夏への招待状 失われた記憶と消えゆく少女たち 無人島脱出お宝大作戦

二廻歩

文字の大きさ
上 下
14 / 61

脱出ステイ

しおりを挟む
翌朝。
ビーチにて。
「面倒だから止めてくれないかな? 」
「すみません。二度としません」
「軽い気持ちでやられちゃうとさあ…… 」
「お許しください」
「分かった今回だけだよ。ムーちゃんだっけ? ふざけた名前だ」
「それはあなたが…… 」
「まさか俺が悪いとでも? 」
「いえ。そのようなことは」
決して逆らうことは無い。
男は満足したのか姿を消した。
ムーちゃんはブルブル震えてその場に座り込んだ。
考えずにしてしまった大失態。
いやああ!
私のつまらない欲が勝った結果とはいえ恐ろしい目に遭った。
まったくこれと言うのもあいつが悪い!
憂さ晴らしにゲンジに突っかかる。

昼過ぎ。
目を覚ます。
うーん。気持ちいい。良く寝た。
「ゲンジさん! 」
ムーちゃんが目の前に現れた。
「どうした? 昨日は見かけなかったけど。心配したんだぞ」
「覚えてないんですか? 」
「何が? 」
「いえ…… あなたに伝えていたはずですが。用事があるって」
「言った? 」
「はい、言いました。それよりももう酔っぱらわないでください! 世話が大変だったんですから」
「俺…… 何か? 」
「だれかれ構わず抱き着いてくるんだからまったく! 」
「おいおい。本当かよ? 信じられないなあ」
「これだから嫌なんです」
「そう言うなよ。俺は君以外興味はない」
「嘘ばっかり! 」
「本当だって。最初に会った時から君の美しさに惹かれていたんだ。
そのスタイルも格別だしな。どうだ俺と? 」
「ふざけないでください! 」
満更でもない様子。
「あなたはそうやっていつも私を試そうとしてる。もう嫌! 」
「おいおい。冗談だよ。冗談」
「結局アイミに行くんでしょう? 」
「アイミか? それも悪くない」
「あの…… 前回話したこと覚えてますか? 」
「ああ。アダムとイブだっけ」
「そう。あなたは私のアダムになれない。それはアイミも同じ」
「どういうことだ? まさか俺を混乱させるつもりか! 」
「ひい! ごめんなさい! ごめんなさい! 」
「ああ。済まない。言い過ぎた。でもどうしてそんな意地悪を言う? 」
「あなたはゲンジさん? 」
「ああ。そうだよ」
「良かった。たまにあなたから…… ううん何でもない。気にしないで」
島の生活にも慣れ飽きたのだろう。
焦らし合いや潰しあいが始まったか。

「ゲンジさん! 」
空蝉が何かを発見したらしい。
「ほら見えるでしょう? 」
何と目の前には巨大な船舶が見えるではないか。
我々を探しているのかもしれない。
「どうしますゲンジさん? 」
「すぐに皆を集めてくれ。上手く行けばここを脱出できるかもしれない」
「分かりましたすぐにでも」
空蝉は姿を消した。
「ちょっと待って」
ムーちゃんが噛みつく。
「博士がこの辺りを回っているのよ」
「ああ。確か…… 」
「彼らに知られてはせっかくの財宝が強奪されるかもしれない」
「でも…… 」
「いいのそれで? あなたの分け前も当然減るのよ」
「しかし…… 」
「博士は一昨日の朝戻って来てすぐに行ってしまいました。宝はすぐそこだって言ってね」
「本当なのかその話? 」
「ええ」
「しかし俺は帰りたい。お前はどうだ? 」
「私だってこんな島…… でも博士が頑張っているなら私耐えられる」
「どいつもこいつ財宝に目が眩みやがって。俺はもう嫌だね。帰ってやる! 」
「待って…… 」
振り払ってビーチに走る。

「おい助けてくれ! 俺はここにいる! 」
おーい!
おーい!
船は東から西へ舵を取る。
こちらを発見するには外に出て双眼鏡でも見てなければ難しい。
あいにく外には人の影が無い。
彼らには何か別の目的があるようだ。
しかしかつてない脱出のチャンス。
気付かせなければ。
何かないか? 何でも良い。
「おい! おーい! 」
そうだ笛があった。
たしか荷物部屋の机の上に。
あった。これだこれ。
ずいぶん汚らしい。埃だらけだ。
だが今はそんなこと言ってられない。
手でこすってから咥え外に走る。
ピー!
ピー!
おもいっきり鳴らす。
気付いてくれ!
行くな! 行くな!
ここに居る! 俺はここに居る!
助けてくれ!
あれ…… 体が拒絶する。
意思に反して吹くのを止めてしまう。
なぜだ? なぜなんだ?

「本当に良いの? 分け前が減るよ」
「お願いだ! 」
「お願い…… 私たちはどうなっちゃうの? 」
「脱出! 」
「この島から出たら私たちは私たちは…… 」
「うおおお! 止めてくれ! 」
「また会えばいいじゃないか。こんな島に居てどうしようってんだ」
「分かる。でもね…… できないの! 」
「ワガママを言うな! 」
「ごめんなさい。最初で最後のわがまま。私たちの想いを聞いて! 」
「何だっていうんだ? 」
「思い出が…… いえすべてが消えてしまう」
「そんな思い出忘れちまえ! 」
「ううん。あなたを信じてる」

汽笛が響いた。
我に返る。
船は西に姿を消した。
「これでいいの。これで…… 
あなたにとっても私たちにとっても。
たとえ消えゆく世界だとしても……
たとえ失われる命だとしても…… 」
うおおお!
もう何が何だか分からない。
俺は一体誰と話していたんだ?
私たちとは一体?
島を脱出するとどうなるのか?
試したい気もする。
船は行ってしまった。
もう全てにおいて遅い。

空蝉が駆けてきた。
「残念ですねゲンジさん」
「空蝉…… お前も本当はこの島を出たくないんだろ? 」
「私はあなたの意見に従うだけです。決して逆らったり邪魔をしたりしません」
空蝉はこちらをじっと見る。
彼女は信用できそうだ。
「まだ可能性はあります」
「ああ。そうか。そうだよな? 」
単純なことではないか彼らだって帰るのだ。
翌日から海の監視を始める。

                     【続】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【毎日20時更新】アンメリー・オデッセイ

ユーレカ書房
ミステリー
からくり職人のドルトン氏が、何者かに殺害された。ドルトン氏の弟子のエドワードは、親方が生前大切にしていた本棚からとある本を見つける。表紙を宝石で飾り立てて中は手書きという、なにやらいわくありげなその本には、著名な作家アンソニー・ティリパットがドルトン氏とエドワードの父に宛てた中書きが記されていた。 【時と歯車の誠実な友、ウィリアム・ドルトンとアルフレッド・コーディに。 A・T】 なぜこんな本が店に置いてあったのか? 不思議に思うエドワードだったが、彼はすでにおかしな本とふたつの時計台を巡る危険な陰謀と冒険に巻き込まれていた……。 【登場人物】 エドワード・コーディ・・・・からくり職人見習い。十五歳。両親はすでに亡く、親方のドルトン氏とともに暮らしていた。ドルトン氏の死と不思議な本との関わりを探るうちに、とある陰謀の渦中に巻き込まれて町を出ることに。 ドルトン氏・・・・・・・・・エドワードの親方。優れた職人だったが、職人組合の会合に出かけた帰りに何者かによって射殺されてしまう。 マードック船長・・・・・・・商船〈アンメリー号〉の船長。町から逃げ出したエドワードを船にかくまい、船員として雇う。 アーシア・リンドローブ・・・マードック船長の親戚の少女。古書店を開くという夢を持っており、謎の本を持て余していたエドワードを助ける。 アンソニー・ティリパット・・著名な作家。エドワードが見つけた『セオとブラン・ダムのおはなし』の作者。実は、地方領主を務めてきたレイクフィールド家の元当主。故人。 クレイハー氏・・・・・・・・ティリパット氏の甥。とある目的のため、『セオとブラン・ダムのおはなし』を探している。

磯村家の呪いと愛しのグランパ

しまおか
ミステリー
資産運用専門会社への就職希望の須藤大貴は、大学の同じクラスの山内楓と目黒絵美の会話を耳にし、楓が資産家である母方の祖母から十三歳の時に多額の遺産を受け取ったと知り興味を持つ。一人娘の母が亡くなり、代襲相続したからだ。そこで話に入り詳細を聞いた所、血の繋がりは無いけれど幼い頃から彼女を育てた、二人目の祖父が失踪していると聞く。また不仲な父と再婚相手に遺産を使わせないよう、祖母の遺言で楓が成人するまで祖父が弁護士を通じ遺産管理しているという。さらに祖父は、田舎の家の建物部分と一千万の現金だけ受け取り、残りは楓に渡した上で姻族終了届を出して死後離婚し、姿を消したと言うのだ。彼女は大学に無事入学したのを機に、愛しのグランパを探したいと考えていた。そこでかつて住んでいたN県の村に秘密があると思い、同じ県出身でしかも近い場所に実家がある絵美に相談していたのだ。また祖父を見つけるだけでなく、何故失踪までしたかを探らなければ解決できないと考えていた。四十年近く前に十年で磯村家とその親族が八人亡くなり、一人失踪しているという。内訳は五人が病死、三人が事故死だ。祖母の最初の夫の真之介が滑落死、その弟の光二朗も滑落死、二人の前に光二朗の妻が幼子を残し、事故死していた。複雑な経緯を聞いた大貴は、専門家に調査依頼することを提案。そこで泊という調査員に、彼女の祖父の居場所を突き止めて貰った。すると彼は多額の借金を抱え、三か所で働いていると判明。まだ過去の謎が明らかになっていない為、大貴達と泊で調査を勧めつつ様々な問題を解決しようと動く。そこから驚くべき事実が発覚する。楓とグランパの関係はどうなっていくのか!?

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

総務の黒川さんは袖をまくらない

八木山
ミステリー
僕は、総務の黒川さんが好きだ。 話も合うし、お酒の趣味も合う。 彼女のことを、もっと知りたい。 ・・・どうして、いつも長袖なんだ? ・僕(北野) 昏寧堂出版の中途社員。 経営企画室のサブリーダー。 30代、うかうかしていられないなと思っている ・黒川さん 昏寧堂出版の中途社員。 総務部のアイドル。 ギリギリ20代だが、思うところはある。 ・水樹 昏寧堂出版のプロパー社員。 社内をちょこまか動き回っており、何をするのが仕事なのかわからない。 僕と同い年だが、女性社員の熱い視線を集めている。 ・プロの人 その道のプロの人。 どこからともなく現れる有識者。 弊社のセキュリティはどうなってるんだ?

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

日月神示を読み解く

あつしじゅん
ミステリー
 神からの預言書、日月神示を読み解く

俺が咲良で咲良が俺で

廣瀬純一
ミステリー
高校生の田中健太と隣の席の山本咲良の体が入れ替わる話

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...