上 下
45 / 59

迷惑トナラー

しおりを挟む
「済まんがお茶を一杯頼む。喉が渇いてしまったわ」
お爺さんがお疲れ気味。この後話を聞くので丁重に。
すぐにお茶を。老人の世話は最初が肝心と言うからな。
「ああ俺にも一杯頼むよ」
どうやら前田さんは我々に用事があるらしい。
もう疑いも晴れたし忘れ物も受け取った。
何の用があると言うのだろう? 別に今日でなくても。
そんなことを言えば勝手だろと返される。

「どうされましたか? 何か御用でも? 」
緊急の用でもなければ一旦お帰り頂きたい。
同僚も訝しむ。同僚は私以上に嫌がっている様子。
ここから早く人が居なくなるように願ってるみたいだ。
「悪い! ちょっとテレビを借りるぜ! 」
どうやらライブが始まるとのこと。
一体何を考えてるのだろう? ここは喫茶店ではないのだが。
いや喫茶店にテレビはないか。思い直す。
ここは電器屋じゃないんだけどな。
ハンカチの件もあるので強くは言えない。大人しくしてるなら文句はないさ。

「少しの間だけですよ」
同僚も対応に苦慮する。
「おお! お供するね」
ブブンカも帰るつもりはないらしい。
何て図々しいトナラ―なのか。迷惑トナラ―に違いない。

「済みません。でしたら私も待たせてもらっていいですか? 」
トワさんも困ったことに居座る気らしい。
どうして今日に限って皆腰が重いのだろう。
大人しく帰ろうとするのは左横田さんぐらいなもの。
そんなに居心地が良いのだろうか?

警察は市民との交流を積極的に深めている。
だから無下には出来ない。申し出を受け入れるしかない。

「もう少ししたらカス君が来るんでしょう? 」
「それは…… 恐らく今日には…… でも何の確証ありませんよ」
「良いです。待ちますから」
別れたんじゃないのか? これ以上あの男に会えば拗れるだけ。
またヨリを戻そう暴走でもしたらどうする?
いつもは大人しい男だがいざ彼女のことになると見境がないからな。
警察としては放っておけない。

「あのですね…… 彼は恐らく必死にあなたのことを探していると思うんですよ。
そんな時にあなたから会おうとするのは非常にリスクが高い。
いくら我々がいるからと言って安全とは限りませんよ」
そんな理性が働くならもっとうまくやれるだろうが。
「そうだぞ。ストーカーは何するか分からない。侮っては行けませんよ」
同僚も早く帰るように強く要請する。
それも彼女を心配してのこと。または業務の妨げになるからだろうけれど。

「そうじゃな。それが無難じゃな。ああお巡りさんこのお茶濃すぎるわい」
呑気に茶の感想を述べるお爺さん。まったく緊張感がないんだから。
「分かりました。そうですね。後三十分して来なければ帰ろうかと」
状況判断が出来てないトワさんを説得しどうにか男と合わせないようにする。

タイムリットは後三十分。過ぎればトワさんは帰ってしまう。
男はそれまでに間に合えば運命の再会を果たせる。
そうすれば丸く収まるかもしれない。
後は男次第。ここで逃せば後悔することになる。
ただ男を刺激しないのが一番とも言えるから難しいところ。
歓迎すべきかどうか迷う。

「それにしてもうるさいの。どうにかせんか。近所迷惑じゃ! 」
お爺さんが文句を垂れる。
原因は奥の部屋。テレビを見てる二人組。
前田さんとブブンカが大声をだして騒ぎ始める。
熱中するのはいいがもう少し抑えてくれないかな?

そんな風に混乱状態の交番内に帰ったはずの左横田さんの姿が。
きゃああ! ストーカー! 」
左横田さんが再び入って来た。
「ふう…… どうされましたか? 」
同僚が呆れて尋ねる。
また言いがかりか思い違いだろうから。やる気なんか出ない。
「男が! あのストーカー男が私を追いかけてきた! 」
まさか例の男が姿を見せたのか?
「それで何かされたんですか? 」
「睨まれました! 怒鳴られました! 」
これはやはり……
ついに男が姿を見せる?
                 続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうやら旦那には愛人がいたようです

松茸
恋愛
離婚してくれ。 十年連れ添った旦那は冷たい声で言った。 どうやら旦那には愛人がいたようです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく

矢野りと
恋愛
彼がかつて愛した人は私の知っている人だった。 髪色、瞳の色、そして後ろ姿は私にとても似ている。 いいえ違う…、似ているのは彼女ではなく私だ。望まれて嫁いだから愛されているのかと思っていたけれども、それは間違いだと知ってしまった。 『私はただの身代わりだったのね…』 彼は変わらない。 いつも優しい言葉を紡いでくれる。 でも真実を知ってしまった私にはそれが嘘だと分かっているから…。

私が死んだ日

有箱
現代文学
突然戦争が始まり、私は私でいられなくなった。兵士としての戦いを強いられ、色々なものを無くした。 きっと、戦いが終われば、楽しかった頃に戻れるよね?

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

処理中です...