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人類の希望

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アトリ計画。
「それでは失礼します」
呼び出されたと思ったらモニターの件だった。
「うん。よくやってくれたよ君たち。これでわが社は一歩前進だ」
最近社長の機嫌がすこぶるいい。
当然だ。アトリ計画が順調に進んでいるのだから。
来年の発表が待ち遠しい。

でも一つ問題が…… その全容が未だに掴めない。いや理解できない。
俺の頭では無理。理系じゃないからな。
社内モニターとなり会社に貢献できたのは喜ばしいことだが俺にはさっぱり。
いつ選ばれていつ着けたかも覚えてない。
そうするとどうも気持ち悪い。
何か装着した気もするが思い出せないのだ。
何というか自然。まるで暗示にかかってるかのよう。

社長も上司も他の皆もそれでいいと言ってくれるのだがどうも落ち着かない。
騙されてる? そんな気になる。
俺は普通に生活を送ってるだけなんだけど。

「いや…… 社長も大喜びだったな。うんうん」
上機嫌の上司。まさか俺の手柄を取る気じゃないだろうな?
それは無理と言うもの。社内モニターに選ばれたのは俺。
間違ってもこの人じゃない。言い包められないように注意が必要だ。
部下の手柄を取るのが上司の仕事らしいからな。
そんな風に飲み会の席で話していた。油断ならない男。
社長も充分理解してるがそれでも様子を見るはずだ。
どっちを切るか考えなくても分かる。
切る時は俺ではと疑心暗鬼に。

「あの…… もう少し続けたいんですが」
「はあ? 最終報告書は提出済み。もう充分だろ? 」
「しかし気に入ってしまいまして…… 」
自分では未だによく理解できてない。
社内モニターを続けてるうちに自分ではもう分からなくなってしまった。
でも上司も社長も何度もそれで良いと。
本当にいい加減だが俺としても止めると怖い。何かを失う予感がする。
俺には理解出来なくても上司は分かっただろう。最終報告書も提出した訳だし。

「いい加減にしろ! これはオモチャじゃないんだぞ! 」
「分かってます。人の為になるんでしょう? 」
「そうだ。人類の希望となるはずだ」
大げさに言うがたぶん大したことないんだろうな。
仕方ない。怖いがここは取り外すしかないか。
だがやはりよく分からない。
俺は何かつけたりした覚えがない。
これは一体どう言うことだろう? 不安になる。

「それでこの後付き合ってくれませんか? 」
「はあ? 上手く行ったから飯でも奢れとでも言うのか? 」
上司はケチなので拒絶。
「そうではなく彼女のことでご相談が…… 」
さすがにアトリ計画に関する機密資料を落としたとは言えない。
昨日から言おう言おうと思ったが結局言い出せなかった。
言える雰囲気でもなかった。俺が悪いんじゃない。ちょっとしたタイミングの問題。
機嫌が良い時に言うのがベスト。

彼女の件はまだ相談してない。そもそも彼女がいることも伝えてないはず。
ただ今後のこともあるのでやはり一応は知らせるかな。
相談と称して交番まで行けばいい。そうすればすべて丸く収まる。
これがお巡りさんの出した妥協案。
本来であればすべて打ち明けて上司に同行願うべきだが。
それだと紛失したことがばれる。最悪首になる。それだけはどうしても避けたい。

落とした機密情報を警察に握られている。
警察は疚しいことがなければ心強い協力者になるがあると厄介な敵になる。

「何だお前もその気になったんだな」
お見合いの件だと思ってるらしい。
どう勘違いしたらそうなるのか? 
まあいいか。勘違いしたままどうにかやり過ごせるだろう。
「ではお願いします」
「分かったよ。そう硬くなるなって。俺が責任持って見つけてやるからな」
うんうんと勝手に納得する。
これでいい。これで機密資料を取り戻せる。
お巡りさんが約束してくれた。まさか騙して反故にはしないだろう。

最寄駅で降りる。
上司はこの駅は初めてだとおかしな文句を言う。
もちろん必要だから案内するさ。
さあこれですべて上手く行く。
「おいどこに連れて行く気だよ? 」
「大丈夫です。すぐそこですから」
駅から十五分のところにある。
もう隠す必要もないな。
「だったらもたもたせずに行けって! 」
背中を押される。

「実は…… 彼女がいなくなったんです」
「知ってるよ。だから俺がわざわざ紹介してやるんだろ」
「そうではなく…… あれ…… 知ってる? 」
なぜ上司は俺の彼女が失踪したことを知ってる? 
それは即ち何らかの形で失踪に関わったことになる。
上司に疑惑の目を向ける。

                 続く
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