上 下
160 / 195

告白 一線を越えて 

しおりを挟む
甲斐甲斐しく世話する孫娘を遠ざけ一人で応じるお爺さん。
聞かれてはまずい用件だと理解したからだろう。
お爺さんは本気らしい。我々もそれに応えねば。

「用がないなら帰ってくれんか? 自分はまだ眠い」
気分を害したらしい。これだから気難しい爺さんは。
いや…… 待てよ。これも作戦のうちなのか?
ただの老いぼれだと侮っては痛い目を見るな。

「あー失礼しました。我々は昨日からこの集落に滞在しています。
ある目的の為にここまで来た次第です」
濁しながらもお爺さんに訪問の意図を伝える。
後はその反応を見て詳しく話すか考える。
まずはお爺さんとの信頼関係を築くことが先決。
その後に好きなだけ語ればいい。

隣のアイがじっとこちらを見る。
先ほどのことを気にしてるらしい。
まだまだ子供だな。あれくらいただの挨拶…… な訳ないか。
ミホ先生にも気持ちが充分伝わったことだしそろそろ俺たちも。
妄想に浮かれていると再び視線を感じる。
睨みつけるよなアイ。そのアイを目で制す。
アイはどうしようもなく恥ずかしそうに俯いてしまう。
やった! 眼力勝負は俺の圧勝だな。
アイに眼力で勝つのは思ってたよりも快感。何とも言えない満足感を得る。
ふふふ…… 少々大人げなかったかな? 

「目的か…… ある目的とは何であろう? 」
「それを聞きますか? 」
「ああ、あんたらの目的が分からんと答えようがないではないか」
どうやら協力してくれるらしい。
では次の段階に移るとしよう。これが最終確認だ。

「あなたは我々が何者であろうと口外しないと約束できますか? 」
ついに一線を踏み越え告白することに。でもその前に確認。
これ以上隠しながらでは非効率的だからな。
仮に俺たちの存在を疎ましく思う輩がいたとしてもそれはそれ。
恐らくここの者たちには我々の目的はとうに知られてしまっているだろう。
こんなところまでやって来るのはイカレタ奴か異世界探索隊ぐらいだろうからな。
もうほぼバレているのだからお爺さんに何を語ろうと問題ないだろう。
言わずに嗅ぎ回るような行動を取る方が誤解され危険な目に遭う確率が高い。
誰にも彼にも言うのは避けるべきだが少なくても情報提供者には礼儀として。
問題はタイミングだよな。それから言い方も重要。変に誤解されないように。

大きくため息を吐く。ミホ先生を一度見てから爺さんに視線を戻す。
「もうこれ以上隠し通せませんね。目的とは即ち異世界を発見すること。
その為には旧東境村へ行かねばなりません」
ついに言ってしまった。あれだけ迷ったが協力を求める方を選んだ。
今更後悔する気はない。ただお爺さんには刺激が強すぎるような気もする。

ゴホゴホ
ゴホゴホ
これは真剣な話だと立ち上がる。
「お前さん方は旧東境村へ行くのか? 
それは止めた方がいい。何が待っているか分からん。
どんなことがあっても不思議ではない。無事に帰って来ることはないだろう。
それでもいいと言うのか? 旧東境村はそれはそれは恐ろしいところだぞ! 」
どうやら旧東境村には行ったことがないらしい。そんな口振り。
では行き方を知ってるとはどう言うことだ? 騙された? 騙されたのか俺たち?
この情報はミホ先生が持って来たもの。
いい加減なネタを掴まされたか?

「大げさですよお爺さん」
タオが落ちつくように宥める。
「大げさなものか! あそこにはどんな化け物がいても不思議ではない。
絶対に止めるんだ! 考え直せお前たち! 」
血相を変えて脅しに掛かる。
我々は昔話に驚く地元のガキじゃない。
もうとっくに卒業してるっての。

孫娘もそうやって縛り付けてるのか?
彼女の幸せを考えればそんな戯言を吐かずに見守ってやるべきだろう。
それに我々だってそんなつまらない脅しに屈するものか。
なぜこんなことを?
地元の者が観光客を脅して楽しんでいるかのような底意地の悪さを感じる。
それとも確証でもあるのか?
ないだろ? 見たことがないのだから。

「いいかもう一度言う。あそこには行くのは止めるんだ!
食い殺されるぞ! 骨も残らないほどぺろりと全部食われてしまう。
俺はその光景を嫌と言うほど見て来たのだからな」
お爺さんは止まらない。
いつの間にか自分が見て来たような口振りに。明らかに変化が見られる。
嘘なのか本当なのかさえあやふやだ。
だがあの迫力は演技ではない。

爺さんもまた若女将のように近づく者へ最後の忠告をする存在なのかもしれない。
近づくことがいかに危険でいかに間違ってるかを説く最後の砦。
我々の前に立ちはだかる大きな壁。
ただ邪魔されるよりもよっぽどストレスを感じる。
どちらか分からない以上下手にに否定できない。
それが彼らの狙いなのかもしれないな。

                 続く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...