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一度目の追放
しおりを挟む『ジミート チート神を探して神々の森へ
追放されし三人の勇者故郷を救え』
名をカンと言った。
リサイクル卿の嫡男だったのだが混沌とした世を避けるため地方の貧しい村に養子に出される。これも少しの辛抱と思いきや五年がたち十年が経過。一向に収まることのない戦乱の世を憂いリサイクル卿は姿を隠すのだった。嫡男のカンは貧しい村に一人取り残されてしまった。
物語はカンが不用意な発言と過失によって村から追放される直前から始まる。
サウスドコダ村。
「おい! 」
「へい! 親方」
「綺麗に掃除しておけ! 」
「へーい」
体も小さく頭もよくないため皆から馬鹿にされる毎日。
「あーあ。あーはなりたくねーな! 」
同い年の者に馬鹿にされる分にはなんてことない。
だが一個も二個も下の奴に馬鹿にされるのは勘弁ならない。
「お前ら! 俺は偉いんだぞ! 親方の次に偉いんだぞ! 」
「嘘だあ。はっはは。面白え! 」
「嘘なものか! この野郎! 」
「カンが怒った! 」
そう言うと笑いながら走って逃げる。
悪口を垂れて逃げる口元はいやらしい。
毎日のことであり、もうどうでもいいが放っておくとつけあがるから勘弁ならない。
「カン。カーン」
優しい声で微笑む少女が走ってきた。
「気にしてはダメよ。あんな子達」
「アル―。俺何とも思ってないよ」
「そう、それならよかった」
「そうだ今から来ない。お菓子を焼いたの」
「うーん。行きたいんだけど親方から頼まれちゃって」
「そう。残念ね…… 」
アル―は帰っていった。
アル―は幼馴染で今でも仲良くしてもらっている一人だ。
アル―が許すなら恋人と言っても差し支えない。
さあ。早く片づけなくては。
親方の機嫌を損ねる前に掃除に励む。
ふう。もう少し。もう少し。
床をピカピカに磨きゴミを取り除く。
散らばっていた荷物を片付け部屋を綺麗にする。
整理整頓完了。
ふう。
一息つく。
まったく親方も人使いが荒いぜ!
コップに水を注ぐ。
満杯にするのが俺の流儀だ。
ベちゃ
やっちまった。親方の大切にしていた本が水浸しだ。
やべえ!
焦ってコップを掴もうとしたが倒し、運悪くすべて本に吸収されてしまう。
うおお!
どうしよう。どうしよう。
何とかしなくちゃ。
とりあえず乾かす。
ダメだ。これではバレる。
考えろ! 考えろ!
そうだ。火だ。火で乾かそう。
マッチを擦る。
温かい食べ物が。これはシチューだろうか。
ああ温まる。
いや今はそんな時ではない。
もう一本マッチを擦る。
昔の思い出がよみがえる。
「父上! どうかご無事で! 」
遠征の時の記憶。
もう一本。
「父上! 」
「後は任せたぞ! 」
「父上! 」
「大人しく良い子にしているんだよ」
「はい! 」
「必ず! 必ず迎えに行くからな! 」
「父上! 」
去って行った。
あれから何年経つだろうか。
マッチを擦る。
いい思い出を求めて。
うん? 焦げ臭い。
いつの間にかマッチの火が全体に広がっていった。
ヤバイ!
もっとやばい展開!
どどど…… どうしよう……
親方の家が燃えている。
大して大きくないボロが消失してしまう。
親方。
すいません。
わざとではないんです。
お許しください。
誰にも届くことはない。
駆けつける複数の足音。
遠くからカンカンと鐘が鳴る。
ああ、もう何もかもお終いだ。
諦めを経て、無の境地。
実にすがすがしい。
「おい! 」
親方の怒声が響いた。
ジ・エンド
村総出により延焼は免れ親方の家の全焼のみで済んだ。
奇跡としか言いようがない。
村を火事で焼かれた隣村の教訓を生かした形だ。
「カン! 」
「親方申し訳ございません」
土下座して謝る。
「済んだことはもういい。しかし村の者が黙ってはいないだろう。
なぜあのような軽はずみな事をした? 」
親方は親身になって叱ってくれた。
嬉しいが今は感傷に浸ってる場合ではない。
「いいかよく聞けカン! 」
「へい親方! 」
「村の決まりは知っているな? 」
「ええ、それはもう。まさか…… 」
「庇いきれん! 」
「そ…… そんな…… 」
「明日にでもこの村を出て行くがいい! 」
「そんな親方! 待ってください! 」
「早くしろ! 命の保証はできない。もう村の者はお前の敵だ。
今日中に支度して明日朝一番に出て行け! 」
「親方! 」
「済まんな。何もしてやれなくて」
「親方! 」
「早くしろ! 」
「へい! 」
こうして村を追放されてしまった。
今まで育ててくれた養父母に別れの挨拶をし村を後にする。
早朝。
ああしんどいな。
これからどうしよう。
とりあえず歩くか。
故郷の村が小さくなっていく。
「待って。カン! 」
聞き覚えのある声。
振り返る。
息を切らして迫る少女。
「アル―! 」
「カン! 間に合った! 」
「どうした? 止めるつもりか」
「いえ、あなたの決断を尊重するわ」
「これを持って行って」
大きな袋。
その中にはおむすびとたくあん。
少しばかりの金貨。
役に立つと思われるグッズ。
「用意がいいね。アル―」
「ここでお別れよ。カン」
「ああ」
「落ち着いたら手紙をちょうだい」
「うん。なるべく書くようにするよ」
「カン! 」
「アル―! 」
抱きしめて別れる。
「行ってきます! 」
「頑張ってね! 」
振り向かずに前へ進む。
ところでどこに向かっているんだっけ?
目的は?
ただ村から追い出されただけだしな。
まあいいか。何とかなるだろう。
カンは故郷のサウスドコダ村を離れる。
希望を胸に冒険が始まる。
第一章 完
続く
追放されし三人の勇者故郷を救え』
名をカンと言った。
リサイクル卿の嫡男だったのだが混沌とした世を避けるため地方の貧しい村に養子に出される。これも少しの辛抱と思いきや五年がたち十年が経過。一向に収まることのない戦乱の世を憂いリサイクル卿は姿を隠すのだった。嫡男のカンは貧しい村に一人取り残されてしまった。
物語はカンが不用意な発言と過失によって村から追放される直前から始まる。
サウスドコダ村。
「おい! 」
「へい! 親方」
「綺麗に掃除しておけ! 」
「へーい」
体も小さく頭もよくないため皆から馬鹿にされる毎日。
「あーあ。あーはなりたくねーな! 」
同い年の者に馬鹿にされる分にはなんてことない。
だが一個も二個も下の奴に馬鹿にされるのは勘弁ならない。
「お前ら! 俺は偉いんだぞ! 親方の次に偉いんだぞ! 」
「嘘だあ。はっはは。面白え! 」
「嘘なものか! この野郎! 」
「カンが怒った! 」
そう言うと笑いながら走って逃げる。
悪口を垂れて逃げる口元はいやらしい。
毎日のことであり、もうどうでもいいが放っておくとつけあがるから勘弁ならない。
「カン。カーン」
優しい声で微笑む少女が走ってきた。
「気にしてはダメよ。あんな子達」
「アル―。俺何とも思ってないよ」
「そう、それならよかった」
「そうだ今から来ない。お菓子を焼いたの」
「うーん。行きたいんだけど親方から頼まれちゃって」
「そう。残念ね…… 」
アル―は帰っていった。
アル―は幼馴染で今でも仲良くしてもらっている一人だ。
アル―が許すなら恋人と言っても差し支えない。
さあ。早く片づけなくては。
親方の機嫌を損ねる前に掃除に励む。
ふう。もう少し。もう少し。
床をピカピカに磨きゴミを取り除く。
散らばっていた荷物を片付け部屋を綺麗にする。
整理整頓完了。
ふう。
一息つく。
まったく親方も人使いが荒いぜ!
コップに水を注ぐ。
満杯にするのが俺の流儀だ。
ベちゃ
やっちまった。親方の大切にしていた本が水浸しだ。
やべえ!
焦ってコップを掴もうとしたが倒し、運悪くすべて本に吸収されてしまう。
うおお!
どうしよう。どうしよう。
何とかしなくちゃ。
とりあえず乾かす。
ダメだ。これではバレる。
考えろ! 考えろ!
そうだ。火だ。火で乾かそう。
マッチを擦る。
温かい食べ物が。これはシチューだろうか。
ああ温まる。
いや今はそんな時ではない。
もう一本マッチを擦る。
昔の思い出がよみがえる。
「父上! どうかご無事で! 」
遠征の時の記憶。
もう一本。
「父上! 」
「後は任せたぞ! 」
「父上! 」
「大人しく良い子にしているんだよ」
「はい! 」
「必ず! 必ず迎えに行くからな! 」
「父上! 」
去って行った。
あれから何年経つだろうか。
マッチを擦る。
いい思い出を求めて。
うん? 焦げ臭い。
いつの間にかマッチの火が全体に広がっていった。
ヤバイ!
もっとやばい展開!
どどど…… どうしよう……
親方の家が燃えている。
大して大きくないボロが消失してしまう。
親方。
すいません。
わざとではないんです。
お許しください。
誰にも届くことはない。
駆けつける複数の足音。
遠くからカンカンと鐘が鳴る。
ああ、もう何もかもお終いだ。
諦めを経て、無の境地。
実にすがすがしい。
「おい! 」
親方の怒声が響いた。
ジ・エンド
村総出により延焼は免れ親方の家の全焼のみで済んだ。
奇跡としか言いようがない。
村を火事で焼かれた隣村の教訓を生かした形だ。
「カン! 」
「親方申し訳ございません」
土下座して謝る。
「済んだことはもういい。しかし村の者が黙ってはいないだろう。
なぜあのような軽はずみな事をした? 」
親方は親身になって叱ってくれた。
嬉しいが今は感傷に浸ってる場合ではない。
「いいかよく聞けカン! 」
「へい親方! 」
「村の決まりは知っているな? 」
「ええ、それはもう。まさか…… 」
「庇いきれん! 」
「そ…… そんな…… 」
「明日にでもこの村を出て行くがいい! 」
「そんな親方! 待ってください! 」
「早くしろ! 命の保証はできない。もう村の者はお前の敵だ。
今日中に支度して明日朝一番に出て行け! 」
「親方! 」
「済まんな。何もしてやれなくて」
「親方! 」
「早くしろ! 」
「へい! 」
こうして村を追放されてしまった。
今まで育ててくれた養父母に別れの挨拶をし村を後にする。
早朝。
ああしんどいな。
これからどうしよう。
とりあえず歩くか。
故郷の村が小さくなっていく。
「待って。カン! 」
聞き覚えのある声。
振り返る。
息を切らして迫る少女。
「アル―! 」
「カン! 間に合った! 」
「どうした? 止めるつもりか」
「いえ、あなたの決断を尊重するわ」
「これを持って行って」
大きな袋。
その中にはおむすびとたくあん。
少しばかりの金貨。
役に立つと思われるグッズ。
「用意がいいね。アル―」
「ここでお別れよ。カン」
「ああ」
「落ち着いたら手紙をちょうだい」
「うん。なるべく書くようにするよ」
「カン! 」
「アル―! 」
抱きしめて別れる。
「行ってきます! 」
「頑張ってね! 」
振り向かずに前へ進む。
ところでどこに向かっているんだっけ?
目的は?
ただ村から追い出されただけだしな。
まあいいか。何とかなるだろう。
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