夏への招待状 失われた記憶と消えゆく少女たち 無人島脱出お宝大作戦

二廻歩

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失われた記憶 博士と助手の愉快な船旅

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残された謎は振られた番号とローマ字。
まずいな……
体調が悪くなっても薬など無い。
これ以上の悪化は命にかかわる。
それが分かっているのか。積極的に看病する者が現れた。
「大丈夫お兄ちゃん? 」
「食べられますか? 」
リンと空蝉が交代で着いてくれた。
スタミナがつくようにと牛の缶詰を開ける。
「美味しですか? 」
「美味しいお兄ちゃん? 」
まだ風邪の初期段階なので辛くもない。
ただ嬉しい。いや少し恥ずかしいだけだ。
もうあと僅かとなった缶詰のことは気にしない。
「はい。あーん。お兄ちゃん」
「おいおい。リン」
「いいからいいから。任せて! 」
ずいぶんと立派になった。ふと抱きしめたい衝動に駆られる。
「ではそろそろ。お大事に」
リンを引っ張って空蝉は退場。
「何かあったら言うんだよ! お兄ちゃん」
「へいへい」
「寂しくなったら呼んでね」
「こらリン! 調子に乗るな! 」

翌日は何とか起きられたが熱がまだ下がらない。
我慢だ。大人しく寝ていよう。
彼女たちが交代で面倒を見てくれるので助かる。
意外なことにアイミが優しい。
出会った当初のように包み込んでくれる。
「どうした? らしくないな」
「なんでもないよ。心配なだけ。あなたが心配なの! 」
意外な言葉が返ってくる。
「ゲンジが居ないと私が困るんだ。いや私らが困る……
あんたに懸かってるんだよゲンジ」
弱音を吐くアイミ。
戸惑うばかりだ。
彼女に一体どのような変化があったのか?
頼られるのは悪くないが……
「暗号解けた? 」
「いや…… 済まん。そう簡単には…… 」
「そう…… それならいいんだ。お大事に」
何か言いかけたが止めてしまう。
「行くね」
アイミはただ胸を揺らすだけだった。

結局。一日中横になるしかなかった。
翌日から寝込んでしまう。
誰も見舞いに来る者は現れなかった。
まるで人が変わったように。
誰一人として看病に現れない不思議。
まさかみんな逃げた?
俺一人島に取り残された?
馬鹿な!
いくらなんでもそれはあり得ない。
彼女たちが俺を裏切るなんてありえない。
何か。決定的な何かが起きたのだろう。
俺は立ち上がることもできずに水だけで二日間を乗り切った。

夜中にはもう熱もなく体の自由が利くようになった。
後は寝て食べて復活するだけだ。

翌日。
うーん。気持ちいい。
もう昼過ぎ。
いつものことだが今回だけは特別嬉しい。
立ち上がり体を回す。
よし。問題ない。完全回復だ。
コテージを抜け海に走る。
風邪で体力が落ち気味なので無理をせずただ海を眺めるだけにとどめる。
あいつらどうしちまったんだ一体……
飽きたのか?
本当に島を出て行ってしまったとか?
博士が戻って来たとか?
海を眺め空気を吸う。
何て気持ちがいいのだろうか。
何日ぶりかの贅沢。

博士…… 
あれおかしいな? 俺の記憶?
しかしこれが本当の記憶かは不確かだ。
まあいいか。
博士どうしただろう?
博士のことが気になった。
あれ? 思い出しかけている?
うん? 頭がすっきりしていい感じだ。
確かあの時……
失われた記憶を手繰る。

「おい行くぞ! 支度しろ! 」
いつもの無茶な注文に適当な返事で返す。
それがまずかった。
博士の着替えと自分の着替え。それから非常食の入ったカバンを手に続く。
「博士待ってください」
「早くせんか! 」
前を行く博士に追いつこうとするが年の割には速くなかなか追いつけない。
「乗れ早く! 」
博士愛用のお洒落なクラッシックカーに乗る。
「今回はどこへ? 」
「助手の君にも少しは楽しんでもらおうと思ってな」
ケチで怒りっぽい偏屈な爺で助手の俺をこき使うことに快感を覚える変態の博士がなぜか今回はバカンスに誘ってくれた。
「いいか。よく言うことを聞くんだぞ。絶対に逆らうな! 」
「博士と二人ですか? 」
「ああ。今のところはな。後で応援が来ることになっている」
「応援? 」
「いやこちらの話だ。さあそろそろ港に着くぞ」
博士は何かを隠している?
まあ別にいいか。バカンスに違いはない。
小型の船舶が係留されていた。
博士は手際よく荷物を詰め込み準備を終える。
俺は助手だと言うのに様子をただ見ている。
「おいぼっとするな! 出発するぞ! 」
「他に人は? 操縦士は? 」
「馬鹿者! そんな者を雇う金があるか! 」
相変わらずのケチで反吐が出る。
せっかくのバカンスに金を惜しむとは情けない。
これだからまともな発明も評価も得られない。
俺はこの人の三食付の保障に釣られ安く使われている。
だが何度も言うが不満はない。
船が動き出した。

「博士本当に大丈夫なんですか? 」
「くどいぞ君! 私に不可能はない! 」
「はああ? 」
「操縦ぐらいできるに決まっておろう」
自信満々だが機器の扱いに不慣れなのか手間取っている。
「博士これじゃないですか? 」
助手として最低限の協力をする。
「うん。私もそう思った」
決して自分の不手際は認めようとしない困った人。
船が出て三十分が経過した。
「ふふふ…… 」
博士は突然笑い出した。不気味だ。不気味すぎる。
「いやあ。済まんがこれはバカンスなんかではない。宝探しだ! 」
「ええっ? 」
絶句する。
ついに狂ってしまったか?
博士との死の航海が始まった。
もうどうすることもできない。
 
                     【続】

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