17 / 59
赤いラーク
しおりを挟む
彼女の様子がおかしい。
ここに引っ越してきてからずっとそうだ。
まるで人が変わったように優しくなったし美しくもなった。
俺に嫌われたくないからか理想の女性を演じてるようで見ていて辛い。
いや贅沢な悩みなんだろうな。ただ実際元気がない。
もう少しワガママを言ってくれないか。
明るかった彼女が暗くて大人しい。これをおしとやかと言うのだろうが心配になる。
もちろん美しくなった。いや前からそうか。
ああどんな服だって君にはお似合いさ。
ボケっと湯船に浸かってるといつもの男が姿を見せる。
「おお久しぶりだね。元気してたか? 」
「どちら様でしょうか? 」
「ほら先日会っただろ? 」
物忘れの激しいタイプだがもちろん忘れてない。
何と言っても彼もご近所さん。
「あれ町内会に行かなくていいんですか? 」
今日はメガネ持参の豪快男。
「ははは…… よく知ってるな。また爺さんが余計なことを教えたな。
大丈夫。家内に任せてるから」
男が湯船に入ってきたので奥に逃げる。
だがお構いなしに近づく男。
またかよ。ちょっとは迷惑を考えろよな。
どう言うつもりで寄って来るんだよ?
メガネ曇ってるよおっさん。
ついイライラしてしまう。だが悟られないように笑顔。
「そうそう。あのちゃんのライブチケットがあるんだけどさ…… 」
俺を試すようにそこで切る。
いや待ってくれ。それがどうした?
確かにあのあの言ってたけどさ。俺は別にファンな訳ないじゃない。
もちろん本人から迫られたら断らないさ。
でも俺には彼女も居てそんなことに構ってる暇はない。
ところであのちゃんって誰?
「あの…… ですから…… あの…… その…… 」
どうしても話しづらい。
あのはただの口癖みたいなものなんだけどな。そこを突かれると辛い。
「ははは…… 相当溜まってるね。タバコ吸えてないだろ?
赤いラークなんかどうだい? 美味しいよ」
何だこいつ? 俺は銘柄に拘らないけど勧められて選ぶことはない。
だって高いんだから。信じられないくらい。
それに引っ越したらタバコは止めるように言われてる。余計な誘惑をするなよな。
「あの…… ここは禁煙ですよ」
と言うよりどこだって禁煙だ。
だから家でしか吸わないけれど灰になると困るので新居では吸えてない。
それを見抜くとは…… だったらあのちゃんのファンでないことぐらい分かるだろ?
「今日はサウナには行かないんですか? 」
お風呂好きでサウナ好きの熱い男。
いつの間にか確立された呼び名。サウナ―だそうだ。
「いや俺もサウナに入りたいのよ。でも店が止めてるんだよね」
客が減少した関係でサウナは当面の間休止だそう。
「でもお知らせも何もない」
「ああそうしたら客が余計居なくなるだろ。だから店の苦肉の策さ。
間もなく再開するって話だがどうかな。ははは! 」
当然信じてない。話しぶりからもよく分かる。なのになぜ通い続ける?
他の銭湯に行けばいいのに。俺は風呂が使えないから仕方なくここに。
「あの…… 俺そろそろ…… 」
長話になれば上せてしまう。ここが退き時だろう。
「どうした赤くなって。ははは…… 若いっていいな」
どうもこの世代の人はお節介が過ぎる。
上司なんか勝手に別れたと思って時代遅れの見合いの写真を持って来るし。
それが綺麗ならまだいいが修正してなお微妙だからな。
写真映りが悪いと真に受けたら大変な目に。
そもそも日本人じゃないしとおかしな言い訳。
ならどこのどいつだよと言いたいがぐっと抑える。逆らってはいけない。
それにしても彼女の足元にも及ばないのでは考えるまでもない。
「若くありませんよ。ははは…… 」
「いや若いよ。君は充分若い。いいね若いって」
しみじみと語る。
「若いで括らないでください! 」
ついイラッとして大声を出してしまう。
あーあやっちまったか。これでまたトラブルに。
どうして俺はこう問題を起こすんだろう? 自分でも嫌になる。
「いや…… これほどとはさすがファンなだけある。見直したよ」
おかしなことになってしまった。なぜか関心される謎。
果たしておかしなおっさんから解放される未来はあるのか?
続く
ここに引っ越してきてからずっとそうだ。
まるで人が変わったように優しくなったし美しくもなった。
俺に嫌われたくないからか理想の女性を演じてるようで見ていて辛い。
いや贅沢な悩みなんだろうな。ただ実際元気がない。
もう少しワガママを言ってくれないか。
明るかった彼女が暗くて大人しい。これをおしとやかと言うのだろうが心配になる。
もちろん美しくなった。いや前からそうか。
ああどんな服だって君にはお似合いさ。
ボケっと湯船に浸かってるといつもの男が姿を見せる。
「おお久しぶりだね。元気してたか? 」
「どちら様でしょうか? 」
「ほら先日会っただろ? 」
物忘れの激しいタイプだがもちろん忘れてない。
何と言っても彼もご近所さん。
「あれ町内会に行かなくていいんですか? 」
今日はメガネ持参の豪快男。
「ははは…… よく知ってるな。また爺さんが余計なことを教えたな。
大丈夫。家内に任せてるから」
男が湯船に入ってきたので奥に逃げる。
だがお構いなしに近づく男。
またかよ。ちょっとは迷惑を考えろよな。
どう言うつもりで寄って来るんだよ?
メガネ曇ってるよおっさん。
ついイライラしてしまう。だが悟られないように笑顔。
「そうそう。あのちゃんのライブチケットがあるんだけどさ…… 」
俺を試すようにそこで切る。
いや待ってくれ。それがどうした?
確かにあのあの言ってたけどさ。俺は別にファンな訳ないじゃない。
もちろん本人から迫られたら断らないさ。
でも俺には彼女も居てそんなことに構ってる暇はない。
ところであのちゃんって誰?
「あの…… ですから…… あの…… その…… 」
どうしても話しづらい。
あのはただの口癖みたいなものなんだけどな。そこを突かれると辛い。
「ははは…… 相当溜まってるね。タバコ吸えてないだろ?
赤いラークなんかどうだい? 美味しいよ」
何だこいつ? 俺は銘柄に拘らないけど勧められて選ぶことはない。
だって高いんだから。信じられないくらい。
それに引っ越したらタバコは止めるように言われてる。余計な誘惑をするなよな。
「あの…… ここは禁煙ですよ」
と言うよりどこだって禁煙だ。
だから家でしか吸わないけれど灰になると困るので新居では吸えてない。
それを見抜くとは…… だったらあのちゃんのファンでないことぐらい分かるだろ?
「今日はサウナには行かないんですか? 」
お風呂好きでサウナ好きの熱い男。
いつの間にか確立された呼び名。サウナ―だそうだ。
「いや俺もサウナに入りたいのよ。でも店が止めてるんだよね」
客が減少した関係でサウナは当面の間休止だそう。
「でもお知らせも何もない」
「ああそうしたら客が余計居なくなるだろ。だから店の苦肉の策さ。
間もなく再開するって話だがどうかな。ははは! 」
当然信じてない。話しぶりからもよく分かる。なのになぜ通い続ける?
他の銭湯に行けばいいのに。俺は風呂が使えないから仕方なくここに。
「あの…… 俺そろそろ…… 」
長話になれば上せてしまう。ここが退き時だろう。
「どうした赤くなって。ははは…… 若いっていいな」
どうもこの世代の人はお節介が過ぎる。
上司なんか勝手に別れたと思って時代遅れの見合いの写真を持って来るし。
それが綺麗ならまだいいが修正してなお微妙だからな。
写真映りが悪いと真に受けたら大変な目に。
そもそも日本人じゃないしとおかしな言い訳。
ならどこのどいつだよと言いたいがぐっと抑える。逆らってはいけない。
それにしても彼女の足元にも及ばないのでは考えるまでもない。
「若くありませんよ。ははは…… 」
「いや若いよ。君は充分若い。いいね若いって」
しみじみと語る。
「若いで括らないでください! 」
ついイラッとして大声を出してしまう。
あーあやっちまったか。これでまたトラブルに。
どうして俺はこう問題を起こすんだろう? 自分でも嫌になる。
「いや…… これほどとはさすがファンなだけある。見直したよ」
おかしなことになってしまった。なぜか関心される謎。
果たしておかしなおっさんから解放される未来はあるのか?
続く
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる