35 / 59
左横田さん
しおりを挟む
左横田さんは親子二人暮らし。
先月引っ越して来たばかりだそう。
娘に比べればまだ常識的に見える落ち着いた感じの上品なご婦人。
どうやら世代によって警察への印象が違うのだろう。
娘は攻撃的で母は協力的。
「ごめんなさいねお巡りさん。それでどのようなご用件でしょうか? 」
物分かりのいいご年配のお母様が話に加わる。
それを険しい表情で見守る娘。
「ちなみに娘さんはご結婚は? 」
差し出がましいように感じるだろうがこれも捜査の一環。
調べようと思えば簡単に調べられるが直接聞くことに意味がある。
「いえまだなんですよ。ちょっといろいろありまして」
明らかに表情が曇る。まずいことを聞いてしまったか?
暗く沈むお母様の姿をこれ以上は見たくない。
それに娘にこれ以上睨まれたくない。
「一応形式的に聞いたまでです。お気になさらずに。
それでお隣の女性を見かけたことはありますか? 」
「ああそれだったら毎日のように。今朝だって挨拶しましたよ」
「いえそちらではなく反対の方です」
明らかに違う人物だ。それは彼女のことではない。
「はあ? お巡りさんは私どもをからかってるのですか? 」
真剣にそう問われるとそうだと言いたくなるから不思議。
「もちろんそのようなことはありません。なぜそうお感じに? 」
おかしなことを言っただろうか?
右隣ではなく左隣ですよ左横田さん。
「ほほほ…… おかしいですよ。ねえ」
娘に同意を求める。娘もうんうんと大きく頷く。
出来るなら今すぐにでもおかしな点を言ってもらいたいのだが。
しかし二人とも頷くばかりで答えようとはしない。
「お隣の女性が失踪したんです。今懸命に捜査に当たってるのですが…… 」
まだ非公式で正式な失踪事件としての捜査は後。本腰を入れることはないだろう。
それは私がいくら上に訴えかけたところで相手にされない。
もちろん一失踪者にそこまでするのはどうか。感情的になってるのは自覚してる。
しかし男の気持ちを考えるとどうしても放ってはおけない。
彼とは年も近く力になってあげたいと強く思う。
この謎多き失踪事件を私の手でなるべく早く解決するんだ。
たとえ彼が何らかの形で事件に関わっていたとしても。
「それは本当ですか? 」
再び娘が突っかかる。
「本当も何も失踪届も出されてるんですから。疑いようのない事実です」
なぜそこまで疑う? お隣の女性が失踪したからってここまで疑えるものなのか?
どうも態度が引っかかる。どうも信用できない。
「お疲れになってるんですよきっと。それとも何かあるのかしら? 」
まともなはずのお母様まで態度を急変させる。
「お巡りさんはおそらく失踪事件をでっち上げて点数稼ぎをするつもりなのよ」
親子で疑い始める。何かおかしなことを言っただろうか?
二人は交通違反のように無理矢理作り上げたと主張する。
だがあれだって普段は見逃してるところを厳しく取り締まってるだけ。
初めからルールを守って運転してる者まで対象になる訳ではない。
きちんとルールさえ守ってれば仮にある一定の期間だとしても問題ないだろう?
それに我々とは無関係な交通課。一緒にされても困る。
「我々警察は信頼第一です。何かお疑いのようでしたらぜひお聞かせ願います。
私の言動があなた方の不審を招いたならそれは大きな誤解と言うもの」
もうこれ以上含みをもって焦らされて堪るか。
私は男の訴えを元に捜査に当たってるだけ。なぜそれを理解してくれないのか?
連日の不祥事によって警察への風当たりは強いものになっている。
でもそれはあくまで個人であって警察組織ではない。
仮にあってもやはり我々とは関わりがない。
「分かりました。そこまで言うのでしたらお巡りさんも来てください」
二人と外へ。
どう言うことだ?
お爺さんの家を訪問した時からあった違和感。
左横田さんの隣はそれは確かに存在する。
だがそれは右隣だ。左隣には家などない。
男もいなければ彼女だっていないはず。
家がなければ住みようもないし失踪しようもない。
男は一体何を考えてこんなことを?
謎の失踪事件はもはや意味不明。
続く
先月引っ越して来たばかりだそう。
娘に比べればまだ常識的に見える落ち着いた感じの上品なご婦人。
どうやら世代によって警察への印象が違うのだろう。
娘は攻撃的で母は協力的。
「ごめんなさいねお巡りさん。それでどのようなご用件でしょうか? 」
物分かりのいいご年配のお母様が話に加わる。
それを険しい表情で見守る娘。
「ちなみに娘さんはご結婚は? 」
差し出がましいように感じるだろうがこれも捜査の一環。
調べようと思えば簡単に調べられるが直接聞くことに意味がある。
「いえまだなんですよ。ちょっといろいろありまして」
明らかに表情が曇る。まずいことを聞いてしまったか?
暗く沈むお母様の姿をこれ以上は見たくない。
それに娘にこれ以上睨まれたくない。
「一応形式的に聞いたまでです。お気になさらずに。
それでお隣の女性を見かけたことはありますか? 」
「ああそれだったら毎日のように。今朝だって挨拶しましたよ」
「いえそちらではなく反対の方です」
明らかに違う人物だ。それは彼女のことではない。
「はあ? お巡りさんは私どもをからかってるのですか? 」
真剣にそう問われるとそうだと言いたくなるから不思議。
「もちろんそのようなことはありません。なぜそうお感じに? 」
おかしなことを言っただろうか?
右隣ではなく左隣ですよ左横田さん。
「ほほほ…… おかしいですよ。ねえ」
娘に同意を求める。娘もうんうんと大きく頷く。
出来るなら今すぐにでもおかしな点を言ってもらいたいのだが。
しかし二人とも頷くばかりで答えようとはしない。
「お隣の女性が失踪したんです。今懸命に捜査に当たってるのですが…… 」
まだ非公式で正式な失踪事件としての捜査は後。本腰を入れることはないだろう。
それは私がいくら上に訴えかけたところで相手にされない。
もちろん一失踪者にそこまでするのはどうか。感情的になってるのは自覚してる。
しかし男の気持ちを考えるとどうしても放ってはおけない。
彼とは年も近く力になってあげたいと強く思う。
この謎多き失踪事件を私の手でなるべく早く解決するんだ。
たとえ彼が何らかの形で事件に関わっていたとしても。
「それは本当ですか? 」
再び娘が突っかかる。
「本当も何も失踪届も出されてるんですから。疑いようのない事実です」
なぜそこまで疑う? お隣の女性が失踪したからってここまで疑えるものなのか?
どうも態度が引っかかる。どうも信用できない。
「お疲れになってるんですよきっと。それとも何かあるのかしら? 」
まともなはずのお母様まで態度を急変させる。
「お巡りさんはおそらく失踪事件をでっち上げて点数稼ぎをするつもりなのよ」
親子で疑い始める。何かおかしなことを言っただろうか?
二人は交通違反のように無理矢理作り上げたと主張する。
だがあれだって普段は見逃してるところを厳しく取り締まってるだけ。
初めからルールを守って運転してる者まで対象になる訳ではない。
きちんとルールさえ守ってれば仮にある一定の期間だとしても問題ないだろう?
それに我々とは無関係な交通課。一緒にされても困る。
「我々警察は信頼第一です。何かお疑いのようでしたらぜひお聞かせ願います。
私の言動があなた方の不審を招いたならそれは大きな誤解と言うもの」
もうこれ以上含みをもって焦らされて堪るか。
私は男の訴えを元に捜査に当たってるだけ。なぜそれを理解してくれないのか?
連日の不祥事によって警察への風当たりは強いものになっている。
でもそれはあくまで個人であって警察組織ではない。
仮にあってもやはり我々とは関わりがない。
「分かりました。そこまで言うのでしたらお巡りさんも来てください」
二人と外へ。
どう言うことだ?
お爺さんの家を訪問した時からあった違和感。
左横田さんの隣はそれは確かに存在する。
だがそれは右隣だ。左隣には家などない。
男もいなければ彼女だっていないはず。
家がなければ住みようもないし失踪しようもない。
男は一体何を考えてこんなことを?
謎の失踪事件はもはや意味不明。
続く
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる