永遠のトナラー 消えた彼女の行方と疑惑の隣人

二廻歩

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再現

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鍵を握るお爺さんから極秘情報を得る。
「トラブルと言うのは新居のことでな。あれは契約当日だった…… 」
お爺さんが長話を始める。


「おう! 君かね。そんなに血相を変えて。ほら麦茶でも」
えらく焦った様子の男。まさか何かあった?
あるとすれば悪いこと。その様子では儂にも影響が。
「実は彼女と大喧嘩しまして」
神妙な表情で酷く後悔している様子。
「ははは! 一緒に住めば喧嘩など日常茶飯事じゃ。まあ気にするでない」
大したことではない。よくある話。
「別れることに」
「ちょっと待て! それはいくら何でも早すぎる! 」
どうにか留まらせようとするも男は頑な。
「もう無理なんですよ俺たち」
「それは何と残念な…… 」
悲惨な若者を見ていられない。

「それで…… 一人では広過ぎるのでこの話なかったことにしてもらえませんか」
二人の新居で愛の巣である以上一人が抜ければ完成しない。当然と言えば当然。
「おいおい落ち着け。もう少し待ってやるから仲直りして来い! 」
些細な喧嘩で別れては後悔することになる。
儂が人生の先輩として導いてやろう。
だが男は下を向いて黙ったまま。

「どうした? 」
「でも本当にもう無理なんです。もう生理的に無理だって出て行きました」
「焦る気持ちも分かるが少しは落ちつくべきじゃ。
彼女だってその内冷静になれば戻って来るさ。恐らくな」
まずい。淡い期待は抱かせない方がいい。後が大変。
「そうだといいんですが。あの…… 」
「タバコか? そうじゃな今は時代だからな。
お主も肩身の狭い思いをしてるのだろう」
ヘビースモーカーには辛い時代になった。
男が吸うと女はちょっとと言って怒り出す。よく見る光景。
偏見だろうがまあこんなもの。
「いえ違います。俺の趣味が生理的に受け付けないそうなんです」
「ははは…… まさか隠してたのか? 」
首を上下左右に振るのでどちらかよく分からない。
「隠したな? 」
「はい…… そのあの…… 」
「はっきりせい! 」
「隠してはいません。オープンです。でも彼女は新居には持って行かないでと」
「すれ違いかの? まあ時が経てば解決するじゃろ」
「それが…… 荷物になるからだろうと勝手に勘違いしてて。
心配するなきちんと管理するからと言ったんですがダメでした。
なぜ結婚するのにそんなものが必要なのかと怒ってしまいまして。
今すぐ捨てないなら別れますと。私とその物体どっちがいいのって迫るんです」
「儂もその手の経験は何度かあるな。単純に捨てると言えばよかろう」
「今すぐって言われ。新居には入れないと」
これは想像以上の展開。

「冗談だと思って放っておいたら昨日姿を消しました。
もちろん何も言わず何も書き残しもせずに。
だから俺未だに信じられなくて…… 」
男はブツブツと独り言を。
「その物体とはお前が手にしてるものか? 」
「ははは…… きれいでしょう? ほらご挨拶! 」
これは重症。儂にはどうしてやることも出来ない。
「お大事に」

「それで…… 」
「ああ分かってる。無理なら仕方ない。契約はなかったことにしよう」
これ以上惨めで見ていられない。
元気を出すんじゃ。女など星の数ほどいる。
だがもう遅いかもしれんがな。

「ありがとうございます。出来ましたら安全に保管出来る場所を一つ。
 俺が住んでいた家は今月までで。もうどうしたらいいか。
実家に戻るにしても荷物が多すぎると狭いと断られそうで。
彼女たちが安全に暮らせる場所を確保したいんです」
熱心に頼み込む男。大丈夫かこいつ? 儂はもうついて行けん。
「だったら裏のレンタル倉庫に保管するとよい」
「ありがとうございます。では失礼します」

「待て! いくら振られたからと言って自棄を起こすな。
それから落ち着いたら新しい出会いを探すのだ。
まだ若いのだから諦めるでない。聞いてるのか? 」
「はあ…… それではまた…… 」
男からは精気を感じられない。
もうゴールイン寸前だった彼女が逃げたのだ。当然か。
痛いほど気持ちが分かる。でもだからと言って現実逃避してどうする?


「良いな若者よ! 」
「へヘイ! 」
「おい! そこはただ項垂れればいいのじゃ」
「はあ…… 」
お爺さんの振り返りでお茶が完全に冷めてしまった。

何も私が男の役をやらなくてもいいのにな。似たらどうする?
はっきり言って再現必要ないでしょう? 注文は多いし困っちゃうよ。 


                  続く
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