帰り道フレンズ  金曜日の二人 出会えると信じて

二廻歩

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帰り道フレンズ(前編)衝撃の出会い

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ふと見上げると雲が広がっている。これは良い雲だろうか? それとも悪い雲だろうか? 別にどっちだっていいが……
私はいいのだ。仮に雨が降ってこようが雪がちらつこうが。
しかし彼女はどうだろう?
目の前を行く彼女は果たして傘を持ってきただろうか?
鞄に折り畳みを忍ばせているとも思えない。
手に持っているようにも見えない。

ただひたすら目の前を歩き続ける。
そんな帰り道。
そんな夕暮れ時。
私と彼女と出会ったのは…… いやまだ出会っていなかったけ。
そう彼女は私を知らない。
厳密にはまだ出会っていない。
別にファンタジー設定ではないが。
彼女を見かけたのは真夏の朝。
あれは確か……

回想に夢中になり突風に反応が遅れた。
北風が体温を奪う。
一気にカチコチ。
くそ!
思わず下品な言葉が飛び出る。
彼女に聞こえてしまっただろうか?
目の前の彼女の動きに変化はなくどんどん前に進む。
私の叫びは聞こえなかったようだ。
急がねば!
念のために突風に備え体を構え速足で追い駆ける。
待ってくれ!
心の声はまったく届かず彼女は先を行く。
うわ!
第二陣が襲ってきた。
ふふふ。馬鹿め。この程度でやられてたまるか!
次の瞬間目の前を白い布が覆い尽くす。
目がその白い布を最後まで追い続ける。
白い布は一瞬で黒っぽいもので覆われた。
回りを見渡す。
誰もこの異変には気づいていないようだ。
私だけが目撃者。
まあ。帰り道とはいえここまでくると人もあまりいない。
後ろを追いかける身としては対象者がゆっくりすればこちらも従わざるをえない。
そのせいか後ろから来る者もいない。
前から来る者も僅か。
絶好のチャンス。
などとつまらない欲を出すと後悔することになる。
少女は何事もなかったかのように歩き出した。
いや彼女にとって特別関心事でもないのだ。
第三陣がまだかまだか。
念じる。
願いが届いたのか突風が起こった。
瞬きをせずに目を固定。
しかし今度は思い通りの結果は得られなかった。
代わりに何かが飛んできた。
何だこれ?
得体の知れない物が飛んできた。
白い布切れ。
飛んでいく前に確保。
まさかこれは……
戦利品を掴みブツの確認をする。
有り得ない……
そんな…… はずはない……
純白の布切れ。それはまさか……
とりあえず見ても良く分からないので匂いを嗅いでみる事に。
ほのかに香るがそれが何なのか判別がつかない。
とにかく持ち主に帰さねばならない。

彼女は遠くを歩いている。
置いて行かれたか。
辺りに人は見当たらない。
狭い道へ入っていく。
使われなくなって廃墟と化した工場跡地。
鍵が壊れた倉庫があり若者たちのたまり場になっている。
ただそれは陽が暮れたずっと後のことで今は無人だ。
と近所の奥様方が漏らしていたのを盗み聞きしたに過ぎないが。
彼女との距離を縮める為に走る。
ダッシュ!
ハアハア
ハアハア
あの……
ハアハア
フウフウ
ちょっと……
初めての会話。
初めての接触。
緊張と息切れで言葉にならない。
これ……
彼女の肩を掴み損ねてしまいその勢いで腕に手を絡める。
振り向いた彼女が意外な行動に出る。
あのちょっと……
私の腕を掴み引っ張っていく。
へ?
腕を掴んだまま鍵の壊れた倉庫に強引に連れて行かれる。
その力技に拍子抜けし言葉にならない。
何だ? 何が起きた?
可憐な少女の正体とは?
私は勘違いしていたのか?
ただ見守るだけでよかったのに。

倉庫はペットボトルや空き缶が散乱しておりタバコの吸い殻もところどころ目につく。よく見れば得体の知れない葉っぱや錠剤が隠れている。
これで隠したつもりか?
掃除ぐらいはしろよ。
ゴミだらけで不衛生でいけない。
埃もこの通り。
人差し指で掬って吹いて捨てる。
少女は俯いて何かを考えている。
これ落としたよ。
ハンカチであってくれ!
白い布を返す。
少女は受け取ろうとしない。
これは君のじゃないのか?
言葉を発さない。
どういうことだ?
どうした? 受け取ってくれ!
顔を上げ見つめる少女。
その愛らしさに心がかき乱される。
私も大人だ。
見つめ返すぐらいできる。
じっと見つめる。
照れたのか微笑む。
そうだその笑顔が見たくてこの寒空の中、後をつけたのではないか。
笑みは私に向けられている。
誰でもない私に向けられている。
彼女が私を認識したのだ。
一人の人間として一人の男として認めてくれた。
それがどれほど嬉しい事か。
高揚する胸の内を見せてやれないのが残念だ。

どうした?
何をしている?
少女は黒っぽい制服を脱ぎ始めた。
どうした?
何をしている?
繰り返す事しかできない。
制服の下は先ほど見かけたお揃いの白のブラ。
私は一体?
止めることができない。
いや力ずくで止める事も出来ない訳ではない。
しかし見ていたい。
己の欲が上回る。
何を期待している?
そんな事ではないだろ?
私が求めたのは……
何だっけ?
忘れてしまった。
覚えていない。
当初の目的は……
分からない。
思い出せない。
思い出したいとも思わなくなっている。
私は何と愚かしい人間なのか。
馬鹿者でしかない。
と言いつつ目線は彼女の胸元。
ロックオン。
あと少し。
あとちょっとで白い覆いが消える。
もう間もなく。
完了。
後は邪魔な手をどかしていただければありがたいのだが。
よく見えない。
もっとよく見たい。
私に見せてくれ。
目が霞む。
こんな時に目が霞んでしまうとは情けない。
ドライアイか?
ただの目の使い過ぎか?
どっちにしろショボショボする。
ショボショボ?
少し響きがいやらしいがこの際気にしてなどいられない。

急いでスカートを脱ぎなぜか最後の砦にまで手をかけてしまう。
ダメだ! そこはあまりに危険。
そこに行ってはダメだ!
取り返しのつかない事態となってしまう。
手を出すな!
ほら落ち着いて!
誰がそこまで望んだ?
私か?
私だと言うのか?
それは違うぞ。
誤解だ。誤解なんだ。
分かってくれ。理解してくれ。
お願いだ。許してくれ。
もうそれ以上は止めてくれ。
私が私でなくなってしまう。
彼女は笑っている。
おかしそうにこちらを見やる。
私がおかしいのか?
君だろ。
君がそんな事をするからこちらだって焦ってしまって……
これは妄想。
これはもうそう言う事。
妄想だろ。妄想に決まっている。
もう十分じゃないか。
妄想なら早く現実に戻ってくれないか。
戻って欲しいな。
夢なら。そのままが良いけど。
いや、間違えた。
夢なら覚めてくれ。
私よ覚醒せよ!

ふふふ。
夢だよね?
ふふふ。
答えてくれ。
「どうしたのおじさん? 」
「おじさん? 」
「それは無いだろ。まだ若い」
「同い年なの? 」
「違うけど…… 」
「ハナ分かんない! 」
「ハナちゃんて言うのか。おじさんはね。悪い人だから」
「うん? 」
「そんな格好してるとおじさんだって…… 」
「ハナが悪いの? 」
「悪くないさ。でも風邪をひくよ。早く…… 」
「お願い! 」
抱き着いてきた。
「何がしたいんだ? 」
「お願い許して! 」
「許すも何もない。早く…… 」
「ハナにはこれしかないの! 痛いのが嫌だから」
「何を言ってるんだ? 正気か? 」
「ハナね。自分でも分かるんだ。いけないことだって。ダメなんだって。ママがダメだって言ってたもん。
でもこれしかハナにはできない」
「私には君を抱きしめる事しかできないのか? 」
「お願い! 」
「ハナはそれでいいのか? 」
「うん。男の人は喜ぶんだって。おじさんもそうでしょう? 」
「おじさんはどうかな? 」
「違うの? 」
「分からない。分からない! 」
「どうして? 」
「分からないんだ! 」
「ハナも分からないかな。うん」
「よし服を着よう。もう十分満足したしね」
「おかしなおじさん」
そう言うと従ってくれた。
下着姿になってはしゃぐ少女。
「これこれおじさん好きでしょう? 」
「うん。何が? 」
「外すの」
「ええ? 」
「おじさんは自分で脱がしたい派なんだ。ごめんね。ハナ気付かなかった。ほらいいよ」
「いいよって言われても…… 」
「何してるの男の人はこう言うのが好きなんでしょう? 」
「ハナ。冗談だろ! 」
「ハナは冗談言わない」
「本気なのか? 」
「本気に決まってる! 」
「ハナ。信じてくれ! 」
「私はハナに何も求めていない」
「ただ…… 」
「ただ? 」
「いや、何でもないよ」
「そっか。最初からだったんだ。ハナが悪かったんだ」
そう言うと制服に袖を通した。
準備完了。
「おじさんは自分で全部脱がしたい派だったんだね」
「いいよ」
、おいおい。何も分かっていないじゃないか」
「ハナは分かるもん。男の人はこういうのが大好きだって」
「いや…… 確かにそうだけど…… 」
「ほらやっぱり。ハナ賢い」
「いや違うんだ。君は。ハナはそのままがいい」
「変なおじさん」
「よし帰ろう。送っていくよ」
「でもママが…… 」
「そうか家を知られたくないんだね」
「うーん。うん」
「とにかくここから出よう」
「本当に良いの? 」
「早く! 日が暮れるぞ! 」
「はいはーい」
その日は何事もなく過ぎて行った。

翌日もその次もハナと会えなかった。
ハナは帰る時間が一定だ。
私も一定なのだがどうしても早く抜け出せない。
私なりに忙しいのだ。

あれから一週間が経った。
早く切り上げ帰路につく。
飛び乗った電車は混んでおらず快適だ。
ゆっくり本でも読んでいようか。
それとも彼女を探すか。
ハナ。
いやそれではいけない。
偶然出会わなければならない。
それが彼女と私の宿命。
いつでも会える。
それではつまらない。
ルールや縛りがあるからこそ燃えるのだ。
彼女の家も知らない。
彼女の通っている学校も把握していない。
彼女の好みも分からない。
今日は必ず彼女を感じたい。
それだけだ。
さあそろそろ移動しよう。
揺れる電車。
最初に歩き出した者の後に着く。
興奮する。
今日こそは……
第一車両は混み始め動きが取りにくくなっている。
電車は最寄り駅に。
ガキではないが仕方ない。
一番!
心の中で叫ぶ。

改札を過ぎ帰路につく人々を必死に目で追う。
今日もいるだろうか?
ハナ。
若者。特に制服姿の少女を探す。
いくら若くても私服の少女は無視。
OLも眼中にない。
OLとは古すぎたか?
今は何と呼ぶべきだろうか。
と余計な思考では見逃す。
ハナ。
もう一度集中。
おばちゃんに興味はない。
ビジネスパーソンも除外。
さあ。こいこい。
ハナ。
あれ?
これでお終い?
見過ごしたか?
いやそんなはずはない。
私の目は確かだ。
彼女をハナを見れば一発で分かる。
と言うことは乗り遅れた?
もう一本待つか……
期待と不安が混じる。
当然次に乗っているはずだ。
しかしどうだろうか。
ネガティブ思考は当たる。
居ないかもしれない。
今日は会えないかもしれない。

ガタゴト
ガタゴト
十分もしないで次の電車がやってくる。
向かってくる大勢の人々。
その足音が不安を招く。
なぜだろう?
会えるのに?
通り過ぎていく足音。
どんどん確率を下げる。
ドンドン
ドンドン
足音は遠くの方へ。
静寂とまでいかないが雑音はきれいさっぱり。
気付く。
今日は居なかった。
それが今日の結論。
次を待たずに帰路へ。

もう暗くなってしまった。
ハナはどうしたのだろうか?
急ぎ足で家へ。
まずい電池が切れていた。
ついでに温かい物でも。
コンビニで用を済ませ帰り道を急ぐ。
また来週かな……
缶コーヒーを片手に寒空を歩く。
うん?
爺が目に留まる。
爺が倉庫から出て来た。
こちらに向かって歩き出した。
駅に行くようだ。
見た目は爺その者で酒を片手に何か喚いている。
目を合わせない事にする。
余計なトラブルはごめんだ。
けっ!
一睨みしてすれ違う。
何だこいつ?
ボソボソと卑猥な言葉を吐き怒っているみたいだ。
爺は始末が悪い。
聞かなかったことにしてやり過ごす。

家が見えて来た。
こんな寒い日はゆっくりとコタツで過ごす。
爺なんか気にせず……
もう少しの辛抱。
家は近い。
うん? 爺?
爺はどこから出て来た?
倉庫だったよな。
あそこはハナが……
急いで引き返す。

思い過ごしであってくれ。
彼女は…… ハナは居ないよね……
今日は体調を崩してお休みしているに違いない。
だからこれはただの確認。
居ない。
そこには居ないよね?
倉庫に辿り着いた。
ハアハア
ハアハア
誰も居ませんよね?
中へ。
ネガティブ思考は良くない。
もっと楽観的に物事を考えればいい。
居るはずないんだ。
居ないでくれ。
ネガティブ思考が現実へ。
思ってはいけない。
考えてはいけない。
悪い方向に考えれば実現してしまう。
ほら今だって。
誰も居ませんよね……
ふふふ。
少女ハナが姿を現した。
戦いますか?
逃げますか?
とりあえず逃げの一手。
RPGだったらどれだけよかったか。
非現実の世界に浸りたいものだ。
しかし現実はそれは残酷で……

「ハナ…… ハナなのか? 」
「あなたは誰? 」
私は…… 誰なのだろう?
ふふふ。
最高の笑顔で迎える少女。
「私は…… 済まない」
倉庫から逃げ出した。

闇夜をダッシュ。
ハアハア
ハアハア
振り返ることもせず家に駆けこむ。
乱暴にドアを閉めベットに直行。
毛布をかぶり今日の出来事を忘れる。
その努力をする。
ハナとは出会わなかった。
ハナは体調が悪いんだ。
ハナは寝ている。
誰と……
余計な考えが浮かぶ。
ハナ!
ハナ! 
眠りにつく。

翌週。
彼女のことはすっかり忘れ前に進むことにした。
忘れようと努力した。
すっかり吹っ切れたようだ。
彼女のことを追い駆けることもなく、
待ち伏せすることもなく、
ただ帰り道を歩いた。
目の前にはもちろん彼女などいない。
それどころか人の気配も感じられない。
もう彼女に振り回されることもない。

ははは!
陽気にスキップ。
誰も見ていない。
恥ずかしくない。
うん。体が軽い。
ジャンプ。
調子に乗って続けているといきなり自転車が突っ込んできた。
危うく轢かれそうになったが何とかかわし事なきを得る。
ふう。困ったものだ。
体をはたき埃を取り除く。
尻もちをついたせいか腰に違和感。
まあどって事ないだろう。
まだ若い。
くそ! 自転車に文句を言うのを忘れた。
あいつはまったく歩行者を何だと思っているのか。
せめて一言あってもいいではないか。
最悪目礼ぐらい……
うん?
靴が脱げた。
何てことだ。高かったのに。
まさか壊れてないよな。
あーあ。買い替えるかな……
とりあえず中身の砂利を捨て確認。
よし大丈夫みたいだ。
これで新しいのを買わずに済む。
ラッキー
いやアンラッキーじゃないか。
とりあえず片足立ち。
ジャンプ
ジャンプ
ダメだ。
変形している。
何とか履くこともできるがこれではみっともなくて履いていけない。
新調するしか無いようだ。
大丈夫だと思ったのに。
ショックが大きい。
あーあ。ついてない。
本当にアンラッキーだ。
片足立ちで落ち込む。
傍から見たら喜んでいるようにしか見えない。
しかしかなりのダメージだ。
ああ…… 女神様。私にご慈悲を!
光り輝く女神を夕暮れの空に映し出す。

うおお!
片足立ちが限界を迎えた。
とりあえずこのボロの靴を履かねば。
おっとと
バランスを崩し倒れそうになる。
「大丈夫? 」
心配する声。
それはまさしく女神様で……
とりあえず肩を借りる。
「ありがとう」
ふふふ。
「ハナ…… 」
前回の衝撃的な出会いから立ち直ったつもりだが目の前にその少女の姿が。
「おじさん誰? 」
「ええ? 冗談じゃないの? 」
「ハナの事知ってるの? 」
「ああ。何度か見かけたからね」
「ハナって有名人? 」
「ああ、そうだよ」
「うーん。照れるなあ…… 」
「ハナは本当に私のことを覚えていないのか? 」
「うん。ごめんね。男の人は覚えられないの」
、男の人? じゃあ女の人は分かるのかい? 」
「うん。ちょっとだけなら」
「どれくらい」
「難しいことは分からない」
「何でなんだい? 」
「もう! 質問ばっかり! 」 
「ごめんごめん。助かったよ。じゃあね」
もう別れたい。
そう激しく思った。
前回の事もあるがあれだけの出会いをまったく覚えていないなどあり得るのか?
彼女のすべてが疑わしい。
彼女は私をからかっている。
ふざけて遊んでいる。
暇つぶしか何かだろう。
もう女神でも何でもない。
ただの少女。
私を覚えてなくてもいい。
でも私の美しい記憶まで台無しにしていいわけがない。
さらばハナ。
心で別れを告げる。

しかし少女は引き止める。
嬉しい。
心の中を見透かされたのか。
純粋を装う少女。
「おじさん待って。怒ってるのおじさん? 」
「怒ってないよ」
投げやりに答える。
「ハナ何かした? 怒らせちゃった? 」
「いいや。急いでる。手を放してくれ」
いつの間にか私の鞄を掴んでいた。
まだ何かする気か?
「ごめんねおじさん」
「ハナが悪かったんだね。いいよ好きにして」
ええっ?
そこまでの事?
「だからお願い許して」
「いい加減…… 」
あまりの態度に冷静さを失うが暴言だけは飲み込んだ。
「おじさんね。今から靴を買いに行かないといけないんだ」
「ハナもついて行く」
「暗くなるよ。早く帰りな」
「着いてく! 」
頑なに同行しようとする。
「別にいいけど。面白いか? 」
「うん」
ダメだこりゃ。

とりあえず駅前の大手靴チェーン店に入る。
しかしどれにしようか。
色は黒がいいよな……
同じのがあると助かるんだけどな……
「おじさんブツブツうるさい」
「はっはは。どうしよう」
「ハナが選んであげる」
「おいおい。分かってるのか? 」
「これでしょう」
「いやもう少し地味でないと」
「もうじゃあ。これ」
「うーん。まあいっか」
「履いてみて」
「うん。これでいいよ多分ね」
「やった! 」
ハナは無邪気に笑った。
そうだその笑顔が見たくて後をつけたんだった。
古いのを捨て新しいのに乗り換える。
ちょうどいい機会だったのかもしれない。
彼女との思い出も作れたことだし。

帰り道。
「送って行こうか? 」
「ううん。ハナ一人で帰れるもん」
「よしじゃあここで」
「またねおじさん」
「ああハナ。ありがとう」
一人寂しく家路につく。
ああ、寒い。
まったくハナの奴。
今日のことも忘れちまうのか。
困った女神様だ。
まあしょうがないか。

               <中編に続く>
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