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毒殺にはまだ早い

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ランチ。
まさか紅茶にも何か仕掛けが?
突然苦しみだした部長だったがどうやら勘違いだったらしい。
「ほらお水! ゆっくり…… もう大丈夫? 」
ミホ先生の適切な処置で部長はどうにか一命を取り止めた。
恐らく放っておいてもすぐに回復しただろうが。

「アークニン。お騒がせして済まない。てっきり君が仕込んだと思ったよ」
牽制の意味も込めて正直に。
「ははは! 毒殺にはまだ早い。何の実績も挙げていない君たちを狙う意味がない。
違うかい? 私はそれほど愚かではないぞ」
そうは言ってるが真に受けてはダメだ。奴はそんな甘い人間じゃない。
異世界研究に行き詰ってライバルを蹴落とそうとしてるのだから。
彼にとって異世界は絶対の存在。あって当然のもの。
異世界発見は自らの手でと思ってるのだろう。だからこそ近づき過ぎては危険だ。
見た目もそうだが明らかに危ない人間。こんな奴に近づけば魂を抜かれる。
奴を見くびってはいけない。それほど甘くない。

だがそのことを生徒たちにはっきり言えない。
要注意人物であればあるほど光り輝いて見える。
ほら部長を中心に異世界に関する戯言に聞き入ってる。
我が生徒をたぶらかすアークニンと言う存在。

「よし食事も終えたことだしとっておきの話をしよう。聞いて損はないと思うぞ」
博士の話術に完全にやられてしまっている。
そんなアークニンの魔の手から守る役割の俺が役に立たない。
もう眠くて眠くて仕方がない。まさか睡眠薬でも盛ったか?

「その前に改めて聞くが異世界はあると思うかい? 」
「分かりません。あったらいいなと思います」
「たぶんあるのではないですか? 」
「あるに決まってる! 」
順々に答えて行く。生徒たちの間にも温度差がある。
「おお君いいね。その揺るぎない考えこそが大事だ。
忘れるな。絶体にあると思うことがとても大切なんだ。君は確か部長だったね」
「はい後は見つけるだけです! 」
「くくく…… 」
自信満々の部長に堪えきれない博士。

「済まん。それがどれだけ難しいかは大きくなれば分かるさ。
私は異世界発見に一生を捧げて来た。これからだってその気持ちはぶれない。
だがよく考えろ? 地図だってない。手掛かり一つないんだ。
あるのは可能性のみ。もちろん我々の探し方に問題があったのかもしれないな。
或いは僅かな人数では土台無理な話だったのかもしれない。
せめて政府の支援があれば少しは違っただろう。
我々は異端の学問を研究している。その自覚がある。
嘲笑されど尊敬などされっこない。これがこの世界の現実だ」

さすがは博士。同じ道を進む人生の大先輩として発言に重みがある。
これを聞けば将来異世界研究などと言う狂気染みた学問を選ばないだろう。
あくまでクラブ活動。その範囲を超えてはいけない。
大体格好つけてるがアークニンの言ってることは詐欺師のそれと何ら違いはない。

「では博士は異世界の存在自体はどう思われるのですか? 」
部長もそれが一番の関心事。
発見すれば世紀の大発見となる。いや歴史そのものが変わる可能性もある。
それだけロマンの詰まった話でとんでもないことを成し遂げようとしている。
それが今年中なのか来年なのか十年後なのか百年以上後なのか誰にも分からない。
挑戦するだけの価値はある。一生を費やす価値はある。命がけの異世界探索。
でも…… 本当に我々がすべきことなのだろうか? 
あると証明されてからもっと人を集め計画的に進めるべきではないかと。
たかが高校の一クラブにはあまりにも荷が重すぎる。そんな気がする。

「あるよ」
あっさり答える博士。
「アークニン! いい加減なことを言わないでくれ!
生徒が本気にするだろうが! あんたの研究がインチキだって噂だぞ。
出会った当時からかなりおかしいと言われていたがまさかここまでとはな」
もう我慢できない。生徒たちをおかしな道に引きずり込もうとするな。

「何を言う? 無礼だぞ! お前が異世界についてレクチャーしてくれと…… 
敢えて時間を作ってやったのに。気に入らないなら帰ればよかろう? 」
「だからやり過ぎだと言ってるだろうが! 多感な時期に何を吹き込む気だ! 」
「うるさい! 信じぬ者は救われぬぞ! 」
「ははは…… 本性を現しやがったなアークニンめ! 」
「青井先生! 抑えてください。生徒たちの為に我慢してください」
そうだった…… 奴が本気になれば生徒たちに危害を加えることも充分あり得る。
ここはミホ先生の言うように我慢だ。冷静に冷静に…… 出来るか!

               続く
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