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焦り

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「お巡りさん。道に迷っちゃって…… 」
年配の女性三人組。
レストランに予約を入れたは良いがどこだか分からずに焦ってるそう。
「アハハハ! 困っちゃうわ! 」
とてもそうは見えない様子の陽気なマダムたち。

「どうぞお座りください。今地図を持ってきますので」
この辺りの詳しい地図で目的地を示す。
ここから十分のお洒落なイタリアン。
去年開店したばかりでランチ時は賑わってる。
人気があり過ぎて夜は予約しないと入れなくなってしまったと言ってたな。
「あのお巡りさん頼みがあるんだけど…… 」
三人を送り届ける。

「おうご苦労さん。暑かっただろ? 」
淹れてもらった麦茶を一気に飲み干す。
「危なかったですよ。予約の五分前に着いたんですから。
あのまま勝手に行かせたらたどり着いたかさえ微妙。
着いたとしても三十分の遅刻でしょうね」
そうなるとせっかくのディナーが楽しめない。
予約は四十五分だから残り十五分もないことになる。
延長等の対応をすれば店側も迷惑を被るはずだ。
「よし俺たちもそろそろ飯にするか」

今日は出前の日。
曜日によって自炊、出前、外食に分ける。
外食時の場合のみ交代で。たまに近所の人に頼むこともある。
「何が良いですかね? 」
「そうだな。ソバは飽きたがラーメンは熱いしな。よしカレーにしよう」
「ええっ? どうしてそうなるんですか? 
カレーは熱いしもう飽きたと前回言ってたじゃないですか? 」
どちらの条件にも当てはまらないはずのカレーを選ぶ。意味が分からない。
「いいからカレーにしようぜ」
そう言って譲らない。でもカレーは苦手なんだよな。
味や匂いもそうなんだけど何と言っても撥ねるから。後が大変。
「分かりました。ソバとカレーを頼みます」
もう少し店を増やしレパートリーも増やさないと飽きるどころか嫌になってしまう。
これは由々しき問題だぞ。

「お巡りさん! 」
「ああちょっと待ってください。今注文しますんで」
いくら緊急でも一分ぐらい待たせても構わないだろう。
職務怠慢と思われようが食事は基本だから。
本当に緊急なら駆け込まずに百当番するだろう。

「はい失礼しました。どうされましたか? 」
うわ…… 例の男じゃないか。何で今日も来るんだ?
毎日のように進捗情報を聞いて来るからいい加減困ってたんだよな。
我々だって暇ではないんだが。それに変化なしだもんな。
あるはずがない。一週間やそこらで変化があるはずがない。
ただ動けばすぐと言う場合もあるので一概には言えないが。

「お巡りさん! 」
「落ち着いて。すぐに見つかるはずありません。今懸命に捜索に当たってますので」
確かに他の失踪事件よりも徹底的に捜査に当たっている。
それでも簡単に解決出来るなら苦労はない。
「違います。実は落としものをしてしまいまして。届いてませんか? 」
「落としもの? では今日は別件で? 」
「はい。あれがないと困ってしまうんです」 
いつもよりも遠慮がちで焦っていたのはそう言うことか。
あれ落としものって言えば……

「はいはい。どのようなものを落としたのでしょう? 」
同僚が対応する。
失踪の件でないなら誰であろうと何であろうと構わない。
「その…… あの…… 」
ダメだ男は言い辛そうにするばかりで何一つ教えてくれない。
一体何を失くしたのだろう? 
「言っていただかないとこちらとしても協力出来ませんが」
同僚は訝しむ。
「落としものありませんでしたか? 今日か昨日かに? 」
「はい。ですからどのようなものかお教えください」
まさかの冷やかし?

「会社の資料で…… 機密情報が漏れたらクビになるよ俺」
「ははは…… それだけでは済まないと思いますが」
同僚がチクリと刺す。

「これでしょうか? 」
落しものは一件だからこれに間違いない。資料だとするなら一致してる。
「おい馬鹿! 早すぎる! 」
同僚には叱られ男には迫られる。
落とし主が彼とも限らないし中身が中身だけに慎重さが求められる。
「ああ良かった。これで助かった」
「はあ…… お渡しする前に二、三お伺いすることがあります。
どうぞご協力ください」
「もちろん。返していただけるなら当然協力します」
男は素直に要請に応じる。

                 続く
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