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消えた彼女

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トナラ―が勢揃い。
こうして新しい月を迎えることに。
明日には念願の新婚生活がスタートするはず。
色々手間取り彼女には寂しい想いをさせた。
でももう大丈夫。俺たちの邪魔をする者はいない。
ちょっとだけ緊張してきたかな。
ははは…… 彼女と離れ離れになってお互いを思いやれるようになった気がする。
彼女は俺に相応しいようにと気を遣い過ぎて苦労してるみたいだし。
俺だって彼女が恥ずかしくないように精一杯努力するつもりだ。

取り敢えず爺さんに確認する。
「シッシ! シッシ! あっちに行け! 」
まるで動物を追っ払うように邪険に扱う困ったご老体。
どうしたのだろう? いくら何でも酷すぎるよ。
俺はただ引っ越しのご挨拶に伺っただけなのに。
一度は伺ったが改めて正式な挨拶。これはけじめでもある。

それと本当にもう住める状態にあるかの確認。
せっかく全部の荷物を運んでも使えなければ意味がない。
間に入った業者がはっきりしないんだよな。
心配になったので直接貸主の爺さんに確認と言うかクレーム。

タオルと水ようかんを持参したのに機嫌が悪い。
門前払いとまでは行かないがお茶も出さずに幼稚な嫌がらせ。
これは一体どういうこと? 水ようかんはお嫌い?
借家だから色々と面倒な決まりがあるのは心得てる。
だからって先月までとはまったく態度が違う。

土地の所有者である爺さんと建物の所有者の俺。
確かに対等とはいかないが嫌がらせするほどのことか?
まさか追い出しにかかってるのか? 何の為に?
有望な借り手が見つかって欲を出した?
そうだとすれば俺にはこの暴走を止められない。
ただ居座るしかない。もちろん契約を交わしたのだから爺さんの主張は通らない。
でもこれ以上嫌がらせが続けば彼女の身に危険が迫る。
大金持ちの大地主のはずなのにどうもやることがセコイんだよな。
善意で新居を勧めてくれたあの頃が懐かしい。
俺は間違ってない。たとえどんなことがあろうと善意無過失なのだから。

後ろ隣の大家の爺さん。
一度壊れた関係は俺が下手に出ようが爺さんが我慢しようが修復不可能。
後は契約と法律に基づいて毅然とした態度で臨むしかない。
爺さんが諦めるまで戦う。
無理に立ち退かせようとしてもそうはいかない。
今月からここで暮らすんだからな。

日曜日。運命の日。
予定では昨日からだったが引っ越しの手続きで手間取って結局戻る羽目に。
昨日は引っ越しの準備と爺さんへの挨拶だけで終わってしまった。
彼女は昨日出かけたらしい。
引っ越しで忙しくて気にしてなかったがどこに行ったのだろう?
最後の夜。夜遅くまで女友だちのところでのんびりするのも悪くない。
彼女一人はもう昨日までだったからな。独身最後の夜を満喫すればいいさ。
あまり心配することもなく都合のいいように考えていた。
だが朝部屋に行くと姿がなかった。不審に思うもどうすることも出来ずに待つ。
買い物にでも出かけてるのだろうと思ったがもう昼。

俺が来ることは分かってるのになぜだ?
どうして皆俺を避ける?
ふふふ…… 冗談だ。どうせ俺を驚かせようと言う腹だろ?
まったく世話の焼ける。
あれ? すべてが片づけられた痕が見られる。
これは一体どう言うことだ?
堪らなく近くの交番に駆け込む。

「はいどうしまたか? 」
「居ないんです! どこを探しても居ないんです! 」
「奥さんが居なくなった? 心当たりは? 」
「いえまだ結婚はしていません。だから俺の彼女が居なくなった」
正確に正直に答える。
「落ち着いて! 喧嘩でもしましたか? 」
「いやそうじゃなくて…… うおおお! 」
もう今すぐにでも飛び出して叫びたい衝動。無理矢理抑え込む。
それだけあり得ない怖く恐ろしい事態。
己を保つのに必死でもう警察官の声かけが耳に入らない。

俺が今日引っ越すことになっていた。
それなのに姿を見せないのは不自然だと主張する。
きちんと聞いてるのかハイハイと返事をするのみ。
取り敢えず行方不明届を出す。
もう少し探してからでもいいのではと言われたが早い方がいい。

彼女は一体どこに消えた?
疑わしいのは近所の奴ら。
不気味な隣人たちだ。
まさか奴らの誰かが彼女を?

嘘だろ? あり得ない彼らはそんなことをする人じゃない。
多少食い違いや不自然なところもあったが彼らがやるはずがない。
俺は信じてる。信じてる…… 信じてるのか?
いやそれはあまりに甘い考えだ。俺が越す時を狙って犯行に及んだに違いない。
絶対に奴らが彼女を連れ去った。そうに違いないんだ。
俺の大切な彼女を…… 許さない。許さないぞ!

もはや己を保つことなど出来はしない。

               続く
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