夏への招待状 失われた記憶と消えゆく少女たち 無人島脱出お宝大作戦

二廻歩

文字の大きさ
上 下
12 / 61

蘇る記憶

しおりを挟む
翌日さっそく暗号解読にかかる。
「集まれ! 」
手伝ってもらう。
人手は多いに越したことはない。
「誰か分かる奴はいるか? 」
沈黙で返される。
「地図はどうだ? 」
やはり反応が無い。
正確とは限らないがこの島の地図に違いない。
後はこの英語で書かれた部分。
地図と暗号解読に一ヶ月を費やすことに。

博士……
不意に蘇る断片的記憶。
「おい! ゲンジ! 」
「俺のこと? 」
「そうだお前だ! 他に誰がいるって言うんだ。まったく果てしない間抜けめ。使えん!
私が拾わなかったらどうなっていたか。感謝しろよ! 」
感謝しろよ。貢献しろよ。
それが口癖だ。
あれ? なぜか覚えている。不思議なこともあるもんだ。
「あの島を見ろ! 」
「あそこですか? 」
「これから私たちが上陸する」
「ええっ? 」
「空模様が怪しくなってきた。スコールになる前に島に着きたい。急げ! 面舵一杯! 」
言われた通り操作する。
「馬鹿! そっちではない! 」
「でも…… 」
「しっかりしろ! これはお遊びじゃないんだぞ! まったく使えん奴だ! 」
いつものネチネチ作戦。
何が楽しくてこんな虚しいことをしなくちゃならない。
決めた! 宝を見つけた暁には俺は自由になる。
こんな爺にはとっとと退場してもらって俺が宝を独占するんだ。
奴の思い通りにはさせない。
奴の口ぶりからすれば使っても使っても無くなりはしないだろう。
俺が発見して俺が独占して歴史に名を刻むんだ。
そしたら銅像ぐらい建ててもらえるだろうか?
このさえ自分で作ったっていい。
夢が膨らむ。いやただの欲かな。
ははは! 
笑いが止まらない。
だが今はその時ではない。
奴について回って隙を突く。
もう宝は目の前だ。
あれ……
いつの間にかおかしくなっていく自分がいる。
財宝の魔力に取りつかれたか?

昼過ぎ。
いつものように髭をそる。そして近くのリンを拾う。
育ち盛りのリン。少し成長した気がする。胸だってほら……
あのヨレヨレの服もそろそろ限界だ。
新しい服をと思うがリンの方がそれを拒否する。
その前に服を調達するのが先なんだが……
ああ……
これ以上成長して欲しくないと思うのはエゴか?
幼く無邪気なリンを失いたくない。
「さあ行くぞ! 」
リンを抱えて青空教室に向かう。
「ええ今日も? 」
「お前らが教えて欲しいって言うから。別に俺は構わないんだぞ」
地図も暗号も分からず手がかり無し。やることもないので暇つぶしに勉強を教えてやることにした。
今日は数学を教える。と言っても基礎の基礎。教科書など無い。
「ほらリン。この問題をやってみろ」
「お兄ちゃん助けて。もうダメ。限界」
「先生だ。先生と呼べ! 」
リンには難しかったかな?
「諦めるなリン! 」
「だって…… 」
「考えるんだ。考え抜く力を鍛えろ! 」
「お兄ちゃんごめん…… 」
「分かる者は? 」
「はい」
「よろしい」
リンの代わりにアイミが答える。
「次はな…… 」
日課を終える。
毎日昼過ぎに起き暗号の解読に時間を取る。その後勝手に授業を始める。
夕方まで続くこともあれば一時間で終わることも。
大体後者が多いが。
「復習を忘れるな! 解散! 」

海で一泳ぎしてから晩飯の確保に動く。
これが最近のルーティンだ。
いつまで続くか分からない果てしない島の生活。
脱出を何度か試したが上手く行くことは無かった。
それもそのはず。
俺には重大な欠点がある。
海が怖いのだ。
恐怖症かもしれない。
高所恐怖症に水への恐怖と。
昔。いや記憶を失う前の俺に何かが起きたのは間違いない。
雨は問題ない。
スコールだって耐え凌げばいい。
海も浅瀬なら怖くない。
だがやはり島を脱出しようと沖に泳ぎ出すと急に体が動かなくなってしまう。
ストップがかかる。
だから崖下の船にも及び腰。他の者に行ってもらった。
この島で生活する分には高い所もない。泳ぎも心配ない。
ある意味では理想的だ。
まあ陸に戻ればよほどのことが無い限り水も高さも問題ないんだが。

翌朝。
「どうだ調子は? 」
「はい。手掛かりがなく焦っているようです」
「そうか…… しかしもうそろそろ限界だぞ」
「あの…… あなたの目的は? 」
「おい! 調子に乗るなよ! お前らなどいつだって消せるんだ。俺が飽きればもうそれで終わりだ」
「分かってます」
「まあいい。確かに不思議だな。俺も実際なぜこのようなことをしているのか分からない。遊びのようなものだ。一種のゲームであり暇つぶし。それももうそろそろ終わりにしようと思う。だが希望もないこともない」
「希望? 」
「新たに発見できれば続けることも可能。永遠に続けることは難しいだろうがな」
「どうしろと? 」
男は答えずに続ける。
「それにはあいつの力が必要だ」
「ゲンジさん? 」
「どうかな? ふふふ…… 」
はぐらかされる。
「本当の意味で宝を探した時お前らの運命が決まる。
そうなれば俺も消えちまうかもな。
まあどっちだっていい。
お遊びを続けるには道具が必要。
どんな遊びも道具が無くては始まらない。
ははは! せいぜい消えないように努力するんだな」
「そうですか…… 」
「どうした? 」 
「後悔…… してるんですね? 」
「まあな。罪悪感はある」
「俺も人間だ。お前は知らんが…… 」
「長くなっちまったな。そろそろ行け! 空蝉よ! 」
「はい。畏まりました」
男は姿を消した。
朝焼けの海を眺める少女。
昼まで海で雑用を済ませコテージに戻る。
ゲンジさん。ごめんなさい……

                      【続】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【毎日20時更新】アンメリー・オデッセイ

ユーレカ書房
ミステリー
からくり職人のドルトン氏が、何者かに殺害された。ドルトン氏の弟子のエドワードは、親方が生前大切にしていた本棚からとある本を見つける。表紙を宝石で飾り立てて中は手書きという、なにやらいわくありげなその本には、著名な作家アンソニー・ティリパットがドルトン氏とエドワードの父に宛てた中書きが記されていた。 【時と歯車の誠実な友、ウィリアム・ドルトンとアルフレッド・コーディに。 A・T】 なぜこんな本が店に置いてあったのか? 不思議に思うエドワードだったが、彼はすでにおかしな本とふたつの時計台を巡る危険な陰謀と冒険に巻き込まれていた……。 【登場人物】 エドワード・コーディ・・・・からくり職人見習い。十五歳。両親はすでに亡く、親方のドルトン氏とともに暮らしていた。ドルトン氏の死と不思議な本との関わりを探るうちに、とある陰謀の渦中に巻き込まれて町を出ることに。 ドルトン氏・・・・・・・・・エドワードの親方。優れた職人だったが、職人組合の会合に出かけた帰りに何者かによって射殺されてしまう。 マードック船長・・・・・・・商船〈アンメリー号〉の船長。町から逃げ出したエドワードを船にかくまい、船員として雇う。 アーシア・リンドローブ・・・マードック船長の親戚の少女。古書店を開くという夢を持っており、謎の本を持て余していたエドワードを助ける。 アンソニー・ティリパット・・著名な作家。エドワードが見つけた『セオとブラン・ダムのおはなし』の作者。実は、地方領主を務めてきたレイクフィールド家の元当主。故人。 クレイハー氏・・・・・・・・ティリパット氏の甥。とある目的のため、『セオとブラン・ダムのおはなし』を探している。

磯村家の呪いと愛しのグランパ

しまおか
ミステリー
資産運用専門会社への就職希望の須藤大貴は、大学の同じクラスの山内楓と目黒絵美の会話を耳にし、楓が資産家である母方の祖母から十三歳の時に多額の遺産を受け取ったと知り興味を持つ。一人娘の母が亡くなり、代襲相続したからだ。そこで話に入り詳細を聞いた所、血の繋がりは無いけれど幼い頃から彼女を育てた、二人目の祖父が失踪していると聞く。また不仲な父と再婚相手に遺産を使わせないよう、祖母の遺言で楓が成人するまで祖父が弁護士を通じ遺産管理しているという。さらに祖父は、田舎の家の建物部分と一千万の現金だけ受け取り、残りは楓に渡した上で姻族終了届を出して死後離婚し、姿を消したと言うのだ。彼女は大学に無事入学したのを機に、愛しのグランパを探したいと考えていた。そこでかつて住んでいたN県の村に秘密があると思い、同じ県出身でしかも近い場所に実家がある絵美に相談していたのだ。また祖父を見つけるだけでなく、何故失踪までしたかを探らなければ解決できないと考えていた。四十年近く前に十年で磯村家とその親族が八人亡くなり、一人失踪しているという。内訳は五人が病死、三人が事故死だ。祖母の最初の夫の真之介が滑落死、その弟の光二朗も滑落死、二人の前に光二朗の妻が幼子を残し、事故死していた。複雑な経緯を聞いた大貴は、専門家に調査依頼することを提案。そこで泊という調査員に、彼女の祖父の居場所を突き止めて貰った。すると彼は多額の借金を抱え、三か所で働いていると判明。まだ過去の謎が明らかになっていない為、大貴達と泊で調査を勧めつつ様々な問題を解決しようと動く。そこから驚くべき事実が発覚する。楓とグランパの関係はどうなっていくのか!?

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

総務の黒川さんは袖をまくらない

八木山
ミステリー
僕は、総務の黒川さんが好きだ。 話も合うし、お酒の趣味も合う。 彼女のことを、もっと知りたい。 ・・・どうして、いつも長袖なんだ? ・僕(北野) 昏寧堂出版の中途社員。 経営企画室のサブリーダー。 30代、うかうかしていられないなと思っている ・黒川さん 昏寧堂出版の中途社員。 総務部のアイドル。 ギリギリ20代だが、思うところはある。 ・水樹 昏寧堂出版のプロパー社員。 社内をちょこまか動き回っており、何をするのが仕事なのかわからない。 僕と同い年だが、女性社員の熱い視線を集めている。 ・プロの人 その道のプロの人。 どこからともなく現れる有識者。 弊社のセキュリティはどうなってるんだ?

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

日月神示を読み解く

あつしじゅん
ミステリー
 神からの預言書、日月神示を読み解く

俺が咲良で咲良が俺で

廣瀬純一
ミステリー
高校生の田中健太と隣の席の山本咲良の体が入れ替わる話

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...