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妄想と現実
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交番にはお巡りさん二人に迷惑トナラ―四人。元カノ? それに上司。
合計八名もいると言うのに誰一人として俺の味方がいない。
なぜだ? 俺を疑うのは止せ。上司まで俺を信じてくれない。
どうしてこんな事態に?
「まあよい。忘れたと言うなら思い出させるまでじゃ。
それよりもトワさんは覚悟は出来ておるか? 」
裏の爺さんが話を勝手に進める。
「覚悟ですか…… 」
「ああこの男と添い遂げようとする気はあるか?
ないならこの場を立ち去るべきじゃ」
「それは…… 分からない。でもカス君が思い出してくれるなら。
もう一度付き合ってあげてもいい。彼の記憶を取り戻してあげたいの」
女性はトワと言うらしい。どこかで聞いた覚えがあるような気も……
だが思い出そうとしても頭が痛くなるばかりで一向に思い出せない。
焦る気持ちを抑え冷静になる。
「さっきからこの人うるさいなあ」
「あの…… そろそろこれくらいで。困られてますよ」
お巡りさんが止めに入る。
皆で寄って集って俺をいじめる。
ただ落とした資料を返却してもらおうとしただけなのに。
これではまるで俺が悪いみたいじゃないか。
「そうだ彼女の居所が判明しましたよ」
お巡りさんは嬉しそうに報告する。
「本当ですか? どこ? どこにいるんですか? 」
ようやく彼女に会える。嬉しさから涙が込み上げる。
「ほら目の前の方。このトワさんこそがあなたが追い求めていた彼女です。
さあこれで事件はすべて解決です」
勝手に結論を出すお巡りさん。
「ふざけないでくれ! 」
警察はやる気がないのだろう。この女がもし俺の元彼女だとしても関係ない。
俺が探してるのは今の彼女だ。なぜ元彼女でお茶を濁すんだ。
ただの失踪事件だからって放置はダメだが適当に探すのはもっとダメだ。
俺の彼女はどこに行ったと言うんだ?
それが分かればこんな奴らに頼らずとも良かったのに。
「ならば儂が思い出させてやろう。儂と出会った時に車をぶつけたじゃろ?
修理代を請求してもいいんじゃがな。それはまずかろう? 」
お爺さんが脅しに掛かる。目的は何だ? それくらい認めてやったっていい。
ゴツンとぶつけた気がする。でもいつかは覚えてないんだよな。
「どうじゃ正直に申してみよ」
沈黙する。ここは黙るのが金。
「黙りおったか。まったく本当に迷惑ばかりかけおって」
お爺さんでは埒が明かない。
ここは私に任せて欲しい。
「皆さんそろそろお帰り下さい。ではお二人は残っていただいて」
もう充分だ。
「あの…… 俺どうすれば返してもらえるでしょうか? 」
「ではご住所をお教えください」
「でも前回記入しましたが」
「もう一度。現住所でお願いします。二人は住まわれていた。
そしていきなり彼女が失踪した。間違いありませんね? 」
「はい…… でも引っ越したばかりで詳しい住所はちょっと…… 」
「でしたら皆さんに協力してもらって。裏は誰ですか? 」
「それはもちろんこのお爺さんです」
「では右隣は? 」
「左横田さんです。
「左隣は? 」
「ブブンカ」
「向かいは? 」
「前田さん」
「おい俺たちを呼んだか? 」
ライブ観戦中の前田さんたちが戻って来た。
「どうです皆さん? 」
「儂の裏はこんな奴じゃない! 」
お爺さんはふざけるなと憤慨する。
「怒るのも当然でしょう! お隣に家なんかないんだから! 」
左横田さんが威張る。自分有利の展開では強い。
「そうだな。俺の前はただの貸倉庫だしな」
巨大な荷物を保管しておくのにちょうどいい。
便利ではあるが近ければ使い道がない。
「ブブンカでもワカるね」
トナラ―全員から否定される。
「あんたまさかあそこに住んでたの? 最低ね! 最低なストーカー」
左横田さんは容赦がない。
「無理じゃろ。人間は中に入れんぞ」
さも当然のことと言った感じ。
「嘘だろ? 俺はともかく俺の彼女は住んでいたぞ」
「はいここで。前田さんお願いします」
「俺か? 何でも聞いてくれ」
「この人銭湯で不審な行動を取っていませんでしたか? 」
「ああ。脱衣所で話し掛けていたな。誰もいないのによ」
前田さんはよく覚えてると。
「それは…… 癖だし…… 」
「では結論を言いましょうか? 」
「嫌だ! 俺は失踪した彼女を探すんだ!
警察も誰も当てにならないなら俺が自ら調べるしかない。
もう帰る。調べる気がないなら放って置いてくれ! 」
そう言うと出て行こうとする。
結局男は現実を受け止められずに妄想に囚われていたらしい。
哀れな男。
だがその哀れな男を助けるのもまた我ら警察の役割だろう。
続く
合計八名もいると言うのに誰一人として俺の味方がいない。
なぜだ? 俺を疑うのは止せ。上司まで俺を信じてくれない。
どうしてこんな事態に?
「まあよい。忘れたと言うなら思い出させるまでじゃ。
それよりもトワさんは覚悟は出来ておるか? 」
裏の爺さんが話を勝手に進める。
「覚悟ですか…… 」
「ああこの男と添い遂げようとする気はあるか?
ないならこの場を立ち去るべきじゃ」
「それは…… 分からない。でもカス君が思い出してくれるなら。
もう一度付き合ってあげてもいい。彼の記憶を取り戻してあげたいの」
女性はトワと言うらしい。どこかで聞いた覚えがあるような気も……
だが思い出そうとしても頭が痛くなるばかりで一向に思い出せない。
焦る気持ちを抑え冷静になる。
「さっきからこの人うるさいなあ」
「あの…… そろそろこれくらいで。困られてますよ」
お巡りさんが止めに入る。
皆で寄って集って俺をいじめる。
ただ落とした資料を返却してもらおうとしただけなのに。
これではまるで俺が悪いみたいじゃないか。
「そうだ彼女の居所が判明しましたよ」
お巡りさんは嬉しそうに報告する。
「本当ですか? どこ? どこにいるんですか? 」
ようやく彼女に会える。嬉しさから涙が込み上げる。
「ほら目の前の方。このトワさんこそがあなたが追い求めていた彼女です。
さあこれで事件はすべて解決です」
勝手に結論を出すお巡りさん。
「ふざけないでくれ! 」
警察はやる気がないのだろう。この女がもし俺の元彼女だとしても関係ない。
俺が探してるのは今の彼女だ。なぜ元彼女でお茶を濁すんだ。
ただの失踪事件だからって放置はダメだが適当に探すのはもっとダメだ。
俺の彼女はどこに行ったと言うんだ?
それが分かればこんな奴らに頼らずとも良かったのに。
「ならば儂が思い出させてやろう。儂と出会った時に車をぶつけたじゃろ?
修理代を請求してもいいんじゃがな。それはまずかろう? 」
お爺さんが脅しに掛かる。目的は何だ? それくらい認めてやったっていい。
ゴツンとぶつけた気がする。でもいつかは覚えてないんだよな。
「どうじゃ正直に申してみよ」
沈黙する。ここは黙るのが金。
「黙りおったか。まったく本当に迷惑ばかりかけおって」
お爺さんでは埒が明かない。
ここは私に任せて欲しい。
「皆さんそろそろお帰り下さい。ではお二人は残っていただいて」
もう充分だ。
「あの…… 俺どうすれば返してもらえるでしょうか? 」
「ではご住所をお教えください」
「でも前回記入しましたが」
「もう一度。現住所でお願いします。二人は住まわれていた。
そしていきなり彼女が失踪した。間違いありませんね? 」
「はい…… でも引っ越したばかりで詳しい住所はちょっと…… 」
「でしたら皆さんに協力してもらって。裏は誰ですか? 」
「それはもちろんこのお爺さんです」
「では右隣は? 」
「左横田さんです。
「左隣は? 」
「ブブンカ」
「向かいは? 」
「前田さん」
「おい俺たちを呼んだか? 」
ライブ観戦中の前田さんたちが戻って来た。
「どうです皆さん? 」
「儂の裏はこんな奴じゃない! 」
お爺さんはふざけるなと憤慨する。
「怒るのも当然でしょう! お隣に家なんかないんだから! 」
左横田さんが威張る。自分有利の展開では強い。
「そうだな。俺の前はただの貸倉庫だしな」
巨大な荷物を保管しておくのにちょうどいい。
便利ではあるが近ければ使い道がない。
「ブブンカでもワカるね」
トナラ―全員から否定される。
「あんたまさかあそこに住んでたの? 最低ね! 最低なストーカー」
左横田さんは容赦がない。
「無理じゃろ。人間は中に入れんぞ」
さも当然のことと言った感じ。
「嘘だろ? 俺はともかく俺の彼女は住んでいたぞ」
「はいここで。前田さんお願いします」
「俺か? 何でも聞いてくれ」
「この人銭湯で不審な行動を取っていませんでしたか? 」
「ああ。脱衣所で話し掛けていたな。誰もいないのによ」
前田さんはよく覚えてると。
「それは…… 癖だし…… 」
「では結論を言いましょうか? 」
「嫌だ! 俺は失踪した彼女を探すんだ!
警察も誰も当てにならないなら俺が自ら調べるしかない。
もう帰る。調べる気がないなら放って置いてくれ! 」
そう言うと出て行こうとする。
結局男は現実を受け止められずに妄想に囚われていたらしい。
哀れな男。
だがその哀れな男を助けるのもまた我ら警察の役割だろう。
続く
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