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別れのキス

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ついに運命の日。
文字通り俺たちの未来が決まってしまう。
大げさに言えばもう戻って来ることはないだろう。
それくらいの覚悟で臨む。
臨むだけならいいんだけどね……

集合時間は八時。駅改札口前集合。
何だかんだ準備があるので三十分前には待ち合わせ場所へ。
誰もいないな? 俺たちが一番のり。
興奮した部長が待ち構えていてもおかしくないがそれもない。
確かに早すぎては疲れるしな。時間通りに来てくれる方が助かる。

「先生酷いよ! 何で私らが荷物係なのさ? 」
二女が吠える。まったくうるさい奴だな。
付き添いってのは本来こう言うものじゃないのか?
「悪い。それは水の方だ」
「もう無理だって! 」
「済まん。お詫びに抱きしめてやるからさ。ははは…… 」
「ほら先生。それくらいにしないと痛い目に遭いますよ」
冷静な長女が合図する。

「青井先生! 」
手を振って近づいてくるミホ先生。
そんなに先生と大声で叫ばないで。目立つし恥ずかしい。
副顧問だからってそれは生徒がいる前だけで。
やはり二人の時は呼び方を決めておくんだった。

それにしても荷物が多い。
余計なもの持って来てないだろうな?
絶対に必要なもの以外持って来るなとは言ったがミホ先生には厳しく言えないし。

五分の遅刻と。
「お待たせしました青井先生」
「いやそのお早いですね…… 」
ミホ先生到着。
とっさに付き添いの二人を隠そうと焦る。
だがよく考えれば彼女たちが見送りでここにいるのは何ら不思議ではない。
俺たちが一番乗りな訳で俺と一緒に来た証拠もないからな。
下手な工作する方がよっぽど疑われるだろう。
「はいこれから数日間よろしくお願いします」
「こちらこそミホ先生」

あーこのまま二人でどこまでも行けたらな。
生徒を置いて二人っきりで旅行出来たらな…… 
「先生。心の声が漏れてます。嫌われますよ。ああもう遅いか」
どこまでもからかおうと美人三姉妹は適当なことばかり。
俺はそんな妄想するものか。俺はこれでも聖職者だぞ?

「あらあなたたちどうして? 参加するの? 」
当然顔を知っている。先日台湾旅行に行って仲を深めたからな。
「ミホ先生おはようございます。先生が泣くのでお見送りに」
誤解を招くような真実を言うんじゃない。間に受けるだろうが。
「ははは…… こいつらが補導されそうになってるところを助けたんですよ」
「そうなの先生のお陰」
そう言って二人に両腕を掴まれる。
「おいこら止せって! 」
クソ! こういう時ばかり絡みつきやがって。
あれだけ冷たかったくせに。俺を嵌める気だな? 
「あら…… 懐かれてますね」
なぜかプラス思考。焼きもちの一つぐらい焼いてくれないかな?
美人三姉妹の二人にガッチリ掴まれて動きが取れない。
ついでにミホ先生にロックオンされてて辛い。

「先生まーだ? 」
もう疲れたと文句ばかり。
「もう帰っていいぞ。見送りご苦労様」
「本当に感心ですねお二人とも」
「へへへ…… 最近の先生少しおかしくて。心配してたんです」
二女が甘えた声を出す。うわ…… 気持ち悪いな。
「誤解するようなこと言うなお前ら! 」
「だって…… 寝てる時にうなされて…… 」
長女も嘘を…… でもないか。
「意外にも生徒たちから慕われてるんですね? 」
意外は余計でしょう? 俺は誰からも愛される教師である。
それと重要なところ聞き逃してますよ。
いい加減なヒヤリングにリスニングでは点数が伸びない。
それは日本語であろうと英語であろう変わらない。集中力がものを言う。

「何だか長い別れになりそうな気がして」
長女が冗談だか本気か分からないような悪ふざけを。
俺を困らせようと必死だ。可愛いじゃないか。ははは……
二人はゲラゲラ笑っている。何がおかしいのだろうか?

「ミホ先生そろそろ」
「はい。辺りを見てきますね」
そう言うと小走りで行ってしまった。
どうやら二人との特別な関係には気づかれてなかったらしい。
当然だよな。そんな馬鹿じゃない。

「先生! 」
腕を振り解くと長女はいきなり頬にキスをする。
何て大胆な。誰かに見られでもしたら。
焦るがこちらの様子を気にする者はいない。
仮にいたって羨ましがるだけで通報されないさ。
「お前ら…… 」
「行ってらっしゃい! 」
そう言うと今度は二女が勢いよく唇を。
痛いんですけど……

「お前ら…… どうして? 」
「絶対帰って来てね先生」
「必ずだよ! 分かった? 」
「ああ…… 」
ちょっと格好つけてみるがどうもぎこちない。
もはや俺には彼女たちの気持ちが分からない。
ただの合宿に何を感情的になってるんだ?
まさかこれもお遊びの一種か? それとも昨夜の続き?

集合時間まで十分を切った。

                  続く

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