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夜のお楽しみ

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午後八時。冷え冷えとした空気の中黙々と十分かけて一キロほど歩いた。
すると目の前に旅館らしき建物が見えて来た。
こうして一日目の移動を終え解放される。
多少遅れたが思っていたよりもロスが少ない。
これなら明日からはもう少しスピードをあげられるかな。

「ようこそお越しくださいました」
お年を召した仲居さんが走って来た。
今回の旅は極秘旅。生徒にはもちろん知らせてないし予約などまったくしてない。
だからこの近くに一軒しかない旅館に断られたら野宿も考えていた。
もちろんこんな田舎の旅館が満杯になることはない。
あるとすれば大型連休ぐらい。もう間もなくに迫ったお盆もそうだろう。
だがこの様子だとそれも気にする必要がない。

「記念のコインをどうぞ」
愛想を振りまく若い仲居さんから一枚。
ウエルカムプレゼントらしい。サプライズでコインを渡される。
「これは。あれ…… 」
バスでもらったコイン。
確かイントって言ったっけ。あのおばさんにもらったもの。 

「お客様。このコインはある村でのみ流通してる硬貨で円に交換も可能なんですよ。
思い出にどうぞお持ちください。記念品です。
興味があれば受付のパンフレットに詳しいことが書いてありますのでどうぞ」

イント一枚ゲット!
別にイントを貯金してるのではないが何となく嬉しいものだ。
合計二枚となった。

「疲れた! 」
「疲れたよ。先生早く! 早く! 」
「何をやってるの先生? 」
「青井先生! 」
疲れてるのは皆同じだと言うのに俺にばかり文句を言う。
いくら親しみがあって頼り甲斐があるからってそれはないよ。
ミホ先生に言ってみろよな。不公平過ぎるぜまったく。
しかもそのミホ先生まで俺に甘えるんだから嫌になる。
もうここは俺たちの棲む世界とは違うんだぞ?
甘えてないで自分で考えなければダメだ。

「お前たち騒ぐな! 他の者に迷惑だろうが! 」
もちろんさほど怒ってないが丁度良い機会なので叱りつける。
さすがに他人に迷惑を掛けては放っておけない。
当然俺にだって出来るだけ迷惑掛けてはいけないが。

「ははは…… 済みません。この子たちがうるさくしてしまって」
ここは旅館。子供じゃないんだから他のお客さんのことも考えて欲しい。
特には今は夜なんだから余計だ。
目をつけられたらどうする?
目標達成まではなるべく目立たずに大人しく。それが長生きのコツ。
「いえ元気があって良いですね。ですができればもう少し…… 」
釘を刺される。これ以上騒がずに大人しくしてろと言うことらしい。

余裕があったので七人で四部屋使用。
生徒は男女別れて二部屋。
俺たちは一部屋ずつ使わせてもらうことに。

夕食は食堂で。
ワイワイガヤガヤ
行ったことも聞いたこともない常冬村。
そんなとこに本当に観光客はいるのか?
だが実際十組以上はいる。
これは一体どう言うことだろう?

「ねえ先生? 食べないの? 」
アイがお世話してくれるのは嬉しいんだが浴衣がはだけて仕方がない。
気になって食事どころではない。まったく困った奴だ。
着慣れないなら大人しくジャージでも着てろっての。
「いやもういい。お替りは充分だ」
いつから俺はそんな食いしん坊キャラになった?

満腹は危険なサイン。
食欲を満たしてしまえば次に来るのはあれだろう。
俺は今回生徒たちの引率で来ている。
立場のある身分。さすがに変な気は起こせない。
仮にアイのあれが誘惑だとしても残念だが応えてやることが出来ない。
ははは…… 少々ふざけ過ぎたか。
酒が入っていい気分になってるんだろうな。

「青井先生好き嫌いはいけませんよ」
ミホ先生までがうるさい。静かに食わせて欲しい。
いや…… だから食えるかってのこんなの。
寒いんだから名物は勘弁してよね。
肉にしろ魚にしろ野菜にしろ何でドライアイスが掛かっている?
まだデザートなら分かるがこれでは食欲が湧かない。
ご飯は普通で助かるがおかずがドライアイス塗れだと食欲が失せる。
「冷たい…… 」
いくら常冬村名物のドライアイスをふんだんに使ったからってこれは酷い。
観光客を呼び込もうとして料理人の心を失ってないか?
「先生残さず食べましょう」
カズトにまで。もうやってられない。
「しかしミコだってほとんど食えてないじゃないか! 」
「ミコちゃんは偏食だから食べれないものがあるんだよ」
タピコが庇う。
偏食なら逆にドライアイス料理は食えそうだがな。
どうにか旅館名物のドライアイスコースを食べ終えお風呂へ向かう。

                続く
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