タピタピクライシス 閉ざされた楽園 美しくも儚い青春残酷物語

二廻歩

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大事な話

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数か月前の冬。
駅前を寒空の中歩いていた。

昨年の秋まで大学で英語の教鞭をとっていた。
人気もそれなりにあったし休むこともなく変に凝ってもいなかった。
だから評判も良く順風満帆なキャリアを重ねていた。
しかし昨年の十月から突然付属の高校で臨時教員をやる羽目になった。
大学での評判も悪くなかったのになぜと落ち込んでの臨時教員。
やる気など起こりようもない。
後に判明したことだが共学になった影響で一時的に人手不足に陥ったらしい。
そこで私に白羽の矢が…… これは喜ぶべきなのか悲しむべきなのか?

当初は断るつもりも二、三年で戻すとの学長の言葉を信じ臨時教員の話を受けた。
もちろん念書もない口約束だから不安だがまあ大丈夫だろうと甘く考えていた。
その話は同僚にも話しておいたのでまず反故にされることはないだろう。
危険なのは学長が最近物忘れが激しいこと。
君は誰だいなどと冗談を言われたら最後。復帰の見込みはなくなる。
精力的に動き回ってるので今のところ問題ないだろうが。
兆候は少しずつ表れてきている。
二、三年と言うことは遅くても再来年には辞令が下るだろう。
まあその時までの繋ぎだからゆっくりしてればいい。そんな風に考えていた。

「いやあご苦労様。ほら呑んで呑んで! 」
まずは一杯と勧められる。
同僚と高校の近くの居酒屋に来ている。
同僚と言っても年齢はずっと上で英語教師としても上。
遥か上の大先輩で生意気な口を聞こうものなら躊躇なく鉄拳制裁。
そんな古いタイプのお爺ちゃん。
もちろんまだ定年前なので爺と言えば気分を害されるのは間違いない。
お爺ちゃんと言えばそれよりももっと上にお爺ちゃんの英語教師がいる。
二人とは英語に関することで意見が割れることがしばしば。
もちろん面と向かって意見は言えない。

俺は英検準一級を持ってるが彼はトエックで九百点以上を叩きだした。
自分も一度は九百点の大台に乗せたがそれ以降は下がる一方。
だが八百点を切ることはない。まあ英語教師だから当然だな。
授業ではなるべく発音をネーティブに近づけ難しい単語に拘らずに基礎を大切にと。
そうすれば世界で通用するはず。特に書き言葉よりも話し言葉の重要性を強調。
要するにライティングはそこそこでスピーキングはネーティブに近づけるように。
リスニングは完璧に。英語脳を鍛えろと生徒には普段から口を酸っぱく言っている。
理解してるかは別として。そう言う方針。

それに比べて先輩英語教師陣はライティングの重要性を強調する。
確かに海外の大学に行けば黒板があるかは不明だが書き取りがメインになって来る。
そこではライティング能力が絶大な効果を発揮する。
ネーティブが五分で書きとるところを十分以上なら出遅れ。
黒板だって待ってくれない。順番に消されていくならまだいい方。
無慈悲にも一気に消されていく。
学校としてはライティングに力を入れざるを得ない。
たぶんホワイトボードにマジックだろうけれど。

「ほら呑め! 頼め! 頼め! 」
気前よく奢ると言うがどうも信用ならないんだよな。
この人ケチじゃないけれど気前がいいタイプではない。
「どうしたんですか? こんなことしてもらうのは悪いですよ」
断わりずらいので参加してみたが何かとても嫌な予感がするんだよな。
「来年は君にもフル回転してもらいたくてね。頑張りなさい」
「はあ…… それでどのようなお話が? 」
まったく見当がつかない。この男は俺に何をさせようとするつもりなんだ?

「思ってたより大変だろう? 」
「はい。生徒がちっとも聞いてくれなくて困ってます」
「ははは…… そうだろそうだろ」
英語談議が始まると長くなるから避けるつもりだがどうも様子おかしい。

先輩はお構いなしにつまみを頼むが俺は下戸ですぐに気持ち悪くなってしまう。
気持ちよく勧めてくれるところ悪いがソフトドリンクに切り替える。
「おいおい。今日は奢りだし無礼講だぞ。遠慮するな」
どうやら先輩は俺を酔わせたいらしい。
何を企んでいる? まさかお持ち帰りする気か?

               続く
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