで話に入り詳細を聞いた所、血の繋がりは無いけれど幼い頃から彼女を育てた、二人目の祖父が失踪していると聞く。また不仲な父と再婚相手に遺産を使わせないよう、祖母の遺言で楓が成人するまで祖父が弁護士を通じ遺産管理しているという。さらに祖父は、田舎の家の建物部分と一千万の現金だけ受け取り、残りは楓に渡した上で姻族終了届を出して死後離婚し、姿を消したと言うのだ。彼女は大学に無事入学したのを機に、愛しのグランパを探したいと考えていた。そこでかつて住んでいたN県の村に秘密があると思い、同じ県出身でしかも近い場所に実家がある絵美に相談していたのだ。また祖父を見つけるだけでなく、何故失踪までしたかを探らなければ解決できないと考えていた。四十年近く前に十年で磯村家とその親族が八人亡くなり、一人失踪しているという。内訳は五人が病死、三人が事故死だ。祖母の最初の夫の真之介が滑落死、その弟の光二朗も滑落死、二人の前に光二朗の妻が幼子を残し、事故死していた。複雑な経緯を聞いた大貴は、専門家に調査依頼することを提案。そこで泊という調査員に、彼女の祖父の居場所を突き止めて貰った。すると彼は多額の借金を抱え、三か所で働いていると判明。まだ過去の謎が明らかになっていない為、大貴達と泊で調査を勧めつつ様々な問題を解決しようと動く。そこから驚くべき事実が発覚する。楓とグランパの関係はどうなっていくのか!?
総務の黒川さんは袖をまくらない
八木山
ミステリー
僕は、総務の黒川さんが好きだ。
話も合うし、お酒の趣味も合う。
彼女のことを、もっと知りたい。
・・・どうして、いつも長袖なんだ?
・僕(北野)
昏寧堂出版の中途社員。
経営企画室のサブリーダー。
30代、うかうかしていられないなと思っている
・黒川さん
昏寧堂出版の中途社員。
総務部のアイドル。
ギリギリ20代だが、思うところはある。
・水樹
昏寧堂出版のプロパー社員。
社内をちょこまか動き回っており、何をするのが仕事なのかわからない。
僕と同い年だが、女性社員の熱い視線を集めている。
・プロの人
その道のプロの人。
どこからともなく現れる有識者。
弊社のセキュリティはどうなってるんだ?

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

【完結】深海の歌声に誘われて
赤木さなぎ
ミステリー
突如流れ着いたおかしな風習の残る海辺の村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!
ちょっと不思議で悲しくも神秘的な雰囲気をお楽しみください。
海からは美しい歌声が聞こえて来る。
男の意志に反して、足は海の方へと一歩、また一歩と進んで行く。
その歌声に誘われて、夜の冷たい海の底へと沈んで行く。
そして、彼女に出会った。
「あなたの願いを、叶えてあげます」
深海で出会った歌姫。
おかしな風習の残る海辺の村。
村に根付く“ヨコシマ様”という神への信仰。
点と点が線で繋がり、線と線が交差し、そして謎が紐解かれて行く。
―― ―― ―― ―― ―― ―― ――
短期集中掲載。毎日投稿します。
完結まで執筆済み。約十万文字程度。
人によっては苦手と感じる表現が出て来るかもしれません。ご注意ください。
暗い雰囲気、センシティブ、重い設定など。


「蒼緋蔵家の番犬 1~エージェントナンバーフォー~」
百門一新
ミステリー
雪弥は、自身も知らない「蒼緋蔵家」の特殊性により、驚異的な戦闘能力を持っていた。正妻の子ではない彼は家族とは距離を置き、国家特殊機動部隊総本部のエージェント【ナンバー4】として活動している。
彼はある日「高校三年生として」学園への潜入調査を命令される。24歳の自分が未成年に……頭を抱える彼に追い打ちをかけるように、美貌の仏頂面な兄が「副当主」にすると案を出したと新たな実家問題も浮上し――!?
日本人なのに、青い目。灰色かかった髪――彼の「爪」はあらゆるもの、そして怪異さえも切り裂いた。
『蒼緋蔵家の番犬』
彼の知らないところで『エージェントナンバー4』ではなく、その実家の奇妙なキーワードが、彼自身の秘密と共に、雪弥と、雪弥の大切な家族も巻き込んでいく――。
※「小説家になろう」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる